法定単純承認とは?相続放棄で気を付けたい財産処分の具体例
相続が発生したものの、借金などの負の遺産が多く、「相続放棄したい」と考える人は少なくありません。 しかし、相続放棄の…[続きを読む]
相続放棄をすれば、遺産をまったく相続することはなくなり、被相続人の税金の納付義務もありません。
しかし、相続放棄をしても、固定資産税の納税通知書は届くことがあります。
なぜ固定資産税の納税通知書が届くのか、払わなければならないのか、相続放棄後、固定資産税を支払った場合はどのように対処すればよいのかなどについて解説します。
目次
相続放棄をすれば、初めからその相続については、相続人でなかったものとみなされて(民法939条)、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も承継しないことになります。
したがって、被相続人が税金を滞納していたとしていたとしても、相続放棄をすれば、税金の納付義務もなくなります。
相続人が複数いる場合に、一部の相続人が相続放棄をすれば、相続放棄をしなかった相続人全員が、連帯して税金の負担を負うことになります。
相続人全員が相続放棄をしてしまえば、誰も税金を納める必要がありません。
では、相続放棄をすれば、固定資産税も払う必要がないのでしょうか?
固定資産税は、土地や建物などの固定資産に対して市区町村から年1回課される税金です。
被相続人が亡くなると、固定資産税は、遺産分割によって固定資産を相続した相続人が支払います。ただし、遺産分割協議が整うまでは、相続人全員が連帯して固定資産税を納付する義務があります。
したがって、何らかの理由で、不動産を共有状態のまま放置していれば、相続開始以降の固定資産税も、共有者全員が連帯して納税義務を負うことになります。
しかし、相続放棄をすれば、当然固定資産の所有権は被相続人から移転せず、原則として固定資産税の納税義務もありません。
ただし、相続放棄をしても、固定資産税の納税通知書が届くことがあります。
固定資産税は、固定資産税課税台帳を元に課されています。固定資産税課税台帳とは、土地課税台帳、家屋課税台帳、土地補充課税台帳、家屋補充課税台帳、償却資産課税台帳の5つの台帳の総称です。
固定資産の所有者がお亡くなりになると、市区町村が相続人を調査して、台帳に登録するため、相続放棄をしても納付通知書が届いてしまうのです。
市区町村は不動産登記簿を元にこの台帳を管理しています。したがって、被相続人の債権者が債権者代位により、知らぬ間に相続登記と差押えの登記をしたために、相続放棄をしても納付通知書が届くこともあります。
実は、固定資産税の納税義務者は、原則として、賦課期日である毎年1月1日に土地・家屋・償却資産の所有者として、固定資産税課税台帳に登録されている者です(地方税法343条2項、同法318条)。このことを、「台帳課税主義」と呼んでいます。
相続放棄とは直接関係しない判例ではありますが、「台帳課税主義」について最高裁判所も次のように判事し、これを認めています。
土地又は家屋につき,賦課期日の時点において登記簿又は補充課税台帳に登記又は登録がされていない場合において,賦課決定処分時までに賦課期日現在の所有者として登記又は登録されている者は,当該賦課期日に係る年度における固定資産税の納税義務を負うものと解するのが相当である。
また、被相続人の債権者が、被相続人の土地に債権者代位による相続登記と、仮差押の登記を行ったため、賦課期日に登記簿上所有者とされた相続人に固定資産税が課され、その後相続放棄した事案で、平成12年2月21日の横浜地方裁判所の判決では、台帳課税主義に従って課税することは適法であるとしています。
この固定資産税の台帳課税主義によって、相続放棄をしても、固定資産税の納税義務を負ってしまうことがあります。
相続開始した年に相続放棄の申述が家庭裁判所に受理されれば、台帳課税主義によっても、固定資産税が課されることはありません。
相続放棄後に、相続放棄申述受理通知書を提示すれば、督促や差し押さえを受けることはありません。
一方で、相続の開始が年末に近いと、翌年固定資産税課税台帳に所有者として登録された後に、相続放棄の申述が家庭裁判所に受理されることがあります。
この場合には、固定資産税課税台帳の所有者が相続放棄をしていても、納税義務が発生します。
したがって、相続開始から年を跨いで相続放棄をし、固定資産税課税台帳に登録されていれば、納税義務が発生するのです。
固定資産税の納税通知書が届いたとしても、相続財産で支払ってはいけません。民法には、相続人が相続財産の一部でも処分してしまうと、相続財産について無条件に相続をする「単純承認」をしたものとみなされます。
固定資産税を相続財産で支払うと、単純承認とみなされて、相続放棄できなくなる可能性があるからです。
最後に、相続放棄後固定資産税を支払った場合の対処法について考えてみましょう。
上記のような事情から、相続放棄後に固定資産税を自分の財産から払ったとしても、市区町村から固定資産税の還付を受けるのは難しいでしょう。
台帳課税主義を認める判例がいくつもあり、法律上、1月1日の時点で相続放棄をしてたとしても、固定資産税課税台帳に登録されていたとすれば、相続放棄をしていた元相続人に対して課税をすることは適法であるとされる可能性があります。
一方で、相続放棄後に固定資産税を自分の財産から支払った場合には、遺産分割でその固定資産を所有することになった相続人に対して求償することができます。
求償する際には、書面ですることも、話し合いですることも可能です。ただし、相続放棄をしたとはいえ、同じ親族です。できるだけ、衝突を避ける方法を用いたほうがいいでしょう。
弁護士などの第三者を介するのも一つの方法です。
ここまでご説明した通り、相続放棄をしても固定資産税の納税通知書が届いても、固定資産の所有者に求償することは可能です。
しかし、法律上求償できるからといって、固定資産の所有者が応じてくれるとは限りません。親族間仲がもともとあまり良好でなければ、トラブルに発展する可能性もあります。
このように、相続放棄では、予期せぬところでトラブルになる可能性があります。相続放棄について心配な点や、相続放棄後トラブルになってしまった場合には、ぜひ、相続に強い弁護士に相談してくだいさい。