相続放棄とは~手続と費用・デメリットなどを解説!
この記事では相続放棄について詳しく解説していきます。メリット・デメリットは勿論、手続きの方法や期限、費用、必要書類に…[続きを読む]
相続放棄とは、被相続人の一切の相続財産を放棄するかわりに、すべての債務も引き継がないことです。
そこで、生前贈与を受けた者が後に相続放棄をすると、被相続人の債権者(相続債権者)から見ると、本来弁済に充てられるべき財産(責任財産)が減少し、時には財産隠しのようにも見えてしまいす。
それでは、生前贈与を受けた者の相続放棄は可能なのでしょうか?
生前贈与とは、贈与者(後の被相続人)と受贈者(後の相続人)との間の贈与契約に基づく財産の移転行為であり、贈与者と受贈者の合意により成立します。受贈者が相続人であるかは贈与行為に影響をあたえません。
相続放棄の要件は、
なので、生前贈与を受けたことは、相続放棄の要件とは全く関係がありません。生前贈与を受けたからといって、単純承認となることもなく、生前贈与を受けても相続放棄は可能ということになります。
生前贈与を受けた者が相続放棄をすることができることはわかりました。しかし、受贈者が相続放棄をすると他に問題が発生します。詐害行為の問題です。
詐害行為とは、債務者が債権者を害することを知りながら自分の財産を減少させ、債権者が正当な弁済を受けられないようにすることを言います。他に財産のない債務者が差押えを受けるのをおそれ、不動産を第三者に贈与するような行為です。この場合、債権者は、贈与を取り消すことができます。この権利を詐害行為取消権と言います。
例えば、多額の借金がある者が唯一の財産である不動産を第三者に無償で贈与してしまった場合、債権者は贈与を取り消すことが可能です。
ただし、身分行為などにおける債務者の権利行使の自由を保護するために、財産権を目的としない債務者の行為については、債権者は否認することができません。
例えば、離婚に伴う財産分与は、原則として取消の対象とはなりません。
債務者が相続放棄をした場合、債権者は詐害行為取消権を行使することができるのでしょうか。 前提として、「債権者」といっても被相続人の債権者(相続債権者)と相続人の債権者の2種類が考えられますので、場合を分けて検討したいと思います。
最高裁判所の判例は、相続債権者が相続放棄をした相続人に対し相続放棄をしたことを詐害行為であるとして取り消した事案において、相続放棄自体は相続財産を積極的に減少させる行為ではないこと、相続放棄のような身分行為に他人(相続債権者)の意思による強制的介入を認めるべきではないとして、詐害行為取消権の行使はできないと判断しました(最高裁判所昭和49年9月20日判 決)。
この事例の問題の中核は生前の贈与行為であるといえますので、贈与行為を取り消すことができれば、特に問題はなかったものといえます。そうすると、相続放棄についてわざわざ詐害行為取消権の行使を認める必要はなかった事例であるといえ、妥当であると考えます。
相続人の債権者の場合には、最高裁判所の判例はありませんが、この場合においても相続放棄に詐害行為取消権を行使することはできないとする考え方が有力です。その理由として前記の理由に加えて、仮に詐害行為取消権の行使を認めた場合、他の相続人の相続分にまで影響が生じてしまい、妥当ではないというものも挙げられます。
以上のとおり、相続債権者及び相続人の債権者はいずれも相続放棄行為に対し詐害行為取消権を行使することはできません。しかしながら、後の被相続人から推定相続人に対する生前贈与については別途考慮が必要です。
仮に、当該贈与の時点で被相続人が債務超過に陥っていた場合、推定相続人がその債務超過の事実を知って贈与を受けたときには、相続人債権者が贈与の事実を知ってから2年間を経過するまでは(その間に相続が生じようとも)、その贈与行為について詐害行為取消権を行使することが可能ですので、ご留意ください。
遺留分侵害額請求の対象となる「贈与」は相続の開始前1年以内になされたものに限ります。
ただし、贈与行為の当事者(後の被相続人と推定相続人)が他の推定相続人の遺留分を侵害することを知って贈与を行った場合には、その贈与も遺留分侵害額請求の対象となります。
なお、贈与された財産が推定相続人から第三者に移転したような場合には、当該第三者に対し遺留分侵害額請求権を行使することはできず、当該推定相続人に対し遺留分の侵害相当の価額弁償を求めるに過ぎないことになります。
しかしながら、当該第三者が譲受時点で、遺留分を侵害していることを知りながら当該財産を譲り受けた場合には、遺留分権利者は、当該第三者に対し遺留分侵害額請求権を行使することができます。
他方、相続放棄を行った場合には、相続放棄を行った者は、もはや相続人ではありませんので、その者が被相続人の兄弟姉妹以外の者であったとしても遺留分はありません。したがって、遺留分侵害額請求を行うことはできません。
生前贈与を受けた者が相続放棄をした場合、その者は相続人ではありませんので、その贈与は特別受益財産の持ち戻し計算の対象となることはありません。
他方、生前贈与を受けた者が相続放棄をしなかった場合には、その贈与は、特別受益財産として、被相続人が遺言などで持ち戻し免除の意思表示をしない限り、持ち戻し計算の対象となり、相続により取得できる財産が減少することになります。
相続放棄をすれば、一切の相続財産を放棄しますので、相続とはまったく関係がなくなります。
ところが、生前贈与を受けていた場合、相続放棄したのに、相続税がかかることがあります。
相続税上、贈与には
の2種類があります。
「暦年課税」は、一般的な贈与で、毎年の贈与額が基礎控除額110万円を超えた場合に、その超えた金額に贈与税がかかります。その場合、贈与を受けた時の翌年に申告をして贈与税を支払います。
「相続時精算課税制度」は、合計2,500万円まで贈与税が非課税になります(2,500万円を超えたら一律20%課税)。ただし、相続が発生した時に、過去に贈与した分も含めて相続税を計算し、相続税を支払います(そのため「精算」と呼ばれています)。
相続時精算課税制度を利用して、生前に贈与を受けた場合は、相続放棄をしたとしても、過去に贈与を受けた分を持戻して相続財産の計算をします。そして、もし相続税の基礎控除額「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超えていれば、相続税を支払う必要があります。
相続税では、相続財産を受け取った者は、生前(相続開始前)3年以内の贈与を、相続財産に含めて、計算することになっています。生前に過度な贈与をすることで、相続税を逃れることを防ぐためです。
ただ、相続放棄をすれば、相続財産を受け取りませんので、生前3年以内の贈与を相続財産に含める必要はありませんし、相続税はかかりません。
しかし、注意が必要なのは、生命保険金などの「みなし相続財産」を受け取った場合です。
相続放棄をしても生命保険金を受け取ることはできます。生命保険金は、相続財産ではなく受取人の固有の財産だからです(詳細は下記の記事を参照ください)。
ただ、相続税上は、生命保険金も「みなし相続財産」として、相続財産に含める必要があります。すると、相続財産を受け取ったことになりますので、生前3年以内の贈与を相続財産に含めて計算する必要が生じます。もし相続税の基礎控除額を超えていれば、相続税を支払う必要があるのです。
生前贈与を受けても相続放棄は可能です。
ただし、贈与を受けるとき、贈与者(=将来の被相続人)に債務があり、債権者に損害を与える目的の贈与であることを知っていて贈与を受けたときは、債権者から詐害行為取消権を行使されて、生前贈与を取り消される可能性はあります(相続放棄そのものは取り消されません)。
生前贈与を受けた場合、相続放棄しても、以下のケースでは相続税がかかります。