遺言と異なる遺産分割協議を行う場合の注意点
遺言がある場合でも遺産分割協議をすることは可能なのでしょうか?遺言がある場合は、原則として遺産はその遺言に沿って分配…[続きを読む]
「遺産に不動産があって、相続人同士で揉めそう」「不動産を相続することになったけど、何をすればいいの?」など、不動産は相続の中でも少し特殊です。
遺産分割やその後の手続きが面倒で、ついつい放置してしまうという場合も少なくありません。
しかし、面倒だからと不動産を放置するのは問題の先送りにすぎず、次の相続で収拾がつかなくなります。また、最悪の場合不動産を失ってしまう可能性もあります。
この記事では、不動産の相続について、分割方法や具体的な手続、登記や売却の方法、不動産相続の注意点等について説明します。
目次
不動産相続は、基本的に
この2点が重要です。
しかし、必要な手続は、相続人が単独か複数か、遺言で不動産を取得する者が決められているかで異なります。
相続人が複数人いて、遺言書で不動産の取得者が決められていないときは、遺産分割協議で取得者を決め、遺産分割協議書を作成します。
協議が整わないときは遺産分割調停・審判で決めます。
取得者が決まったら、法務局に必要書類を提出して所有権移転登記手続を行います。
遺産分割協議書、調停調書、審判書などの遺産分割の結果を記録した書面はこの申請の際に必要になります。
登記の手続きについては「3.不動産の登記」でご説明します。
なお、分割前の不動産は法定相続分を共有持分とする共有財産ですから、全員の共有名義での共同相続登記が可能です。これは各人が単独で手続できます。
共同相続登記がされたときは、遺産分割で取得者が決まった後に、その者への共有持分権の移転登記手続を行うことになります。
遺言で不動産の取得者が決められているときは、遺産分割協議は不要です。遺言書を必要書類のひとつとして所有権移転登記手続が可能です。
もっとも、共同相続人全員が合意するなら、遺言内容と異なる遺産分割をすることは可能です(第三者への遺贈や遺言執行者がある場合を除く)。そのときは、やはり遺産分割協議書を作成して登記手続を行います。
相続人が一人で単独相続のときは、遺産分割手続を経ることなく登記が可能です。
不動産の遺産分割には、①現物分割、②換価分割、③代償分割という3つの方法があります。
現物分割は、不動産を不動産のまま分割する方法です。例えば、土地が2つあれば長男と次男でそのまま1つずつ分けたり、200坪の1つの土地を100坪ずつに分けるといった物理的な分割方法であり、簡単だと思われがちです。
しかし、土地上に建物があれば、建物を物理的に分割することは困難ですし、その敷地の現物分割もやはり難しいです。
更地だとしても、土地の価値が公平になるように分割するのは簡単ではありません。南側か北側か、接道、傾斜、日当たりなどによって評価に差があるので、単純に面積だけを基準に分割できるわけではありません。
不動産が複数ある場合でも、各不動産の評価に差異があるのは同じことです。結局、相続人同士が納得するように不動産を現物分割するのは難しいのです。
換価分割は、不動産を売却してその売却代金を分割する方法で、一見シンプルで合理的な方法です。
ただ、全員が納得できる金額で売れるかどうかは、実際に売り出してみないことにはわかりません。物件によっては売れるまで長期間かかる場合があり、売り急げば買いたたかれてしまうこともあります。
また、思い入れのある実家を手放したくなかったり、自宅住居として使いたい相続人がいたりと、なかなか売るわけにはいかない場合もあります。
代償分割は、不動産を分割するときに生じる不公平を金銭で補償する方法です。
相続分以上の価値がある不動産を取得した者から、他の相続人に代償金を支払って不公平を調整します。これなら、不動産を維持したまま微調整が可能です。
しかし、適正な代償金がいくらなのかは、不動産の評価によって決まります。当然ですが、支払う方は安く、受け取る方は高く評価したいので、やはり調整は簡単ではありません。
また、土地を取得する者に支払能力(お金)がなければそもそも実現できません。
このように、不動産の遺産分割の方法はそれぞれに長所と短所があるので、3つの方法を組み合わせてうまく分割できるよう工夫することになります。
しかし、分割が大変だからと遺産分割しないで共有名義にしておくことはおすすめできません。
共有のまま年月が経過すると、次の相続、そのまた次の相続が発生して、共有持分が相続されることになります。そうすると、一人一人の権利がどんどん細分化され、お互いに面識もない人が共有することにもなってしまいます。
例えば、面識もない相続人が30人で一つの土地を共有している、ということになると、いざ分割を実行しようとしても膨大な労力と時間がかかってしまいます。もはや自分たちだけで解決するのは不可能に近いでしょう。
このように、後代に問題を先送りしないよう、遺産分割で早めに決着をつけましょう。
遺産分割で不動産の取得者が決まったら、次はその不動産について登記をしておかないといけません。
「不動産を受け取ったし、面倒な登記はしなくてもいいや」と思われるかもしれませんが、登記はご自分の不動産の権利を守るためにとても大切なものです。
不動産の登記をしておかないと、その権利を第三者に主張できないとされており(最高裁昭和46年1月26日判決)、不動産を失ってしまう危険性があります。
「権利を第三者に主張できない」というのはどういうことか、具体例でご説明します。
例えば、次のケースを考えてみましょう。
被相続人:父A
遺産:土地1筆(1000万円相当)、預金1000万円
相続人:子Bと子C(法定相続分は各2分の1)
遺産分割の結果、Bさんは土地を、Cさんは預金を相続しましたが、Bさんは土地の登記を自分の名義にしないで、A名義のまま放置していました。
