相続放棄とは~手続と費用・デメリットなどを解説!
相続が起こったとき、資産がプラスになることだけではありません。被相続人が借金などの負債を残して亡くなった場合には、相…[続きを読む]
相続が起こったとき、被相続人が賃貸アパートなどを借りて一人で住んでいるケースがあります。
この場合、相続人が相続放棄をすると、賃貸借契約はどう解約すれば良いのでしょうか?
電気・ガス・水道の解約や残置物の片づけなどの方法も問題となります。
相続人が誰もいないなら相続財産管理人の選任申立が必要ですが、その費用が莫大なので、支払ができない場合もあります。
そこで、相続放棄したときの賃貸借契約の扱いや、遺品の片づけ、電気水道などの解約について解説します。
目次
相続が起こったとき被相続人が借金しているケースなどでは、相続放棄をすることが多いです。相続放棄とは、プラスの資産もマイナスの負債も含めて、相続を一切しないことですが、相続放棄をすると、はじめから相続人ではなかったことになるので、財産も借金も相続することがなくなります。
被相続人が賃貸住宅に居住していた場合、相続人が全員相続放棄したら誰も解約の措置をとることができなくなりますが、どのように契約関係を処理するかという問題が発生します。
賃借人が死亡しても、当然には賃貸借契約は解約されないので、誰が賃貸住宅に残された残置物を片づけるのかや、水道や光熱費の関係を誰が処理するのかなどが問題になります。
賃貸借契約の処理についてはこちらの記事で解説しています。
相続人が相続放棄した場合には、物件内に残された残置物(遺品)を勝手に処分してはいけません。
相続人は、相続財産の処分(破棄、売却、利用など)をした場合、「単純承認」として相続放棄できなくなります(民法921条1号)。
残置物の中で、価値のないものを形見分けとして持ち帰る程度なら問題になることは通常ありませんが、それを超えて骨董品や貴金属などの価値のあるものを分けてしまうと、単純承認が成立してしまいます。
法定相続人の場合、賃貸人から「物を処分してほしい」と言われることが多いですが、応じると相続放棄ができなくなって不利益を受ける可能性があります。
大家さんや管理会社には迷惑をかけるかもしれませんが、事情を説明して、安易に被相続人の荷物に触れないよう慎重に対応する必要があります。
相続放棄する場合でも、電気、ガス、水道等の生活インフラは解約することができます。
これらについては、財産の処分にはあたらず、電力会社やガス会社に連絡をしたとしても単純承認にはならないとされています。
相続放棄する場合でも、電気会社やガス会社に連絡を入れてこれらの供給を止めてもらうようにしましょう。
実は、相続放棄しても相続人に残される義務があります。
それが、相続財産の管理義務です(民法940条1項)。
相続放棄した人は、他の相続人が管理できるようになるまで、相続財産を適切に管理しなければなりません。
この管理を怠った場合、相続放棄していても損害賠償義務を負う可能性があります。
そのため、例えば賃貸物件に残された物で周囲の衛生環境が悪化したり、放置しすぎて今後の賃貸に影響したりといったことのないように管理する必要があります。
相続放棄した人が管理義務を免れるためには、他の相続人が管理を始められるようになるか、他に相続人が以内場合は相続財産管理人を選任する必要があります。
相続財産管理人とは、相続財産を管理して、債権者や特別縁故者などを探し、相続財産から必要な支払をして、あまった財産を国庫に帰属させる人のことです。
相続財産管理人が選任されたら、相続財産の管理義務が相続財産管理人に移るので、相続放棄した人には相続財産の管理義務がなくなります。
そうなったら、たとえ相続財産が原因で他人に迷惑をかけたとしても、相続放棄した人が損害賠償義務を負うおそれはなくなります。
ただし、相続財産管理人の選任には報酬が必要になる場合があります。
この場合、報酬は相続財産から支払われるのが原則ですが、不足したときに備えて事前に「予納金」が必要になります。
予納金の額は事案にもよりますが、概ね100万円前後とされています。
相続放棄した人が相続財産管理人の選任申立をする場合、いったん100万円程度の予納金の支払をしないといけませんが、このような支払ができないことも多いでしょう。お金が用意出来ない場合、どのように対処すればいいのでしょうか?
この場合、実際に管理が必要な相続財産が見当たらない場合には、相続財産管理人の選任申立をあえてしないケースが多いです。
借金をしているような人は、その他に管理が必要な財産など持っていないことが普通であり、このような場合には、あえて相続財産管理人の選任をしなくても、特に相続財産が原因で他人に迷惑をかけることもありません。
これに対し、相続財産の中に不動産などがあって、誰かが管理しないと問題が起こりそうな場合などには、何とか予納金を工面して相続財産管理人を選任する必要性が高いです。
また、高額な遺産がある場合には、予納金を支払っても、相続財産から相続財産管理の実費や相続財産管理人の報酬を支払えることが多いので、後で返ってくる可能性が高くなります。
以上のように、相続放棄した場合に相続財産管理人を選任すべきかどうかについては、個別のケースごとの検討が必要になるので、迷った場合には、不動産や相続問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。
今回は、被相続人が賃貸住宅を借りているときに、相続人全員が相続放棄した場合の対処方法をご説明しました。
簡単な形見分け程度であれば特に問題になることはありませんが、価値のある物品を分けてしまうと単純承認が成立して、相続放棄ができなくなってしまうので注意が必要です。
相続放棄して他に相続人がいない場合には自分に管理義務が残ります。
この管理義務を避けるためには相続財産管理人の選任が必要です。
ただ、相続財産管理人の選任の際には、高額な予納金支払いの必要があるので、支払ができない場合などに問題となります。
相続財産の内容にたいした価値がない場合には、あえて相続財産管理人の選任申立をしないことも1つの選択肢です。
相続放棄した場合には、意外とたくさん検討しなければいけない問題があるので、わからないことがあったら不動産や相続問題に強い弁護士に相談しましょう。