通常共有と遺産共有が併存する場合は共有物分割訴訟が可能に!
不動産などの財産は分割が難しいため、共有状態のまま長年放置されてしまう傾向が強くなります。
しかし、共有状態を放置したままにすると、共有者に相続が発生し共有関係が複雑化してしまいます。
そこで、民法改正によって、通常共有と遺産共有が併存する財産については、相続開始後10年経過すると、共に一括して裁判での共有状態の解消ができるようになりました。
ここでは、共有物の共有者に相続が発生した場合の扱いについて、民法改正が与える影響について解説します。
目次
1.民法改正前後での共有物分割・遺産分割についての考え方
1-1.民法改正前の共有物分割・遺産分割の考え方
相続による共有の共有状態を解消する方法と、財産の共有状態を解消する方法は明確に分かれています。
相続によって共有状態となった財産を分割するためには、遺産分割協議や、家庭裁判所での遺産分割調停、遺産分割審判を経なければなりません(最高裁判所昭和62年9月4日)。
一方で、通常の共有状態を解消するためには、共有者の協議や、地方裁判所での共有物分割訴訟を経なければなりません。
したがって、通常の共有状態と相続による共有状態が併存すると、裁判で共有状態を解消するためには少なくとも2つのプロセスを経る必要があります。
1-2.民法改正民後の考え方
民法改正後も、通常の共有状態と相続による共有状態が併存する場合の共有状態の解消法は、原則として次の通り変わりません(民法258条の2第1項)。
- 相続による共有状態の解消:遺産分協議・遺産分割調停・遺産分割審判
- 通常の共有状態の解消:当事者の協議・共有物分割調停(※)・共有物分割訴訟
※ ただし、共有物分割請求の場合にば、調停前置主義が採用されておらず、共有物分割訴訟を最初から定期することができます。
通常共有と遺産共有が併存する場合は相続から10年で共有状態の解消が一元化
ただし、通常の共有状態と相続による共有状態が併存している場合には、相続開始から10年経過すると、共有持分分割訴訟を家庭裁判所に提起することで、相続による共有状態もまとめて解消できることになりました(民法258条の2第2項本文)。
民法改正によって、相続開始時から10年を経過した後は、通常共有と相続共有との共有状態を一元的に解消することが可能となったのです。ただし、これは、あくまで例外的な規定です。
相続人には異議申立てが認められている
また、共有者である相続人が、遺産分割の手続きにより共有状態を解消したい場合には、地方裁判所から共有物分割請求があった旨の通知を受けた日から2ヶ月以内であれば異議申し立てができます(同法同条同項但書、同法同条3項)。
2.通常共有・遺産共有が併存する共有状態の解消法の違い
実際の事例を挙げて考えてみましょう。
事例
土地を共有していたAさんとBさんのうちBさんに相続が発生し、Cさん、DさんがBさんの相続人になると、土地はAさん・Cさん・Dさんの共有となります。
この共有状態を解消する方法を、民法改正の前後で考えてみます。
ここでは、土地をAさんとBさんが共有しており、Aさんに相続が発生したことから、通常の共有と相続による遺産共有の状態が併存していることになります。
2-1.民法改正前に共有状態を解消するには
まず、相続が発生したCさん・Dさんの共有状態を解消するには、遺産分割協議をしなければなりません。しかし、遺産分割協議がまとまらなければ、遺産分割調停を、遺産分割調停もまとまらなければ、遺産分割審判での解決となります。
例えば、遺産分割審判でDさんが代償金を支払うことで、Cさんの持分を取得したとします。そうなると土地は、AさんとDさんとの共有状態となります。
次に、共有状態を解消するために、AさんとDさんは協議を重ねましたが結論に至らず、家庭裁判所へ共有物分割訴訟を提起することにしました。
裁判では、AさんがDさんに代償金を支払うことで、土地はAさんの単独所有となりました。
民法改正前では、最終的なAさんの単独所有となるまでにこのような手続きを経なければなりませんでした。
2-2.民法改正後の共有状態の解消法
次に、民法改正後におけるこの事例の共有状態の解消法を考えてみましょう。
相続が発生したCさん・Dさんは、共有状態を解消しようと、遺産分割協議を試みましたが決着が付きません。
放置したまま10年間が経過すると、Aさん・Cさん・Dさんのうちの誰かが地方裁判所に共有物分割訴訟を提起することで、遺産分割調停や遺産分割審判を経ることなく、共有状態を解消することができます。
比較してみると、随分と手続きが簡単になったことがお分かりいただけると思います。
まとめ
民法改正によって、通常の共有と遺産共有が併存している場合には、共有状態の解消が一元化できることになりました。
ただし、共有者となった相続人には異議申し立てが認められています。不動産などを共有状態のまま放置されている方は、この機会に共有状態の解消を検討してみてはいかがでしょうか。
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