電車に飛び込み自殺した場合、遺族の損害賠償義務はどうなるか?

駅 電車

家族が自殺してしまった場合、遺族はとても大きな心痛に見舞われます。
実は、自殺した家族が、他人に迷惑をかける方法で自殺してしまったら、遺族はその損害賠償債務まで相続してしまう可能性があります
たとえば、電車への飛び込み自殺や人身事故で、鉄道会社から多額の賠償請求をされる可能性がある、ということは皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか。

このように、家族が自殺や人身事故で亡くなった場合に損害賠償まで背負わされてしまったら、過大な負担になりますので、適切な対処方法を知っておく必要があります。
この記事では、人身事故や飛び込み自殺で他人に損害を与えた場合の損害賠償責任と、相続にまつわる問題を解説します。

1.自殺や人身事故で他人に損害を与えるケース

電車への飛び込み自殺は、鉄道会社や人命に与える影響が大きくなります。場合によっては、多額の損害賠償の責任が発生します。本人が死亡していれば、相続した家族が損害賠償責任を負うことになります。

1-1.鉄道人身事故の現状

鉄道の人身事故の件数は、2010年から、少しずつですが、減少傾向にあり、2021年では964件となっています。一方、死亡事故の件数は、全体を通してみると、横ばいであり、2021年では538件となっていて、毎年、多くの事故が発生していることがわかります。

電車 人身事故

1-2.電車への飛び込み自殺

電車への飛び込み自殺は、故意または過失による人身事故に相当します。これは、民法に記載されている、「不法行為」に該当します。不法行為とは、故意または過失によって、他人の権利を侵害する行為のことで、これにより、他人に損害を生じさせた場合には、賠償する責任が発生します。

よって、鉄道会社から損害賠償請求を受けるおそれがあります。
また、飛び込みによって乗客が死傷した場合には、乗客側からも賠償金を請求される可能性もあります。

請求の内訳としては、例えば電車の遅延による乗客への払い戻し、振替輸送代、線路や車両の修理費用、清掃等で対処に必要な人件費などです。
これらの損害賠償請求額を合計すると、実際には数百万から数千万円前半が多いようです。ラッシュ時か人の少ない昼間かでも変わります。
億単位で請求されるという噂もありますが、事例としては非常に稀で、基本的に億を超えるほどの高額になることは多くありません。

以上のように、電車へ飛び込み自殺をしたら多額の損害賠償義務を負うことになるのです。
しかし、本人は亡くなっているため、相続人が負担することになります。詳しくは後述します。

1-3.人身事故

鉄道会社が損害を被るのは、飛び込み自殺だけではありません。踏切への無理な侵入、泥酔による線路への転落、乗客同士でのケンカや暴力などもあります。

人身事故についても、飛び込み自殺と同様の考え方ができます。
自殺のように意図的ではなく、踏切りなどで不幸にも事故にあって亡くなった場合などでも損害賠償請求はあり得ます。

ただ、鉄道会社も社会的なイメージに影響しますので、実際には全ての自殺、人身事故について請求しているわけではありません。示談が成立することが多いため、訴訟にまで発展することも少ないです。

2.損害賠償債務は相続の対象になる

自殺や人身事故で家族が亡くなった場合、損害賠償債務は本来はその亡くなった人が負うものです。
しかし、本人は亡くなっていますので、相続人に損害賠償債務が相続されることになります。

そのまま相続してしまうと、莫大な額の債務を負うことになってしまいます。

3.相続したくない場合には相続放棄する

3-1.相続放棄とは

このように家族の損害賠償債務が高額で、遺産の中からも支払が難しい場合には、相続放棄を検討しましょう。
相続放棄とは、資産も債務も全て相続しないことです。預貯金や家などを相続しないかわりに、損害賠償債務も相続せずに済みます。

相続放棄は自分一人ですることができます。他の相続人がどうするかは、自分の相続放棄とは関係ありません。
相続放棄するには、家庭裁判所での手続が必要です。
詳しくはこちらの記事をお読みください。

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3-2.相続放棄の期限|3ヶ月の熟慮期間

相続放棄には期限があります。この期限を過ぎると原則として相続放棄できなくなってしまいますので、忘れないようにしましょう。
この3ヶ月間のことを「熟慮期間」と言います。

