電車に飛び込み自殺した場合、遺族の損害賠償義務はどうなるか?

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家族が自殺してしまった場合、遺族はとても大きな心痛に見舞われます。
このとき、自殺した家族が、他人に迷惑をかける方法で自殺してしまったら、遺族はその損害賠償債務まで相続してしまう可能性があります
たとえば、電車の中に飛び込み自殺をしたら、電鉄会社から多額の賠償請求をされる可能性がある、ということは一般的にも比較的よく知られています。

このように、家族が自殺した場合に、その損害賠償まで背負わされてしまったら、遺族には過大な負担になりますので、適切な対処方法を知っておく必要があります。
そこで今回は、家族が自殺で他人に損害を与えた場合の相続にまつわる問題を解説します。

1.家族が自殺で他人に損害を与えるケースとは?

家族や親しい人、介護していた人などが自殺してしまうことがあります。このような場合、突然の近しい人の死に大変なショックを受けるものです。また、近しい人を助けてあげられなかったという気持ちになって自分を責めてしまうので、さらに辛い気持ちになります。
さらにこの場合、自殺の方法によっては家族や近くの人が賠償責任を問われる可能性があります。

ただ、「家族や親しい人が自殺して人に迷惑をかける」、などと抽象的に言われても、なかなかイメージできないことが多いかもしれません。
そこでまずは、家族や近しい人などが自殺によって他人に迷惑をかけるケースにはどのようなものがあるのか、それらの場合にどのような損害賠償請求をされる可能性があるのか、具体例を挙げて見てみましょう。

1-1.電車への飛び込み自殺

自殺によって人に迷惑をかけると言われたときに、一番思いつきやすいのは電車への飛び込み自殺かもしれません。この場合、鉄道会社や乗客から損害賠償請求を受けるおそれがあります。
電車に飛び込み自殺をすると、電車が緊急停止されます。すると、電鉄会社はバスやタクシーなどで振替輸送を行ったり乗客への切符や特急料金などの払い戻しなどをしたりしなければいけません。
余計な人件費もかさみますし、車体や線路が傷んだらその修理費用なども必要です。
これらの損害賠償金額を合計すると、数千万円以上になることも珍しくありません。

また、乗客も、電車の遅延によって損害を受ける可能性があり、緊急停止によって怪我をした場合には、その治療費や休業損害、慰謝料も発生します。
後遺障害が残ったら、後遺障害慰謝料などが発生するのでさらに賠償金額が高額になります。

以上のように、電車へ飛び込み自殺をしたら、自殺者は多額の損害賠償義務を負うことになるのです。しかし、本人が死亡しているので、相続人や周囲の人が負担する事になる可能性があります。

1-2.自爆による自殺

自爆次に、自爆による自殺のケースを見てみましょう。自爆というと非常にものものしい感じですが、近年では、このような形で自殺をして他人に危害を加える事件が発生していますので、無縁とは言い切れません。
この場合、爆発によって周囲の人が多数死傷する可能性が高いです。そうなってくると、死傷者の治療費や葬儀費、慰謝料や逸失利益などが発生して莫大な損害賠償が必要になります。後遺障害が残ったら後遺障害慰謝料やその分の逸失利益も支払う必要があります。
爆発によって公共物や私物が毀損された場合、それらの修理費用なども必要になります。
これらの賠償金を合計すると、数億円になってしまう可能性すらあります。

そして、賠償義務を負うべき本人は死亡してしまっているのですから、やはり遺族や近しい人などが賠償義務を負う可能性があるのです。
家族が自爆によって自殺しただけでも家族は周囲に責められて大変な思いをしますが、それに加えて数億円の賠償請求をされてしまったら、どのようにすればよいのかわからなくなってしまうでしょう。

1-3.殺意があるかないかで賠償義務が変わる?

電車への飛び込み自殺のケースと自爆による自殺を比較した場合、何となく自爆による自殺の方が責任が重くなりそうな気がします。電車への飛び込みは通常自分だけが死ぬつもりでいますが、自爆では他人も巻き込んで殺そうという殺意があるように思われます。死傷者の数にもよりますが、死亡者がたくさん出たケースなどでは、確かに自爆した場合の方が実際に賠償金の金額が高くなる可能性が高いです。

ただ、これは自爆のケースの方が電車への飛び込みのケースよりも「悪いから」ということではありません。
そもそも電車への飛び込み自殺であっても、多数の人や電鉄会社に迷惑をかけることがわかっているわけで、それによって発生する賠償義務について、自殺者は認識しているので「故意」があります。もちろん自爆の場合も同じです。
ただ、自爆の場合には、「積極的に殺してやろうという殺意」まであると認定できることが通常です。そこで、殺意のある自爆の方が、賠償責任が重くなるのではないかと思われるのです。

