相続放棄の必要書類を相続人のパターン別に徹底解説
相続放棄に必要な書類を、相続人のパターン別(配偶者/子・孫/親・祖父母/兄弟姉妹)に詳しく解説します。 1.相続放棄…[続きを読む]
相続放棄はご自分でできる手続きです。ただし、一部には、難易度が高く、弁護士に依頼したほうが良いケースもあります。
そこで、相続放棄の手続きを自分で行っても問題ないケースや、相続放棄の流れ・必要書類、注意事項について解説します。
まずはじめに、どんな場合なら、相続放棄を自分で行っても問題ないかを解説します。
相続放棄を検討するのは、被相続人の借金などの負債が多額で、プラスの財産では返済できないことが多くなります。その場合は、明らかに被相続人の借金のほうが、プラスの遺産より多いことが明確になっている必要があります。
相続放棄した後に、財産が見つかっても、原則、相続放棄を取り消すことはできません。
したがって、相続放棄をする場合であっても、綿密な財産調査が必要となります。
遺産分割について相続人同士がもめていなければ、相続放棄をご自分でやっても問題ないでしょう。
一方で、相続財産が意図的に隠されている可能性がある場合に、相続放棄を自分でやることにはリスクが伴います。「被相続人の財産は借金ばかりだった」と聞かされ、相続放棄をした後に、「実は、こんな財産も見つかった」と言われる可能性があるからです。
もちろん、詐欺や強迫による相続放棄については、家庭裁判所に取り消しの申立をして取り消すことができます。ただし、財産を隠していた相続人に「自分も財産があることを知らなかった」などと言われれば、立証することが難しいことがあります。
相続人同士でもめている場合には、弁護士に相談して、先にトラブルを解決すべきです。
相続放棄をするには、次に詳述するように、それなりの必要書類を収集する必要があります。また、相続放棄申述書に、相続放棄をする理由などを記述しなければなりません。
相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内」に行うことが求められます。
そのため、ご自分で相続放棄をする場合には、相続放棄についての知識と、必要書類を収集したり、申述書を作成したりする余裕が必要になります。
必要書類の収集が煩わしい方や、自信のない方は、相続に強い弁護士に相談するといいでしょう。
ご自分で相続放棄手続きをする場合の流れは、次の通りです。
相続放棄で最初にすべきことは、最も重要な相続財産の調査です。
現金や預貯金は、自宅の金庫やタンスなど、紙幣や通帳を保管しそうな場所を探します。銀行の貸金庫があれば、その中身も調査します。
株式などの有価証券や生命保険は、契約書や郵便物などで確認します。不動産は、固定資産税通知書や名寄帳で確認します。
被相続人のパソコンやスマホの中身を確認できるのであれば、パソコン内のファイルや、スマホのアプリから、利用している金融機関や証券会社がわかることもあります。
借金やカードローンなどの負債は、通帳から定期的な支払いがあるかどうか確認します。
相続放棄手続きは、相続が開始した土地を管轄する家庭裁判所に、相続放棄の申述をして行います(家事事件手続法201条1項)。相続が開始した土地とは、主として被相続人の住所のことです。申し立てをすべき裁判所は決まっているのです。
都道府県によっては管轄が何箇所かに分かれており、不安な場合には、家庭裁判所に電話して管轄かどうかを確認すると良いでしょう。
家庭裁判所の管轄は、以下サイトからご確認いただけます。
【関連外部サイト】「各地の裁判所」|裁判所
相続放棄で最も時間を要するのは、戸籍謄本などの必要書類を収集です。相続放棄をすると決めたら、すぐに必要書類を集め始めたほうがよいでしょう。
必要書類には、「相続放棄に共通で必要な書類」に加えて、被相続人との関係により異なる書類を揃えなければなりません。
下記には、一般的な内容を記載していますが、家庭裁判所によってやや異なることもあります。管轄の家庭裁判所にご確認ください。
被相続人の子供を代襲相続した孫などの直系卑属には、上記に加えて次の書類が必要です。
被相続人の兄弟姉妹を代襲相続した甥姪には、上記に加えて以下の書類が必要になります。
必要書類がそろったところで、相続放棄を申請する書類である「相続放棄申述書」を作成します。
相続放棄の申述の申立書の書き方は以下のとおりです。申述書の書式は、次の裁判所のホームページからダウンロードすることができます。
【参考外部サイト】「相続の放棄の申述書(成人用)」|裁判所
申立書は2ページから成っており、必要な箇所にそれぞれ記入します(主な注意点は赤字で記載しています)。
相続放棄申述書の書き方については、以下の記事を参考にしてください。
相続放棄申述書と必要書類一式を、管轄の家庭裁判所に郵送か持参して提出します。インターネットでの提出は認められていません。
郵送で提出する場合は、確実に届くように、簡易書留やレターパックを利用することをお勧めします。
相続放棄の申し立て後、しばらくすると家庭裁判所から「相続放棄照会書」と「相続放棄回答書」が送付されます。
「相続放棄照会書」には、相続放棄についての質問事項が記載されています。回答を「相続放棄回答書」に記入して、期限内に家庭裁判所に返送します。こちらも、簡易書留かレターパックなどを利用したほうがよいでしょう。
多くの場合、返送の期限が送付されてから1週間程度しかありません。届き次第、速やかに記入して返送するようにしてください。
