【図説】遺留分とは?遺留分の仕組みと割合を分かりやすく解説!
この記事では、遺留分について解説します。遺留分とは何か、だれにどのように認められる権利か、割合はどの程度かなどを図表…[続きを読む]
親「こんなひどいやつには1円たりとも相続させたくない」
子「相続になったら廃除されていた、廃除ってなに?」
被相続人と相続人との不仲から、このようなことを考えたり、廃除されていたりすることもあります。
しかし、相続人には遺留分がありますので、通常は遺留分だけは財産が渡ることになります。遺言や生前贈与では遺留分まで奪うことはできません。
ただし、相続人の相続権を遺留分を含めて奪うことができる制度があります。それが「廃除」です。
目次
廃除とは、被相続人(相続される人)が、推定相続人の相続権を失わせる制度です。
生前贈与や遺言では奪うことのできない遺留分まで剥奪できる点に意味があります(民法892条、887条2項)。
推定相続人とは、将来、被相続人が亡くなって相続が開始されたときに相続人となる予定の人です。
例えば、Aさんに、長男B、次男C、弟Dがいる場合、将来、Aさんが死亡したときに相続人となるのは長男B、次男Cですから、BとCが推定相続人です。
もっとも、本当にAさんが亡くなったときにBとCが相続人となるかどうかは将来のことなのでわかりません。そのときにはBやCが先に亡くなっているなどという場合もあるからです。
将来的には「多分」相続人となるだろうという意味で、「推定」相続人と呼ばれています。
上の例で、長男BがAさんの老後の面倒をみないばかりか暴力をふるうような親不孝者だった場合を考えてみましょう。
Aさんは、「こんなひどい人間には自分の遺産を相続させたくない」と思うでしょう。
そんな場合、Aさんは通常は次の手段をとることができます。
ところが、兄弟姉妹を除く相続人には「遺留分」があります(民法1042条)。
遺留分は、その相続人が有する最低限の権利として保障されているもので、いかに被相続人の意思でも通常は奪えません。
被相続人の生前贈与や遺贈によって遺留分を侵害された相続人は、生前贈与や遺贈を受けた者に対し、遺留分侵害額の支払いを請求できるのです(民法1046条1項)。
このため被相続人は、生前贈与や遺言では推定相続人の権利を100%失わせることはできません。
しかし、推定相続人の言動があまりにひどければ、被相続人の「絶対に相続させたくない」という意思も尊重されるべきです。
他方で、被相続人の気分次第で安易に遺留分を奪えるとしたら、遺留分制度を設けた意味がなくなります。
そこで、被相続人が推定相続人による相続を希望しない場合に、家庭裁判所がその理由の有無等を慎重に審査し認められれば、遺留分も含めた100%の相続権を剥奪できるとしたのが「廃除」制度です。
その他、遺留分も渡さないための方法はこちらの記事をお読みください。
廃除は、遺留分のある推定相続人に対して行うものです。
そのため、虐待や侮辱があっても以下のような人は廃除対象外です。
※1:東京家裁昭和50年3月13日審判(家庭裁判月報28巻2号99頁)
※2:東京高裁昭和38年9月3日決定(家庭裁判月報16巻1号98頁)
廃除を行うには、次の廃除原因が必要です(民法892条)。
廃除は、「被相続人の希望」と「保護されるべき遺留分」を調整する制度です。
そのため、廃除原因は、遺留分を奪われてもやむを得ないと評価されるほどに、ひどく人間関係を壊してしまう行為であることが必要です。
そうは言っても、主観だけで廃除原因の有無を判断すると遺留分の意味がなくなりますから、推定相続人の客観的な行為が廃除原因にあたるかどうかが審査されます。
そして、実際の家庭裁判所の審査としては、客観的な虐待・侮辱・著しい非行だけでなく、その程度(ひどさ)や家庭の状況、被相続人側の責任など、様々な事情を総合的に考慮することになります。
廃除が認められたケースと否定されたケースはこちらです(記事最後に飛びます)。
全て同じ状況ということはありませんが、「こういうときは認められるんだな」という参考にしてください。
家庭裁判所に廃除を求める方法は、①生前廃除と②遺言廃除の2つがあります。
被相続人が自ら家庭裁判所に廃除を請求する方法です(民法892条)。
必要な添付書類は基本的に下記のとおりです。この他に必要な場合もありますので、詳細は裁判所にお問い合わせください。
被相続人が、その推定相続人を廃除する旨の内容の遺言を残します。
