認知症の人に遺言能力はあるのか?家族がとるべき対策

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高齢者 認知症

あなたの身近に認知症になってしまった人はいますか?その人の生活レベルや会話の能力について、どのような状態か把握していますか?
少子高齢化が進む現代、認知症の患者数も増加しており、「自分だけは大丈夫」「自分の親に限って認知症にはならない」とは言い切れないのが現実です。まだ自分の身内が元気な状態で「万が一」のことにまで考えを巡らせるのはなかなか難しいものですが、多くの人が避けて通れない「遺言」と「認知症」について、これを機にぜひ考えてみましょう。

1.遺言ができる人

民法上で「遺言ができる人」とされているのは

  • 15歳に達した者(民法第961条)
  • 遺言能力のある者(民法第963条)

となっています。また、遺言は必ず本人が行うことになっており、法定代理人や任意代理人が行うことはできません。
「15歳に達した者」という規定はその人の年齢さえわかれば簡単に判断がつけられますが、多くの場合、問題となるのは「遺言能力」の有無です。特に認知症を患っている高齢者の場合、遺言をした時点での判断能力がどれくらいであり、遺言を自分の意思で行ったのかどうか、という点で争われることが多くみられます。

2.認知症と遺言の効力

2-1.認知症患者は今後も増える

内閣府の平成28年版高齢社会白書によると、平成26年の段階で、65歳以上の高齢者のうち、認知症を患っているのは約15%でした。今後は、高齢者の人数が増えることを考えると、平成37年にはその割合は約20%に上昇し、その後も増加が続くことが予想されます。

内閣府 認知症

【出典】内閣府:平成28年版高齢社会白書(概要版) 図1-2-12:65歳以上の認知症患者数と有病率の将来推計

2-2.認知症の医学的な診断

「認知症かどうか」という医学的な診断は医師によってつけられます。もしかして、と思ったら早めに医師の診察を受けさせるべきですが、その前に「長谷川式簡易知能評価スケール」を利用して自宅でチェックをしてみてもいいでしょう。

【出典】メディアサイト:改定 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

これは医師である長谷川和夫氏によって作成された簡易的な知能検査です。時間・場所に関する見当識や記憶や簡単な計算などの問題を出し、それの答えを点数化して「20点以上は認知症疑い」というようにある程度の目安をつけることができます。

10~15分程度しかかからない簡単な検査です。テストを行う側としても、「このような基準で見当識を判断するんだ」という発見がありますので、ぜひ一度試してみてください。

もちろん医師による診察では、簡易検査だけではなく身体的な検査(尿検査や血液、心電図の検査)やCTなどの画像検査など、様々な検査を行った上で総合的に認知症かどうかが判断されます。自宅で簡易的な検査を行ったとしても、その結果だけで判断せずに、必ず医師の診断を受けるようにしてください。

2-3.認知症(=遺言能力があるかどうか)の法的な判断

さて、医学的には上記のような検査を経て「認知症かどうか」という診断が出ますが、法律的には一概に「認知症である=遺言能力がない」と判断されるわけではありません

2-3-1.成年被後見人・被保佐人・被補助人

認知症に限らず、精神障害などで正常な判断ができない状態である場合、その人の状況によって成年後見人や保佐人、補助人がつくことがあります。その場合、法律行為をするときにさまざまな制限がつき、法律行為をしようとする場合は成年後見人などの同意が必要になったりします。

しかし、「遺言」については他の法律行為とは事情が違ってくるのです。

民法第962条
第五条、第九条、第十三条および第十七条の規定は、遺言については、適用しない。

ここに挙げられている条文はそれぞれ未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人の法律行為についての条文です。本来であればこれらに該当する人は法律行為に制限がある(法定代理人の同意が必要)のですが、遺言についてはそれが適用されない、という規定です。

まず、被保佐人と被補助人は、単独で(保佐人や補助人の同意なく)遺言をすることができます。
一方、成年被後見人の遺言についての規定は別にあります。「判断能力が一時的に回復した状態であれば、医師2名以上の立ち会いのもとで遺言をすることができる」(民法第973条)というものです。

