遺言書が無効となる5つのパターンと公正証書遺言が無効になるケース

遺言書は非常に効果的な相続対策ですが、一つ間違えると遺言書自体が無効となってしまいます。
遺言が無効となりやすい5つのパターンについてご紹介するとともに、その理由と対策も踏まえて解説致します。
目次
自筆証書遺言が無効となるケース1|遺言書に日付がない
非常に初歩的なミスに、遺言書を書く際に、日付を書き忘れることがあります。
遺言書はいつそれが書かれたのかが重要となるため、日付がない遺言書は「無効」となります。民法にも遺言書には日付を書かなければならない、とはっきり規定されています。
民法968条1項
「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」
ちなみに日付は、通常、年月日で示しますが、遺言書を作った日付が特定できれば、「還暦の日」などとしても問題ありません。
ただし、最高裁判所の判例は、「○年○月吉日」では日時が特定できないため遺言書は無効になるとしています(最判 昭和54年5月31日)。
遺言書には、書いた日付をはっきりと記載するようにしましょう。
日付が間違っていた場合の判例
では、遺言書を作成した日付が間違っていた場合はどうなるのでしょうか?
最高裁判所が、次のように判示した判例があります。
昭和52年11月21日 最高裁判所 判決
「自筆遺言証書に記載された日付が真実の作成日付と相違しても、その誤記であること及び真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には、右日付の誤りは遺言を無効ならしめるものではない。」
【出典】「裁判例検索 裁判例結果詳細」|裁判所
遺言書の日付に間違いがあったとしても、誤記であることと、本当の作成日が遺言書の記載などから容易くわかる場合は、遺言は無効になりません。
ただし、自筆証書遺言での日付のミスは、後に相続人間でその効力について争いになるなど負担をかけるものになります。日付の抜けや誤記にはくれぐれも注意しましょう。
自筆証書遺言が無効となるケース2|押印がない
例外的に、押印がない自筆証書遺言の有効性を認めた判例もありますが、押印がない自筆証書遺言も無効とされてしまう確率は高くなります。押印といっても、自筆証書遺言にする押印は、実印である必要はありません。
100円の三文判でも、拇印でも押印してあれば、自筆証書遺言の有効性に問題はありません。
最高裁判所も、判決の中で、次のように述べています。
平成元年2月16日 最高裁判所 判決
「押印としては、遺言者が印章に代えて拇指その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押捺すること(以下「指印」という。)をもつて足りるものと解するのが相当である。」
【出典】「裁判例検索 裁判例結果詳細」|裁判所
ただし、実際に押印する印鑑は、後々遺言の有効性に疑問がつかないように、三文判やシャチハタは避けたほうがいいでしょう。
自筆証書遺言が無効となるケース3|パソコンで作成した遺言書
自筆証書遺言は本人が全文を直筆で書くことを前提としており、代筆されたものやパソコンで作成し、印刷したものはすべて無効となります。プリントアウトした用紙に署名・押印したとしても同じです。
ただし、遺言書本文は、遺言者自身が手書きしなければなりませんが、民法の相続制度の改正によって、財産目録については、手書きではなく、パソコンや代筆なで作成することが認められることになりました。
自筆証書遺言が無効となるケース4|不明確な遺言書
遺言書は遺言者が亡くなった後に相続財産の名義変更手続を行なうため、分割内容を記載する際には、どの財産のことなのか誰が見ても明らかに分かるような書き方をする必要があります。
例えば、不動産であれば事前に登記情報を取り寄せて登記簿に記録されている所在、地番、地目、地積、家屋番号、構造、床面積などを正確に記載する必要があります。地番と住所表記は異なりますので、通常の住所表記で遺言を書いてしまうとどの土地や建物か特定できず無効になることもあります。
そのため、記載が曖昧で不明確な箇所がないように注意しましょう。
自筆証書遺言が無効となるケース5|遺言者の真意に基づかない遺言書
遺言者が脅されたり、騙されたりして記した遺言書は無効となります。
遺言書がいくら適切な体裁を整えていたとしても、遺言書が、遺言者自身の真意に基づき書かれたものでなければ、効力はありません。
