遺産分割協議書がないと、主な相続手続きはできないままとなります。この記事では「遺産分割協議書とは何か、何のために必要…[続きを読む]
相続税申告に遺産分割協議書は必要?期限までに遺産分割できない時は?
相続税申告には、遺産分割協議書の添付が必要なのでしょうか?添付できない場合には、どうすればいいのでしょうか?
本稿では、こうした疑問にお答えします。
目次
1.相続税申告に遺産分割協議書は必要か?
相続が開始すると、特定財産承継遺言がない場合や、法定相続分に従って遺産を共有する場合を除き、遺産分割協議を行って相続人ごとに具体的な遺産の取得分を決めていきます。
この遺産分割協議の結果をまとめたものが、遺産分割協議書となります。
1-1.相続税申告には遺産分割協議書を添付する
遺言書によって遺産を分割した場合には、遺言書を相続税申告書を添付します。同様に、遺産分割協議によって遺産を分割した場合には、遺産分割協議書を相続税申告書に添付します。
税務署は添付された遺産分割協議書を基に、正しく相続税申告がなされたのかをチェックします。
1-2.申告書に添付するのは原本?コピー?
相続申告書に添付する遺産分割協議書は、制度上コピーでも原本でも構いません。ただし、税務署に原本を提出してしまうと、返却してもらうことはできません。
相続登記や銀行口座の相続手続きでも、遺産分割協議書は必要になります。そのため、相続税申告書に添付する遺産分割協議書はコピーのほうが望ましいと言えるでしょう。
1-3.相続税申告に添付する遺産分割協議書の書き方
相続税申告書に添付する遺産分割協議書は、相続税の申告用に特に変わった記載が必要になるわけではありません。
このサイトにも多くの記載例が載っています。参考にしてください。
以下は、法務局の以下サイトに記載されている遺産分割協議書のサンプルです。
遺産分割協議書の例
遺産分割協議書 令和元年6月20日、○○市○○町○番地 法務太郎 の死亡によって開始した相続の共同相続人である法務花子、法務一郎及び法務温子は、本日、その相続財産について、次のとおり遺産分割の協議を行った。 相続財産のうち、下記の不動産は、法務一郎(持分2分の1)及び法務温子(持分2分の1)が相続する。 この協議を証するため、本協議書を3通作成して、それぞれに署名、押印し、各自1通を保有するものとする。 令和元年7月1日 ○○市○○町二丁目12番地 法務花子 実印 記 不動産 * これは、記載例です。この記載例を参考に、協議の結果に応じて作成してください。 |
【出典】「不動産登記の申請書様式について」20)所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)より|法務局
また、国税庁の以下のPDFにも遺産分割協議書のサンプルが記載されています。参考にしてください。
【参考外部サイト】「相続税の申告のしかた(令和5年用)」125P|国税庁
2.遺産分割協議書なしで相続税申告をすると?
遺産分割協議が相続税申告に間に合わず、遺産分割協議書なしで相続税を申告すると、次のようなデメリットが発生します。
2-1.配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が適用されない
相続税には、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった相続税額を大幅に抑えることができる特例があります。
配偶者の税額軽減では、配偶者の法定相続分と1億6000万円のいずれか大きい方まで、相続税が非課税となります。小規模宅地等の特例が適用できれば、最大80%も土地の相続税評価額を軽減することができます。
しかし、遺産分割協議書を相続税申告書に添付しなければ、これらの特例を適用することができません。したがって、多額の納税資金を準備しなければならないことになります。
2-2.物納ができない
多額の納税資金を準備して現金一括納付をすることができなければ分割払いによる延納を、延納も難しい場合には、物納を検討することになります。
しかし、遺産分割協議が未了の遺産は、すべて相続人全員の共有状態です。共有財産の一部のみを物納することはできません。
2-3.遺産分割協議は相続税申告期限までに終わらせる
相続税の申告期限までに遺産分割協議が整わなければ、これだけ大きなデメリットが生じます。
相続が開始したら、早急に相続税申告が必要かどうかを検討し、必要なら申告期限までに遺産分割協議を終了するに越したことはありません。
3.申告期限までに遺産分割できない場合の対処法
とは言え、遺産分割協議は争いになることも少なくなく、相続税の申告期限までに遺産分割協議が整わないこともあるでしょう。
その場合の相続税申告の対処法について解説します。
3-1.申告期限までに法定相続分で仮の申告を行う
申告期限までに遺産分割協議が間に合わない場合には、各相続人の法定相続分に基づいて仮の相続税申告をします。その際に、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付することを忘れてはいけません。この書式は、以下のサイトからダウンロードが可能です。
この書面を添付して各相続人の法定相続分に基づいて相続税を申告しておくことで、申告期限から3年以内に遺産分割協議が成立すれば、分割が成立した日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をすることで、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の適用を受けることができ、過大に納税した額を還付してもらうことができます。
【参考外部サイト】[手続名]相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続|国税庁
3-2.3年以内に遺産分割協議が整わない場合の対処法
それでも、3年以内に遺産分割協議が成立しないことはあるでしょう。
相続について訴訟が行われている場合や、遺産分割が禁じられている場合など、一定のやむを得ない事情があると税務署が認めれば、特例の適用が再度延長されることがあります。
特例の適用延長について税務署の承認を得るためには、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出する必要があります。
この場合には、承認後、遺産分割ができない事情が解消した翌日から4ヶ月以内に遺産分割を行って、遺産分割が成立した日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求を行います。
4.相続税申告と遺産分割協議書についてのよくある質問(FAQ)
相続人が1人の場合でも相続税申告に遺産分割協議書は必要?
相続人1人では、遺産を分割することがで不要であり、遺産分割協議自体が必要ありません。
そのため、相続人1人の場合には、相続税申告書に遺産分割協議書を添付する必要はありません。
相続税申告書に遺産分割協議書を添付する際は印鑑証明書も必要?
相続税申告書に遺産分割協議書を添付する際には、印鑑証明書も必要書類となります。
遺産分割協議書に押印した相続人全員分の印鑑証明書の原本が必要になります。
ちなみに、相続税申告に原本を添付しなければならないのは、印鑑証明書のみとなっています。
まとめ
ここまでご説明した通り、相続税の申告期限までに遺産分割が成立しない場合でも、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の適用を受けられる可能性はあります。
もし、遺産分割協議で争いになることが予想されるのであれば、税理士と連携する弁護士も多数存在するので、一度相談してみてはいかがでしょうか。