ただ、実際には、少なくとも相続の場面でそのような自殺者の殺意によって賠償金額が大幅に上がることは考える必要がありません。このような殺意や殺人行為については、本人への殺人罪適用によって裁くべきものであり、遺族に対する賠償金を高くすることで解決するものではないからです。遺族は、自殺者本人が負うはずだった賠償義務をそのまま相続するだけなのであり、自殺者に「殺意」があったことによってその分賠償金額が上がるということにはなりません。

ただ、自爆による自殺が行われたら実際の被害が大きくなる可能性が高いので、その分賠償金額が高くなる可能性があることは確かです。これに対し、たとえ本人に殺意があっても、爆発の規模が小さく、本人が死亡しただけでほとんど周囲の人に被害が及ばなかった場合などには、賠償金はほとんど発生しない可能性もあります。
つまり、賠償金の金額の多寡については、自殺者本人が何を考えていたかと言うことよりも、どちらかというと実際にどのような被害が起こったかと言うことの方が重要な要素となります。

2.損害賠償債務は相続の対象になる

家族が自殺をして他人に損害を与えてしまった場合、その損害賠償義務は相続の対象になるのでしょうか?
借金などの債務も相続の対象になりますが、損害賠償債務は、本人の一身専属的なものだとして相続の対象にならないのではないかとも思えます。
しかし、損害賠償債務は、基本的に相続の対象になりますので、本人が自殺によって他人に損害を与えた場合、その債務は相続人に相続されてしまいます。自殺して他人に損害を与えた瞬間に損害賠償債務が発生しているので、本人が死亡することによってその債務が相続されてしまうという考え方です。

たとえば、本人が電車に飛び込んで電鉄会社に数千万円もの損害を与えた場合や、自爆によって周囲の人を巻き込み総額で数億円もの損害を与えた場合、基本的にこれらの債務が相続人に相続されてしまうので、放っておくと大変なことになります。

3.相続したくない場合には相続放棄する

×家族などが自殺によって他人に損害を与え、損害賠償義務が相続されてしまう場合、遺族がその債務を相続しないためにはどのような方法をとることができるのかが問題です。
この場合、相続放棄をすれば、損害賠償債務の承継をせずに済みます。相続放棄とは、遺産相続を一切せずにすべて放棄してしまうことです。相続放棄をするとその人ははじめから相続人ではなかったことになるので、被相続人の損害賠償債務も相続せずに済みます。

相続放棄は、単独でもすることができるので、他の相続人が単純承認して相続をする場合であっても、自分一人で相続放棄することができます。
ただし、相続放棄をすると、プラスの資産も受け取れなくなることに注意が必要です。たとえば、被相続人に自宅不動産などのプラスの資産があった場合、相続するとその家を相続することもできません。この場合、自分がその家に住んでいたら、家を出て行かないといけないことになる可能性が高いです。

相続放棄をする場合、単に「相続放棄します」などと言ったり私的な書類を作成したりするだけでは効果はありません。家庭裁判所で「相続放棄の申述」という手続きをする必要があります。
相続放棄の申述をする家庭裁判所は、被相続人の最終の住所地を管轄する家庭裁判所です。
相続放棄の申述書や各種の戸籍謄本など、必要書類を集めて早めに手続きをしましょう。

4.相続放棄の期限

4-1.3ヶ月に熟慮期間

相続放棄する場合には、期限があることに注意が必要です。法律では「自分のために相続があったことを知ってから3ヶ月」以内に相続放棄をしなければならないとされています。
この3ヶ月間のことを、「熟慮期間」と言いますが、熟慮期間の計算のため、「自分のために相続があったとき」とはいつの時点かが問題になります。

ここで、自分のために相続があったときというのは、基本的には被相続人の死亡を知ったときです。ただ、被相続人に債務があることを知らない限り、通常は相続放棄しようという動機が起こりません。そこで、相続放棄の熟慮期間は、被相続人の死亡及び被相続人に債務があったことを知ったときのことを言うと考えられています。
そこで、本人が自殺した場合、本人が自殺したことと、損害賠償債務を負っていることを知ったときから相続放棄の熟慮期間3ヶ月が計算されることになります。

4-2.損害賠償の内容が確定していなくても3ヶ月?

本人が自殺したことによる損害賠償義務を相続したくない場合、本人が自殺したことは比較的すぐにわかります。しかし、実際に発生した損害の内容や金額が確定するのは、死亡後かなりの期間が経過してからになることが普通です。そのようなケースでは、相続放棄の熟慮期間は、損害の内容が確定してから計算することになるのでしょうか?それとも、本人が死亡して他人に迷惑をかけたことがわかった段階から計算されるのでしょうか?

