借主が亡くなったらどうなる?賃借権の相続|賃料の支払いや敷金は?

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karinusi sibou

不動産の賃貸借契約の途中で、借主が亡くなってしまうことがあります。
そんなとき、契約はどうなるのでしょうか。

本記事では、賃借人が亡くなった場合、賃貸借契約はどのように続いていくのか、家賃の支払いや、賃貸人から敷金を返還してもらう権利は誰が承継するのかなどを説明していきます。

1.賃借権は相続できる

まず、賃借人(借主)が亡くなった場合、その人の賃借権(賃借人としての地位)は相続人に承継されます
「賃借人としての地位」といったのは、賃借権を含め、賃料支払義務や用法遵守義務など、賃借人に関する様々な権利義務がまとめて相続されるからです。

また、賃借権の相続は法律上当然に発生することなので、特に手続きは必要ありません。

賃貸借契約は借主が亡くなっても続く、ということですね。

賃借人としての地位が相続される理由は、相続の対象が原則として「一切の権利義務」とされているからです(民法896条本文)。
その人固有の一身専属的な権利義務は除きますが(民法896条ただし書)、賃借権は基本的には誰が持っていても変わらないため、他の財産と同様に相続財産となります。

ちなみに、借主ではなく貸主が亡くなった場合も、同様に賃貸人としての地位は相続人に承継されます。

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1-2.相続人が複数いる場合

賃借人の相続人が複数いる場合、遺産分割が終わるまではその相続人全員が共有して賃借権を相続することになります(民法898条)。
そして、それぞれの相続人は「共有持分」という、一つの権利(賃借権)の割合的な権利を、それぞれの相続人の法定相続分に応じて取得します(民法899条)。

例えば、亡くなった賃借人の相続人が配偶者と子供2人の計3人のときは、配偶者が1/2、子供たちがそれぞれ1/4ずつ、賃借権の持分を相続します。
借りている住宅に相続人のうち誰か一人が居住しているとしても、その居住している人が単独で賃借権を相続するわけではない点にご注意ください。

遺産分割が終わり賃借権を誰が相続するかが確定したら、その人が賃借権を相続したことになり、単独で賃借人としての地位を承継します。

ここまでの点は通常の相続財産と同じで、賃借権といっても特殊なことはありません。

ただし、賃料の支払いについては、賃貸人にとっても賃借人の相続人にとっても、やや複雑な問題がありますので「3.家賃の支払い債務は誰が負うか/誰に請求するか」で詳しくご説明します。

2.再契約は必要?解約できる?

2-1.再契約は必要ないが契約書は更新がおすすめ

賃借権の相続によって賃借人の地位が移転されると、借りている人が変わるわけですが、厳密にいえば賃貸借契約の再契約は必要ありません。

相続によって当然に賃借人としての地位が承継されているのですから、特に再契約をしなくても、賃貸借契約は契約内容も変わらず有効に存続します。
わざわざ賃貸借契約書の作成をしなおす必要もありません。

ただ、契約書に記載されている契約当事者と、相続による現実の契約当事者が異なることになりますから、後々トラブルになる可能性もあります。
そのため、遺産分割が終わったら、賃借権を相続することになった人(新賃借人)を当事者として契約書を更新しておくことがおすすめです。

もちろん、賃貸人と新賃借人とで合意のうえ、新たな契約を締結することも可能です。

2-2.相続人が居住しない場合の解約

被相続人の賃借人としての地位が相続されたものの、相続人のうち誰もその不動産の利用を希望しないことも多いです。
このような場合、賃貸借契約を解約することはできるのでしょうか。

賃貸借契約の解約は、その契約に期間の定めがあるかどうかで異なります。

なお、いずれの場合も、相続で賃借人が複数となった場合、賃貸人からの解約や解除は相続人全員に対して意思表示する必要があります(最判昭和36年12月22日)。

期間の定めのない契約はいつでも解約可能

賃貸借契約に期間の定めがない場合、賃貸人、賃借人のどちらもいつでも解約の申入れが可能です。
この場合、土地については解約申入れから1年、建物は3ヶ月で契約が終了します(民法617条1項)。