そして、相続が開始された後、遺言執行者が家庭裁判所に廃除を請求する方法です(民法893条)。
家庭裁判所へ廃除の請求があったときは、家庭裁判所の審判手続が行われます(家事事件手続法第181条以下)。
廃除を求める申立人(被相続人または遺言執行者)と廃除される推定相続人との間で、廃除原因をめぐり主張・立証がなされたうえで、裁判官が判断を下します。
なお、廃除には調停制度はありません(家事事件手続法244条、別表第一86項)。最初から審判を行います。
【コラム:廃除に調停がない理由】
少し実務的な話です。記事本編を読まれる方は、コラムを飛ばしてすぐ下の「5.廃除が認められるとどうなる?」へお進みください。
廃除に調停がない理由について、不正確な情報が流れているためここでご説明します。かつては、廃除も調停の申し立てが可能な事件でした(※1)。
しかし、調停は両者の合意で成立します。合意による廃除を認めてしまうと、経済的に優位な被相続人が遺留分放棄を事実上強制する危険があります。
そして、まさにその危険を防止するために、遺留分の事前放棄(1049条第1項)は従来から審判事項とされていました(※2)。そこで、家裁の実務では、たとえ当事者が廃除を合意していても調停を成立させず、審判手続に移行させて裁判官が廃除事由の有無を審査していました。当事者に廃除の合意があることは、審判の事実認定の一資料にすぎないという取扱いをしていたのです(※3)。
このように、廃除を調停の対象とすることには遺留分保護の観点から強い批判があり、実務上も調停を回避していたため、現行法では廃除は審判手続のみによることとされ、調停の対象とはされていないのです。
また、この経緯からも、家裁が廃除を認めることに慎重な態度をとっていることがよく理解できると思います。
※1:旧家事審判法第9条第1項乙類第9号の乙類審判事件、旧家事審判法第17条
※2:旧家事審判法の第9条第1項39号の甲類審判事件
※3:判例タイムズ第688号「家庭裁判所制度40周年記念臨時増刊号・遺産分割・遺言215題」38頁
廃除の審判が確定すると、廃除された者(被廃除者)は遺留分を含めた相続権を100%失います(民法887条)。
廃除の効果は相対的(対人的)です。
廃除を求めた被相続人の遺産相続に関する相続権を失うだけで、他の人間が被相続人となったときの相続権まで失うわけではありません。
例えば、父親から廃除されても、母親の遺産の相続権は失わないのです。
廃除の効果は一身専属的、つまり本人だけに影響します。
廃除された者の子供や孫の代襲相続権には影響がありません(民法887条2項)。
例えば、父Aが長男Bを廃除しても、長男の子どもC(Aの孫)は代襲相続できるのです。
廃除は、相続させたくないという被相続人の意思を尊重した制度ですから、被相続人が廃除された者を許して相続権を回復させてやりたいなら、これを拒む必要はありません。
しかしそうは言っても、被相続人が勝手に取り消せると相続をめぐる権利関係が不明確になって混乱する恐れがあります。
そこで、家庭裁判所に請求してその審判を受けることで廃除が取り消されるとされています。
被相続人はいつでもこの請求をすることができます(民法894条)。
また、取消しに理由は不要ですから、裁判所が確認するのは取り消しが被相続人の真意によるものかどうかの点だけです。
廃除の取り消しは遺言ですることもできますし、その手続も廃除の場合と同様です。相続開始後に廃除が取り消された場合は、遡って廃除の効果が消滅するので、相続開始時から相続人だったと取り扱われます(民法894条2項、893条)。
もっとも、この廃除の取消手続を経なくとも、生前贈与したり遺言で遺贈をすることで財産を承継させることは可能です。
ここから先は、少しずつ難しい話になっていきます。
「廃除はもう分かった!」という方は、最後のまとめや他の記事をご覧ください。
廃除と同じく相続人の相続権を失わせる制度として「欠格」があります(民法891条)。
欠格は、故意に被相続人や先順位・同順位の相続人を殺害した者や、遺言書を偽造した者など、重大な不正・非行行為をした者の相続権を否定して制裁を加える制度です。
欠格は不正・非行の程度が著しいので、欠格事由があれば当然に相続権を失います。
被相続人の意思とは無関係な点で、被相続人の希望に基づく廃除と異なります。
また、被相続人が廃除された者に対して遺言で遺贈することは可能ですが、欠格者は遺贈を受けることも許されません(民法965条、891条)。
