投資信託は相続できる?投資信託の遺産分割と相続手続きを解説

相続が発生した場合に、故人(被相続人)の財産に投資信託の受益権が含まれていた場合、どのように処理すればいいのでしょうか。
いずれ訪れる相続の場面であわてないように、法的な観点から正確な知識を身に着けておきたいところです。
この記事では、投資信託が相続手続きにおいてどのように取り扱われるか、また実際に相続する際の手順などについて解説します。
目次
1.投資信託の相続と「受益権」
「受益権」とは、投資信託の利益を受け取る権利のことです。
投資信託の相続は、正確には投資信託の「受益権」を相続することです。
それでは、一般的な相続に関する法律論の観点から、投資信託の受益権がどのように取り扱われるかについて解説します。
1-1.投資信託の受益権も相続の対象になる
相続の対象は、「被相続人の財産に属した一切の権利義務」(民法896条)とされています。
投資信託の受益権も被相続人の財産ですので、当然に相続の対象となります。
1-2.投資信託の受益権に係る相続分の決定方法
各相続人間における相続分の決定方法は以下の通りです。
①遺言書
まず、被相続人が遺言書を遺している場合には、遺言書の内容に従うことになります。
遺言書の中で、それぞれの相続人が相続すべき投資信託の受益権の口数が記載されていれば、そのとおりに相続することになりますし、相続割合を決めることを誰かに任せると記載されていれば、その人がすべての相続人についての相続分を決めることになります。
ただし、兄弟姉妹以外の相続人については遺留分を主張することができます(民法1042条1項)。
②遺産分割協議・調停等
遺言書がない場合、または遺言書で投資信託の受益権の相続分の全部もしくは一部が指定されていない場合には、相続人間で遺産分割協議を行うことになります(民法907条1項)。
遺産分割協議が合意に達した場合には、その合意内容に従って、各相続人が投資信託の受益権を相続することになります。
合意できない場合、遺産分割調停で家庭裁判所での手続きを行うことも可能です(調停も不成立だと審判になります)。
1-3.投資信託の受益権は遺産分割の対象になる?
なお、判例では、相続人が数人いる場合において、相続財産中に「可分債権」というものがあると、その可分債権は遺産分割せずに当然に法定相続分に従って分割されるとされています(最判昭和29年4月8日)。
つまり、可分債権では原則として遺産分割協議はできず、法定相続分とは異なる相続ができないことになります。
投資信託の受益権がこの「可分債権」に該当し、相続の場合に当然分割されてしまうのか、遺産分割の対象になるのか、ということが法律上の問題になることがあります。
結論としては、最高裁は投資信託の受益権については遺産分割の対象となるとしています(最判平成26年2月25日)。
そのため、上記の1-2で説明した手順で遺産分割が行われることになります。
2.投資信託の受益権の相続には証券会社での手続きが必要
投資信託の受益権は通常、被相続人名義の口座を証券会社に開設し、その口座の中で管理されています。
そのため、相続により相続人が投資信託の受益権を承継する場合には、被相続人口座から相続人口座への移管の手続きが必要となります。
この手続きの手順について以下で解説します。
2-1.証券会社へ被相続人の死亡を連絡
まず、被相続人が死亡したという事実を証券会社へ速やかに連絡しましょう。
これは遺産分割が未決定であっても必要です。
証券会社は、被相続人死亡の事実の通知を受けた段階で、被相続人口座をいったん凍結します。それ以降は、遺産分割が完了するまでの間、原則として投資信託の受益権を処分することができなくなります。
なお、相続人全員の同意がある場合には、被相続人口座内の投資信託の受益権を処分することが法的には可能となります。
しかし、証券会社に対してすべての相続人の同意があること(及び他に相続人がいないこと)を疎明・説明するための資料を提出する必要があり、証券会社はそれらの資料を審査したうえで、投資信託の受益権の処分可否を決することになります。
この審査にある程度の時間がかかってしまうことがありますので、その間に投資信託の受益権の価値が下落してしまうリスクがある点に注意が必要です。
2-2.必要書類を提出
