遺言書作成後に離婚すると、遺言の効力はどうなる?遺産の扱いは?

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たとえば、「私Aは、配偶者Bに遺産を相続させる」と遺言書に書いた後。
もし、AとBが離婚をしてしまったら、遺言の効力はどうなるのでしょう?

離婚で「配偶者」ではなくなった以上、この遺言は無効になるのでしょうか?
それとも、配偶者でなくなっても、「B」という人間である以上は、遺言は有効なものとして、Bは遺産を承継できるのでしょうか?

本記事では、このような、【配偶者に遺産を承継させる遺言をした後に離婚したケース】での遺言の効力について解説します。

1.遺言書を書いた後に離婚をしたら

たとえばこんなケース

預金600万円を所有しているAさんは、「妻Bに450万円を相続させ、一人息子Cに150万円を相続させる。」という旨の遺言書を作成しました。
ところが、その後、AB夫妻は離婚してしまいました。そしてAさんは、その遺言書を破棄しないまま他界し、相続が発生したのです。

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この場合、離婚前に作った遺言書の通りに、前妻Bは450万円を相続できるのでしょうか。

 

2.まずは遺言書が撤回されているかどうか

まず、そもそも遺言書はすでに撤回されていて無効になっている可能性もあるため、遺言書が撤回されるパターンを確認しておきましょう。

被相続人はいったん遺言をした後であっても、いつでも自由に遺言の一部または全部を撤回することができます(1022条)。

ただし、遺言者の死後になって「遺言は撤回すると言っていた」「言っていない」と揉めるのを防ぐため、口頭での撤回はできません。
どんなときに遺言を撤回したとみなせるか、主な3パターン
をご紹介します。

パターン① 新しい遺言が作成されている

遺言者が新しい遺言書を作成しており、内容が前の遺言と抵触している場合、古い遺言は撤回されたとみなされます(民法1023条)。
抵触するとは、矛盾しているということです。

たとえば冒頭の例で、遺言者Aが1つ目の遺言を作成してから妻Bと離婚し、その後に「息子Cに遺産を全て相続させる」という遺言書を新たに作っていたとします。

2つの遺言書の内容が完全に抵触していますが、この場合は、日付が最新の遺言書が優先します(息子Cが全額相続します)。
たとえ最初の遺言書が破棄されずに、綺麗な形で保管されていたとしてもこの結論は変わりません。

パターン② 撤回と同視できる生前行為がある

また、新しい遺言書は作成していなくても、遺言の内容に抵触する内容の行為を行った場合も、その抵触する限りにおいて、前の遺言は撤回されたものとみなされます(1023条2項)。

例えば、冒頭の例では、遺言者Aが遺言を作成後、息子Cに遺産600万円を生前贈与していたような場合です。
息子に生前贈与した時点ではじめの遺言書は実現不可能になりますし、それを遺言者本人ももちろんわかっていたはずです。
ですから、生前贈与という行為自体が、先の遺言書を撤回したと解釈されます。

パターン③ 遺言書が破棄されている

最後に、遺言者が遺言書を破棄していた場合です。
自筆証書遺言であれば、遺言者自身がそれを故意にかつ物理的に破棄(ビリビリに破くなど)すれば、撤回したものとみなされます(1024条)。
ただし、公正証書遺言では原本が公証役場に保管されているので、遺言者の手元にある謄本(写し)を破棄しても撤回とは認められません。

今回は簡潔に説明しましたが、遺言書の撤回については、以下の記事で詳細に解説しています。

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まとめると、遺言書をのこした後に、遺言者が以下の行為を行っていれば、もとの遺言書は無効になります。

  • ①前の遺言書と抵触する内容の遺言書を新たに作成する
  • ②遺言書と抵触する内容の生前行為を行う
  • ③自筆証書遺言であれば遺言書を破棄する

3.遺言を撤回せずに死亡した場合の遺言の効力

では、Aさんがただ離婚しただけで、①~③の行為をしないまま死亡してしまった場合、遺言の効力はどうなるのでしょうか。

離婚=遺言と抵触する生前行為といえるか?

問題は、離婚という行為が、②「遺言と抵触する生前処分その他の法律行為」といえるかどうかです。

ここでの「法律行為」とは、「法的な効果が認められる行為」といった程度の意味に理解しておけば大丈夫です。
物の売り買いといった取引行為はもちろんのこと、同居義務という法的効力が発生する婚姻をはじめ、離婚、養子縁組なども法律行為に含まれます(身分行為といいます)。

ちなみに、養子縁組については遺言内容と抵触する行為であるとして、遺言を撤回したとみなされた実際の事例があります。

最高裁昭和56年11月13日判決
老後の面倒を見てもらうために養子縁組を行い、さらに不動産を養子に遺贈する旨の公正証書遺言を作成したものの、不仲となって協議離縁した後、新たな遺言を作成しないまま死亡したという事案で、遺言は協議離縁という身分行為と抵触する内容であって、撤回されたものと判断されました。

離婚についても、多くの場合は遺言内容と抵触する行為とみなされて、遺言は撤回されたという結論になるでしょう。
ただし、ケースバイケースであり、常に抵触すると決まっているわけではありません

4.離婚前の遺言をどう解釈するかで変わる

実際に離婚前の遺言がどう扱われるかについては、遺言内容の解釈によります。

Aさんが「妻Bに相続させる」とした遺言の趣旨には、次の2つの可能性があります。

  • 「死亡時の妻であるB」に450万円をあげたい
  • 死亡時に妻であろうとなかろうと「Bという人間」に450万円をあげたい

どちらなのかAさん本人に訊くことができれば一番ですが、もう亡くなっていますので、それは不可能です。
そこで、遺言した当時のAさんの真意を探るしかありません。
これを「意思表示の解釈」と呼びます。

