相続法改正!遺産分割は何がどう変わる?より便利に、より公平に

40年ぶりに改正された相続法(民法)の大半が令和元年(2019年)7月1日に施行されました。
その中で、遺産分割についてのルールもいくつか大きく変わり、預貯金の払い戻しが認められるなど、従来より便利に、より公平になりました。

そこで、この記事では相続法改正で遺産分割について何が変わったのか、今後の遺産分割がどうなるかについてご説明していきます。

1.遺産分割の前でも、預貯金の払い戻しが可能

改正のポイント
①遺産分割の前でも、一定額まで被相続人の口座から預貯金の払い戻しが認められます。
②また、限度額を超えた払い戻しが必要なときのために、家庭裁判所に「仮の遺産分割」を認めてもらう制度も利用しやすくしました。

1-1.従来の制度の問題点

従来、預貯金は遺産分割の対象とされており、遺産分割前には、共同相続人全員の合意がない限り、払い戻すことはできないとされていました(最高裁平成28年12月19日決定)。

しかし、葬儀代や、被相続人が残した負債の支払い、生活費など、遺産分割終了まで待つ余裕がないケースも珍しくありません。
葬儀代に限って払い戻しに応じるなど柔軟な対応をする金融機関もある一方、遺産争いに巻き込まれ、二重払いの責任を負うリスクを避けるため、払い戻しを一切拒否する金融機関もあります。

実は、これに対処する方法として、裁判所に「仮の遺産分割」を申立て、預貯金を暫定的に分割してもらえる「家庭裁判所の保全処分」という制度が従来からありました(遺産分割調停・審判を申立ている場合に限る)。

ところが、この制度は、関係者の「急迫の危険を防止するため必要があるとき」という非常に厳しい条件があるため、ほとんど利用できませんでした。

1-2.相続法改正での変更点

そこで改正法では、①一定額までは裁判所の関与なく預貯金の払い戻しを認めるとともに、②家庭裁判所の保全処分の条件を緩和しました。

①一定額までは裁判所の関与なく預貯金の払い戻しを認める

各相続人は、一定額までに限り、単独で預貯金の払い戻しが認められます。払い戻された預貯金は、遺産の一部分割としてその相続人が取得したものとみなされます(民法909条の2)。

一定額とは、「預貯金額の3分の1(※1)」×「各人の法定相続分」です。ただし、一つの金融機関につき150万円が上限です(※2)。

※1:預貯金額は、各口座毎に判断します。
※2:民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令(平成30年法務省令第29号)

②家庭裁判所の保全処分の条件を緩和

相続人の生活費の支払いや借金の返済などの事情から、預貯金を払い戻す必要があると家庭裁判所が認めるときは、他の共同相続人の利益を害しない限り、特定の預貯金の全部又は一部を仮に取得できるようになりました(家事事件手続法200条3項)。
改正後も、遺産分割の調停・審判の申立がある場合に限ります。

この手続では、家庭裁判所が必要と認める限りは金額に制限がないので、150万円を超えるお金が必要なときにも利用できます。

ただし、これはあくまで「仮に」取得させるだけなので、払い戻した金額の最終的な取得者は、あらためて遺産分割調停や審判で決めることになります。

2.自宅を貰った配偶者を遺産分割で有利に保護

改正のポイント
結婚生活20年以上の夫婦間における自宅の贈与・遺贈は、特別受益にあたらないことが原則となりました。

2-1.従来の制度の問題点

長年連れ添った配偶者の生活保障ために、自宅の土地建物を生前贈与したり、遺言で遺贈することはよくあります。

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しかし、従来はそのような贈与や遺贈は「特別受益」として遺産の先渡しとして扱われ、配偶者が遺産分割で受け取ることができる遺産額が減らされるのが原則でした。
そのため、配偶者が自宅以外に受け取れる相続分が減って最終的な取り分が増えず、被相続人がせっかく自宅を贈与しても、配偶者の生活が保護されない場合がありました

2-2.相続法改正での変更点

そこで改正法では、結婚して20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与・遺贈は、原則として特別受益にならず、遺産分割の計算対象外としました(民法903条4項)。

また、配偶者の生活保障という点では、配偶者居住権も大きな改正ポイントです(2020年4月1日施行)。

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3.勝手に処分された遺産も分割の対象にできる

改正のポイント
遺産分割前に処分されてしまった遺産も、遺産分割の対象とすることができるようになりました。

従来の制度の問題点

例えば、共同相続人の一人が、被相続人が死亡した事実を銀行に隠して、その遺産である預金をこっそり払い戻してしまったケースがあります。

従来、このように遺産を共同相続人の一部が勝手に使い込んだりしてしまった場合の規定がありませんでした

実務上は、共同相続人全員の合意があれば遺産分割の対象とする扱いとしてきました。ただ、処分した相続人本人が反対すれば遺産分割の対象とできず、使った者勝ちになってしまいます。
このため、別途訴訟を起こして請求するしか方法がないとされていました。

しかし、訴訟を起こす方式では次のような不都合がありました。

  • 訴訟は大変な負担なので、遺産分割での解決が望ましい
  • 法定相続分の範囲内なら、こっそり使っても責任を問えない可能性がある
  • 訴訟を起こしても、結局勝手に使った相続人が得をしたままの場合がある

相続法改正での変更点

そこで改正法では、勝手に遺産を処分した者以外の共同相続人全員の同意があれば、処分された財産も遺産分割の対象になるものとしました(民法906条の2)。
処分される前の状態で遺産分割をし、処分した者の同意が不要となったことで、公平に遺産分割できるようになりました。

4.まとめ

令和元年(2019年)7月1日に施行された、遺産分割についての相続法改正をご説明してきました。

金融機関で一定額まで払い戻しを受けられるようになったことで、相続される方は葬儀代や生活費などで苦労せずに済みます。
また、配偶者への住宅の贈与等については、より被相続人の意向が反映されるようになり、被相続人が亡くなってから配偶者が生活に困るということも減るでしょう。
いわゆる遺産の使い込みについても、最終的に公平な結果となるよう改正されました。

簡単にご説明してきましたが、相続法改正は実際には大変細かく、適用の問題などが色々残されています。
そのため、ご自分の相続に改正法が関係すると思われる方は、是非一度弁護士にご相談されることをおすすめします。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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