相続放棄したマンションその後の事情

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今回は、相続財産の中に、被相続人(親など)が居住していたマンションがある場合に、相続放棄をしたら一体どうなるのか、ということをごご説明したいと思います。

最初に、相続手続きの流れを概観し、被相続人が居住していたマンションを相続放棄する際の留意点を確認します。

さらに、相続放棄されたマンションの行き先、相続放棄したとしても残る相続人の責任についても触れます。

また、相続放棄されたマンションを抱える側の管理組合が直面する問題もご説明しようと思います。

1.親のマンションを相続放棄するときの留意点

相続手続きの中で、相続放棄を選択する時期や、親の遺留品を整理する際の留意点などをご説明します。特に、相続放棄をしようとする場合には、「法定単純承認」とみなされないよう、注意深く行動することが大切です。

1-1.相続手続きの流れ

「親が住んでいたマンションを相続放棄」といっても、実際には親が亡くなってすぐに相続放棄を選択することはありません。相続手続きの流れは、

①相続人の調査・確定 ⇒ ②被相続人の財産や負債の精査 ⇒ ③相続方法の選択

という順序になります。 そして、相続放棄を選択するかどうかの判断は、一般には「②被相続人の財産や負債の精査を経た上でないと判断できません

相続放棄を選択する理由の多くは、亡くなった親の負債が財産よりも多いということですが、それは上記の②の精査の結果、判明するからです。

1-1-1.相続の方法

相続の方法には3種類あり、相続放棄はその中の一つです。その3種類とは、「単純承認」、「限定承認」そして「相続放棄」です。それぞれの内容は以下のとおりです。

  • 単純承認:被相続人の権利義務をすべて承継する
  • 限定承認:被相続人の財産を限度に債務を負担する
  • 相続放棄:初めから相続人ではなくなる

相続放棄とは、「初めから相続人でなくなる」という選択であり、もし被相続人の特定の財産を承継したいと思っても、それはできません。相続人としての身分を一切放棄することなので、とても重い判断です。

1-2.親の財産と負債の精査

上記で、相続手続きの流れをご紹介しましたが、ここでは上記の「②被相続人の財産と負債の精査」について、ご説明します。

財産とは、預貯金、株、不動産など、負債とはローン、抵当、連帯保証等の借金や保証債務などです。 親の財産や負債を精査するということは、要するに親の財産と借金などの現状を調査して、一覧表(「相続財産目録」といいます)を作ることだとイメージしてください。

相続財産の調査は、故人の遺品整理から着手することが基本です。通常は大事な書類などを保管している書棚や金庫などから調べます。

プラス財産は、預金通帳や不動産の登記簿などにより、比較的簡単に把握できます。

一方、借金や保証人などの場合は、郵便物、金銭の借入契約書、ローン支払明細書など、様々な遺品書類を点検して慎重に内容を確認する必要があります。

以上のように亡き親の財産や負債を精査した結果、負債額が財産額を超えたときに、どのような相続方法を選択するかが問題になるでしょう。

1-3.マンションの権利関係の把握

今回のテーマであるマンションなどの不動産については、登記簿の中に権利関係が記載されているため、調査が容易です。

まずは固定資産税納税通知書を入手して、その記載内容から建物の所在地や固定資産税評価額などの基本的な情報を入手します。その上で、最新の登記簿を入手します。

最新の登記簿は、マンション所在地を管轄する法務局に請求すれば取得できます。登記簿を入手したら、内容の確認を行います。

1-3-1.登記簿を確認しよう

登記簿には、表題部、甲区、乙区という3種類の記載欄があり、それぞれの意味をしっかり理解した上で、確認しましょう。その意味を以下に略記します。

  • 表題部:土地、建物の所在地(住所ではありません)や家屋番号等の表示
  • 甲区:所有権に関する権利関係の内容や変動履歴の表示
  • 乙区:所有権以外の権利(抵当権、敷地権等)の内容や変動履歴の表示

親が居住していたマンションの権利関係を把握するには、甲区と乙区の両方を確認、精査する必要があります。

マンションを購入する際には、ローンを利用することが多いですが、その場合にはローン会社の抵当権が乙区に記載されています。

登記簿の記載内容の見落としや間違った理解をしていると、誤った判断をしかねません。心配な場合は、不動産の法律関係に詳しい専門家に相談することをおすすめします。

1-4.法定単純承認に注意

先に、相続手続きの流れは、①相続人の調査・確定 ⇒ ②被相続人の財産や負債の精査 ⇒ ③相続方法の選択、という流れになるとご説明しました。では、これらの手続きについて、延々と時間をかけても良いものなのでしょうか。