Aさんの真意を探るには、遺言書の形式的な文面だけを見るのではなく、Aさんを取り巻く様々な事情を総合的に考慮して判断します。

最高裁昭和58年3月18日判決
「遺言の解釈にあたつては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり(中略)その文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべき」

最高裁平成5年1月19日判決
「遺言の解釈に当たっては、遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべき(中略)遺言書の文言を前提にしながらも、遺言者が遺言書作成に至った経緯及びその置かれた状況等を考慮することも許される」

決して難しいことを言っているのではありません。
このような「意思表示の解釈」は、法律の世界だけでなく私たちが日常的に行っていることです。

例えば「あれをとってくれる?」という言葉の「あれ」とは何を指しているのか、言葉の文面だけではわかりません。
私たちは、その場の状況、これまでの会話の文脈、発言した人の置かれた立場、相手との関係などの諸事情を総合して、瞬時にその意味を判断しているのです(判断できないこともあります)。

そこで、解釈をしてみましょう。

離婚したら遺言書は撤回されたと考えるのが一般的

夫が妻のために遺言で相続の内容を定めておくのは、死亡時点まで夫婦関係が続くと想定している場合が通常でしょう。
ですから、遺言は「死亡時点の妻であるB」に相続させ、死亡時点で仮に離婚していたならば相続させない趣旨と解釈するのが自然です。

そうなると、この遺言と遺言後の離婚は抵触することになり、前妻Bに450万円を相続させるという部分は撤回されたものとみなされます。

なお、前妻Bは、Aの死亡時に配偶者ではなくなっていますので、法定相続人から外れ、遺言がない限り権利を承継することはできません

離婚しても遺言書が有効になる例外と注意点

一般的には上の通りですが、たとえば若くしてBと結婚したAが、夫婦二人で力を合わせて長年にわたり家業の八百屋を経営して財産を築いたという場合を考えてみましょう。
AとしてはBの貢献に感謝し、報いる趣旨で、仮に将来的に離婚したとしても「Bという人間」に遺産を相続させたいと考えていた可能性もあります。

そこで、この真意に従い、遺言を「死亡時に妻であろうとなかろうと、Bという人間に450万円をあげる」と解釈すれば、遺言後の離婚と抵触することはなく、遺言は撤回したとはみなされません。

遺言書の文言だけでなく、被相続人を取り巻く様々な事情を総合的に考慮して解釈する必要があるのはこのためです。

ただ、ここで重大な問題が生じます

相続=遺贈と読み替える必要がある

Bは離婚した以上、Aの法定相続人ではないので、そもそも「相続させる」ことはできないという点です。
この結果を回避するには、「450万円を相続させる」という記述は、相続ではなく、遺言書による贈与、すなわち「遺贈」であると解釈することが必要です。

しかし、最高裁判例(最高裁平成3年4月19日判決)でも「遺言書の記載から、その旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない」と述べられており、一般的には「相続させる」という記載を遺贈と解釈することは困難です。

したがって、遺言を作成される方からすれば、もしも離婚の可能性が頭をよぎり、それでも遺産をBに与えたければ、明確に「離婚の有無にかかわらず、Bに450万円を遺贈する」と記載するべきでしょう。

遺留分侵害請求のおそれもある

さらに、遺贈であるとうまく理解できたとしても、離婚してBの法定相続分がなくなっている以上、他の共同相続人の遺留分を侵害する結果となって、遺留分侵害額の支払いを請求される可能性は高くなります。

たとえば、繰り返しになりますが、冒頭の例と同じで、Aさんの遺産総額が600万円で「妻Bに450万円、息子Cに150万円を相続させる」と遺言書に書かれていた場合です。

AとBが離婚していなければ長男Cの遺留分は4分の1(150万円)で、遺留分侵害は生じません。
一方、Bが離婚していれば、長男Cには2分の1(300万円)の遺留分があります。
Bへの450万円の遺贈が有効となれば、BはCから150万円の遺留分侵害額の支払いを請求される可能性があるわけです。

もっとも、相続人の遺留分を侵害する遺言は禁止されていませんし、遺留分侵害額請求を行うかどうかは遺留分権利者次第ですから、遺言の際に遺留分を残さなくてはならないわけではありません。
ご自分の財産ですから、思い通りに配分することができます。

ただ、できるだけ相続人らに争いの余地を残したくないとお考えであれば、各相続人の遺留分に配慮した遺言内容を検討するべきでしょう。

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5.まとめ

ご説明してきたとおり、被相続人が配偶者に相続させる旨の遺言書をのこした後に離婚した場合、本人は「配偶者であるその人」に相続させたかったのか、あるいは続柄に関係なく「その人」自身に相続させたかったのか、事案に応じて解釈します

その際、遺言書がすでに破棄されているとか、あるいは最新の遺言書が用意されているとか、そもそも前の遺言が撤回されたと同視できる事柄があれば、解釈の余地もなく無効になります。

これから遺言を書かれる方にアドバイスするとすれば、もしも離婚後の配偶者には相続させたくないという場合、確実な方法は古い自筆証書遺言を破棄してしまうことです。公正証書遺言の場合は、新しい内容の遺言を残す必要があります。
逆に、離婚して後も遺産を渡したい場合、明確にその旨を記載しましょう。

確実に自分の望む相続を実現するためには、後世の解釈に委ねるのではなく、自分で準備をしておくべきです。

万全を期すためには、法律の専門家である弁護士に相談されることをお勧めします

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「丁寧に、親切に」を信条とした対応で、「やさしい先生で安心した」というお言葉もいただいています。

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