遺族年金を受け取れる条件は?|受給の可否がわかるチャート付き
年金に加入していた方が亡くなったときに、親族は一定の条件を満たすことで遺族年金を受けとることができます。しかし、実際…[続きを読む]
相続放棄をすると、被相続人の借金を含めて相続せずに済ませることができます。
しかし、被相続人が年金制度に加入して保険料を支払っていた場合に、相続放棄を選択すると、遺族年金や未支給年金を受給できるのかという問題が生じます。
ここでは、相続放棄を行う時の年金受給権の扱いや、請求方法、その他相続放棄をしても受け取れるものなどについて解説させていただきます。
目次
最初に、遺族年金と未収年金について簡単に触れておきましょう。
遺族年金は、公的年金制度に加入していた人が亡くなった場合に、遺族に対して支払われる年金で、次の2種類があります。
国民年金の被保険者や、老齢年金の受給資格者が亡くなると、遺族は遺族基礎年金の受給が可能です。
また、遺族年金の制度はいわゆる「二階建ての制度」となっており、被相続人が厚生年金に加入しており、要件を満たしていれば、国民年金の遺族基礎年金と、厚生年金の遺族厚生年金の両方を受け取ることができます。
ただし、遺族年金は、亡くなった年金加入者と遺族ともに受給要件があり、それらを満たすことで受給が可能となります。
なお、各遺族年金の受給要件については、次の記事で詳述しています。ぜひ、ご一読ください。
未支給年金は、被相続人が受け取るはずであった年金の支給前に亡くなってしまったために、生計同一であった遺族に対して支払われる年金です。
年金は、原則年6回に分けて、偶数月の15日に前2カ月分が支払われます。年金が後払いであるため、受給者が死亡すると、年金受給者の亡くなった月分まで未支給年金が発生します。
未支給年金は、以下の順位に従って受け取る権利が発生します。
相続放棄は、遺産を一切相続しないという意思表示です。したがて、遺産分割協議を行ったり、遺産を処分したりすると、「単純承認」とみなされてしまい、相続放棄ができなくなってしまいます。
しかし、遺族年金や未支給年金を受給したとしても、単純承認とみなされて、相続放棄ができなくなることはありません。
その理由は、遺族年金や未支給年金は、被相続人から相続するものではなく、受け取ることができる「受給権」が遺族自身の権利だからです。
遺族年金については、大阪家庭裁判所の昭和59年4月11日の裁判例で、未支給年金については最高裁判所の平成7年11月7日の判例で、受給権が遺族の固有の権利であることを判事しています。
そのため、遺産は相続放棄する一方で、遺族年金を受給する選択は可能ということになります。同様に、労災の遺族補償年金や遺族補償一時金を受給したとしても、相続放棄は可能です。
遺族年金は、受給要件を満たしたうえで、請求をしない限り、受給することができません。そこで、簡単に遺族年金の請求方法についてご紹介しておきます。
遺族年金は、請求書に加え必要書類を、提出して請求します。ただし、年金はやむを得ない事情がない限り、受給の権利が発生してから5年を経過すると時効になって受け取ることができなくなります。
年金請求書は、以下のサイトでダウンロードできるほか、お近くの年金事務所や年金相談センターの窓口でもらうことができます。
必要書類には、戸籍謄本や住民票、死亡診断書のコピーなどがあり、ケースによって異なります。以下の日本年金機構のサイトでご確認いただけます。
遺族基礎年金のは、亡くなったのが国民年金第3号被保険者だった場合は、年金事務所または年金相談センターとなり、それ以外の場合には住所地の市区町村役場に請求します。
遺族厚生年金のは、年金事務所または年金相談センターに請求します。
【年金請求書の書式をダウンロード】「遺族基礎年金を請求するとき」|日本年金機構
【遺族年金の必要書類を確認】「遺族年金を請求する方の手続き」|日本年金機構
加入していたのが国民年金であれば、住所地の市区町村役場に、厚生年金であれば年金事務所や年金相談センターに、「未支給年金請求書」を提出して請求します。未支給年金請求書の書式は、以下のサイトからダウンロードが可能です。
「年金受給権者死亡届(報告書)」を提出していなければ、同時に提出します。
請求には、一般に次のものが必要になりますが、詳しくは、請求先にご確認ください。
未支給年金の請求の時効は、受給権者の年金支払日の翌月の初日より起算して5年です。
