相続財産清算人とは?選任が必要なケースと選任方法のまとめ
相続人となる人がいない場合や、相続人が全員相続放棄をし場合には、「相続財産清算人」を選出して遺産を処分します。相続財…[続きを読む]
2022年には、全国の家庭裁判所で、過去最多となる26万497件の相続放棄が受理されたことがニュースになりました。相続放棄の受理件数は、19年が22万5416件、20年が23万4732件、21年が25万1994件と年々増加しています。
放置されたままの空家が目立つ街並みもあります。
「親から相続した田舎の実家が空き家になった。相続放棄すればいいか…。」そう思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、空き家の相続放棄は、簡単には済みません。
今回は「空き家の相続放棄」について徹底解説します。
目次
相続放棄をすると、その相続については初めから相続人ではなかったものとなり(民法939条)、相続人となりうる親族全員が相続放棄をすれば、相続人は誰もいなくなり、財産は国庫に帰属します(同法959条)。
しかし、相続放棄をしても、財産を保存する責任が残る可能性があります。
民法940条は、次のように定めています。
「現に占有してるとき」とは、事実上、支配や管理をしている状態です。したがって、相続放棄をしたときにその家に住むなどして占有していれば、相続放棄をした後も、他の相続人か相続財産清算人に引き渡すまで、自分の財産のつもりで「保存」しなければなりません(この条文で言う「保存」は「管理」と同様の意味で使われています)。
しかし、逆に言えば、相続放棄時に、実家に住む、手入れをして管理しているなど、「現に占有していなければ」、管理責任を問われることはありません。
相続放棄は、相続人1人で行うことができます。しかし、空家が相続で問題となるのは、相続人の誰もが欲しくないからです。空き家があるゆえに、相続人全員が相続放棄をしてしまうと、次のようなリスクが発生します。
相続人全員が相続放棄をする際に管理責任を問われないためには、家庭裁判所に申し立て、相続財産清算人を選任することになります。
相続財産管理人は、空き家の管理をしながら、売却するなどして不動産を換価処分します。
売却代金は、相続財産の管理費用や債権者の債権回収などに充てられて、最終的に残った金銭は国庫に帰属します。
しかし、相続財産清算人制度を利用するには、多額の費用がかかることがあります。
空き家を管理・処分するためにかかる費用や、相続財産清算人の報酬は、原則として相続財産から支払われることになります。しかし、家庭裁判所が、これら費用を相続財産で支払うと不足が出る可能性があると判断すれば、予納金を納めなければなりません。
場合によっては、この予納金が100万円以上かかることもあります。財産管理の終了時に、予納金が残らなければ返却されることはありません。
一方で、空き家を相続放棄しないまま放置すると、次のようなリスクがあります。
平成27年に施行された空家対策特別措置法では、市区町村が以下いずれかに該当する空き家を「特定空家」として指定します(空家対策特別措置法2条2項)。
立入調査のもと「特定空家」に指定されてしまったら、各自治体から管理方法について改善の指導・勧告・命令を受ける可能性があります。
指導にも勧告にも応じなければ命令が出ますが、命令に背けば、最大で50万円の罰金が課されます。さらにその命令にも応じなければ、最終手段として行政代執行されます。
例えば、空き家に生えている木枝が道路通行を著しく妨げていれば、、行政機関が強制で木枝を切断することができ、行政代執行の費用は空き家の所有者となる相続人が全額負担することになります。
空き家は通常、「住宅用地の特例」として課税評価額が固定資産税は1/6、都市計画税1/3まで減額されています。
しかし、「特定空家」に指定されると、住宅用地の特例がなくなり、固定資産税が6倍に、地域によっては都市計画税も3倍になります。
相続放棄すると固定資産税等の支払い義務はなくなりますが、いずれにせよ特定空家に指定されるのは危険なことです。
空き家を放置すると怖いのは、税金や行政からの指導だけではありません。
放置した空き家の倒壊や水漏れなどが生じて近隣住民に被害を及ぼすことで、損害賠償請求を受けることにもなりかねません。
誰かにけがをさせてしまえば、治療費や入院費を支払う責任があり、最悪死亡事故にまで至った場合には、億単位の賠償金を請求されるおそれがあります。
たとえば、空き家が倒壊しまうと、自然災害だからといって責任を免れることはできません。適切な管理をしていなかったことが明らかになれば、損害賠償を受けることは大いにありえるのです。
降雪地帯ではなくても、老朽化による家屋の倒壊や、庭を所有している場合の倒木など、どの空き家にもリスクは十分にあります。
そう簡単に空き家から解放されないということがお分かりいただけたでしょうか。
売却できそうな物件であれば、共有名義で相続し、売却するのが最もコストがかからない方法です。共有名義での相続をおすすめしたのは、売却までに発生する空き家の維持費を相続人間で分担するためです。
しかし、空き家は築年数が経過しているものが多く、査定ではマイナスとなってしまい、築30年以上経過する家は土地価格のみの価額で売却されるのが通常です。
とはいえ、安易に家を解体して更地として売りにだすのは、以下の理由からおすすめできません。
上手く売却できても、売却益が出れば、譲渡所得税が課税されることを忘れてはいけません。
一方で、売却できない空き家を相続してしまうと、買い手が現れるまで管理をしなくてはなりません。
空き家を相続する際には、売却できる可能性があるかどうか、専門家に相談してみましょう。
相続放棄するまでには3ヶ月という熟慮期限があります。しかし、その間に、老朽化が原因で倒壊等によって第三者に被害を及ぼし、莫大な損害賠償を請求されるおそれもあります。そのため、空き家問題は一刻も早く対処しなくてはなりません。
空き家の処分は、法律の知識だけではなく、売却が可能かどうか不動産の知識も必要になり、タイミングや判断を誤れば、金銭的に大きな損失を出してしまう可能性もあります。
管理責任を問われるような不測の事態に陥る前に、まずはご自身の抱えている空き家について、専門家である弁護士に相談してみることをおすすめします。