お墓を相続したくない人へ!お墓を継がずに済む方法|相続放棄はできる?
「お墓まいりに片道何時間もかかるし、お墓は相続したくない」そんな方は結構いらっしゃるのではないでしょうか。もしあなた…[続きを読む]
古くからの慣習により「お墓は長男が継ぐもの」という風潮が残っています。
しかし、本当にお墓は長男が継がなければならないのでしょうか。
本記事では、無縁墓が増えてきているいまだからこそ知っておくべき、墓の相続に関するあれこれをお教えします。
目次
「お墓を相続する」という言葉に、そんなに違和感はないですよね。
しかし実は、厳密にいうと、お墓は「相続する」ものではありません。
お墓は「承継する」もので、「相続」とは全く異なるものなのです。
相続では、被相続人の配偶者や親族など、財産の所有者(故人)と一定の身分関係を持つ人が、法定相続人として遺産を引き継ぎます。
いっぽう、お墓を引き継ぐのは 祭祀承継者(※)です。
そしてこの祭祀承継者は、必ずしも法定相続人である必要はないのです。
※祭祀承継者とは、同時に祭祀主宰者(率先して祖先の祭祀を主宰すべき者)ともいえます。民法ではこの祭祀主宰者が「系譜、祭具及び墳墓の所有権」を承継すると定めました(民法897条)。
このように正確にいえば誤用ですが、本記事では便宜上、「お墓の相続」という言葉を用います。
「系譜」:家系図など祖先以来の系統を示すもの
「祭具」:位牌・仏壇・仏具・神棚など、礼拝に用いるもの
「墳墓」:墓石・墓碑のみならず、墓石の敷地の所有権・使用権も含む(大阪高裁昭和59年10月15日決定)
では、結局誰が「祭祀承継者」としてお墓を継ぐのかという話の前に、まずは一度、お墓の承継の流れについて簡単にご説明いたします。
※①祭祀承継者の決定方法については、次章(3.)でご説明いたします。
※②もし祭祀承継者に選ばれたら、お寺や霊園にその旨の連絡を入れましょう。
お寺の場合は、その住職が葬式を担当するでしょうから、お墓の旧名義人の死亡を知っているかもしれませんが、霊園は相続の発生を知りませんから、特に連絡が必要です。
※③名義書換に必要な書類などは、霊園、寺院によって異なりますので、よく説明を聞きましょう。
特に名義変更申請書などはその寺院・霊園特有の書式があります.
後述しますが、ご自身が遺言書で祭祀承継者に定められたという場合には、遺言書も持参しましょう。
・お墓や仏壇仏具には相続税はかかりません。相続の対象外だからです(相続税法12条1項2号)。
・名義変更には手数料がかかることが多く、相場は、公営霊園が数百円~数千円程度、民営霊園や寺院は数千円~数万円程度です。
それでは、いよいよ誰が祭祀承継者になるかについてです。
民法は、次のとおり定めています(民法897条)。
まず、被相続人が遺言書等で指定した人物がいれば、その人が最優先でお墓を継ぎます。
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次に、上のような承継者の指定がなければ、被相続人の住所地の慣習に従います。
ただし、被相続人の出身地やその職業上、特有の慣習があるならば、それに従うとされています。
↓
最後に、指定もなく慣習も不明なときは、家庭裁判所が調停または審判で決定します(家事事件手続法39条、244条、別表2第11項)。
家庭裁判所での調停・審判は、遺言書や慣習で決めることができなかった場合の最後の手段といえますが、仮に家庭裁判所に審判の申立がなされた場合でも、必ず先に調停が行われます(調停前置主義。家事事件手続法244条、257条1項)。
話し合いで解決することが最善だからです。
調停での話合いで合意に至らないときに初めて、裁判官が審判で決めることになります。
家庭裁判所の審判では、身分関係が考慮されることは当然ですが、それだけではありません。
祭祀は故人への愛情・感謝の心情からなされるもので、生活を共にするなど、故人との間に密接な生活関係が形成されていて、故人に対する思慕の念を強く持ち、末永くその祭祀を主宰してゆくにふさわしい者を承継者とするべきと理解されています(福岡高裁平成19年2月5日判決)。
A: 結論からいって、必ずしも長男である必要はありません。
裁判例
故人の妻と長男が争った事案で、裁判所は社長の地位を引き継いだ長男よりも、位牌等の管理をしてきた妻の方が祭祀を主宰する意思がより固いと評価して、妻を祭祀承継者としました(東京家裁平成19年10月31日審判)。
A: 身分関係が考慮されるとはいえ、必ずしも親戚である必要はありません。
裁判例
相続人ではなく、親戚関係もなく、氏(名字)が異なる者でも、祭祀承継者とできることを認めました(大阪高裁昭和24年10月29日決定)。
A: 複数人の祭祀承継を認めると権利関係がぐちゃぐちゃになったり、祭祀道具がいろいろなところに散らばってしまう可能性があります。これを防ぐため、祭祀承継者は一人であることが原則です。
しかし、裁判所は、特別の事情があるときには、複数人を承継者とすることを認めています。
裁判例(祭祀承継を分割して認めたもの)
2カ所の墓地使用権をめぐって、故人の前妻の相続人Aと後妻の相続人Bが争った事案で、AとBのそれぞれに1カ所ずつの墓地使用権の祭祀承継を認めました(東京家裁昭和49年2月26日審判)。
裁判例(共同での祭祀承継を認めたもの)
