お墓を相続したくない人へ!お墓を継がずに済む方法|相続放棄はできる?

いま日本では、少子化や核家族化など様々な要因を背景に、誰にも管理をしてもらえない「無縁墓」が増えています。

正直なところ、年に数回、片道何時間もかけて実家のお墓参りに行くのって、結構大変ですよね。

今回は、お墓の相続をしたくない、できることならお墓を手放したいと考えているみなさんに、その方法をお教えします。

1.お墓を受け継ぐのは誰?役割は?

1-1.お墓は祭祀継承者が「承継」しなくてはならない

まずはじめにお伝えしておきたい前提として、
実は、お墓は「相続」するものではありません
民法上、お墓は遺産の相続とはまったく無関係に、「祭祀を主宰すべき者(祭祀継承者)」が「承継」しなければならないと定められています(民法896条、897条)。

すなわち、お墓は「相続財産」の対象ではありませんから、
当然、相続税がかかることもありません(相続税法第12条1項2号)。
また「祭祀承継者」とは、相続人に限りません。

1-2.誰が祭祀承継者となるのか?

では、誰が「祭祀承継者」となるのでしょう?長男でしょうか。

祭祀承継者となる者は、

  1. 被相続人が指定した祭祀主宰者、
  2. その指定がないときは慣習にしたがって祭祀主宰者となる者、
  3. さらに慣習が不明なときは家庭裁判所が調停または審判で定める者

です(家事事件手続法第39条、第244条、別表第二第11項)。

したがって、必ず長男が祭祀承継者となるわけではありませんし、相続人から選ぶ必要もなく、親族であることすら必要ありません。

家庭裁判所が決定する場合は、諸般の事情として身分関係、過去の生活関係・生活感情の緊密度、候補者が祭祀を主宰する意欲や能力、利害関係人の意見などを総合考慮して、もっともふさわしい者を選ぶことになります(大阪高裁昭和59年10月15日決定)。

1-3.祭祀承継者の役割とは?

先祖をまつる行為は法的義務ではないが....

祭祀承継者は、同時に祭祀の主宰者になるべき人ですから、その役割としては墓参りや法事など、祖先をまつる行為を行うことになるでしょう。その内容は宗教、宗派によって様々です。

しかし、これはあくまで慣習や宗教心の問題です。
祭祀の主宰者が墓参りや墓掃除をしない、法事を執り行わないからといって、何らかの法的責任を問われることはありません。祭祀の主宰は法的義務ではないのです。

ただし、家族や親戚から「バチあたり」と非難される危険性はおおいにあります。
いくら義務がないとはいえ、祭祀承継者としての義務を放棄した場合親族関係が悪化するリスクは考慮しなければなりません。

寺院や霊園との契約には、事実上、義務がある

しかし、供養料・管理料やお布施などの支払いについてはある種の義務があるといえます。

というのも、お墓を利用する人は、所有権を持つ寺院や霊園との契約を通じて、お墓を使う権利を借りている立場にあります。そしてこの契約では、供養料や管理料と称してお金が発生します。
あくまで契約によって生じる債務なので、祭祀承継によって当然にその負担が受け継がれるわけではありません。
また、お布施もお気持ち次第の寄付なので、本来、義務ではありません。

しかし、お墓を持ち続けるのであれば、お寺や霊園は祭祀承継者に対し名義変更による契約の引継ぎを求めますから、祭祀承継者がお墓の利用を継続したければ、それまで通り供養料や管理料、お布施の支払いに応じる必要があるでしょう。

2.お墓を承継したくないときは?相続放棄はできる?

2-1.祭祀承継は拒否できない

自分が望んだわけでもないのに祭祀承継者にされてしまったら、親戚から非難されないように墓参りや法事などを行い、お寺や霊園との契約にしたがってお金を支払わなくてはなりません。
お布施だって相当な出費で、領収書すらもらえません。大変な負担です。

こんな祭祀承継者となることを拒否したり、辞退したりすることはできないのでしょうか?

残念ながら、被相続人の指定、慣習、家庭裁判所の決定(審判)によって祭祀承継者と指名された者は、拒否も辞退もできません
なぜなら、祭祀承継は「相続」ではないので相続放棄は適用されませんし、相続放棄に相当する承継放棄という制度は設けられていないからです。

祭祀承継者として選ばれたら、法律上、当然に祭祀承継者となってしまうのです。

2-2.それでもどうしてもお墓を手放したいひとへ

上記のことをふまえても、どうしてもお墓を手放したい!
そういった方に何か良い方法はないでしょうか?

もちろん、事実上放置してしまい、墓参りもせず、墓の掃除もせず、管理料なども支払わないという対応もありますが、それは少し気が引けてしまう方が多いと思われます。

そこでお勧めするのが、「墓じまい」をしたうえで、お寺や霊園に「永代供養」をお願いするという方法です。

「墓じまい」とは

お墓からお骨を取り出し、墓石を撤去して、敷地を更地として、お寺や霊園側に明け渡すことです。

「永代供養」とは

取り出したお骨を寺院や霊園に引き取ってもらい、祭祀承継者にかわって管理し供養し続けてもらうことです。
「永代」と言っても永遠ではなく、期間が限定されており、一般には33回忌までとし、その期間が過ぎると、他のお骨と一緒に合祀されるケースが多いようです。

墓じまいから永代供養までの流れは、次の章でご説明いたします。

永代供養が必要な理由

墓じまいはともかく、何故、「永代供養」が必要なのか?
墓じまいをしてお骨を取り出し、自宅の庭に埋めてはいけないのか?

