自分の遺留分はいくら?相続での遺留分の計算方法を具体例で解説
遺言などで遺産をもらえなかったとき、自分がもらうはずだった遺産を取り戻す。そんな制度が「遺留分」です。実際にいくら取…[続きを読む]
「遺産分割をしたいが、相続財産が随分減っていて想定外に自分の相続分が少ない…。そういえば亡くなる少し前に生前贈与していた気がする。」
このようなケースでは、生前贈与によって遺留分権利者の遺留分が侵害されている可能性があります。
本記事では、以下のような内容を図を使いながらわかりやすく解説します。
対処法について解説する前に、念のため、まずは2点ご確認ください。
遺留分とは、法定相続人(被相続人の配偶者・子や直系尊属)が最低限もらえる、相続財産の取り分のことです。
ただし、被相続人の兄弟姉妹や、相続人欠格・廃除になった相続人はもともと遺留分がないので、ご注意ください。
一人一人が遺留分をどのくらい有しているのか、具体的な割合の遺留分の計算方法は、被相続人との関係によっても異なります。
正確に遺留分算定したい方は、以下の記事をご参考にしてください。
①②をどちらも満たした場合、すなわち正当な遺留分権利者であり、他人への生前贈与によってその遺留分が不当に侵害されていたといえた場合には、遺留分侵害額請求権がある可能性があります(※)。
遺留分侵害額請求権は、侵害額に相当する金銭の返還を請求する権利です。
あくまで権利にすぎないので、遺留分が侵害されても、必ずしも遺留分権利者が請求する必要はありません。一方、請求を受けた側は、正当な額の請求であれば拒否できません。
※遺留分侵害のケースでは、生前贈与だけではなく遺贈や死因贈与も問題になることがあり、本記事では主に生前贈与について説明しますが、Q3で遺贈・死因贈与についても触れています。
ただし、遺留分侵害額請求ができる期間には時効があり、「相続が発生し、かつ自分の遺留分が侵害されていること」を知ってから1年以内、知らなくても10年以内と決まっています。
また、誰に対していつ行われた生前贈与かによって、遺留分侵害額請求できるかどうかが異なります。以下で詳しくご説明します。
はじめに、簡単な図で確認してみてください。
それぞれ、以下の順番で説明していきます。
まず、贈与者である被相続人と受贈者(生前贈与を受けた人)の両方が、相続人の遺留分を侵害し、損害を与えるであろうことを知った上で贈与契約を結んでいた場合には、時期に関係なく、遺留分侵害額請求の対象になります。
ただし、遺留分を侵害している事実を知らずに行われた生前贈与であっても、行われた時期によっては、遺留分侵害額請求の対象になることがあります。
相続人に対する生前贈与か、相続人以外に対する生前贈与かで、対象になる時期は異なります。
相続人に対する生前贈与は、相続開始(被相続人の死亡)以前の10年間で行われたものについて、遺留分侵害額請求の対象になります(民法1044条3項)。
ただし、婚姻、養子縁組、生計の資本としての贈与に限られます(多くの生前贈与は生計の資本としての贈与に該当します)。
以前は、相続人に対する生前贈与については、時期に関係なく遺留分侵害額請求の対象とされてきましたが(最高裁平成10年3月24日判決)、2019年7月1日施行の民法改正により、相続開始前10年以内のものについてのみ限定されました。
受贈者が相続人ではない生前贈与は、相続開始(被相続人の死亡)以前の1年間で行われたものについて、必ず遺留分侵害額請求の対象になります(民法1044条1項)。
相続人に対して行う場合のように、「生計の資本としての贈与」などといった例外はありません。
それでは、生前贈与によって遺留分を侵害され、しかもその生前贈与が遺留分侵害額請求の対象になるものだと分かったら、どのように請求をすればよいのでしょうか。
実は、遺留分侵害額請求に決まった方法はありません。
しかし、先述した通り時効がありますから、口頭等で請求を行うと、そのまま1年が経過して、挙句の果てには「請求された覚えがない」と言われてしまう可能性もあります。
したがって、請求する際には、内容証明郵便など証拠の残る書類を用いて行うのが通常です。
遺留分侵害額請求の具体的な方法については、以下の記事をお読みください。
以下からは、よくある疑問を掲載します。
「特別受益の持ち戻し」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