ところが、Cさんに500万円を貸していた債権者Dが、不動産の共有持分2分の1はCさんが相続しているはずだと考え、差押えてしまいました。
Bさんは、遺産分割で土地全体を取得したことを主張して取り戻すことはできません。登記をしていなかったからです。
Bさんはせっかく取得した土地のうち半分を失ってしまいました。これが、権利を第三者に主張できない、ということです。
登記さえしていれば、Dさんが差し押さえようとしても「それは私が取得した土地です」と反論できたのです。
また、2019年の相続法改正により、「◯◯を~~に相続させる」といった遺言(特定財産承継遺言)で法定相続分を超えて不動産を相続した場合も、同様に登記が必要になりました(民法899条の2第1項)。
【関連記事】特定財産承継遺言と相続させる旨の遺言|遺贈との違いや登記を解説
※この改正は、2019年7月1日以降に被相続人が死亡した相続に適用されます。同年6月30日以前に被相続人が死亡した相続では、特定財産承継遺言による不動産の取得は登記がなくとも第三者に権利を主張できます。
不動産の登記は、必要書類を揃えて法務局に申請することになります。
受け付けた法務局では、申請内容の審査をおこないます。申請に不備があり補正を求められる場合もあります。
登記は正確性が重視されるため、審査はかなり厳密です。
問題がなければ、登記識別情報と登記完了証が作成されますので、法務局で受け取ります。
登記申請に必要な書類は申請内容によって異なりますので、詳細は法務局、司法書士、弁護士にご相談ください。
一例として、遺産分割による所有権移転登記の場合は次の各書類が必要となります。
なお登記に必要な費用ですが、必要書類の取得費用の他にかかるのは登録免許税です。これは不動産の固定資産評価額の0.4%です。
特に不動産を欲しい人がいない場合などは、換価分割で不動産を売却することになります。
遺産分割における不動産売却の一般的な流れは次のとおりです。
遺産分割における不動産価額の評価は、次の2つの時点で行われます。
このときは、相続開始時、つまり被相続人死亡時の不動産価額によって計算します。
具体的相続分は、相続開始時点の財産の価額を基準に計算するため、不動産も当然同様に相続開始時点の価額で計算するということです。
このときは、分割時点の不動産価格で計算します。
相続開始時から実際の分割時点までに価額の変動があった場合の公平を確保するためです。
不動産の評価額には、公示地価、相続税路線価、固定資産税路線価、固定資産税評価額、実勢価格と多くの種類があります。
このような不動産の評価額は、特に現物分割や代償分割のときには大問題です。
価額によって代償金額が変わったり、他の相続人の取り分にも影響を及ぼすからです。
不動産の価額でどうしても合意できないときは、遺産分割調停・審判では、裁判所が選任した鑑定人の鑑定で決めた価額が採用されることになります。
不動産を相続した場合にかかる税金は、①相続税、②不動産の登記をする場合の登録免許税です。
また、その不動産を売却するときには、譲渡所得税や譲渡住民税などもかかります。
不動産を相続しても特に使う予定もなく、困ってしまうということもあると思います。
そのような場合には次のような方法があります。
不動産以外の遺産もあり、他の相続人の同意も得られることが前提です。
特に思い入れもなく使う予定もない不動産を相続するよりは、額が少なかったとしても、預貯金や株などを取得したほうが良い場合も多いです。
不動産も含めて何も取得しないことも可能ですが、その場合でも被相続人の残した債務は相続してしまいますので、不動産しか遺産がない場合は次の相続放棄をした方が得策です。
不動産も預貯金等の他の遺産も全て相続しないかわりに、被相続人の債務も相続しないで済みます。
ただし、相続放棄しても遺産の管理をしなければいけない場合はあります(民法940条)。
相続で取得した建物が未登記だった場合は、「表題登記」というものを申請する必要があります。
未登記ということは、その建物の内容や権利関係を記録しておく「紙」すらまだ作られていないということです。そこで、新たに登録する紙を作成してもらうのが表題登記です。
なお、不動産登記法では、建物を取得した者に対し、取得した日から1ヶ月以内に表題登記を行うことを義務づけており、これを怠ると10万円以下の過料に処せられます(不動産登記法47条1項、146条)。
相続した不動産を賃貸に出しているときは、家賃収益が発生しているはずです。
この家賃収益は、相続開始から遺産分割までは各共同相続人が法定相続分に応じて取得します。
これは遺産分割の対象とはなりません(最高裁平成17年9月8日判決)。ただし、相続人全員が合意すれば遺産分割の対象とすることも可能です。
遺産分割後の家賃収益は、その賃貸に出している不動産を取得した相続人のものとなります。
不動産は綺麗な自宅や土地ばかりではなく、相続人も知らなかったような古い空き屋を相続することもあります。
このような空き家の相続には、次のような問題があります。
このように、不動産の相続では、権利を得るだけでなく管理や納税などの義務も負担しなければなりません。
また、いったん相続してしまうと、不動産の所有権を放棄することはできません。その不動産を不要だと思っても、買い手を見つけて売却するしかないのです。
したがって、遺産に不動産があるときは、その利用価値の有無、売却可能性の有無等を事前に十分に調査した後に、相続するかどうかを慎重に判断しましょう。
共同相続の遺産に不動産があるなら、遺産分割協議で分割方法を決め、遺産分割協議書を作成し、取得した者が所有権移転登記手続を行います。
不動産を相続するための手続を進めるには、要所要所で専門的な知識が不可欠となります。
不動産の相続でお悩みの方は、相続問題の専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。