簡単に分かる!会社の相続は「株式」の相続である

株式会社のオーナーである親が亡くなると、子どもをはじめとする相続人は会社の株式を相続することになります。
相続によって会社の事業を承継する際には、手続きや相続税評価などの観点から難しい問題が潜んでおり、適切に対応しなければ相続でトラブルの元になりかねません。
この記事では、相続が発生した際の後継者が株式を相続する方法や後継者となる代表取締役の決め方、会社の相続で発生しやすいトラブルなどを説明し、その予防策もご紹介します。
会社の事業承継問題を抱えていらっしゃる方は、ぜひ参考にしてください。
1.会社オーナーから相続するもの
会社は法人格を有し、オーナーとは別人格となります。そのため、会社名義の不動産や機材など、会社名義の負債も含め相続することはありません。
では、オーナーが亡くなることで相続財産となるのは、どのようなものがあるのでしょうか?
1-1.オーナーが所有していた会社の株式
オーナーが死亡して相続が開始すると、オーナーが所有する会社の株式は、財産的価値を有するものとして相続の対象となります。
上場会社の株式はもちろん、このことは非上場会社でも異なりません。
1-2.オーナーの連帯保証人の地位
会社が金融機関などから借入をする際には、オーナー個人が連帯保証人となることが一般的です。
この連帯保証人の地位は、オーナー個人の権利・義務であるため、相続の対象となります。
1-3.オーナーの会社に対する貸付債権
中小企業では、会社が資金繰りに困った場合などに、オーナーが会社に貸し付けを行うことがあります。
この貸付金は、オーナー個人の財産として、相続の対象となります。
2.株式会社を相続する4つのステップ
次に、後継者がオーナーを相続し、会社経営に至るまでのおおまかなステップをご説明します。
2-1.後継者がオーナーの保有株式を相続する
前述した通り、オーナーが所有していた会社の株式は相続の対象となります。
したがって、原則としてオーナーが株式の相続人を遺言書で指定していなけば、遺産分割協議によって株式の相続人を決めない限り、株式すべては相続人全員の共有財産となります。
そのため、遺産分割協議では会社の後継者を決めて株式を相続させることになります。
株主総会で議決権を有効に行使するためには、後継者に最低でも総株主の議決権の過半数を相続させる必要があり、オーナが所有していた全株式を後継者に相続させることが理想です。
2-2.株式の名義変更を行う
後継者がオーナーから会社の株式を相続すると、会社に対して株主名簿の記載変更(名義変更)を請求します(会社法133条1項)。
株主名簿に記載されている名義の変更を行わなければ、会社その他の第三者に対して株式の相続を対抗することができない(相続したと主張できない)ため、名義変更は必須となります。
2-3.取締役を選任する
オーナーが代表取締役を兼ねている株式会社では、オーナーが死亡すると、代表取締役が欠けた状態となり、会社の経営にも支障を来します。
新たな代表取締役を選任するには次の手続きが必要になります。
取締役会設置会社の場合
取締役会を設置している会社では、取締役会の決議で代表取締役を選任します。
ただし、代表取締役が亡くなって取締役が2人になってしまっている場合には、取締役会の要件を欠いてしまうため(会社法331条5項)、株主総会を開き取締役を選任後、取締役会の決議により代表取締役を選任します。
取締役会非設置会社の場合
中小企業では、取締役会を設置していないことも多いかと思います。
取締役会を置いていない会社で代表取締役を選任するためには、定款の定めによって次の3つの方法から選択します(会社法349条3項)。
- 定款に代表取締役の選任についての定めがある場合、その定めに従う
- 定款に代表取締役の選任について取締役の互選が認められていれば、その定めに従う
- 定款に代表取締役の選任についての定めがなければ、株主総会を開き、議決権の過半数を持つ株主の出席、出席株主の過半数の賛成により選任
亡くなった代表取締役が会社のたった1人の取締役だった場合
株主総会の招集は取締役が行います。
しかし、亡くなった代表取締役が会社のたった1人の取締役だった場合には、株主総会の招集ができません。この場合には、株主全員の合意を得ることができれば、招集手続きを省略して株主総会を開き取締役を選任します。株主が亡くなった代表取締役のみであった場合には、その相続人全員の同意を得る必要があります。
また、選任する取締役についても株主全員の同意があれば、株主総会を開催せずに書面決議によることも可能です。
万一、株主全員の同意が得られなければ、少数株主(総株主の議決権の100分の3以上を保有する株主)は、株主総会の招集を請求することができるため、裁判所の許可を得て株主総会を開催し、取締役を選任することができます。
2-4.代表取締役の登記
後任の代表取締役の選任後、2週間以内に法務局で代表取締役の変更登記を行わなければなりません。
代表取締役の変更登記により、後継者の就任の手続きが終了します。
3.会社の相続でトラブルになりやすいケース
では、会社の相続でトラブルになりやすいのはどのようなケースなのでしょうか?