また、この期間は契約で変更することが可能ですので、例えば賃貸借契約で「解約通知後2ヶ月で解約の効果が発生する」とあれば、通知後2ヶ月で終了することになります。

ただし、建物を賃貸人から解約する場合は6ヶ月での終了で(借地借家法27条)、かつ解約の正当事由が必要です(同法28条)。これについては契約で縮めることはできません。

期間の定めのある契約

期間の定めのある契約でも、契約に「中途解約ができる」旨の内容があれば、上記「期間の定めのない契約」と同様に解約が可能です(民法618条)。

こうした中途解約の条項がなければ、原則として解約はできませんが、一般的な賃貸借であれば「賃借人からの解約は○○までに申し出る」などの条項が入っています。
被相続人の賃貸借契約の内容を確認してみてください。

3.賃料の支払い債務を負う人/誰に請求するか

相続によって賃借人としての地位が移転した場合、「賃料の支払い」についてはどうなるのでしょうか。

この点は、民法改正の影響もあって、やや複雑な説明になります。難しければ読み飛ばしても構いません。
「相続発生前の賃料」と「相続発生後の賃料」とで扱いが異なるので、分けて解説します。

3-1.相続発生前の賃料

被相続人が支払わないまま亡くなってしまった、いわゆる「未払い賃料」があるときには、相続人それぞれが法定相続分に応じて分割して債務を負い、支払う義務があります(最判平成17年9月8日)。
これは具体的に金額の確定した金銭債務として「分割債務」になるからです。

つまり、仮に誰か一人の相続人が賃貸人から賃料全額を請求されたとしても、自分の法定相続分に応じた支払い以外は「他の人に請求してください」と拒むことができます。
賃貸人から見れば、各相続人に個別に請求する必要がある、ということになります。

もちろん、相続人同士で誰かが代表して払って後で処理する、という取り決めをすることは可能です。

3-2.相続発生後の賃料

被相続人が亡くなった後も存続する賃貸借契約によって、相続開始後に発生する賃料については、取り扱いが異なります。

遺産分割が終われば、確定的に賃借人の地位を相続した人が支払うだけですが、遺産分割までに継続して発生する賃料はどうでしょうか。

この点は、2020年4月1日の改正民法施行前か、後かでさらに分かれます。

民法改正前|不可分債務

相続開始後の賃料の支払い債務は、借りている物件を使用収益する対価です。

そして、この支払債務と対になる賃貸人の「使用収益させる債務」は一個の不可分債務(分けることのできない債務)と考えられています。
したがって、相続発生後の賃料も原則として不可分債務です。

不可分債務は基本的には連帯債務の規定に準じますので(民法430条)、各相続人が連帯して支払債務を負うことになります(大判大正11年11月24日)。

つまり、それぞれが分割して支払債務を負うのではなく、1つの債務を連帯して負担し、相続人のなかに「負担割合」があるに過ぎません。
そのため、誰か一人が賃料全額を請求されたら、一旦は全額を支払う義務があります。負担割合を超えた支払い部分は、後から他の相続人に求償することになります。

賃貸人としても、どのような割合で請求しても構いません。
例えば、誰か一人に全額請求することもできますし、全員に個別に請求することもできます。

民法改正後(2020年4月1日から)|連帯債務

実は、民法改正後も、各相続人が連帯して支払債務を負うという結論は同じです。
そのため、ほとんどの方は実際的な影響はありません。

しかし、改正後は相続開始後の賃料は「連帯債務」として扱われることになりました(上記民法430条が一部改正されたからです)。
したがって、全ての連帯債務の規定が適用されます。