特別受益の持ち戻しとは、相続人のうち一部の人が被相続人から特別な利益を受けていた場合に、これを相続分の前渡しとみなして相続分計算を補正することで、相続人間の公平を期す制度です。
この「特別受益の持ち戻し」と、ここまでご説明した「生前贈与と遺留分」の関係について解説します。
特別受益とは相続人が被相続人から生前贈与または遺贈(遺言による贈与)によって受けた利益のことです。
特別受益の対象として、遺贈によるものはすべて含まれますが、生前贈与によるものは「婚姻、養子縁組のため又は生計のための資本として受けた贈与」のみが該当します。
そして、このように特別受益を受けた人(つまり遺贈等をもらった人)がいるときは、遺産分割の相続分計算のとき、一度特別受益を相続財産に戻すことで公平になるようにします。
遺留分とは異なり、特別受益があった時期が何年前までという制限もありません。
これが、特別受益の持ち戻しです。
一方、遺留分の算定においては相続人以外に対する遺贈・贈与も含まれます(お世話になった人や愛人へのもの等)。
この点が遺留分制度と特別受益制度の大きな違いです。
また、遺留分は遺産分割の計算を補正するのではなく、上述した遺留分侵害額請求で取り戻すことになります。
したがって、特別受益が遺留分侵害額請求の対象になるかどうかは、「②相続人への生前贈与のケース」の説明のとおりになります。
つまり、相続開始前10年間にあった贈与(特別受益)について、遺留分侵害額請求の対象になるということです。
なお、以下の記事では、特別受益者の遺産分割協議について詳しくご説明しています。
親族間で、孫に金銭などの援助をするというのはよくある話ですよね。
孫への生前贈与は遺留分との関係の中でどのような取り扱いになるのでしょうか。
祖父や祖母の相続では、代襲相続が発生しない限り、その孫は相続人ではありません。
孫の側から言い換えると、自分の親が生きている限り、おじいちゃん・おばあちゃんの遺産を相続する立場にないということです。
まず、孫が相続人でない以上、被相続人(祖父・祖母)からの生前贈与が行われていたとしても、孫は「特別受益者」ではありません。
この場合は、本記事「③法定相続人以外への生前贈与のケース」に該当することになります。
被相続人の死亡前1年間に行われた孫への生前贈与は、遺留分侵害額請求の対象になります。
生前贈与に限らず、遺贈や死因贈与も遺留分侵害額請求の対象になります。
被相続人が生前に遺産を譲渡するのが生前贈与ですが、被相続人の死亡をきっかけに行われるのが死因贈与、遺言によって行われるのが遺贈です。
生前贈与・遺贈・死因贈与など、複数人に対して行われていた場合、請求先が誰でもよいわけではありません。
請求の対象は民法で決まっていて、遺贈⇒死因贈与⇒生前贈与の順番に請求を受けます(民法1047条1項)。
本記事でご説明してきた「贈与」というのは、無償(=タダ)で行われるものです。
しかし、一定の金銭支払いなどを伴い、完全に贈与とはいえないような受け渡しであっても、「明らかに釣り合っていないような対価」でお金や物が譲渡されているケースもあります。
とはいえ、無償ではない以上、通常そのままでは「贈与」にはあたらないため、贈与を対象としている遺留分侵害額請求はできないように思えます。
しかし、このような対価が明らかに釣り合っていない譲渡行為に関しては、「不相当な対価による有償行為」といわれ、贈与とは呼べなくても遺留分侵害額請求の対象になる場合があります。
たとえば、被相続人(父)が亡くなる5年前に、三人息子のうち長男だけが、居住目的で父から不動産を格安で売ってもらっていた場合などです。
被相続人のその他の法定相続人(次男・三男など)は、実際の不動産の市場価値と、長男が買い取った価格の差額につき、遺留分侵害額請求の対象とできる可能性があるのです。
本記事で見た通り、他の人に対する生前贈与によって遺留分を侵害された場合には、侵害額に相当する金銭を返還するよう主張する権利があります。
ただし、遺留分侵害額請求しうる生前贈与に該当するかどうかは、誰に対する生前贈与なのか、また生前贈与が行われてから何年が経過しているかによっても変わってきます。
専門家であれば、個別のお悩みに応じて正確に判断してくれます。
時効もありますから、早めに弁護士に相談することをおすすめいたします。