国際相続の基本|被相続人が外国人のときや遺産が海外にあるときは?

被相続人が外国人であったり、海外に遺産があったりして、どのように遺産分割を進めていけばよいのかわからない、とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
相続に国際的な要素が絡む「国際相続」は、日本だけでなく外国の事情も加味して考えなくてはならないため、一般の相続より難易度が高いです。
日本の法律ですら複雑なのに、海外の法律について正確な知識を得るのはとても難しいですよね。
本記事では「国際相続」の基本から徹底解説し、その注意点もご説明いたします。
目次
1.国際相続とは
国際結婚や国際養子縁組が増加傾向にある昨今、国をまたぐ相続問題も増えてきました。
このように、国内のみならず海外の法律にも関わりを有するような相続を「国際相続」(または渉外相続)といいます。
国際相続では、日本だけではなく、外国(被相続人の国籍がある国等)の法律が関わってきます。これが国際相続の難しいポイントです。
日本の相続であれば、日本の法律に従って決めればいいのですが、国際相続ではまず「どの国の法律で相続するか」を決めなくてはなりません。
そしてその決め方は法律で定められており、定めによって決められた、国際相続するときに従う国の法律のことを、「準拠法」と呼んでいます。
2.【基本】国際相続は被相続人の国籍がある国の法律に従う
大原則として、国際相続の問題は、被相続人の本国法、すなわち被相続人の国籍がある国の法律に従います。
相続は、被相続人の本国法による。
たとえば、被相続人の国籍がアメリカならアメリカの法律に従います。
逆にいえば、日本国籍の人が亡くなった場合、その人がどの国に住んでいようと、その国際相続は日本の法律に基づいて行われるということです。
なお、重要なのは被相続人の国籍であって、相続人の国籍は関係ありません。
※「法の適用に関する通則法」とは…日本国内で生じる問題に海外の法律も絡んでくるような場合について、その対処法を定めた法律です。
3.遺産が外国にある場合の国際相続
遺産が外国にある場合でも、基本的に被相続人の国籍がある国の法律が準拠法になります。
つまり、被相続人の遺産がアメリカにあっても、被相続人が日本人であれば、日本の法律に従います。
しかし、海外にある不動産については例外となることもあるので注意が必要です。
というのも、下記表のように、国によって不動産の相続に関する考え方が異なるからです。
対象国 | 不動産の国際相続の考え方 | |
---|---|---|
相続統一 主義 |
日本、韓国、ドイツ、台湾など | 遺産の種類・所在地などについて区別せずに、全ての相続関係を被相続人の本国法で決めるという考え方 |
相続分割 主義 |
アメリカ、フランス、イギリス、中華人民共和国など | 遺産の種類を動産と不動産に分けて、動産については被相続人の本国法、不動産については不動産の所在地法によるという考え方 |
相続財産の中に海外の不動産がある場合、まずは不動産のある国の法律がどうなっているのかを調べる必要があるといえます。
相続手続きも国によって異なりますから、国際相続に詳しい専門家に相談することをお勧めします。
以下からは、遺言書や相続税、その他の国際相続における注意点など、より発展的な内容の解説に入っていきます。
4.遺言書の有効性
また、遺言書をめぐって国際相続の問題が発生する可能性もあります。
たとえば、日本国籍の被相続人が海外で遺言書を書いたり、あるいは外国の方式にのっとった遺言書をのこしたりするケースが考えられます。
4-1.基本的に遺言者の本国法に従う
遺言書についても、「法の適用に関する通則法」に規定があります。
書かれた遺言書が法的に効力を有するかどうかについては、遺言者の国籍がある国の法律によって判断します。
遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による
つまり、日本人が海外で遺言を遺したときは、遺言者の国籍が日本である以上、日本(民法)の遺言に関する法律を適用します。
民法に照らして方式などが法的に正しければ、有効な遺言書と判断されます。
しかし、民法の遺言に適用していなくても、日本人の遺言書が効力を発揮する場合もあります。
具体的には、以下のいずれかに適合しているときです(遺言の方式の準拠法に関する法律2条)。
- ①遺言書作成が行われた場所の法律
- ②遺言者の国籍・住所・常居所のいずれかがある国の法律
- ③不動産についての遺言で、その不動産がある国の法律
つまり、アメリカに住む日本人が遺言を遺した場合、その遺言者が日本国籍を有する者だったとしても、アメリカの法律で適法な遺言書を作成していれば、アメリカでは法的に有効な遺言書となります。
日本の自筆証書遺言であれば、自筆・遺言内容・署名・押印・日付が必須ですが、アメリカには押印の習慣がありません。しかし、押印が無くても、アメリカの遺言の法律に則っていれば、その遺言書はアメリカ式で法的効力ありと認められます。
4-2. 日本の方式に基づいて外国国籍の人が遺言書をのこした場合
日本は「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」に加盟しています。