甲家と乙家がひとつの墓地を共同所有しており、先祖代々、両家の祖先が埋葬されて、両家の墓として管理、供養されてきた等の特別の事情がある事案で、共同での祭祀承継を認めました(仙台家裁昭和54年12月25日審判)。
被相続人の指定、慣習、家庭裁判所の審判で決まった祭祀承継者は、辞退したり、拒否したりすることはできません。
相続ではない以上、相続放棄の対象ではありませんし、祭祀の承継を放棄する制度も存在しないからです。
どうしても、お墓を引き継ぎたくない方は、次の記事をご参照ください。
次に、祭祀承継者となったらどんな義務が発生するのかについてです。
祭祀承継者になったからといって祖先を祭るのは「義務」ではありません。
私たちには信教の自由(憲法20条)が保障されているからです。
民法が定めているのは、あくまで祭祀承継者が祭祀に関する財産(お墓や仏具など)の所有権を有するというところまでです。
祖先を祭る義務がないどころか、祭祀承継者として引き継いだお墓などの祭祀財産を処分したり、捨てたりすることも可能です。
ただし、家族、兄弟、親戚などから、厳しく批判される可能性がありますので、十分に覚悟しなくてはなりません。
祭祀承継者には、祭祀を執り行う義務はないものの、お墓の所有権や使用権を引き継いでいるので、これに伴う法的な義務を負担する責任はあります。
例えば、地震や台風で墓石が隣のお墓内に倒れてしまった場合、隣のお墓の利用者から倒れた墓石の撤去を請求されれば、墓石の所有者として、自分の費用でこれに応じる義務があります。
また、ほとんどのケースでは、霊園や寺院がお墓の敷地を所有していて、利用者はこれを契約によって借りているにすぎません。
墓石を所有することになった祭祀承継者は、お墓の存続を望む限りは、これらルールで定められた義務(例えば、供養料・管理料の支払い、名義書換料の支払い等)に従わざるを得ません。
これを拒否すれば、利用契約を解約される結果、墓石とお骨の撤去を請求されます。祭祀承継者は、墓石とお骨の所有者(※1)として、自分の費用で撤去する義務があります(※2)。
※1:多くの裁判例で、遺骨の所有権は祭祀承継者に帰属するとされています(例えば、最高裁平成元年7月18日判決)。
※2:例えば、東京都の公営霊園の場合、管理料を5年間支払わないと使用許可が取消されます(東京都霊園条例第21条3号)。
祭祀承継者が祖先を祭ることは義務ではないと言っても、ほとんどの方は、祭祀承継者となった以上、家族や親戚の信頼を裏切らないようにしようとお考えになることでしょう。
法律の世界とはまた別の話です。
では、祭祀承継者となったら、どんなつとめを果たすべきでしょうか?
彼岸やお盆のお墓参りは信仰心の問題ですから、祭祀承継者であろうとなかろうと、各人が勝手にすればいいことです。
しかし、お墓の清掃や手入れをせずに放置することは、墓地の景観、清潔感を害することになってしまい、他の利用者にも迷惑をかけます。
「墓参りに行ったら、枯れた花束やお供物が置きっぱなしで、卒塔婆もボロボロ、墓石も欠けていたぞ。おまえ、何やってんだ!」などと親戚から罵倒される可能性もあります。
お墓が田舎にある場合、頻繁に行くことは難しいでしょうが、年に1回程度は、墓参りをするよう心がけてみてはいかがでしょうか。
寺院では、檀徒が、お盆やお彼岸の行事に参加するように頼まれることもあります。
強制ではありませんが、お寺は檀徒が集団で支えているものですから、誰かが参加しなくてはならないことも事実ですし、地域の人づきあいの重要な要素でもあります。
「古くさい寺の行事なんか面倒だな」などと思わずに、一度、参加してみてはいかがでしょう。案外新鮮な発見があるかもしれません。
お墓の維持管理費用の支払いは、各施設によって異なります。
年額が決まっている場合や一度支払えば33回忌まで支払う必要がない場合(永代使用料)など様々なケースがありますので、ご自分が承継したお墓の施設に確認をとることが重要です。
年額の管理費の場合、公営霊園(数千円から1万円程度)、民間霊園(数千円から1万5000円程度)、寺院(1万円~2万円程度)が相場です。
なお、これら費用は、祭祀承継者が全額負担するべきものであって、他の共同相続人に費用の分担を請求する権利はありません(前出の東京高裁昭和28年9月4日決定)。もっとも、負担が重い場合などは、兄弟姉妹など相続人間で話し合う余地はあるでしょう。
お布施は法的には単なる寄付で支払義務はありませんが、檀徒としてお寺と付き合う限りは必要なお金と心得てください。なお、通常、領収書はもらえません。
相場の金額は、四十九日、一周忌で、3万円から5万円程度、三回忌・七回忌などで1万円から3万円程度といわれています。ただし、地方により、またその寺院の格によっても違います。
幾らが適切なのかをお寺側に聞いても、「お気持ち次第です」と言われてしまって、教えてもらえないことが多いですが、お寺には必ず、檀徒総代や世話役の方がいますから、相談してみることがお勧めです。
お墓の承継と遺産の相続が全くの別物であることは述べてきました。
最後に、こんなケースについて考えてみましょう。
A: そんなことはありません。お墓を含む祭祀財産は、相続財産ではありませんから、相続放棄をした者でも、祭祀承継者としてお墓等の所有者となることができます。
お墓の継承問題について解説しました。
少子化や核家族化で、お墓を継ぐということ自体が敬遠される傾向にあります。
お墓の相続で、迷われた場合は、相続問題に強い弁護士に相談されることをお勧めします。