実は、相続手続きには「熟慮期間」(民法915条)というものが設けられています。これは相続の開始を知ったときから、相続の方法を選択するまでの期間で、原則は3か月です。この熟慮期間の終わりまでに、単純承認、限定承認、相続放棄のいずれかを選しなければいけません。

もし、何も選択しないまま3か月を過ぎてしまったらどうなるでしょうか。法律(民法921条)には「相続人が熟慮期間内に、限定承認又は相続の放棄をしなかったとき」は単純承認したものとみなす、という定めがあります。法定単純承認となる理由の多くは、この熟慮期間の経過といわれています。

1-4-1.決まらない場合は、熟慮期間の伸長を

相続開始から3か月の間に相続人調査や被相続人の財産・負債を精査するのは、難しい場合もあります。そのときは、家庭裁判所に熟慮期間の延長(正式には「伸長」といいます)を申し出ることが可能です。

なお、熟慮期間の伸長を認めるかどうかは、家庭裁判所が判断するため、伸長理由の書き方などは、専門家に相談したほうがよいでしょう。

1-5.遺品整理は慎重に

上記で、熟慮期間を経過してしまうと、単純承認したものとみなされる(法定単純承認)とご説明しました。

実は、法定単純承認とされる理由として、もう一つ大事なことがあります。それは「相続財産の全部又は一部の処分」(民法921条)をすると、単純承認したとみなされるという定めです。

相続財産の処分には、財産の売却、贈与、家屋の取り壊しなど様々なケースが想定されます。今回のテーマ「親のマンションの相続放棄」という点から留意点をみてみましょう。

親が住んでいたマンションであれば、室内に親の遺品が数多く残っています。相続放棄するといっても、親子の関係が切れていたのならともかく、借金を負いたくないということが理由であれば、人情として親の遺品を形見分けして持ち帰りたいと思うところです。

1-5-1.高価な遺品は特に注意

しかし、その形見が高価な宝石や着物だとしたら、注意が必要です。財産的な価値があるものを持ち帰ると、単純承認を選択し相続財産を分割取得したことになる可能性があります。そうなると、相続放棄の手続きができなくなります。

形見分けの遺品を持ち帰りたいという心情は分かりますが、相続放棄を選択しようとする場合には、慎重な行動が必要です。法定単純承認とみなされないための遺品整理の方法など、心配な場合には専門家にご相談することをおすすめします。

2.相続放棄したマンションの行く先は

亡くなった親の財産や負債を精査した結果として、相続放棄を選択したあとは、どうなるのでしょうか。他に相続人がいる場合と全ての相続人が相続放棄した場合では、その後の流れは変わってきます。

相続放棄をした人は、被相続人が抱えていた財産や負債との一切の関係が遮断されて、無関係の立場になります。亡き親の債権者から返済を求められることもありません。

しかし、相続放棄しても相続人には遺産の管理責任が課せられるため、遺産の中にマンションなどの不動産がある場合には注意が必要です。

2-1.他に相続人がいる場合

相続放棄の手続きは、各相続人が単独で行うことができます。複数の相続人がいる場合には、ある人は相続放棄したが、別の人は単純承認した、ということがありえるのです。

即ち、自分が相続放棄をし、自分以外の相続人の誰かが単純承認を選択すれば、その人(又は人たち)に被相続人の財産と負債はすべて承継されるということです。

従って、相続放棄する人は、他の相続人にも被相続人の財産と債務の内容を知らせて、自らは相続放棄を選択したことを伝えるべきでしょう。そうしないと、他の相続人が突然に被相続人の負債を引き継いでしまいかねません。

一方、限定承認については、全相続人が一致して手続きする必要があり、単独では行えません。

一般的に、相続放棄するということは、被相続人の負債が財産より多いため、という理由が多いでしょう。そのような場合には、全相続人が相続放棄を選択することになると思われます。