遺言は、その方式が次に掲げるいずれかの地又は国の国内法に適合するときは、方式に関し有効とする。
(a) 遺言者が遺言をした地
(b) 遺言者が、遺言をした時又は死亡の時に、国籍を有した国
(c) 遺言者が、遺言をした時又は死亡の時に、住所を有した地
(d) 遺言者が、遺言をした時又は死亡の時に、常居所を有した地
(e) 不動産について、その所在地
そのため、もし、日本在住のアメリカ人が居所の東京で、アメリカ式(アメリカの法律で適法)の印鑑なしの遺言を遺したとしても、その遺言書は法的に有効なのです(bより)。
もちろんアメリカ国籍の日本在住者が、日本式(日本の民法で適法)の遺言書を作成しても法的に有効です(a・c・dより)。
5.国際相続の注意点
5-1.国際相続の相続税に注意
相続税に関する法律も国によって様々なので、個別に諸事情を検討していく必要があります。
日本では、遺産を相続した人に相続税を支払う義務がありますが、被相続人に相続税がかかる国もあれば、もはや相続税が存在しない国まであります。
誰に相続税がかかるか | 国 |
---|---|
相続人にかかる | 日本、スイス、ドイツ、フランスなど |
被相続人にかかる | アメリカ、イギリスなど |
相続税がない | 中華人民共和国、シンガポール、オーストラリアなど |
しかし、たとえばアメリカは被相続人の居住年数によっても課税財産が変わるなど、相続税については一概にいえるわけではありません。
ケースバイケースですから、国際相続に詳しい専門家に相談することをお勧めします。
5-2.海外の「プロべート」に注意
また、国際相続では「プロべート(Probate)」にも注意しなくてはなりません。
プロベートとは、アメリカ・イギリス・カナダなどで採用されている制度で、流れは以下の通りです。
①相続開始時点で、一旦、相続財産を遺産財団に移転して凍結します。
②裁判所に承認された「遺言執行人」または「遺産管理人」が遺産の整理などを行い、その結果を裁判所に報告します(遺言執行人・遺産管理人は遺言書で指定することもできます)。
③裁判所の承認を得て初めて、遺産財団に移転した財産の凍結が解除されます。
④凍結解除された残余財産が、ここで初めて相続人の手に分与されます。
日本人がプロベートを行うには、言葉の壁もありますし、非常に大変な手続きとなります。そのため、一般的には専門家に任せるしかありません。
手続きには半年以上、長ければ数年間もかかってしまうこともあります。
そのいっぽう、相続税を納税する期限は9ヶ月ですので、期限内に現金が必要となります。
相続財産が小額の場合は、この手続きを省くことも可能ですが海外不動産投資をしているような人の場合は、避けられない手続きとなるでしょう。
5-3.相続人の一部が海外にいるときも注意
国際相続の準拠法は被相続人の国籍によるので、相続人の国籍や居住地は関係ありません。
しかし、相続人が海外にいるときには、相続の手続きを進めていく上で実務的な障害が発生することがあります。
たとえば、日本の相続手続きで当然に使われる印鑑証明が、海外には存在しません。
日本では必須のものが海外に存在しないときには、相続人は代わりになるものを用意しなくてはなりません。
預貯金の口座の名義変更、不動産登記等に必要な住民票の代わり
日本国内に住民票がない日本人は、海外の日本領事館に出向いて海外居住を証明するための在留証明書を発行してもらいましょう。
印鑑証明の代わり
日本に住民票を残したまま海外在住の人は、一時帰国して市区町村で印鑑証明を取得するか、弁護士などの代理人に印鑑証明取得を依頼することも可能です。
しかし、海外生活が長くて住民票が日本国内に無い場合は、海外の日本領事館に出向いて、印鑑登録証明書を発行してもらえます。
あるいは、遺産分割協議書を郵送してもらって、遺産分割協議書を持って領事館に出向き、サイン証明書を発行してもらう方法もあります。
遺産分割協議書のサイン証明の場合は、領事館の担当職員にパスポートなどの身分証明を提出して、本人である事を確認してもらって、その担当職員の前で遺産分割協議書にサイン(及び拇印)して、遺産分割協議書に領事館の割り印をした「サイン証明書」を発行してもらえます。
6.まとめ
国際相続は複数の国の法律が関わる点で普通の相続よりも複雑であり、手続きも煩雑です。
曖昧な知識のまま無理矢理ご自身で国際相続を進めようとすると、途中で、あるいは後から、思わぬトラブルを招く可能性があります。
また、外国の法律が絡む問題に、素人の方だけで対処するのは不安がつきまとうかもしれません。
そのため、国際相続は、正確な知識や豊富な経験を持つ弁護士と一緒に解決していくのが最も安心できる確実な方法といえるでしょう。
以下のようなお悩みをお持ちではないでしょうか。
- 被相続人の国籍と相続人の国籍が異なり、混乱している
- 被相続人の遺産の一部が海外にあり、相続手続きをどう進めていけばわからない
- 被相続人が日本の方式で遺言書をのこしてくれたが、国籍は外国のまま亡くなってしまった
- 日本に長くすんでいて遺言書を作成しようと思っているが日本国籍を持っていない
- 海外に不動産がたくさんある
- 海外に移住した息子がいるが相続手続きはどうなる?
- その他国際相続をめぐるさまざまなお悩み…
思い当たる方は、ぜひ一度、専門家に相談してみることをお勧めいたします。