国際相続:海外預金を確実に取り戻すには?

節税対策のため、あるいは、投資のため、目的はいろいろですが、海外に預金をする人が増えています。出張で海外に住んでいた際に、現地で預金口座を作ったという人もいます。これらの海外預金は本人が利用する分には良いのですが、その人が亡くなると途端にトラブルの基になりやすいです。日本でも、海外でも、口座の名義人が亡くなれば口座は凍結され、相続人が預金を引き出す場合は、一定の手続きが必要であることは同じですが、海外預金の場合、現地の銀行に対して現地の言葉で書類を作成して手続きをしなければなりません。海外の資産が絡む相続については、「国際相続」と呼ばれています。
海外預金を取り戻す手続きは国ごとに異なるため複雑であり、現地の銀行や役所との調整を自ら行うことは素人には非常に難しいため、通常は弁護士に依頼することになります。日本の弁護士も世界中の法律に精通しているわけではなく、時間やコストの観点から現地に行って手続きすることは難しいため、現地の弁護士と協力して手続きを進めます。
海外預金を取り戻すためには、だいたい6ヶ月から3年程度かかるといわれています。また、弁護士費用も、日本と海外の弁護士に対してそれぞれ支払います。弁護士報酬は、基本報酬に、預金額に応じた成果報酬をプラスすることが多いです。時間もお金もかかりますが、海外預金がある程度の金額であれば、取り戻す価値はあります。
弁護士と連携して手続きを進めますが、事前に、おおよその手続きについて知っておくと安心です。海外預金の国際相続手続きは、大きく「英米法系(イギリス・アメリカ系)」と「大陸法系(欧州各国)」の2つに分類できます。
目次
英米法と大陸法の違い
世界中の法律は、法体系の起源に従っていくつかに分類できます。このうちイギリスやアメリカを中心とする「英米法」と、ヨーロッパ各国を中心とする「大陸法」の2つが、海外預金の国際相続でよく問題になります。
英米法(イギリス・アメリカ系)とは?
英米法はその言葉通り、イギリス(イングランド)の判例を起源として成り立つ法律です。詳しい法体系の成り立ちは割愛しますが、相続の考え方は「相続分割主義」を採用しています。
相続分割主義とは「動産と不動産を分けて相続する考え方」で、動産は本国の相続税法を適用します。一方、不動産は不動産を所有している国の法律に従って相続する考え方です。
また、英米法では相続時に「裁判所により相続財産管理人が選出される(プロベート)」ことになっています。この管理人が被相続人の代理人となって、相続手続きをします。この考え方を「管理清算主義」と呼びます。
英米法を採用している国家は、歴史上でイギリスの植民地国家であったことが多いです。具体的にはアメリカ、カナダ、マレーシア、シンガポール、香港などです。
大陸法(ヨーロッパ系)とは?
大陸法は西ヨーロッパで発展した法律です。欧州各国で採用されて、明治期には日本など東アジア全域に浸透しました。相続の考え方は「相続統一主義」を採用しています。
相続統一主義とは「動産と不動産を区別しないで相続する考え方」のことです。どの国の相続税法を適用するかは、被相続人の国籍(あるいは最終居住地)によって決定します。
また、大陸法では被相続人の資産・負債が包括的に相続人に相続される考え方となっています。よって、相続手続き英米法よりも簡単になるケースが多いです。
大陸法を採用している国家は、フランスやドイツなどをはじめとする西ヨーロッパ諸国があります。またフィンランドやスウェーデンなどの北欧諸国、ロシアや中国などの社会主義国家でも採用されています。そのほか、日本、韓国などの東アジアも大陸法です。
英米法国家の海外預金を取り戻す手続き
アメリカ、シンガポール、香港などの海外預金を相続する人は、英米法に従って手続きをします。なお、英米法では「プロベート」が必要になり、手続きが煩雑になりがちです。
裁判所による相続財産管理人の指名
英米法系の国家で相続をする場合は、まず初めに裁判所から相続財産管理人の指名を受けなければなりません。この管理人が代表者となり、相続財産の確定や相続税(遺産税)を申告・納付、相続財産の分配をします。
相続財産と相続人の確定
相続財産管理人の指名を受けたら、まず相続財産が何かを確定する必要があります。この財産は資産および負債があるので「相続分割主義」によって確定していきます。
また、一緒に相続人が誰かも確定する必要があります。日本とは異なり相続人の範囲が広いので、各国の法律にしたがって相続人を確定します。
相続税(遺産税)の申告・納付