埋葬されているお骨の人数が少ない場合は、そう思われる方もいるでしょう。

しかし、これはできません。
墓地以外の区域での埋葬やお骨の埋蔵は法律で禁止されているからです(「墓地、埋葬等に関する法律」4条)。

つまり、墓じまいでお墓から取り出したお骨は、他の墓地以外に埋蔵することはできないのです(※)。

また、近年増えている「散骨」も「墓地、埋葬等に関する法律」では禁止されていませんが、死体遺棄罪(刑法190条)に該当するか否かについては議論があります。葬送として節度をもっておこなえば問題ないという見解もありますが、未だ定説はなく、事実上黙認状態です。

※ただし、「墓地、埋葬等に関する法律」は、お骨(焼骨)を地中に埋めることを禁止しているだけなので、取り出したお骨を自宅の仏壇で保管することは違法ではありません。お骨の人数が少なく抵抗感がないなら、この方法がもっとも安価です。

3.墓じまいから永代供養までの流れと費用

3-1.墓じまいから永代供養までの流れ

3-2.墓じまいにかかる費用

・改葬許可証の発行手数料

墓じまいは、「墓地、埋葬等に関する法律」の「改葬」にあたり、現在の墓地がある市町村のの許可が必要です(同法第2条3号、第5条)。改葬許可証を発行してもらうための手数料は市町村によって異なり、無料の場合や、千円程度かかる場合もあります。

・墓石など解体・撤去費用

依頼する業者によって異なります。1平米あたり10万円強程度が相場でしょう。

・開眼供養料

開眼供養とは、新たな墓を作ったときに要求されるお布施です。相場は、1万円から5万円程度でしょう。

・納骨費用

新たな墓に納骨する際に要求されるお布施です。相場は3万円から5万円程度で、納めるお骨が複数人のときは、お一人あたり1万円程度追加料金を請求される場合もあります。

・離檀料

離檀とは、そのお寺の檀家でなくなることです。墓じまいで、そのお寺の檀家でなくなる場合に要求されることがある金銭です。契約上の支払義務があるわけではなく、要するに「お布施」です。金額は、お布施の3回分程度などと言われることもあるようで、仮にお布施の相場を1回5万円とすると、15万円程度でしょう。

離檀料を支払う必要性

お布施なので支払義務はないものの、支払わないと墓じまいが不可能となる場合があります。というのは、改葬許可申請書には、現在の墓地の管理者(すなわち、お寺)による埋葬証明書(「現在、この墓地に埋葬してあります」という事実の証明書)を添付しなくてはならないことが原則とされているからです(※)。
お寺によっては、支払わないと証明書を記載してくれないという嫌がらせに遭う危険があります。

※墓地、埋葬等に関する法律施行規則第2条2項

3-3.永代供養にかかる費用

ひとくちに永代供養と言っても、これを引き受けるお寺、霊園、施設によって、内容、条件、費用は様々であり、その契約内容次第となります。
室内施設か屋外か、合祀か否かなどタイプによって様々ですが、十万円から数百万円まで幅があります。

永代供養のタイプを一部ご紹介します。

  • 合祀墓…供養塔などに他人のお骨とまとめて埋蔵するタイプ。10万円~30万円程度。
  • 納骨堂…お骨を施設内で保管するタイプ。現代では、ビル内のロッカー型など多様な形態があります。50万円~100万円程度。
  • 樹木葬…墓石のかわりに埋骨地の上に樹木を植えるタイプ。30万円~70万円程度。
    一般の永代供養とは少し異なりますが、今後の管理が容易な上、シンボルとしての樹木が生きている限り供養が続いていると受けとめることもできますから、ひとつの永代供養ととらえるべきでしょう。名優市原悦子さんも樹木葬だったそうで、現在、注目を集めている方法です。

4.墓じまい・永代供養のメリットとデメリット

墓じまいや永代供養のメリットとデメリットを簡単にまとめておきます。

4-1.墓じまい・永代供養のメリット

①ずばり、祭祀承継者としてお墓の管理・供養を続ける負担がなくなります。
あなたの子孫の負担も取り除けます(あなたのお骨をどうするかは別ですが……)。

②契約内容にもよりますが、承継した墓を維持し続けるよりも、総額としての費用がかからないことが多いです。

4-2.墓じまい・永代供養のデメリット

親族の反感を買うおそれがあります。
一人で勝手に決めず、必ずよく話し合って同意を得ましょう。

②一度合祀にしてしまうと、他人のお骨と混じってしまいますから、お骨を掘り起こすことはできません。合祀にするかどうかは慎重に検討してから決めてください。

5.まとめ

お墓を承継したくない方でも、祭祀承継者に選ばれれば拒否できません。お墓の管理、供養が嫌なら墓じまいし、永代供養に委ねることが一般的です。

近年では、このようなニーズは高くなっており、お墓の種類も多様化し、永代供養への注目度も高まっています。この機会に検討してみることをお勧めします。

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