配偶者短期居住権とは?メリットや存続期間、配偶者居住権との違い

配偶者短期居住権

相続の場面では、亡くなった被相続人と同居していた配偶者が、自宅にそのまま住み続けられるかどうかは大きなポイントの一つになるでしょう。

特に自宅の建物が被相続人の所有物であった場合、自宅の建物も原則として遺産分割の対象になります。
しかし、もし遺言がなく、他の相続人も自らの権利を主張して、配偶者が自宅に住み続けることを認めてくれないという場合に、家をでなければいけないのは配偶者にとってあまりにも酷です。

この記事では、こうした問題を改善するために民法改正で導入された「配偶者短期居住権」についてわかりやすく解説します。
同じタイミングで新設された「配偶者居住権」との違いなども併せて解説するので、参考にしてください。

1.配偶者短期居住権とは

まずは、配偶者短期居住権がどのような権利であるのかについて、基本的な事項を解説します。

1-1.遺産分割などの結果にかかわらず、しばらく自宅に住み続けられる権利

配偶者短期居住権とは、被相続人の所有物である建物に、被相続人の生前から住んでいた配偶者の住環境を保全するために新設された権利です。

配偶者短期居住権を有する配偶者は、遺産分割などの結果として、自宅の建物を他の人が承継することになったとしても、その後一定期間は自宅に住み続けることができます。
具体的にいつまで住み続けられるかについては場合によって異なるため、後ほど詳しく解説します。

1-2.配偶者短期居住権が発生する要件は?

配偶者短期居住権が発生するための要件は、以下の2つです(民法1037条1項)。

  1. 被相続人の配偶者であること
  2. 被相続人の財産に属した建物に、相続開始の時に無償で居住していたこと

なお、仮に有償で居住していた場合には、生前の被相続人と配偶者の間で賃貸借関係が成立していたことになります。
この場合、賃貸借関係は新たな所有者に引き継がれますので、配偶者は賃借権に基づいて引き続き自宅に住み続けることが可能です。

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2.配偶者短期居住権と配偶者居住権の違いは?

2020年4月1日に施行された改正民法では、配偶者短期居住権と同時に、「配偶者居住権」という権利も新設されました。

両者は名前が似ていますが、どのような違いがあるのでしょうか。
詳しく見ていきましょう。

違い①|配偶者短期居住権は自動的に発生する

配偶者短期居住権は、前述の要件を満たす配偶者については、特に何らの行為を要することなく自動的に発生します。

一方、配偶者居住権は、配偶者短期居住権よりも強力な権利です。
そのため、配偶者居住権が発生するためには、①遺産分割、②遺言、③家庭裁判所の審判のいずれかの方法により設定を受けることが必要になります(民法1028条1項、1029条)。

違い②|配偶者短期居住権には期間の制限がある

配偶者短期居住権は永遠に存続するわけではなく、「遺産分割の完了または配偶者短期居住権消滅の申し入れから6か月間」という期間制限が存在します(民法1037条1項1号、2号)。

6か月間という期間をいつから起算するかについては、居住建物取得者がどのような方法で居住建物を取得したかによって変わります。
この点は「4.配偶者短期居住権はいつまで続く?」で詳しく解説します。

これに対して、配偶者居住権は原則として配偶者が亡くなるまで存続するとされています(民法1030条)。
ただし、遺産分割・遺言・家庭裁判所の審判により、配偶者居住権にも期間制限を付けることは可能です。

違い③|配偶者短期居住権は実際に居住していた部分のみが対象

配偶者短期居住権は、配偶者が被相続人の生前から、実際に居住するために使用していた部分についてのみ成立します(民法1037条1項かっこ書)。

一方、配偶者居住権についてはこのような制限はなく、常に建物全体について成立します(民法1028条1項)。

違い④|配偶者短期居住権は登記できない

配偶者短期居住権は、登記することができません。

したがって、居住建物取得者が建物を第三者に譲渡・売却した場合には、配偶者はその第三者に対して配偶者短期居住権を主張することはできません
もっとも、居住建物取得者が第三者に譲渡などを行って配偶者の建物使用を妨げることは禁止されています(民法1037条2項)。

これに対して通常の配偶者居住権は、居住建物取得者に対して登記手続きが義務付けられています(民法1031条1項)。
配偶者居住権は、第三者に対して権利の存在を主張できるという点でも強力な権利ということができるでしょう。

違い⑤|配偶者短期居住権には相続税がかからない

配偶者短期居住権は、存続期間が短期に限定されており、また使用借権と類似した権利と捉えられているため、財産的価値はないと考えられています。
そのため、配偶者短期居住権には相続税が課税されません

