相続放棄とは~手続と費用・デメリットなどを解説!
相続が起こったとき、資産がプラスになることだけではありません。被相続人が借金などの負債を残して亡くなった場合には、相…[続きを読む]
賃貸アパートを借りて一人で住んでいる人に、相続が発生することがあります。
では、その人の相続人が相続放棄をした場合に、賃貸借契約はどのように解約すれば良いのでしょうか?
相続放棄をすると、賃貸借契約の解約以外にも、電気・ガス・水道の解約の他に、残置物の片付けなども問題となります。
相続人が誰もいなければ相続財産清算人の選任申立が必要ですが、その費用が莫大となり、支払いができないこともあります。
そこで、相続放棄したときの賃貸借契約の扱いや、遺品の片づけ、電気水道などの解約について解説します。
目次
アパートの賃借人である被相続人が死亡しても、当然には賃貸借契約は解約されません。
そこで、相続人が賃貸借契約を解約する際に、相続放棄が問題になります。
相続人が相続放棄をすると「初めから相続人ではなかった」ことになり(民法939条)、財産も借金も相続することがなくなる他に、被相続人の賃借人としての地位を承継することもないため、契約を解約することはできません。
一方、契約を解約することは財産の処分行為となり、相続人が財産を処分すると、「単純承認」とみなされて、相続放棄をすることができなくなるため(民法921条1項)、相続放棄を考えている相続人は、賃貸借契約を解約すべきではありません。
こうしたケースでは、相続放棄をするつもりがない他の相続人が、契約を解約をしなければなりません。
もし、相続人全員が相続放棄をした場合には、後述する相続財産清算人を選任して、その相続財産清算人が、賃貸借契約を解約することになります。
被相続人が家賃を滞納していた場合に、相続放棄をすると、被相続人の借金などの債務を相続することがなくなるため、アパートの大家さんに家賃を請求されても支払う必要はありません。
では、被相続人がアパートを借りる際に、相続放棄をした相続人が被相続人の連帯保証人となっていた場合には、どうすればいいのでしょうか?
相続放棄をしても、被相続人の連帯保証人としての地位を放棄したことにはなりません。被相続人の連帯保証人としての地位は相続とは無関係だからです。したがって、アパートの大家さんに被相続人が滞納していた家賃を請求された場合には、支払わざるを得ないでしょう。
賃貸借契約を契約を解約するのと同様に、相続人が相続放棄する場合に、物件内に残された残置物(遺品)を勝手に処分すると、「単純承認」とみなされて相続放棄できなくなってしまいます(民法921条1号)。
残置物の中で、価値のないものを形見分けとして持ち帰る程度なら問題になることは通常ありません。しかし、それを超えて骨董品や貴金属などの価値のあるものを分けてしまうと、単純承認が成立してしまいます。
法定相続人の場合、賃貸人から「物を処分してほしい」と言われることが多いでしょう。しかし、応じると相続放棄ができなくなってしまう可能性があります。
大家さんや管理会社には迷惑をかけるかもしれませんが、事情を説明して、安易に被相続人の荷物に触れないよう慎重に対応する必要があります。
相続放棄する場合でも、電気、ガス、水道等の生活インフラは解約することができます。
これらについては、財産の処分にはあたらず、電力会社やガス会社に連絡をしたとしても単純承認にはならないとされています。
相続放棄する場合でも、電気会社やガス会社に連絡を入れてこれらの供給を止めてもらうようにしましょう。
実は、相続放棄しても相続人に残される義務があります。
それが、相続財産の管理義務です(民法940条1項)。
相続放棄した人は、相続放棄時に占有していた財産については、他の相続人に引き渡すまで、相続財産を適切に管理しなければなりません。
この管理を怠った場合、相続放棄していても損害賠償義務を負う可能性があります。
そのため、例えば賃貸物件に残された物で周囲の衛生環境が悪化したり、放置したためにその後の賃貸に影響したりすることのないように管理する必要があります。
相続放棄した人には、他の相続人が管理を始められるようになるまで相続財産の管理責任があり、他に相続人がいない場合には、相続財産清算人を選任する必要があります。
相続財産清算人は、相続財産を管理して、債権者や特別縁故者などを探し、相続財産から必要な支払いをして、あまった財産を国庫に帰属させます。
相続財産清算人が選任されると、相続財産の管理義務が相続財産清算人に移り、相続放棄した人の相続財産の管理義務は消滅します。
したがって、相続財産清算人の選任後は、たとえ相続財産が原因で他人に迷惑をかけたとしても、相続放棄した人が損害賠償義務を負う必要はなくなります。
ただし、相続財産清算人の選任には報酬が必要になることがあります。
報酬は相続財産から支払われるのが原則ですが、不足したときに備えて事前に「予納金」が必要になります。
予納金の額は事案にもよりますが、概ね100万円前後とされています。
相続放棄した人が相続財産清算人の選任の申立手続きをする場合、いったん100万円程度の予納金を支払わなければなりません。しかし、このような支払ができないことも多いでしょう。お金が用意出来ない場合、どのように対処すればいいのでしょうか?
実際に管理が必要なほどの相続財産が見当たらない場合には、相続財産清算人の選任申立をあえてしないケースが多いのが実情です。
借金をしているような故人は、管理が必要な財産などを持っていないことが多く、あえて相続財産清算人の選任をしなくても、特に相続財産が原因で他人に迷惑をかけることもありません。
これに対し、相続財産の中に不動産などがあって、誰かが管理しないと問題が起こりそうな場合などには、何とか予納金を工面して相続財産清算人を選任する必要性が高くなります。
また、高額な遺産がある場合には、予納金を支払っても、相続財産から相続財産管理の実費や相続財産清算人の報酬を支払えることが多いため、後で返ってくる可能性が高いでしょう。
以上のように、相続放棄した場合に相続財産清算人を選任すべきかどうかについては、個別のケースごとの検討が必要になるので、迷った場合には、不動産や相続問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。
今回は、被相続人が賃貸住宅を借りているときに、相続人が相続放棄した場合の対処方法をご説明しました。
簡単な形見分け程度であれば特に問題になることはありませんが、価値のある物品を分けてしまうと単純承認が成立して、相続放棄ができなくなってしまうので注意が必要です。
相続放棄をしてしまい他に相続人がいない場合には、相続放棄したご自分に財産の管理義務が残ります。
この管理義務を避けるためには相続財産清算人の選任手続きが必要です。
ただし、相続財産清算人を選任する際には、高額な予納金支払いの必要があり、支払ができない場合などに問題となります。
相続財産にそれほど価値がなければ、あえて相続財産清算人の選任の申立てをしないことも1つの選択肢です。
相続放棄すると、想定以上に検討すべき問題が発生するため、わからないことがあったら相続問題に強い弁護士に相談しましょう。