このように、認知症や精神障害などがある場合であっても、遺言をすることは可能です。ただし、それぞれこの状態で遺言を残しても、その後「本当に遺言能力がある状態だったのか?」という点について争いが生じる可能性は残ります。

3.家族に認知症の可能性がある場合、どうすべきか

認知症の疑いがある家族に適切な形で遺言を行ってもらい、万が一の時にその遺言を確実に執行したいと考えているのなら、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。

3-1.「公正証書遺言」を選ぼう

遺言にはいくつかの種類がありますが、法律的に一番覆されにくいのは「公正証書遺言」です。これは遺言者が公証役場へ出向き(公証人が自宅や病院まで来てくれる場合もあります)、証人2名を立ち会わせて遺言を作るというものです。

公正証書遺言のメリットは

  • 法律的な不備で遺言が無効にならない(法律のプロである公証人がチェックするため)
  • 「本当にこの人が作った遺言か?」という疑問の余地がない
  • 原本が公証役場で保管されるため、紛失の心配がない

などです。

なお、公正証書の作成には費用が必要です。遺言書に記載される財産の金額によって手数料が変わります。ここはデメリットと言えるかもしれません。
ただし、法律的に不備のある、本人のものかどうかがわかりにくい遺言を残すことで様々な混乱や紛争を招くことを考えると、手数料をかけても公正証書遺言を残す価値は十分にあります。

3-2.その時の判断能力を示す資料を取っておこう

公正証書遺言は他の遺言に比べて確実性は比較的高いものですが、だからといって絶対に覆されないのかというと、残念ながらそんなことはありません。遺言を作成した時点での判断能力について疑義が出た場合に備えて準備をしておく必要があります。

  • 日記(遺言者の日々の様子などがわかるよう、こまめに記録を取る)
  • 動画(受け答えの様子や遺言者の会話の状況がわかるようなものを撮影しておく)
  • 病院にかかっている場合、そのカルテの写しをもらっておく

このように、遺言者のその時点での状況が客観的にわかる資料を準備しておくことで、「判断能力がなかったのではないか?」という意見に反論できるようにしておくといいでしょう。

4.認知症と遺言に関わる判例

「認知症」とひとことで言っても、人によって病状は様々ですし、持っている財産や相続人によって遺言の内容も変わります。そのため判例も千差万別です。認知症と遺言に関連する判例をいくつかご紹介します。

4-1.認知症でも遺言が有効とされた例:京都地裁平成13年10月10日判決

長谷川式評価スケールでの点数は4点と低かったものの、

  • 遺言の内容が簡単なものであったこと
  • 病院の看護日誌から看護師と会話ができていたことが認定されたこと

などから、遺言が有効であると認めた判例。

4-2.公正証書遺言が無効とされた例:横浜地裁平成18年9月15日判決

長谷川式評価スケールでの点数は9点。

  • 遺言作成時点でアルツハイマー性認知症と診断されていたこと
  • 遺言の内容が比較的複雑だったこと(遺産の一部のみを共同で相続させる、遺言執行者を複数人指定するなど)
  • 遺言作成時、公証人が遺言内容を読み上げたものに対して「はい」などという簡単な肯定の言葉しか口にしなかったこと

などから、遺言能力はなかったと判断し、遺言は無効とした判例。

5.無用な争いを防ぐために

5-1.遺言能力の証拠を揃えたうえで遺言書を作成する

認知症の疑いがある場合はもちろん、現時点で認知症ではないという方であっても、今後何が起こるかわかりません。万が一の時に相続人同士の無用な争いを防ぐためにも、

  • 「遺言能力を有していること」がわかる証拠を揃える
  • 公正証書遺言を公証役場で作成する

まずはこの2点を実践してみましょう。

5-2.あらかじめ専門家に相談しておく

遺言や相続の問題は非常に複雑です。身内だけで話し合っても、感情が先に立ってしまって具体的な話ができなくなってしまうこともしばしばです。その場合、身内の中だけで解決しようとせず、第三者(弁護士などの専門家)の手を借りることで、客観的な視点から解決の道筋をみつけることができるはずです。

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