相続放棄とは~手続と費用・デメリットなどを解説!
この記事では相続放棄について詳しく解説していきます。メリット・デメリットは勿論、手続きの方法や期限、費用、必要書類に…[続きを読む]
被相続人が所有していたマンションを含む遺産を相続放棄をするとどうなるのでしょうか?
ここでは、遺産にマンションがある場合の相続放棄の注意点や、管理費などを請求された場合について解説します。
都合よく被相続人のマンションのみを相続放棄できるわけではありません。遺産すべてを相続放棄しなければなりません。
そこで、最初に相続放棄する際の流れをご説明します。
相続放棄の手続きは、次の流れに沿って行います。
相続放棄は、一般に被相続人の負債が財産よりも多い場合に行われるため、その判断は、「②被相続人の財産や負債の精査」を経た上でないと判断できないからです。
①相続人の調査・確定 ⇒ ②被相続人の財産や負債の精査 ⇒ ③相続方法の選択
では、実際に相続財産はどのように精査すればいいのでしょうか。
相続財産の調査は、故人の遺品整理から着手することが基本です。通常は大事な書類などを保管している書棚や金庫などから調べます。
プラスの財産は、預金通帳や不動産の登記簿などにより、比較的簡単に把握できます。
一方、借金や保証人などの場合は、郵便物、金銭の借入契約書、ローン支払明細書など、様々な遺品書類を点検して慎重に内容を確認する必要があります。
マンションなどの不動産は、登記簿に権利関係が記載されているため、調査が容易です。
まずは固定資産税納税通知書を入手して、その記載内容から建物の所在地や固定資産税評価額などの基本的な情報を入手します。その上で、最新の登記簿を入手します。
最新の登記簿は、マンション所在地を管轄する法務局に請求すれば取得できます。登記簿を入手したら、内容の確認を行います。
登記簿には、表題部、甲区、乙区という3種類の記載欄があり、それぞれの意味をしっかり理解した上で、確認します。
被相続人が居住していたマンションの権利関係を把握するには、甲区と乙区の両方を確認、精査する必要があります。
マンションを購入する際には、ローンを利用することが多く、その場合にはローン会社の抵当権が乙区に記載されています。
登記簿の記載内容の見落としや間違った理解をしていると、誤った判断をしかねません。心配な場合は、不動産の法律関係に詳しい専門家に相談することをおすすめします。
次に、遺産にマンションが含まれている場合の相続放棄の注意点を解説します。
相続手続きには「熟慮期間」(民法915条)として「相続が開始して自分が相続人であることを知ったときから3か月」が設けられており、原則、この熟慮期間の内に単純承認、限定承認、相続放棄のいずれかを選択しなければいけません。
さらに、民法には「相続人が熟慮期間内に、限定承認又は相続の放棄をしなかったときは単純承認したものとみなす」、という規定があり、(民法921条1項2号)。この3ヶ月以内に相続放棄をしなければ、単純承認がみなされて、相続放棄ができなくなってしまいます。
しかし、相続開始から3か月の間に相続人調査や被相続人のプラスの財産とマイナスの財産を精査するのは、難しいこともあります。そのときは、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し出ることが可能です。
熟慮期間伸長の可否は、家庭裁判所が判断します。そのため伸長理由の書き方などは、専門家に相談したほうがよいでしょう。
被相続人が住んでいたマンションには、遺品が数多く残っています。相続放棄をするにしても、遺品は形見分けに持ち帰りたいと思うのは無理からぬところです。
しかし、その形見が高価な宝石や着物だとしたら、注意が必要です。財産価値がある遺品を持ち帰ると、相続財産を分割取得したことになり単純承認がみなされて、相続放棄ができなくなる可能性があるのです。
法定単純承認とみなされないための遺品整理の方法などを専門家に相談することをおすすめします。
相続人が、相続放棄をしても、マンションの管理責任が残ってしまうことがあります。
2023年に改正された民法によれば、相続を放棄した者は、放棄の時に現に占有している財産に限って、相続人か相続財産清算人に引き渡すまでは、自己の財産を扱うのと同じ注意を払って遺産の管理を続けなければなりません(民法940条1項)。
したがって、相続放棄をしても、被相続人が所有していたマンションを現に占有している限り、相続人や相続財産清算人に引き渡すまで管理責任は継続することになります。
占有とは
占有とは、自己のためにする意思をもって物を所持することです(民法180条)。占有者とは、ものを自分の管理下におてい使用している人のことを指し、他人を通じてものを所持していれば占有は認められます。