2-2.全ての相続人が相続放棄した場合

全ての相続人が相続放棄したら、親のマンションは一体どうなってしまうのでしょうか。

このようなケースについては、民法(第6章、951条以降)では「相続人の不存在」という状況を想定し、その取扱いを定めています。相続放棄は、相続人による単独の手続きであり、実際のところ他に相続人となるべき者がいるのかどうか、手続きの時点でははっきりしません。

しかし、判明している限りの相続人が相続放棄をすると、被相続人の財産(負債も含む、以下同じ)が宙に浮いてしまいます。その財産を放置しておくと、利害関係者や国にとって困ったことになるため、その後始末をする必要性があります。そこで、この「相続人の不存在」という定めが置かれています。

2-2-1.相続人不明の財産は、法人となる

では、この宙に浮いた財産は一体どうなるのでしょうか。法律(民法951条)は「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。」とあります。字義どおりに読むと、被相続人の財産が法人になる、ということです。

法人ときくと、会社などを思い起こしますが、法的にはそれ自身が独立した権利義務の主体として社会の中に存在するということです。その法人の名称は「亡〇〇太郎相続財産法人」などとなります。即ち、相続放棄された亡き親のマンションは、その相続財産法人名義の財産の一部を構成するということです。

2-3.相続人が不存在となったら

上記で、「相続人の不存在」についてご説明しました。ここでは、相続人が不存在と認められたら、その後の手続きはどうなるのか、ということをご説明します。

相続人のいない遺産は法人になります。法人が法律上の「権利義務を行使できる主体」であるとはいえ、勝手に動き出すわけではありません。

そこで、法人の意思を実現するために、会社であれば取締役を選任します。それと同じように、相続財産法人においても、その法人の意思を実現するために「相続財産管理人」を選任することができます。

会社であれば、事業運営の方針などは、取締役が決めていきます。それと同じように、相続財産の処分方針などは、この選任された相続財産管理人が定めて実行していきます。

なお、相続財産管理人を選任するには、遺産の利害関係者又は検察官からの請求が必要です。

2-3-1.相続財産管理人選任後の手続き

相続財産管理人が選任された後の手続きの流れは、以下のとおりです。

  1. 家庭裁判所による相続財産管理人が選任されたことの公告
  2. 相続債権者や受遺者に対する清算手続きの公告及び清算
  3. さらに相続人を探すための捜索の公告
  4. 特別縁故者に対する相続財産の分与
  5. 以上の手続きを経てもなお残余の財産があるときは、国庫に帰属

以上のとおり、結局、相続人が現れないときは、清算の結果残った財産は特別縁故者に分与されるか、国庫に帰属ということになります。

なお、マンションのような不動産については、通常はそのままで国庫に帰属させるのではなく、相続財産管理人が売却などして現金にして納めます。

2-4.相続人の管理責任

相続人が、「相続放棄の手続きをしたので、親が住んでいたマンションとは縁が切れた」と思っても、すぐにはそうなりません。これはとても大事な定めなので、ぜひ憶えておいてください。

民法940条に「相続の放棄をした者による管理」という条文があります。その条文の趣旨は「相続を放棄した者は、もはや相続人の地位にはないのであるが、相続財産管理人が選任されるまでは、自己の財産を扱うのと同じ注意を払って遺産の管理を続けなければならない」です。

2-4-1.相族放棄した者に残る管理責任

相続放棄をした者は、相続人の立場ではなく、相続財産法人から遺産の管理を委任された受任者の立場になります。これは、相続放棄した者の意思に関わりなく、法律がそのように定めているため、いわば「法定管理受任者」とでもいうべきものです。

今回のテーマである親が住んでいたマンションのケースについて、どの程度の管理責任が求められるかは一概には言えませんが、少なくとも当該管理組合との連絡、部屋の定期的な点検などは必要でしょう。

なお、この管理責任から免れる時期がいつになるかは、何ともいえません。それは、相続財産管理人が誰によっていつ選任の請求がなされるか不明だからです。

以上のとおり、親のマンションの相続を放棄しても、その管理責任が発生するため、そこまでを見据えて相続方法の選択を検討すべきでしょう。もし、相続方法の選択に不安がある場合には、専門家に相談することをおすすめします。

3.相続人がマンションを相続放棄、その時管理組合は

ここでは、相続放棄されたマンションを抱える管理組合の問題をご説明します。

先にご説明したとおり、親のマンションを相続放棄したとしても、マンションの次の承継人が現れるまでは、相続人には管理責任が課せられます。そのため、相続放棄する側の人にとっても、管理組合が抱える課題を認識することが大事です。