一方、配偶者居住権は原則として配偶者の終身の間存続し、また第三者に対してもその効力を主張できる点で、強力な権利になっています。
したがって、配偶者居住権には、居住建物自体の価値に対して何割かの財産的価値が認められ、相続税の課税対象となります。

3.配偶者短期居住権のメリットと活用される場面

配偶者短期居住権は、配偶者が相続によって、突然自宅を立ち退かなければならなくなる事態を防ぐために設けられています。

よって、遺言や遺産分割協議で配偶者に自宅を使用する権利が認められなかった場合に、配偶者短期居住権が活用されることになります。

3-1.遺言で自宅建物が他の相続人や第三者に贈与された場合

たとえば遺言で自宅建物が他の相続人や第三者に贈与され、後述する配偶者居住権の設定も行われなかった場合には、配偶者は自宅を使用する権利を失ってしまいます。

この場合、配偶者短期居住権を主張して立ち退きまでの猶予期間を確保し、その間に新たな住居を探すことになるでしょう。

3-2.遺産分割協議で長期の配偶者居住権を認めてもらえない場合

遺産分割協議で自宅建物を他の相続人が相続することになり、かつ配偶者居住権の設定も認められないというケースも考えられます。

この場合も同様に、配偶者短期居住権の効果を活用して、立ち退きまでの期間を確保しましょう。

3-3.家庭裁判所に申し出て、より強力な配偶者居住権を求める方法もある

しかし、配偶者短期居住権はあくまでも暫定的な権利ですので、配偶者は結局自宅を失ってしまうことになります。
たとえば配偶者が高齢の場合は、新しい住居を探す作業、引っ越し作業などが非常に大きな負担になることもあるでしょう。

このような場合は、家庭裁判所に対して、より強力な配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出ることで、審判により配偶者居住権を認めてもらえる場合があります(民法1029条2号)。

配偶者居住権が認められれば、配偶者は原則として終身の間、自宅建物に住み続けることができます。

配偶者居住権を取得したい場合には、遺産分割協議や家庭裁判所での手続きを弁護士に依頼することをおすすめします。

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4.配偶者短期居住権はいつまで続く?

配偶者短期居住権で住んでいる配偶者としては、いつまでに新しい家を決める必要があるかが非常に重要です。

また、建物を取得した人としては、早く建物を売却したり賃貸に利用したりと方向性を決めたい気持ちも強いでしょう。
特に建物を遺贈された場合などは、せっかくもらった建物を早く有効活用したいはずです。

配偶者短期居住権がいつまで続くのかは、大きく2つの場合に分けられます。

4-1.配偶者を含めた遺産分割により建物を取得した場合|分割完了から6か月の経過

配偶者を含む共同相続人間で遺産分割を行い、その結果として居住建物を配偶者以外の相続人が取得した場合には、居住建物の帰属が確定した日から6か月を経過すれば、自動的に配偶者短期居住権は消滅します(民法1037条1項1号)。

この場合、居住建物取得者は期間の経過を待って、配偶者に対して立ち退きの請求をすることになります。

4-2.それ以外の場合(遺贈・死因贈与・相続放棄)|消滅の申し入れから6か月の経過

居住建物取得者が、遺産分割以外の方法(遺贈・死因贈与)で居住建物を取得した場合には、配偶者に対して、配偶者短期居住権の消滅の申入れをする必要があります(民法1037条1項2号、3項)。

また、遺産分割によって居住建物を取得した場合であっても、遺産分割協議に配偶者が加わっていなかった場合には、やはり配偶者短期居住権の消滅の申入れが必要です。
配偶者が相続放棄をした場合がこれに該当します。

配偶者短期居住権の消滅の申入れが行われてから6か月が経過すると、配偶者短期居住権は消滅します。

5.まとめ

配偶者短期居住権は、相続によって配偶者が突然住む場所を失ってしまうことがないよう、ある種のセーフティーネットを設ける目的で新設された権利です。
あくまでも暫定的な措置にはなりますが、遺産分割などで不利な状況に追い込まれてしまった配偶者が活用できる権利として、知っておいて損はないでしょう。

しかし可能であれば、配偶者居住権などのより強力な権利を得られるように、遺産分割協議の段階で他の相続人を説得する方が、配偶者にとってはメリットが大きいといえます。
その際には弁護士に相談することをおすすめいたします。

相続で住んでいる自宅を失ってしまうのではないかという不安を抱えている配偶者の方は、お早めに弁護士へご相談ください。

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監修・執筆
阿部由羅(あべ ゆら) 弁護士
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。一般民事から企業法務まで、各種の法律相談を幅広く取り扱う。webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。
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