「相続放棄回答書」を家庭裁判所に返送して10日程すると、「相続放棄申述受理通知書」が届きます。
この書類が送付されることで、家庭裁判所から相続放棄が認められたことになり、相続放棄の手続きは終了です。
相続人が未成年者の子供や、成年被後見人などの場合には、本人だけでは相続放棄の手続きができず、代理人が必要になることがあります。
相続放棄をするのが未成年者の場合は、未成年の子供に代わって、法定代理人である親が相続放棄の手続きを行います。
この場合も、成人の相続放棄と同様に、本人が相続できることを知ってから3か月以内に家庭裁判所へ「相続放棄」の手続きを行わなければなりません。
また、相続放棄をするのが、成年被後見人、被保佐人、被補助人の場合には、次の通りとなります。
ただし、法定代理人と相続放棄をする者との関係が「利益相反行為」に該当すると、家庭裁判所で「特別代理人」を選定して相続放棄をする必要があります。
例えば未成年の子供と子供の法定代理人となる親権者が共に相続人であり、親権者が子供の相続のみを代理して放棄すると、親権者には利益となり、子供には不利益が生じます。この代理人が被代理人の代わりに相続放棄をすることで、代理人には利益が、被代理人には不利益が発生する関係を「利益相反」といいます。利益相反が生じる場合には、特別代理人を選定する必要があります。
ただし、親権者が相続放棄をすれば、利益相反には該当しないことになります。
成年被後見人が相続放棄をする場合も、同様の考え方となります。
なお、特別代理人になるためには、資格は必要ありません。家庭裁判所より適格者が選ばれ、審判にて決められた代理権を行使することになります。
最後に、自分で相続放棄する際の注意点をご紹介します。
相続放棄申述書に不備があったり、必要書類が足りなかったりすると、家庭裁判所から連絡がきます。その際に、適切に対応しなければなりません。忙しかったりして何もせずに放置しておくと、最悪、相続放棄が却下されることもあります。
いったん相続放棄が却下されてしまうと、再度、相続放棄の申述を行う際に、家庭裁判所に認められるだけの理由が必要になります。
相続放棄をしても、他の相続人に通知する義務は法律上ありません。
しかし、相続放棄をすると、最初からその相続については相続人でなかったものとみなされます。同順位の他の相続人が相続放棄をしなければ、その分、他の相続人の債務は増加することになります。他の相続人からクレームが入る可能性は高いでしょう。
また、相続放棄をして、同順位の相続人がいなくなると、次順位の相続人に相続権が移転します。たとえば、被相続人の子供が全員相続放棄をすると、次順位の相続人である被相続人の親に相続権が移転します。親がいなければ、さらに次順位の兄弟姉妹が相続人となります。
しかし、家庭裁判所から他の相続人に対して相続放棄をした事実は通知されることがありません。そのため、知らぬ間に借金を相続してしまうことがあるのです。
このように他の相続人とのコミュニケーションが必要なケースでは、弁護士に依頼すると、代理人として他の相続人との窓口となってもらうことができます。
相続放棄をしても、家庭裁判所から相続債権者(被相続人に対して債権を持っていた人)に対し何らかの通知がされることはありません。したがって、相続債権者には相続放棄の事実を知る術がないため、返済の請求があった場合には、上記の相続放棄申述書受理通知書を提示する必要があります。
ただし、相続放棄の手続き中に、債権者が相続放棄させまいとして、相続人が相続について知った時期について争う訴訟を提起する可能性は残されています。
このようなケースでも、弁護士に依頼すると、代理人として相続債権者に対応してもらうことができます。
相続法が改正されたことにより、相続放棄をした者の管理義務についても明確になりました。改正相続法に従えば、相続放棄をしても、現に遺産を占有している場合には、他の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで保存義務が発生します(民法940条1項)。
例えば、被相続人の家に同居していた相続人が相続放棄をし、その後もその家に住んでいるケースです。他の相続人や相続財産清算人に引き渡す前に、塀が倒壊すれば、負傷した通行人から損害賠償を請求される可能性があることになります。
占有している遺産を毀損して価値が下がれば、相続債権者から損害賠償請求される可能性もあります。
こうしたケースについても、相続に詳しい弁護士に相談したほうがいいでしょう。
相続放棄をすると、遺産を相続することはできません。
しかし、生命保険金(死亡保険金)や死亡退職金、遺族年金などは相続財産とはならず、受取人の個別の財産となり、相続放棄をしても、受領する権利に影響が生じません。
したがって、相続放棄をしても、生命保険金の受取りや、死亡退職金、遺族年金の受取りが可能です。
以上、必要な手順をおさえれば、ご自分で相続放棄をすることは可能です。しかし、弁護士など専門家に相談する方が多いのも事実です。なぜでしょうか?
上記で解説した通り、相続放棄には一定の書類が必要になります。書類の不備などがあれば何回も裁判所に通わなければなりません。さらに、書類の収集や裁判所からの照会の記入についてよくわからない場合など、誰も答えてくれません。その上、相続放棄できる期間も、3ヶ月以内と制限があります。
ハッキリ言って、「自分でやるのは面倒です」。
そんな時に頼りになるのが弁護士です。
このサイトには、相続放棄に強い弁護士が多数掲載されています。ぜひご活用ください。