相続法改正案:配偶者の居住権等について

★ お気に入りに追加
シニア 夫婦

平成30年1月16日に行われた法制審議会の発表によると、政府は第196回通常国会(会期平成30年1月22日~6月20日)において、相続に関する民法の規定の改正案を提出する予定です。 今回の改正案のポイントとしては以下の3つがあります。

  1. 配偶者の居住を保護するための改正
  2. 遺産分割についての改正
  3. 遺言制度についての改正

以下、改正案が成立した場合には何がどのように変わるのか?について具体的に解説させていただきますので、参考にしてみてくださいね。

関連記事
民法改正案:寄与分の変更について

1.配偶者の居住を保護するための改正

第一に、亡くなった人の配偶者であった人が、相続をきっかけに生活の基盤である居住地を失ってしまわないようにするための改正案が検討されています。 以下、これまでの民法のルールで生じていた問題点と、具体的な改正の内容について整理しておきましょう。

1-1.改正案の内容をごく簡単に説明すると?

今回の改正案の内容をごく簡単にまとめると、原則的な所有権の概念とは別個に「配偶者の居住権」という権利を新しく創設するとともに、この権利を登記することが可能となります。 相続の発生によって配偶者以外の相続人が持ち家の所有権を取得し、結果としてこの持ち家を第三者に売却した場合にも、当該居住権の期間が続く限りはその不動産に居住し続けることが可能となります

相続人が配偶者とその子のみの場合、配偶者には法定相続分として2分の1の財産相続が認められるところ、この2分の1の法定相続分の代わりに土地や建物の評価額よりも評価額が低い「居住権」を相続するとすることにより、預貯金などの持ち家以外の財産の相続分を実質的に増やすことができるというメリットも考えられます。

なお、「配偶者の居住権の創設」の内容は、大きく分けて「短期居住権」と「長期居住権」の2つに分けられますので、以下でそれぞれの具体的な内容について確認しておきましょう。

1-1-1.配偶者の居住権:短期居住権

短期居住権とは、「相続が開始した時(つまり被相続人がなくなった時)に、被相続人が所有していた不動産に無償で住んでいた配偶者は、遺産分割が実行されるまでの間はその不動産を無償で使用することができる権利」のことをいいます

短期居住権の存続期間については6か月間程度が妥当とする意見が提案されています。 現行民法395条に、抵当権が実行された際に当該不動産に居住等している者は、競売による買受が行われた時から6か月間が経過するまでは買受人に対して建物を引き渡すことを要しない旨の規定がありますが、本件短期居住権成立の状況については類似性が認められるので、参考にされているものと思われます。

1-1-2.配偶者の居住権:長期居住権

一定の条件のもとに、短期居住権よりもさらに配偶者の保護を強める方策として、長期居住権の新設が検討されています。

長期居住権は短期居住権のような短期間の居住権だけではなく、数十年~終身といった長期間にわたって被相続人の配偶者であった人の居住する権利を認めるものです

配偶者の長期居住権については、所有権を有する他の相続人とのトラブルとなる可能性が指摘されており、長期居住権の創設以外の解決方法として共有持分権の成立による解決が望ましいという意見もあります。 そのため、折衷的な意見として長期居住権の成立要件をやや厳格にすることが落としどころとなっています。 具体的には、長期居住権について以下の成立要件が検討されています。

  • 相続人となる人との間で行われる遺産分割協議において、長期居住権を元配偶者に取得させる協議が行われた場合又は、家庭裁判所による審判が行われた場合に長期居住権が成立する。
  • 審判によって長期居住権を成立させる場合は、元配偶者と所有者の間で係争がある際(元配偶者は権利を求め、所有者は反対しているような場合)には元配偶者の生活維持のために特に必要な場合にのみ審判が可能。
  • 被相続人が配偶者に対して長期居住権を取得させる意思のもとに遺贈を行った場合には、被相続人の死亡により長期居住権が成立する。
  • 死因贈与によって長期居住権を取得させる意思が認められる場合に、被相続人が死亡した場合に長期居住権が成立する。