3-1.所有者の不存在は想定外

親のマンションの相続放棄という課題については、相続人の立場だけでなく、相続放棄された部屋を抱える管理組合が直面する課題も知っておいたほうがよいでしょう。

今回のテーマである親のマンションですが、一般的には所有権の対象である分譲マンションと考えてよいでしょう。分譲マンションの各部屋は、法律上、区分所有法により定められた区分所有権の目的物であり、マンションはその集合体です。そして、マンション1棟の管理は、区分所有者全員で行うという建前です。管理者の立場からいうと、マンション1棟の中に、区分所有者のいない部屋が存在することは、想定外といえます。

しかし最近、親が借金を負っていたり、子も親もとを離れて居住していて、親のマンションを相続する希望もないなどの事情から、相続放棄されるマンションが増えているといわれています。マンション管理組合としては、想定外の事態により様々な課題が生じてきます。

3-2.管理組合ができること

相続放棄されたマンションは、先にご説明したとおり、故人名義の相続財産法人の一部を構成することになります。

法人とはいえ、相続財産管理人が選任されるまでは何もすることができないので、事実上は宙に浮いた財産となります。そうすると、管理組合としては、その法人から管理費や修繕積立金、共益費などを徴収できません。その結果、相続放棄された部屋の持ち主が本来支払うべき金額が未回収となり、マンション会計の悪化要因となります。

では、管理組合が取りえる対策にはどのようなものがあるでしょうか。 次項から以下の3つの選択肢をご説明します。

  • 承継者が現れるのを待つ
  • 相続財産管理人の選任の請求
  • 自ら部屋を取得する

3-3.承継者が現れるのを待つ

相続放棄されたマンションに、抵当権が設定されているなど、他の利害関係人がいる場合には、その利害関係人が抵当権を実行するために、相続財産管理人の選任を家庭裁判所に請求する可能性があります。その場合には、管理組合としては、家庭裁判所が相続財産管理人を選任するのを待ってから管理費等の請求をするという手段をとるのがよいでしょう。

しかし、被相続人の遺産が債務超過の場合には、管理費等を支払ってもらえる可能性は低いと思われます。

一方で、抵当権等の実行により競落人(買受人)が現れた場合には、管理組合としてはその競落人に対して、管理費等を請求できます。これは、区分所有法により、買受人は管理費等の滞納の事実を知っていたかどうかに関わりなく、滞納分の支払い義務(正式には「不真正連帯債務」といいます)が生ずることになっているからです。

3-4.相続財産管理人の申し立て

管理費等の消滅時効の完成が間近だというような特別な事情がある場合には、管理組合自身が利害関係者として相続財産管理人の選任を家庭裁判所に請求する、ということも選択肢になるでしょう。

しかし、相続財産管理人を請求するには、被相続人の相続関係を示す戸籍等の収集、書類作成、そして相続財産管理人に支払う報酬額等(100万円前後と言われています)をあらかじめ裁判所に納める必要があります。

このように、自ら相続財産管理人の選任を請求するには、手続きや費用の負担が重くのしかかってきます。それぞれのマンションにより様々な事情もあるでしょうから、対策をとるに当たっては、このような問題に詳しい専門家に相談したほうがよいでしょう。

3-5.自ら部屋を所有する

最後は、管理組合が自ら相続放棄された部屋を取得する、という選択肢です。

これは、相続財産管理人が選任されたが、最終的に相続人や競落人などの承継者が登場しないような場合で、かつ管理組合として何等かの理由で取得する必要がある場合にとりうる方法です。

しかし、管理組合が実際にこの選択肢をとる可能性は、とても低いでしょう。

4.まとめ

今回は、「親のマンションの相続放棄」というテーマで、放棄する側の立場(すなわち相続人)と相続放棄された部屋を抱える管理組合の立場という両面から、その課題などをご説明しました。

都市部ではマンション居住者が多いため、そのような方はどちらの立場にもなり得る可能性が高いです。

どちらの立場にしても、難しい法律問題を抱えることになるため、何等かの判断をする際には、当事者自らが正しい法律知識を得て、最適な判断を行うことが大切です。そのためには、相続や不動産に詳しい専門家への相談や助言を得るなど、様々な角度から情報収集を行うことをおすすめします。

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