ただし、自筆証書遺言を開封するのは、遺言者が亡くなった後になります。遺言書作成の際に、詐欺や脅迫があったことを証明するのは、かなり難しいと言わざるを得ません。
また、公正証書遺言では、遺言書作成時に証人や公証人の立ち合いがあるので、詐欺や脅迫をすることは、難しいかもしれませんが、自筆証書遺言と同様に遺言者自ら記す秘密証書遺言でも、詐欺や脅迫が疑われる可能性はあります。
公正証書遺言が無効になることも
自筆証書遺言は、その名の通り、自分で記さなければならないことから、必要な要件から外れ無効となる問題が起きます。そこで、最も確実な方法として用いられているのが「公正証書遺言」です。公正証書遺言は、公証役場において、公証人という元裁判官などの専門家によって作成される法的には極めて確実な遺言書の形式です。
その証拠に、公正証書遺言の場合は相続開始後に家庭裁判所の「検認」を受けることなく、即座にその内容を執行することができます(ただし、法務局で保管した自筆証書遺言についても、検認は必要なくなりました)。
そのため、確実に遺言を残したい人は、公正証書遺言を用いることとなりますが、実は公正証書遺言でも無効となってしまうケースがあります。
公正証書遺言が無効になるケース1|遺言能力なき遺言書
公正証書遺言の作成自体は、法律のプロである公証人が行なうため、遺言書に記載ミスが生じることはまずあり得ません。問題となるのは、その公証人が作成した遺言書の内容を遺言者に確認するときに生じます。
公正証書遺言では、遺言書の作成日に、遺言者が口頭で遺言書に記載したい内容を公証人に伝え、それを聞きながら公証人が遺言書を作成する「口述」を行います。しかし、実際は当日の流れをスムーズにするため、弁護士などの専門家に依頼する場合も、公証人に依頼する場合も、事前に記載内容について打ち合わせをすることで、作成当日は、公証人がその内容を遺言者に読み上げて確認する程度で終わります。
そのため、遺言者自身が、認知症やアルツハイマーなどで遺言能力を欠く状態であっても、公正証書遺言が形だけ完成してしまうことがあるのです。
遺言書自体の体裁がいくら適切なものであっても、遺言無効訴訟などで作成当時に遺言能力がなかったことが証明されれば、その公正遺言書は無効となってしまいます。
もっとも、この遺言能力については、どの方式の遺言書であっても問題となり得ます。
このような事態を避けるため、より確実な公正証書遺言とするのであれば、必ず遺言者自身の口から遺言内容を公証人に伝える「口授」の手続を確実に行なう必要があるでしょう。
公正証書遺言が無効になるケース2|不適格な証人
公正証書遺言を作成する際には、必ず2名の証人を自分自身で手配しなければなりません(弁護士に作成を依頼すると、弁護士が手配してくれることもあります)。
証人には特別な資格は必要ありませんが、次に該当する人は証人になれません。
- 未成年者
- 推定相続人、受遺者、その配偶者、直系血族
- 遺言を作成する公証人の配偶者、四親等内の親族、公証役場の職員
万が一これらに該当する人を証人として立ちあわせて公正証書遺言を作成してしまうと、将来遺言書を執行する際に、他の相続人から指摘され無効となってしまうことがあります。
そのため、自分で証人を手配する際には、これらに該当しない人を選任するようにしましょう。
秘密証書遺言が無効になるケース
秘密証書遺言は、自筆証書遺言と公正証書遺言の中間に位置すると前述しました。したがって、無効になる可能性が高い秘密証書遺言は、次のようなケースです。
- 遺言の内容が不明確
- 遺言者が詐欺・脅迫によって記した
- 証人が要件を満たしていない(※)
など
※ 秘密証書遺言の証人も公正証書遺言の証人と同じ要件となります。
遺言書作成は弁護士に依頼するのが得策
次の場合には、遺言書が無効となってしまう可能性が高くなります。
- 遺言書の法律上の形式的要件から外れている
- 遺言者に遺言能力がない
- 詐欺や脅迫により遺言書が遺言者の真意に基づいて書かれていない
一生のうちに遺言書を書く機会というのはほぼ一度しかないわけですから、ミスが出て当然と言えば当然なのかもしれません。ただ、万が一無効となってしまえば、その後の相続人の人生がそれによって変わってしまうかもしれません。
大げさに思うかもしれませんが、遺言書が有効か無効かは、相続人からすれば死活問題なのです。ですから、遺言書を書く際には、多少、弁護士費用がかかったとしても、専門家である相続に強い弁護士に相談してリーガルチェックをしてもらうことを強くお勧めします。