この点、損害賠償義務は、本人の死亡と共に発生しており、内容や金額が確定していない抽象的な状態であっても相続の対象になります。そして、損害賠償義務が抽象的な状態であっても、通常相続人の立場からすると、どの程度の損害が発生しているのかはわかりますから、相続放棄の熟慮期間が開始するとしても特に不利益はないはずです。
そこで、相続放棄の熟慮期間は、基本的には被相続人が他人に迷惑をかけたことを抽象的に知ったときから計算が開始されるのであり、そのために損害賠償金額などが確定する必要はありません。
多くの場合、被相続人の死亡と自殺原因(電車への飛び込み自殺など)を知った時点で、抽象的には他人に迷惑をかけた事実を認識できるので、その時点から3ヶ月に熟慮期間が計算されると考えられます。

そこで、家族が自殺した場合などには、たとえ賠償金の金額や内容が確定しなくても、本人の死亡を知った時点から3ヶ月間しか相続放棄の申述ができないので、損害賠償義務を免れたい場合には、早めに手続きをする必要があります。

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5.介護者に賠償義務が発生することはある?

介護ある人が自殺して他人に損害を与えた場合、本人の家族(相続人)以外の人に損害賠償義務が発生することはあるのでしょうか?
たとえば、認知症の人などを介護していた介護者に責任が発生することがあるのかなどが問題になります。

この点、本人が責任無能力の状態である場合、その監督者に損害賠償責任が発生する可能性があります(民法714条)。よって、自殺した本人が成年被後見人である場合などには、後見人となっているものの監督責任が問われる可能性があります。
また、本人が責任無能力ではなくても、本人の行為が監督者の行為と同視できるようなケースでは、監督者に責任が発生する可能性もあります。

以上のように、基本的には、単に本人を介護していた介護人が、自殺した本人の損害賠償義務を負うことは通常のケースでは考える必要がありませんが、介護者が本人の後見人になっていたり、本人の行為を介護者の行為と同視できるくらいに本人と介護人との間に密接な関係があったりする場合には、介護者に損害賠償義務が発生してしまう可能性もないとは言えません。
どちらにしても、人を介護している場合には、その人が自殺をして他人に迷惑をかけることなど内容に、充分注意しておく必要があります。

6.相続放棄しなかった(できない)場合の対処方法

家族などが自殺をして他人に損害を与えて自分がそれを相続してしまった場合でも、いろいろな事後処理に追われたり、手続きに迷ったりしている間に相続放棄の熟慮期間を過ぎてしまうことがあります。
また、本人を監督していたので自分自身に損害賠償義務が発生してしまったりした場合には、そもそも相続債務ではないので相続放棄することができません

このように、相続放棄をしなかったりできなかったりする場合、どのように対処すれば良いのかが問題となります。
この場合、損害賠償債務は自分のものとなっているので、自己破産によって債務を免除してもらう必要があります。
損害賠償債務も自己破産の対象になるので、免責が認められたら支払い義務を0にしてもらうことができます。

このとき、「悪意で加えた損害賠償債務」は免責の対象にならないと定められていますが、監督者の損害賠償責任などの場合、「悪意で加えた」とは言えません。
本人が電車に飛び込んで自殺した場合でも、必ずしも免責が認められなくなるというものでもありません。
そこで、これらのケースでは、監督者や相続人は、自己破産をすることで損害賠償義務を免れることができます。

これに対し、本人が自爆して自殺したケースでは、その損害賠償義務は「悪意で加えた損害賠償債務」として免責が認められなくなる可能性があります。そこで、このような場合には、何としても3ヶ月の熟慮期間に相続放棄をしておく必要があるでしょう。

以上のように、家族が自殺をして他人に損害を与えた場合、基本的に本人の死亡を知ってから3ヶ月以内に相続放棄の申述をすることが基本的な対応方法になるので、この記事をお読み頂いたことをきっかけとして、しっかり理解しておきましょう。

まとめ

今回は、家族や被介護者などが自殺によって他人に損害を与えた場合、相続人や介護者監督人が損害賠償義務を負うのかという問題を取り上げました。たとえば、電車に飛び込んだり自爆したりして他人に迷惑をかけるケースが考えられます。

この点、損害賠償義務も相続の対象になるので、本人が自殺によって他人に損害を発生させた場合、その損害賠償債務は相続の対象になります。損害賠償債務を免れるためには、相続放棄をする必要があります。損害賠償義務の具体的な内容が確定していなくても抽象的に損害賠償義務が発生していることを認識していたら、基本的に相続放棄の熟慮期間が経過してしまうので、注意が必要です。

介護者であっても、本人が責任無能力であったり介護者と本人の行為を同視出来る程度に密接な関係であったりする場合には、介護者に責任が発生する可能性があります。
このような場合はかなり例外的なケースですが、もしそのような状況になったら債務を免れるために、自己破産をしなければなりません。

家族や近しい人が自殺をして他人に損害を与えた場合、賠償金の支払いができないと思うなら、早めに相続放棄の申述をすることが大切です。わからないことがあったら相続に詳しい弁護士にご相談ください。

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