【未支給年金請求書をダウンロード】「死亡した方の未払い年金を受け取ることのできる遺族がいるとき」日本年金機構
遺族年金や未支給年金以外にも以下のようなものであれば受け取っても単純承認とはみなされず、相続放棄をすることができます。
遺族年金の受給要件からお分かりの通り、国民年金や老齢基礎年金の受給者の配偶者は、遺族厚生年金を受け取ることができず、子供がいなければ、遺族基礎年金も受給することができません。
そうした遺族には、「死亡一時金」か「寡婦年金」が支給される可能性があります。
これらも、受給者独自の権利となるため、相続放棄をしても、受け取ることができます。
亡くなった方が健康保険に加入していた場合には、次の名目で給付金が支給されます。
これらの給付金を申請しても単純承認に当たることはありません。したがって、相続放棄を行うことを考えている方もこれらの給付金を受け取ることができます。
亡くなった方を被保険者として生命保険に加入していた場合には、遺族に対して死亡保険金が支払われます。
この死亡保険金についても法律上は「相続財産」ではなく、「遺族固有の権利」として扱われるため、相続放棄をしても受け取ることができます(ただし、被相続人を受取人として指定している場合には、死亡保険金が相続財産となり、相続放棄をすると受け取れません)。
また、死亡保険金は「相続財産」ではないものの、「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。
詳しくは、次の記事をご一読ください。
以下の2つについては受け取る人が誰かや、支給を行う側の組織の規定によって相続放棄に影響を与えるかどうかの判断が異なります。
そのため、相続放棄を行うことを考えているものの、これらのお金を受け取る権利があると言う場合には弁護士や司法書士などの専門家にアドバイスを受けるようにしましょう。
高額療養費とは、1ヶ月に負担している医療費が一定額以上になると、超えた分の金額が公的医療保険(国民健康保険や健康保険)から後で払い戻される制度のことです。
この高額療養費を受け取ることが単純承認に該当するかどうかは、受け取る人が誰かによって判断が異なります。これは、国民健康保険であっても、健康保険(協会けんぽ)であっても変わることはありません。
高額療養費は世帯主に対して支払われるものです。
そのため、亡くなったのが世帯主である場合には高額療養費は亡くなった方の遺産として扱われます。
世帯主以外の人が高額療養費を受け取ってしまうと単純承認に該当し、相続放棄ができなくなってしまうと考えられます。
亡くなったのが世帯主以外の場合には、世帯主が高額療養費を受け取っても自身に固有の権利によってお金を受け取ったに過ぎないため単純承認には該当しないと考えられます。
死亡退職金を受け取ることが単純承認に該当するかどうかは、亡くなった人が勤めていた企業の退職金に関する規定から判断されます。
最高裁判所の判例によると、退職金の規定が「民法の規定する相続人の順位決定の原則とは著しく異なつた定め方がされている」場合には、この規定により「直接これを自己固有の権利として取得するものと解するのが相当」であり、受給者の固有の権利であるとしています(最判昭和55年11月27日)。
このような規定がある場合には、相続放棄をしても、死亡退職金を受け取ることができることになります。
一方で、退職金の支給規定が全くない場合や、単に「相続人に支給する」などといった文言があるだけといった場合には、判断に迷うことになります。
こうしたケースでは、判例の基準を参考にしながら判断する必要があるため、支給を受けても相続放棄ができるのかを事前に専門家に相談するようにしましょう。
以上、相続放棄をすることを考えている方が遺族年金や未支給年金を受け取る場合に注意しておくべきポイントについて解説しました。
遺族年金や未支給年金を受け取ることは単純承認には該当しないため、これらのお金を受け取っても相続放棄を有効に行うことは可能です。
ただし、高額療養費や死亡退職金などは、受け取った際に相続放棄の効力に影響を与えてしまうものがあり、注意が必要です。
万一、相続放棄ができなくなると、亡くなった方が残した借金を負担せざるを得なくなったり、多額の相続税の支払いを行わなくならなくなったりといった不利益を被る可能性があります。
アクションを起こす前に、弁護士や司法書士といった法律の専門家に相談しておくことをおすすめします。