4.敷金の扱いは?|敷金返還請求権

賃借人としての地位が相続によって移転した場合、「敷金」の取扱いはどうなるのでしょうか。

敷金とは、賃貸借契約を結ぶ際に被相続人(元の賃借人)が貸主に対して事前に支払っていた、いわば担保としてのお金です。家賃の滞納や、修繕が必要な家の損傷などがあった場合に、その費用に充てられます。

被相続人は、賃貸人に対して、賃貸借契約の終了時に敷金の返還を請求する権利を持っていました。これを「敷金返還請求権」といいます。
この敷金返還請求権は金銭債権ですから、「可分債権」として相続人たちが法定相続分に応じて法律上当然に分割して承継することになります。

つまり、賃貸借契約が終了するとき、相続人たちは自分の法定相続分にあたる分だけ、貸主に敷金の返還を請求できるのです。

たとえば、もともと被相続人が賃貸人に対して40万円の敷金を入れていて、相続人は配偶者と2人の子供の計3人だとしましょう。
この例では、賃貸借契約の終了時に、配偶者は20万円、子供たちは10万円ずつの敷金について、賃貸人に対して返還を請求することができます(敷金から何も引かれなかった場合)。

5.その他|貸主の死亡時・使用貸借・内縁の妻

本記事では借主が死亡した場合に考えられる主な問題点についてご紹介してきましたが、それに関連して他のことについても若干解説しておこうと思います。

5-1.貸主が死亡した場合

冒頭でも少し触れましたが、借主ではなく貸主が死亡した場合にも、貸主の相続人が賃貸人の地位を承継します。

ただし、賃料債権の扱いなどの問題があります。

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5-2.使用貸借契約の場合

賃貸借契約ではなく、使用貸借契約を結ぶこともあります。
使用貸借契約は、無償で物を貸し借りする契約のことです。

使用貸借契約においては、借主が死亡した時点で契約が終了するのが原則ですが、貸主が死亡した場合は当然には終了しません。
また、契約内容によっては例外もあります。

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5-3.被相続人の内縁の妻は建物の賃借権を承継できる?

居住用の建物について、賃借人であった被相続人と一緒に住んでいたのが「内縁の妻」であった場合、賃借人の地位を承継できるのでしょうか。
(以下の説明は内縁の夫であっても同様です)

被相続人に法定相続人がいない場合といる場合で考え方が異なります。

被相続人に法定相続人がいない場合

まず、被相続人に法定相続人がいない場合には、内縁の妻も、原則的には賃借権を継承し居住する権利があります(借地借家法36条1項本文)。

ここでいう「内縁の妻」とは、婚姻届を出していないが事実上夫婦と同様の関係にあった者のこととであり、愛人など時々来て泊まるとか、最近同棲を始めたという関係の者には当てはまりません。
また、賃貸人が1ヶ月以内に反対した場合も承継できません(同条1項ただし書)。

被相続人に法定相続人がいる場合

被相続人に法定相続人がいる場合には、相続人が賃借権を承継するため、原則としては内縁の妻は賃借権を承継できません。

ただし、例外的に、賃貸人から建物の明渡請求がされたときは、相続人が承継した賃借権を内縁の妻が「援用」することで、明渡請求を拒むことができるとされています(最判昭和42年2月21日)。

ここでの「援用」とは、自分の権利ではないものを自分の主張として用いること、と思っていれば大丈夫です。

6.まとめ

賃貸借契約の途中で賃借人が亡くなるケースは珍しくありません。

本記事でご説明したとおり、借主が亡くなっても、賃借権(賃借人としての地位)は相続人たちに承継され、賃貸借契約は有効に続いていきます。
相続人にあたる方々は、その全員が家賃を支払う義務を負っていますから、契約を終了したい場合には解約の申し入れを怠らないようにお気をつけください。

その他にも、遺産分割協議がなかなか決着がつかず新しい賃借人が決まらなかったり、賃貸人の方は誰に家賃を請求すればよいか分からなかったりと、賃貸借契約の相続は難しい問題が生じやすいです。

少しでもお困りのことがあれば、まずは専門家である弁護士にご相談だけでもされてみることが一番です。

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