1-1-3.配偶者居住権の具体的なメリット

上でも少し触れましたが、上記のような配偶者居住権の成立を認めることによって、遺産分割における配偶者の相続分をより多くする結果を得られることが指摘できます。

例えば、相続人が被相続人の配偶者と子の2人で、相続財産として現金3000万円、居住用不動産2000万円(配偶者が被相続人の生前同居)があるという場合には、配偶者と子がそれぞれ2分の1ずつ相続することになりますから、配偶者の相続分:2500万円 ・子の相続分:2500万円 となるのが原則です(遺言がない場合)。

この状況で、もし配偶者が居住用不動産の所有権を取得することを選択した場合には、配偶者の相続分2500万円のうち、2000万円を居住用不動産が占めることになりますから、相続できる現金は残りの500万円のみということになります。 これでは居住用不動産を取得出来るとはいっても配偶者の老後の生活に著しい不安が生じることが予測されます。 上記のような状況で、今回の改正により配偶者居住権という権利の成立が認められるとするとどうなるでしょうか。

例えば、配偶者居住権が居住用不動産よりも低い金額の価値が認められるとした場合、配偶者は住宅にそのまま住み続けることができるとともに、現金についての相続分を増やすことがができます。 結果として、住宅に住み続けるという配偶者側のニーズを満たしつつ、老後の生活費を確保するというニーズも満たす形を選択できることになります。

1-1-4.配偶者居住権の問題点は?

このような配偶者居住権については、問題点も指摘されています。

具体的にはまず、配偶者居住権の評価額の算定方法が明確ではありません。

また、配偶者が年齢的に若い場合には、若年者が一生住み続けることを考慮すると、配偶者居住権の評価額が、所有権と同程度に高額の算定をされる可能性があり、住宅以外の財産(現金等)を取得できる可能性が低くなってしまいます。

長期居住権が成立する場合で、もし居住権の取得期間が終身となったような場合には、その後のケガや老人ホーム入所を希望する場合に当該居住権を売却することができないということも考えられます。

1-2.改正に至るまでの経緯は?

これまでの民法では、亡くなった人が配偶者と持ち家に居住していたという場合に、相続トラブルの結果として配偶者の人がこの持ち家から立ち退かざるを得なくなるというケースが生じていました。

具体的には、配偶者以外の相続人と相続財産をめぐってトラブルとなってような状況において、当該持ち家についても相続財産としての分割を求められるような状況が考えられます。

例えば、相続人となるのが被相続人の配偶者と、別居している子供3人というような場合で、相続財産がこの持ち家だけであったようなときには、別居している子供3人はこの持ち家を売却したうえでその代金を法定相続分に基づいて分割するという訴えを起こすことが可能となっていたのです。

1-3.相続をきっかけに住居をなくす人が出ないようにするねらい

結果としてこれまで何十年も亡くなった人と一緒に居住していた配偶者が、他の相続にに対して住居を明けわたす必要が生じてしまい、相続をきっかけとして生活が著しく脅かされてしまう状況が生じてしまっていました

今回の民法改正では、このような状況の是正を目指し、「配偶者の居住権の創設」が検討されています。

2.遺産分割(配偶者の相続分)についての改正

遺産分割に際しての配偶者が相続する財産の割合(配偶者の相続分)についても改正が予定されています。 改正案には、具体的には以下の内容が盛り込まれます。

2-1.婚姻期間20年以上の配偶者に対する住宅贈与における特別受益免除の推定

婚姻期間が20年以上ある夫婦の場合、居住用の建物の贈与(または遺贈)があった場合には、現行民法903条3項に規定されている「持戻しの免除の意思表示」を推定する規定を設けます

ごく簡単に言うと、婚姻期間が20年以上の夫婦の場合、被相続人が住宅(居住用の土地や建物)などを生前に配偶者に贈与している場合には、その住宅は遺産分割の対象にはしないという規定を創設します。

2-1-1.現行民法改正の必要性は?