なお、損害賠償義務は、すべての相続人が、それぞれの法定相続分の割合で負っています。自分が相続放棄すると、その分、他の相続人の賠償額が増えることになります。円満解決のためには、他の相続人に、自分が相続放棄したことを伝えたほうが良いでしょう。

4.介護者に賠償義務が発生することもある

4-1.介護者の賠償責任

実は、相続人以外で、認知症の人などを介護していた介護者に責任が発生する可能性もあります。
認知症などで本人が責任を取れない「責任無能力者」の場合は、その監督義務者が損害賠償責任を負うことがあります(民法714条1項)。

介護者が賠償請求をされた場合、相続人ではないため、相続放棄で支払わないという手段は取れません。

この場合、どうしても支払えない場合には自己破産の検討もあり得ます。
ただし、とても難しい判断になりますので、自分一人で解決しようとせず、弁護士に相談しましょう。

4-2.JR東海認知症事件(最高裁平成28年3月1日判決)

ここで、JR東海と認知症の男性との事件について、紹介します。

2007年12月7日、認知症の男性(当時91歳)が、同居していた妻(当時85歳)が、居眠りをした隙に家から出て、フェンスの扉を開けて線路に入ってしまい、JR東海の列車が男性に衝突して、男性は死亡しました。

横浜に住んでいた長男が、介護方針を決めていたことから、JR東海は、妻と子の両者に監督義務があったとして、振り替え輸送費など、720万円を請求し、第一審では全額の支払いを命じました。

しかし、2016年3月1日、最高裁は、2人には損害賠償義務はないという判決を下しました。妻は高齢で要介護1の認定を受けていたことから、監督が可能であったとはいえないとし、また、長男も遠方で20年以上別居しており、監督が可能であったとはいえないとしました。

このケースでは、結局、2人とも損害賠償義務はなくなりました。ただ、介護する人の賠償責任は生活状況や介護状況などを総合的に考慮して決めるべき、ということも述べられているため、状況によっては介護者も責任を負うことがある、ということです。

2025年には、高齢者の5人に1人が、認知症になると言われています。人ごとではありません。

5.家族が飛び込み自殺をしてしまったら、どうすればいい?

もし、身内のご家族が、電車への飛び込み自殺をしてしまったら、どうすれば良いのでしょうか?

まず、損害賠償請求があるかどうか確認しましょう。鉄道会社や弁護士から連絡が入ることが多いです。内容証明郵便等で届く場合もあります。

もし、損害賠償請求をされた場合は、賠償金額の確認をします。そして、相続財産で支払えるかどうか確認します。

支払い可能な場合は、基本的に全額、現金で払うことになりますので、現金を用意します。亡くなった人の口座は凍結されますので、遺産分割協議を進めることになります。
もし、支払い不可能な場合は、相続放棄を検討します。相続放棄の期限は、死亡から3ヶ月以内ですので、充分にご注意ください。

弁護士にご相談を

対処方法をいろいろと述べましたが、実際のところ、ご家族の突然の死で、悲しみが癒えず、遺品の整理や、通常の相続手続きも必要な中で、損害賠償請求に対応するのは、非常に辛いでしょう。

相続財産に不動産が含まれる場合は、いくらで売れるのか、売却金額の評価も必要ですし、賠償金を支払う場合は、売却の手続きも必要になります。

これらの手続きを、冷静な判断で行うことは、かなり大変ですので、弁護士に相談したほうが良いかもしれません。弁護士は、遺族の代わりとなって、それぞれの手続きや対応をしてくれるからです。

まとめ

これまで見てきたように、家族が飛び込み自殺や人身事故で亡くなった場合、鉄道会社等から損害賠償請求を受ける可能性があります。
そして、その賠償金は実際には相続人が払うことになります。
損害賠償金が高額で、支払いが難しい場合には相続放棄を検討し、遺産の中から支払える場合には支払ったほうが良い場合が多いです。

ただし、介護者で相続放棄できないような場合や、それぞれの家族ごとの事情やその他の借金等で難しい判断になりますので、一度弁護士にご相談されることをおすすめします。

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