欠格は被相続人の意思に基づく制度ではないので、廃除と異なり、欠格の取消という制度はありません。つまり欠格となったら絶対に相続できない制度と考えられてきました。
しかし、被相続人が欠格者の相続を希望するなら認めてもいいという意見も有力であり、近年ではこれを認めた裁判例もあります。
同順位の推定相続人を殺害した欠格者について、被相続人がこれを許して相続資格を認める旨の意思表示をしたとして、相続を認めました(広島家裁呉支部平成22年10月5日審判家庭裁判月報63巻5号62頁)。
どのような場合に廃除が認められるのか、実際の裁判例を見てみましょう。
以下の例では、いずれも、被相続人をX、推定相続人をYとします。
Yは、Xが所有する土地上にビル建築を希望しましたが、Xに反対されました。YはXに魔法瓶、醤油瓶を投げつけ、玄関のガラスを割ったうえ、灯油をまいて放火すると脅迫しました。Xはやむなく親族が経営する旅館に避難せざるを得なくなりました。
裁判所は「虐待」によるYの廃除を認めました(東京家裁八王子支部昭和63年10月25日審判・家庭裁判月報41巻2号145頁)。
長男Yは、その経営する飲食店の開業・運転資金を父Xに援助してもらっていたにもかかわらず、近所で一人暮らしをするXの老後の面倒を見ず、「早く死ね。80歳まで生きれば十分だ」などと罵倒したうえ、お湯のはいったヤカンを投げつけて負傷させました。Xは本当にYに叩き殺されてしまうと恐怖しました。
裁判所は「重大な侮辱」によるYの廃除を認めました(東京高裁平成4年10月14日決定・家庭裁判月報45巻5号74頁)。
Yはその妻子とともに、高齢で障害者の母Xと同居していました。しかし、YはXの介護を妻に押しつけて家出し、居場所も知らせないまま、子どもの養育費もXの生活費も支払わず、父(Xの夫)から相続した田畑も無断売却してしまいました。
裁判所は「著しい非行」によるYの廃除を認めました(福島家裁平成19年10月31日審判・家庭裁判月報61巻4号101頁)。
Yは窃盗罪などで何度も服役しながら、自らは被害弁償や借金返済をせず、Xに被害者らへの謝罪、被害弁償、借金返済などを行わせて、多大な精神的苦痛と多額の経済的負担を強いてきました。裁判所は、Xに対する「著しい非行」によるYの廃除を認めました(京都家裁平成20年2月28日審判・訟務月報61巻4号105頁)。
著しい非行は、被相続人に対するものに限らず、第三者に対する行為も含まれます。
その場合でも、その非行により被相続人が精神的苦痛や財産的損害を受け、人間関係が破壊されたことが必要で、被相続人に対する非行の場合よりも厳しく審査されています。
Xは同族会社を事実上支配していましたが、同社の取締役Yは、同社の5億円を超える財産を業務上横領しました。Xは、これを重大な非行としてYの廃除を求めましたが、裁判所は認めませんでした。
企業規模が大きく、同社とX個人の財産は峻別され、Yの行為も同社の業務執行行為であり、X個人に対する行為とは区別される以上、会社財産の業務上横領行為はX個人に対する「著しい非行」とまで評価できないとしました(東京高裁昭和59年10月18日決定・判例時報1134号・96頁)。
推定相続人の言動の原因が被相続人にもある場合や、一時的なものである場合は廃除は認められません。
長男Yが父Xを背任罪容疑で刑事告訴した行為が「重大な侮辱」にあたるかが問題となった事例で裁判所は廃除を認めませんでした。
告訴される原因はXにあり、しかも告訴は背任行為によって生じる財産的損害を警察によって阻止してもらう意図によるもので、Xの刑事処分を望んでいたわけではない一時的な行為に過ぎないことが理由です(東京高裁昭和49年4月11日決定・判例時報741号77頁)。
Yは父Xに暴行を働きました。しかし、その遠因は、Xがその妻(Yの母)が生存中から愛人を囲い、妻の死後、一周忌にもならないうちに、周囲に理解を求める誠意・努力もないまま反対を押し切って愛人と再婚するという自己中心的な態度にありました。
裁判所はYの廃除を認めませんでした(名古屋高裁金沢支部昭和61年11月4日決定・家庭裁判月報39巻4号27頁)。
上でご説明したとおり、家庭裁判所は廃除を認めることには非常に慎重です。
廃除を望むならば、相続人が客観的にいかにひどい行為を行ったかを詳細に主張・立証しなくてはなりません。
他方、相続権を失いたくないならば、廃除原因に該当するような言動はないことを丁寧に反論しなくてはなりません。
廃除の問題でお悩みの方は、是非、相続問題に強い弁護士に相談されることをお勧めいたします。