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遺言者が妻に財産を全て相続させる遺言を作成した後に離婚をした場合、遺言書の扱いはどうなると思いますか?
一見すると遺言が実現できないので、遺言は撤回されたようにも思えます。しかし、遺贈と読み替えることができれば、遺言内容を実現できるので、遺言は撤回されていないとも思えます。
このような場合に遺言はどのようになるのでしょうか。以下で解説します。
目次
遺言は、遺言者が死亡すると遺言内容を実現する効力を生じます(民法985条1項)。
例えば以下の内容があったとします。
【遺言】
遺言書 第1条 遺言者は、遺言者の有する次の財産を遺言者の妻●●●●(生年月日)に相続させる。 ○○銀行(○○支店)の定期預金全部 |
この場合、遺言者が死亡すると上記定期預金(定期預金債権)の全部が当然に妻に移転することになります。
上記遺言ではいわゆる「相続させる」遺言がなされていますが、その遺言の法的性格は、遺産分割の方法と考えられており、当該遺言なされた場合には、遺産分割を経ずして当然に遺言内容が実現されることになります。
上記遺言の例でいえば、遺産分割手続を経ずして、妻に上記定期預金債権が移転することになります。
遺言は遺言者の最終意思を実現することを目的としていますので、遺言者は、遺言をいつでも撤回できます(民法1022条)。
撤回がなされると、その遺言は効力を生じません。撤回の方式には特段の規定はないのですが、死後のトラブルを回避するために、遺言者が遺言書を処分したり、書面で撤回の意思表示を行ったりします。
遺言は遺言者の最終意思を実現することを目的としていますので、遺言後、遺言の内容と抵触するような遺言又は生前の処分行為がなされた場合には、遺言をそのまま実現させることは、最終遺言及び当該処分行為がなされた時点の遺言者の最終意志を反映しているとは言いがたいことから、遺言は撤回されたものとして、効力を生じません(民法1023条2項)。
遺言者が遺言者の財産を妻に全て相続させる旨の遺言がなされたのち、妻と離婚をすると、遺言者の妻は相続人ではなくなりますので、妻に特定の財産を相続させることはできなくなります。その結果、遺言書の字句どおりに遺言の内容を実現することは不可能となります。
このような場合には、遺言者の離婚により遺言の内容が撤回されたというべきではないのかというのが、問題の所在です。
なお、実務上は、離婚後に元妻への遺言を破棄するか、遺言を撤回することを明言する条項を挿入した遺言を作成することが一般的です。このようなことがなされていないことが前提です。
遺言者が養子に対し相続させる旨の遺言をしたのちに、当該養子との養子縁組を協議離縁した事例において、遺言は、その後にされた協議離縁と抵触するものとして、撤回されたものとされました。
遺言者が妻に遺言者の財産を相続させる旨遺言をした後に、遺言者と妻が協議離婚をした事例において、「『相続取得させる』との本件遺言条項に遺贈の趣旨が含まれるとは認められない」とし、また、「仮に、同条項に遺贈の趣旨が含まれるとしても、同条項は、前記の離婚及びこれに伴う財産的給付と抵触したものとして、取り消されたものとみなすべきである」としました。
つまり、遺言は撤回されたものとされました。
上記判例等では、民法1023条2項の解釈が問題とされました。同条は、第1項において、前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなすと規定し、第2項において前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用すると規定しています。そして、まず第2項の「生前処分その他の法律行為」に離婚等の身分行為が含まれるかという点については、含まれることを前提に判断がなされています。
その上で、同条の「抵触」に該当するかについては、「後の行為が其の内容自体において前の遺言と明白に抵触する場合、換言すれば後の行為を実現せしむるときは前の遺言の執行力不能と為るが如き場合のみに止まらず、諸般の事情より観察して後の行為が前の遺言と之を両立せしめざる趣旨の下に為されたること明白なる場合をも包含するものと解することを相当とする」という大審院の判決を前提とする解釈を前提にしています。
そうすると、本件においても、妻に相続させる旨の遺言をした後に離婚を場合には、遺言の文面から読み取れる遺言者の意思としては「妻」に対し遺言内容の財産を取得させる遺産分割の指定を行ったものといえ、その後の離婚により「妻」ではなくなった者に対し財産を付与する趣旨ではないといえます。そうすると、遺言後の離婚は、遺言を両立することができない内容といえます。したがって、離婚は先の遺言に抵触するものといえ、民法1023条2項に基づき離婚により遺言が撤回されたものとみなされます。したがって、遺言の効力は生じません。
その他の法律構成をとるものとして、例えば、「相続させる」遺言は遺産分割の指定であるので、離婚により相続人で無くなった妻は、相続権自体を失ったと介する見解もありますが、このような考えは判例においては採用されていません。
また、本件のような遺言は、遺言の効力発生時において妻でなくなった場合に失効する条件である条件付き遺贈であるところ、遺言の効力発生時において離婚により「妻」でなくなったので、遺贈の効力は生じないとするとする見解もあります。しかしながら、「相続させる遺言」を「遺贈」と解釈することは最高裁判所の判例(最高裁判所平成3年4月19日判決)に抵触するものであり、採用されていません。
相続人間に無用な争いごとを引き起こさないためにも遺言書を作成後離婚した場合には、元妻への遺言を破棄するか、遺言を撤回することを明言する条項を挿入した遺言を作成しておきましょう。
具体的な事案の処理については、高度の法律判断が必要となりますので、法律の専門家である弁護士の助力を受けることを強くお勧めします。
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