同性カップルの養子縁組|メリット・デメリットや想定されるトラブル

同性パートナーシップ制度は、2023年11月時点で、少なくとも361自治体*で導入されており、着実に浸透しています。

しかし、同性同士の婚姻は、国レベルではまだ認められておらず、その代わり相続などに備えて、カップルのどちらかを養子にすることを考えることも多いようです。

そこで、今回は、同性カップルの養子縁組について解説します。なお、養子縁組の手続きについては、以下の記事で詳述しています。

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なお、記事内の養子縁組は、普通養子縁組として扱っています。

*【出典】「日本のパートナーシップ制度」|MARRIAGE FOR ALL JAPAN

1.同性カップルに養子縁組は可能か?

最初に、同性カップルに養子縁組は可能なのか、どのような養子縁組になるのかなどについて解説します。

1-1.同性カップルが養子縁組する際の要件

民法によれば、同性カップルが普通養子縁組をするためには、以下の要件を満たさなければなりません。

養親の要件

  • 養親となる人に養親となる意思がある
  • 20歳以上でなければならない
  • 未成年者を養子とする場合は、家庭裁判所の許可を得る

養子の要件

  • 養親となる人の尊属(親や祖父母、叔父叔母)でなく、養親となる人より年長者でない
  • 養子となる人に養子となる意思がある
  • 養子となる人が15歳未満の場合は、養子の法定代理人(親権者等)が養子に代わり養子についての合意をする

したがって、上記要件を満たせば、同性カップルであっても、養子縁組は可能です。

しかし、同性カップルには、年長者が養親となり、年少者が養子となる選択肢しかないことがわかります。さらに、養子縁組をした暁には、養子は養親の苗字を名乗ることになり、選択の余地はありません。

1-2.同性カップルの養子縁組を認めた裁判例

同性カップルの養子縁組については、次のような裁判例があります。

府中刑務所内で知り合ったAとDは、急速に親しくなりましたが、Aが閉居 15 日の懲罰が課された後に、甲府刑務所に移監されてしまったため、Dとは連絡が取れなくなりました。そこで、Aは、「社会に出てからも、Dと暮らして、お互いに助け合っていきたいので、養子縁組届けを出したい」と弁護士にDとの養子縁組手続きの依頼をしました。

弁護士は、養子縁組の手続きを行い、AとDにその旨を伝えました。養子縁組を行えば、親族になるため、手紙のやり取りは認められるはずです。しかし、甲府刑務所は、「この養子縁組は、親族としての信書発受を目的としたもので無効」として刑事収容法を基に、Aの信書の発信を認めませんでした。そこで、弁護士は、AとDを原告とし、信書の発信差止処分の取消と損害賠償を求めて訴訟を提訴しました。

一方、先に出所したDは、Aと連絡が取れないため、自治体の福祉窓口を訪ねた際に担当者と言い争いとなり器物損壊罪で逮捕・勾留され、勾留中に、向精神薬の副作用で、急死してしまいます。

訴訟は、AとDのご両親によって継続されました。一審の東京地方裁判所では、原告の請求全てを棄却・却下する判決が下されましたが、控訴審である東京高等裁判所は、以下のように判事し、同性カップルの養子縁組を認めています。

「年齢差のない成年同士の養子縁組にあっては、典型的な親子関係から想定されるものとは異なる様々な動機や目的も想定され得るものであり、その中で、同性愛関係を継続したいという動機・目的が併存しているからといって、縁組意思を否定するのは相当ではないと考える。例えば、養子の氏の変更のみを得ようとする養子縁組は、養子縁組の法的・社会的な効果の中核的な部分を享受しようとするものではないし、重婚的内縁関係の継続を動機・目的とする養子縁組は、重婚的内縁関係の継続それ自体が不適法なものであって、養子縁組として是認できない効果を求めるものといえ、いずれも縁組意思を認めることはできないというべきであるが、これらと異なり、同性愛関係の継続は、それ自体が不適法なものではなく、養子縁組の法的・社会的な効果の中核的な部分を享受しようとしている以上、縁組意思を肯定することができるといえる。」