したがって、相続放棄をした人が被相続人とマンションに同居していた場合などには管理義務が発生しますが、被相続人とは疎遠で実際にそのマンションに居住したこともないような場合には、管理義務は発生しないことになります。
被相続人が住んでいたマンションを相続放棄時に専有していれば、少なくともマンションの管理費の支払い義務を負うことになります。
以上のとおり、被相続人のマンションを相続放棄しても、現にそのマンションを専有していれば管理責任が発生するため、そこを踏まえて相続方法の選択を検討すべきです。もし、相続方法の選択に不安がある場合には、専門家に相談することをお勧めします。
では、相続放棄をした後、被相続人のマンションはどうなるのでしょうか。他に相続人がいる場合と、全ての相続人が相続放棄して相続人が誰もいなくなった場合では、その後の流れが変わります。
相続放棄の手続きは、各相続人が単独で行うことができます。自分は相続放棄したが他の相続人は単純承認した、ということがあり得ます。
相続人のうち1人でも単純承認を選択すれば、その相続人が被相続人のプラスの財産とマイナスの財産すべてを承継します。したがって、マンションの管理費なども単純承認をした相続人1人が負担することになります。
しかし一般的に、相続放棄は被相続人の負債がプラスの財産より多い場合に選択されるため、全相続人が相続放棄を選択することになるでしょう。
判明している限りの相続人が相続放棄をすると、誰も遺産を承継しないことになります。しかし、そのまま遺産を放置すると、被相続人の債権者や受遺者などの利害関係者や国にとって困ったことになるため、その後始末をする必要性があります。
そこで、設けられたのが以下の「相続人の不存在」の定めです。
民法951条
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
相続人がいると明らかでない場合には、相続財産は法人化され、独立した権利義務の主体となります。したがって、相続放棄された被相続人のマンションは、その相続財産法人名義の財産の一部を構成することになります。
相続財産法人は、その法人の意思を実現するために「相続財産清算人」を選任しますが、その選任には、遺産の利害関係人又は検察官からの請求が必要です。
相続財産清算人の選任後の手続きの流れは、以下のとおりです。
以上の通り、相続人が現れないときは相続財産の清算が行われ、清算の結果残った財産は国庫に帰属ことになります。
ただし、マンションのような不動産は、通常そのままで国庫に帰属させるのではなく、相続財産清算人が売却などして現金にして納めます。
相続人全員が相続放棄をしても、被相続人のマンションの管理組合から管理費などの請求をされることがあります。どのような対応をすればいいのでしょうか?
相続放棄の検討中に、相続財産からマンションの管理費を支払うと「相続財産の処分」に該当するため「みなし単純承認」となり、相続放棄の申述が認められない可能性もあります。
一方、相続人自身の財産から管理費を支払っても、「相続財産の処分」には当たらず、相続放棄の妨げにはなりません。
相続放棄を検討中に管理費や修繕積立金を請求された場合には、相続に強い弁護士に相談することをお勧めします。
これに対して、既に相続放棄をしていれば、マンションの管理費などを支払う義務はありません。
家庭裁判所から交付された「相続放棄申述受理通知書」や「相続放棄申述受理証明書」を管理組合に提示すれば、納得してもらえるでしょう。
相続人が全員相続放棄をしているのであれば、被相続人は債務超過になっている可能性が大であり、マンションにも債権者によって抵当権が設定されている可能性があります。
被相続人に債権者がいれば、債権を回収するために、相続財産清算人の選任を家庭裁判所に請求する可能性があります。その場合には、管理組合は、家庭裁判所が相続財産清算人を選任するのを待って管理費等の請求をします。
マンションの管理組合も、利害関係人の1人として相続財産清算人の選任を請求することも可能です。また、その建物を新しく譲り受けた新所有者に対して滞納管理費の請求をすることもできます(区分建物所有法第7条、8条)。
今回は、被相続人のマンションの相続放棄について解説しました。
都市部ではマンション居住者も多く、ご両親が被相続人となった場合には、所有するマンションも遺産の一部を構成することになります。
相続放棄の判断をする際には、正しい法律知識を得て、最適な判断を行うことが大切です。
そのためにも、相続や不動産に詳しい弁護士への相談や助言を得るなど、様々な角度から情報収集を行うことをお勧めします。