3-1.兄弟が会社株式の相続を主張するケース
遺言書で後継者が明確に定められていないと、オーナーを相続する子供たち兄弟が会社の相続を巡り揉めてしまうのは、典型的なトラブルと言って差し支えないでしょう。
たとえば、会社株式を100%保有していたオーナーが死亡し、4人の兄弟間で後継者についての話し合いがまとまらず、均等に25%ずつ株式を分割したとします。
株式会社で株主総会によって取締役を選任するなどを行う際には、議決権の過半数を保有する株主の出席のもと、出席した株主の議決権の過半数の賛成が必要です。
また、定款変更や事業譲渡などの重要事項を決定する際には、議決権の過半数を保有する株主の出席のもと、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要となります。
上記のように、4人が均等に会社株式を相続したケースでは、株主総会普通決議を通すだけでも、3人以上の株主の賛成が必要となり、株主間で足並みが揃わなければ、会社としての意思決定を行うことができなくなってしまいます。
3-2.家族経営の会社(同族会社)の株式を売却したいケース
家族経営の会社(同族会社)の株式を相続した場合に、会社経営に興味がなければ、その株式を他人に売却したいと考えるかもしれません。
しかし、同族会社の株式は一般に譲渡に制限が付されており(譲渡制限株式)、第三者に譲渡する際には株主総会決議(取締役会設置会社では取締役会)による承認が必要となります(会社法139条1項)。
同族会社では、赤の他人が経営に関与することを嫌うため、承認を得ることは事実上不可能でしょう。また、同族会社の株式を欲しがる人も基本的にはいないと思われるため、買い手がつくこともほぼ期待できません。
このように、同族会社株式の一部を相続したとしても、売却は困難であることをあらかじめ認識しておく必要があります。
3-3.会社の借金が多額であるケース
会社が多額の借金を抱えているケースでは、相続した財産が結果的にマイナスになってしまうことがあります。
会社が債務超過の場合は、会社株式の価値は原則としてゼロとなります。
また、被相続人が会社の債務を連帯保証しているケースも多く、その場合は連帯保証債務も相続の対象になってしまいます。
会社の負債があまりにも大きく、業績好転の見込みがない場合には、相続放棄(民法939条)をするのが得策です。
ただし、本当に業績好転の見込みがないかどうかは、事業の状況などから慎重な判断を要求されます。
また、相続放棄をすると、会社株式以外の他の財産も一切相続することができなくなるので注意しましょう。
3-4.株式の相続税評価が高額になり納税できなくなるケース
事業が順調に行っている会社であればあるほど、会社株式の評価額は高額になります。
そのため、いきなり会社のオーナーが亡くなってしまい会社を相続すると、相続税が多額になり、相続税の納税資金が足りないケースが出てきます。
なお、株式の相続税評価については、以下の記事を参考にしてください。
4.オーナーが生前にできるトラブル予防策
では、会社のオーナーが生前に会社の相続について行うことができる対策にはどのようなものがあるのでしょうか?
4-1.オーナーが後継者を決め事業承継をする
相続でのトラブルを防ぐためには、オーナー自身が後継者を決めて、生前に事業を承継しておくことが重要です。
生前に事業承継をしておけば、後継者に対して十分な教育や準備を行うことが可能になります。
4-2.「事業承継税制」の利用を検討
オーナーが株式を後継者に生前贈与すると、原則として、贈与時の株式の時価に応じた贈与税が、相続時には、相続税評価額を基に相続税がかかってしまいます。
しかし、中小企業における事業承継を円滑化する観点から、一定の要件を満たすと、株式の贈与や相続について贈与税や相続税の納税猶予・免除を受けることができます。これを「事業承継税制」といいます。
ただし、事業承継税制の適用を受けるためには、2024年(令和6年)3月31日までに、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた旨を記載した個人事業承継計画の提出が必要となります。
事業承継税制については、ご自分の会社の顧問税理士などに相談するといいでしょう。
まとめ
実際に会社の相続が発生した際のトラブルを防ぐため、極力生前から事業承継の対策を行っておくことをお勧めします。
相続発生後のトラブルについてはもちろんのこと、相続を見据えた生前対策についても、お気軽に弁護士にご相談ください。