東京高等裁判所平成31年4月10日判決

1-3.パートナーに連れ子がいる場合

養子縁組をする際に、パートナーに連れ子がいると、パートナーと養子縁組をしただけではその連れ子との親族関係は発生しません。したがって、相続権も発生しません。

連れ子の相続が心配ならば、連れ子も養子縁組をするか、遺贈をする方法があります。

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2.養子縁組をするメリット・デメリット

次に、同性カップルが養子縁組をするメリット・デメリットを考えてみましょう。

養子縁組をするメリット

養子縁組をすると、二人で同じ氏を名乗り、同じ戸籍に入れる以外にも次のようなメリットがあります。

パートナーが亡くなると相続権が発生する

パートナーが亡くなると、養親や養子は法定相続人となるため、相続権が発生し、遺産を相続することができるようになります。

税制上のメリットがある

パートナーを扶養家族として所得税の様々な控除が受けられます。

また、パートナーが亡くなって相続税が発生しても、親族が相続すれば、様々な控除・特例が用意されているため、相続税の額を抑えることができます。

さらに、遺産に不動産があれば、相続により登記名義を移転する際には、第三者に移転するより登録免許税も安上がりになります。

養子は遺族年金の受取人となることができる

受給要件を満たしていれば、養子が、遺族年金の受取人となることもできます。

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親族を名乗れるようになる

養親・養子の関係になれば、親族を名乗れるようになります。

したがって、入院中のパートナーのお見舞いや、医療行為への同意が可能になり、パートナーが亡くなると、死亡保険金を受け取ることもできます。

養子縁組をするデメリット

同性カップルが養子縁組すると、もちろんデメリットもあります。

養子縁組をしても婚姻関係ほど強い法律上の規定がない

養子縁組をすると、相互扶助の効果は発生しますが、法律上の婚姻関係で認められるような、パートナーが生活費を不当に支払わない場合の生活費の請求権や、パートナーシップを解消する際の財産分与請求権はありません

ただし、2023年3月17日に、最高裁判所が上告を棄却し、同性カップルも法的保護の対象として、パートナーの不法行為に損害賠償を請求できるとした判決が確定しています。

外国人パートナーと養子縁組しても在留資格が与えられるわけではない

パートナーが外国人であっても、養親縁組によって永住ビザや日本国籍を得られるわけではなく、在留資格が発生するわけではありません。

外国人を養子にすることで、得られる在留資格は、家族滞在ビザや定住者告示7号(6歳未満の養子のみ)です。

したがって、日本人パートナーの養子となったからといって、外国人が無条件で日本に滞在できるわけではありません。

3.同性カップルの養子縁組により発生するトラブル

最後に、同性カップルが養子縁組した場合に発生が想定される相続トラブルについて解説します。

3-1.相続の際にパートナーの親族とのトラブルになる可能性

養子縁組をして養親が亡くなると、養子のみが相続人となり、養子が亡くなると、養親と実親が相続人となります。

したがって、養親が亡くなった場合には、養子だけが遺産を相続することになり、養親の親族とトラブルになる可能性は想像に難くありません。

また、養子が亡くなれば、養親と実親が遺産分割協議をしなければならず、難航する可能性は大です。

3-2.親族から養子縁組無効の訴えを起こされる可能性

また、相続の際に、初めてパートナーとの養子縁組が親族にわかると、死亡したパートナーの親族から養子縁組無効の訴えを提起される可能性もあります。

当然に、性交渉を伴った関係になっていることから、親族が同性カップルに偏見を持っていたり、2人の関係を快く考えていない場合には、「親子なのに公序良俗に反する」と心無い言葉を浴びせられる可能性もあります。

同性カップルが養子縁組をする際には、事前に親族とよく話し合い、了承してもらうことが重要です。

3-3.同性婚が立法されるても婚姻できない可能性がある

法律は、養子縁組を解消したとしても、その後、養親だった者と養子だった者の婚姻を認めていません(民法736条)。

したがって、同性婚が認められる立法がなされても、この点についての配慮がなければ、養子縁組を解消しても、婚姻できないことになってしまいます。

まとめ

ここまでご紹介した通り、まだ同性婚が認められていない日本では、同性カップルの養子縁組は、ご自分たちを守るために法律上採れる数少な方法の一つです。

しかし、同性カップルの養子縁組には、デメリットもあり、慎重に検討する必要があります。

同性カップルが養子縁組を考える際には、法律のプロである弁護士に相談することをお勧めします。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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