次に、証券会社のホームページ等を参照したり、証券会社に問い合わせを行ったりするなどして、相続手続きに必要となる提出書類の準備をします。
主に必要な提出書類の内容としては、戸籍謄本、印鑑証明書等があります(金融機関・証券会社によって異なります)。
これらに加えて、
- 遺言書がある場合には、家庭裁判所による検認済みの遺言書(公正証書遺言の場合には検認不要)
- 遺産分割を行う場合には、遺産分割協議書
を提出する必要があります。
また、相続人が未だ証券会社に口座を開設していない場合には、口座開設の手続きも必要となりますので、口座開設に必要な書類一式を準備する必要があります。
2-3.被相続人口座から相続人口座への移管完了・被相続人口座閉鎖
証券会社における確認・審査が完了した後、投資信託の受益権は相続人口座へと移管されます。
これ以降、相続人は自らの口座へと移管された投資信託の受益権を、自己の財産として自由に処分できるようになります。
すべての相続手続きが完了した後、死亡した被相続人の口座は閉鎖されます。
3.投資信託の受益権を遺産分割する際の注意点
投資信託の受益権を遺産分割する場合には、投資信託という金融商品の特性上、いくつか注意点がありますので、以下で解説します。
3-1.遺産分割協議の際の注意点
まず、遺産分割協議により投資信託の受益権を遺産分割する場合の注意点について解説します。
①遺産分割協議中も価値が変動する
投資信託は、遺産分割協議を行っている最中にも刻々と価値が変動していきます。
遺産分割の内容について合意に至った時点と、実際に遺産分割により財産を承継する時点で、投資信託の受益権の価値が大きく異なるという事態になる可能性もあります。
そのため、後に相続人間で揉めることを防ぐために、遺産分割協議書には、投資信託の受益権の価値をいつの時点を基準として算定したかということを明記しておく必要があります。
どの時点に決めるかについては、相続人間で自由に決定することが可能です。
比較的多いのは、被相続人の死亡時点(=相続開始時点)です。
②相続開始後に入金される元本償還金・収益分配金の処理
投資信託の受益権が管理されている被相続人の口座には、被相続人の死亡(=相続開始)後も元本償還金や収益分配金等が入金されることがあります。
したがって、こうした金銭についてもどのように相続人間で承継するかについて取り決めておく必要があります。
3-2.投資信託を解約する際の注意点
投資信託の受益権が被相続人口座から相続人口座へと移管された後、相続人としては、すぐに投資信託を解約して受益権を現金化しようとすることもあるかと思います。
そのような場合に注意すべき点を以下で解説します。
①解約制限期間中の場合、解約違約金が発生する
投資信託の銘柄によっては、購入後一定期間、解約が制限されているものがあります。
解約制限期間中に投資信託を解約する場合には、解約違約金が発生し、額面の価格よりも大きく目減りした金額しか受け取れない場合があるので、注意が必要です。
②取得価格を上回る価格で売却した場合、譲渡益課税が発生する
投資信託の受益権の処分により利益が出た場合、その利益分は所得税の課税対象となります。
利益の金額は簡単な引き算で求められます。
相続により相続人が被相続人から投資信託の受益権を承継した場合、税金の計算においては被相続人の取得価格を引き継ぎます。
そのため、処分価格が被相続人の取得価格を上回る場合には、利益分に対して所得税が課税されることに留意する必要があります。
所得税の納付方法については、証券口座において源泉徴収が行われる場合はそれで完了となりますが、源泉徴収が行われない場合には、自ら確定申告をして納付する必要があります。
口座開設時に、証券会社の担当者に納税方法についての確認しておきましょう。
4. まとめ
以上に見てきたように、相続の場面では、一つの投資信託の受益権をとってみても、必要となる手続きが多くたいへんです。
実際に相続の場面に直面する前に、相続の場面を想定して、証券会社のホームページ等で、相続の手続きについて一度確認しておくといいでしょう。
また、投資信託は通常の金銭とは違い、どの時点の価格で遺産分割するか、その後の処理はどうするかなど、相続人同士で揉めやすいものでもあります。
お困りの際は一度弁護士の意見を聞いてみることをおすすめします。