相続財産が確定したら、その相続税(遺産税)を申告・納付します。相続税率や控除額は国によって異なります。また、アメリカでは州毎に制度が異なるケースも多いです。
申告内容が確定したら、国税庁(歳入庁)に行き相続税もしくは遺産税を納税します。
なお、被相続人と相続人の条件によっては、日本国内での相続税の申告・納付も必要になります。日本の国際相続に強い税理士等に問い合わせて確認しましょう。
裁判所による相続財産の分配許可
国税庁に申告手続きの受理を受けたら、裁判所から相続財産の分割許可を受けられます。英米法国家では、ここまで手続きを終わらせないと海外預金を相続できません。
相続財産の分配
相続手続きの中で決めた通りに、相続人に遺産を相続します。このタイミングで海外預金を持っている銀行に対して、正式に「預金払戻請求書」を作成・提出します。
裁判所への完了報告
相続が完了した旨を裁判所に報告します。裁判所が完了を認めることで、相続財産管理人の役目は終わります。
なお、この手続きを終えるまで1年から3年くらいかかると言われています。また通常は日本の弁護士に依頼をして、現地の弁護士とやり取りをしてもらいます。その結果、費用も数百万円かかるケースがあります。
大陸法国家の海外預金を相続する手続き
スイスをはじめとするヨーロッパ諸国の海外預金を相続する場合は、大陸法に従って相続手続きをします。英米法に比べると銀行と直接取引ができる分、手続きが簡単であるケースが多いです。
海外預金している銀行に連絡を取る
被相続人が亡くなったら、まず海外預金をしている銀行に連絡を取ります。被相続人が亡くなって相続したい旨、必要書類を教えてほしい旨を尋ねれば基本的には答えてくれます。
必要書類を取り揃える
国や銀行によって必要書類は異なります。代表的な書類は遺産分割協議書、印鑑証明書、戸籍謄本などです。これらの書類は日本国内の相続でも必要になるため、手元にあることが多いです。
なお、死亡診断書も提出が求められる場合が多いですが、日本では公証を受けることが難しいです。代用できる書類を確認しておくといいでしょう。
必要書類の翻訳をする
書類内容が分かるように、相手の国の言葉に翻訳します。自分で翻訳してもいいですが、翻訳家や通訳家に依頼をして作成をするとスムーズかつ正確に翻訳できるでしょう。
公証役場にて認証を受ける
翻訳した内容に間違いながない証明を受けるために、公証役場に書類を持って行きます。この公証を受けることで、翻訳内容が必要書類の内容を示している旨を証明できるようになります。
外務省で公証人の証明を受ける
公証を受けた書類を外務省に持って行き、公証が日本のものである証明を受けます。これによって国外の銀行でも「日本の公証人の証明を受けた必要書類」であると認識してくれます。
大使館の証明を受ける
海外預金を預けている銀行の所在国の大使館に行き、必要書類を作成した人物が本人であることを認められます。これにより国外の銀行も受理して大丈夫だと認識できます。
海外預金をしている銀行に払戻請求をする
海外預金をしている銀行に対して「預金払戻請求書」を作成して、国際郵便にて提出します。その後、1カ月~2カ月程度で銀行の小切手が返送されます。これで大陸法国家の相続手続きが完了します。
大陸法国家であれば半年~1年程度で手続きが完了する場合が多いです。費用も英米法よりも安く30万円~50万円程度で済みます。とはいっても、書類の翻訳や提出を行うのは素人には大変骨の折れる作業です。弁護士に依頼すれば、上記の手続きをほぼ代行してもらえますので安心です。
海外預金を取り戻す方法のまとめ
世界の銀行の法律体系としては、英米法(アメリカ、イギリス等)と、大陸法(ヨーロッパ諸国等)があり、それぞれ、海外預金を取り戻すための手続きが異なります。特に、英米法国家では、プロベート(裁判所により相続財産管理人が選出される)があり手続きが複雑です。
国際相続が発生した際に、海外の銀行に対して各種の手続きを個人で行うことは手間も時間もかかり非常に大変ですので、海外預金を確実に取り戻すためには、弁護士に依頼するのが近道といえるでしょう。
なお、海外預金にまつわる相続税に関しては、相続税理士相談カフェで触れていますので、ご参考ください。
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海外預金の問題は国際相続に強い弁護士へ
海外預金の払い戻しを自ら行うことは非常に大変な作業になってしまいますので、まずは国際相続に強い弁護士へご相談ください。