複数の相続人がいる場合で、配偶者に対して住宅などが生前贈与されている場合には、この贈与された住宅を相続財産に含めて遺産分割を協議しないと、他の相続人と配偶者の間に不公平が生じます。

しかし、配偶者としては贈与された住宅は生活の基盤そのものですから、これを他の相続人との分割とされてしまうと、相続をきっかけとして生活が脅かされてしまう可能性があります。

この点、現行の民法903条3項では「被相続人が前二項の規定(贈与したものの価額が配偶者の相続分の価額以上である場合には、配偶者は相続分を受けないとする意思のことです)と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する」という規定があります(いわゆる特別受益の持ち戻し免除)。

2-1-2.被相続人が特別受益の持ち戻し免除の意思表示をしていない場合

ですが、被相続人がこのような意思を生前に表明していない場合には、民法903条3項の規定を用いることができず、結果として配偶者は居住用財産を失ってしまう可能性があります。

このような状況を回避するため、上記のように婚姻期間20年以上の配偶者に対して居住用財産が贈与された場合には、現行民法903条3項の内容を推定する規定を置くことを予定しているのです。

2-2.配偶者の相続分の変更については見送り

現行民法では配偶者の法定相続分は2分の1とされていますが、改正案の審議段階においては「配偶者と子だけが相続人となる場合には、配偶者の法定相続分を3分の2に引き上げる」という案が出されてました。

これは配偶者と被相続人の親が相続人となる場合と同様の相続分とすることを意味しますが、必ずしも被相続人の親が相続人となる場合と、子が相続人となる場合とで同じ処理をする根拠に乏しいことや、内縁の妻との不公平感がより高まる(法律上の婚姻関係の保護をあつくするということは、それ以外の婚姻関係との差を広げることになります)という指摘もあり、現実的には困難であるという判断になりました。 結果として、今回の民法改正案には配偶者の法定相続分の引き上げは含まれないこととなっています。

2-3.相続人以外の寄与分についての改正

相続人以外の人が相続財産の維持や増加に寄与したような場合に、その寄与を行った人(相続人以外)に対して相続分を設けるむねの改正も検討されています。

現行民法上、相続財産の維持や増加に寄与した場合に、その寄与分に応じて相続できる相続財産を多くしてもらえるのは相続人に限られます。

この規定についての具体的な問題点としては、例えば被相続人の息子の嫁が、被相続人の死の直前まで介護等を行ったような場合にも、息子の嫁に対しては寄与分を認めることができないことなどが挙げられます。 現状では、上のようなケースでは長男(嫁ではなく)に対して寄与分を認めることによって解決が図られていますが、長男の嫁固有の相続分は認められないことになります。

3.遺言制度についての改正

遺言制度についても以下のように改正が予定されています。

具体的にはパソコンなどによって作成した文書の形で自筆証書遺言の財産目録を作成できるとするほか、法務局が自筆証書遺言を保管する制度を新設します。

現状では、自筆証書遺言は本人が自筆(手書きして印鑑を押す形)で作成しなくてはならないとされており(民法968条1項)、パソコンやワープロなどで作成した場合には無効になってしまいますが、現状に合わないためにこれを改正することを目指します。

また、自筆証書遺言は遺言者本人が原本を保管すること(弁護士などに保管を依頼することも可能)とされていますが、他人による改ざんや破棄隠匿、実際に相続が発生した時に遺言の存在が忘れ去られてしまうなどの弊害を避ける意図があります。

この改正は遺言に関する相続実務に大きな影響を与えると思われますので、審議の進捗をよく確認しておく必要があります。

4.まとめ

以上、平成30年通常国会に提出される予定の民法相続編の改正案について具体的な内容を解説させていただきました。 今回の改正案においては「相続発生時における配偶者の財産保障をよりあつくする」ことがテーマとなっているといえます。

自筆証書の形式についての改正は成立すれば相続実務においても大きな影響が出ると予想されますので、国会での審議の進捗はよく確認しておく必要があるでしょう。

google ad 記事下

この記事が役に立ったらシェアしてください!