遺留分侵害額請求とは?手続き・期限・必要書類を解説!
最低限の遺産の取得割合である「遺留分」を取り戻すためには、遺留分侵害額請求をしなければなりません。遺留分侵害額請求の…[続きを読む]
「遺産分割をしたいが、相続財産が随分減っていて想定外に自分の相続分が少ない…。そういえば亡くなる少し前に生前贈与していた気がする。」
このようなケースでは、生前贈与によって遺留分権利者の遺留分が侵害されている可能性があります。
本記事では、次のポイントを図を使いながらわかりやすく解説します。
目次
生前贈与によって、遺留分が不当に侵害されている場合には、遺留分侵害額請求権を行使することができます(※)。
遺留分侵害額請求権は、侵害された遺留分の額に相当する金銭を請求できる権利です。
ただし、遺留分侵害額請求ができる期間には時効があり、「相続が発生し、かつ自分の遺留分が侵害されていること」を知ってから1年以内、知らなくても10年で請求権が消滅します。
また、誰に対していつ行われた生前贈与かによって、遺留分侵害額請求の対象となるかどうかが異なります。以下で詳しくご説明します。
※遺留分侵害のケースでは、生前贈与だけではなく遺言書による相続や遺贈や死因贈与も問題になることがあり、本記事では主に生前贈与について説明しますが、遺留分についてのよくある質問で遺贈・死因贈与についても触れています。
はじめに、簡単な図で確認してみてください。
それぞれ、以下の順番で説明します。
贈与者である被相続人と受贈者(生前贈与を受けた人)の双方が、遺留分権利者に損害を与えるであろうことを知った上で贈与契約を結んでいた場合には、時期に関係なく、遺留分侵害額請求の対象になります(民法1044条1項後段)。受贈者が相続人であっても、相続人以外でもこのことに変わりありません。
「損害を与えることを知って贈与をした」場合とは、損害を与える意図があるか否かを問いません。その贈与が遺留分を侵害する事実を認識していれば足ります。
ただし、贈与者・受贈者双方が遺留分を侵害することを知っていたという事実の立証責任を負うのは、遺留分権利者です。
相続人が受遺者の場合は、相続開始(被相続人の死亡)以前の10年間に行われた贈与について、遺留分侵害額請求の対象になります(民法1044条3項)。
ただし、遺留分侵害額請求の対象は、婚姻、養子縁組、生計の資本としての贈与(後述する特別受益に該当)に限られます(多くの生前贈与は生計の資本としての贈与に該当します)。
2019年7月1に日施行された民法改正により、相続人への生前贈与は、相続開始前10年以内の生前贈与に限定されましたが、それ以前は、時期に関係なく遺留分侵害額請求の対象とされていました(最高裁平成10年3月24日判決)。
受贈者が相続人ではない場合は、相続開始(被相続人の死亡)前の1年間に行われた生前贈与が、遺留分侵害額請求の対象になります(民法1044条1項)。
相続人に対する贈与のように贈与の範囲に限定はなく、相続開始間1年間の生前贈与すべてが遺留分侵害額請求の対象です。
では、生前贈与が行われ、しかもその生前贈与が遺留分侵害額請求の対象になるものだと分かったら、どのように請求をすればよいのでしょうか。
法律上、遺留分侵害額請求に決まった方法はありません。
しかし、口頭で請求した後に1年が経過して、「請求された覚えがない」と言われてしまえば、遺留分侵害額請求権は時効によって消滅していしまいます。
そのため、請求する際には、内容証明郵便など証拠の残る書類を用いて行うのが通常です。
遺留分侵害額請求の具体的な方法については、以下の記事をお読みください。
特別受益の持ち戻しとは、相続人のうち一部の人が被相続人から特別な利益を受けていた場合に、これを相続分の前渡しとみなして相続分計算を補正することで、相続人間の公平を期す制度です。この特別受益が、遺留分侵害額請求の対象となるることは前述した通りです。
しかし、被相続人は、遺言書などにより、この特別受益の持ち戻しを免除する意思表示をすることができます。
被相続人が、この特別受益の持ち戻し免除の意思表示をした場合には、特別受益を遺産に持ち戻さずに、遺産分割を行います。
なお、特別受益や持ち戻しについてお知りになりたい方は、「特別受益とは?受益が認められるケースと計算方法を解説!」をご一読ください。
そこで、戻し免除の意思表示があった特別受益に対しても、遺留分侵害額請求をできるのかが問題となります。
結論から言えば、被相続人が持ち戻しの免除の意思表示をした特別受益も、遺留分侵害額請求の対象となります。遺留分は、相続人の最低限の遺産取得割合を定めた制度です。持ち戻し免除の意思表示によって、特別受益が遺留分侵害額請求の対象から外れてしまい遺留分が制限されてしまえば、せっかくの制度の意味がなくなってしまいます。
最高裁判所も判決で、次のように判示しています。
遺留分減殺請求により特別受益に当たる贈与についてされた持戻し免除の意思表示が減殺された場合、持戻し免除の意思表示は、遺留分を侵害る限度で失効し、当該贈与に係る財産の価額は、上記の限度で遺留分権利者である相続人の相続分に加算され、当該贈与を受けた相続人の相続分から控除されるものと解するのが相当である。
生前贈与に限らず、遺言書による相続や遺贈、死因贈与も遺留分侵害額請求の対象になります。
被相続人が生前に遺産を譲渡するのが生前贈与ですが、被相続人の死亡をきっかけに行われるのが死因贈与、遺言によって行われるのが遺贈です。
生前贈与・遺贈・死因贈与が複数人に対して行われていた場合には、請求先にも順番があります。
遺留分侵害額請求は、次の順番で行います(民法1047条1項)。
遺贈(遺言による相続含む)⇒死因贈与⇒生前贈与
遺贈が複数あった場合には、受遺者は原則としてそれぞれ遺贈の価額の割合に応じて負担します(民法1047条1項2号)。遺言書による相続が遺留分を侵害している場合も、遺贈と同順位で同様に処理します。
贈与は、相続に近い時期のものから順に、遺留分の相当額を回収できるまで請求します。
有償であるため贈与には該当しないが、金銭の支払いが伴っていても「不相当な対価による有償行為」と呼ばれる、明らかに釣り合っていない対価で物が譲渡される場合には、遺留分侵害額請求ができるケースがあります。
それは、譲渡人と譲受人双方が遺留分を侵害すると知りながら行った、不相当な対価による有償行為です。
たとえば、被相続人(父)が亡くなる前に、三人息子のうち長男だけが父から不動産を格安で売ってもらっていたとします。
この場合に、父と長男が遺留分を侵害することを知りながら不動産を譲渡すると、遺留分権利者は、実際の不動産の市場価値と、長男が買い取った価格の差額につき、遺留分侵害額の請求が可能になります。
孫への生前贈与は遺留分侵害額請求の対象になるのでしょうか。
孫は代襲相続をしていない限り、祖父母の相続人とはならず、被相続人(祖父・祖母)からの生前贈与が行われていたとしても、「特別受益者」ではありません。
したがって、この場合は、本記事「③法定相続人以外への生前贈与のケース」に該当することになります。
被相続人の死亡前1年間に行われた孫への生前贈与は、すべて遺留分侵害額請求の対象になります。
本記事で見た通り、生前贈与によって遺留分を侵害された場合には、侵害額に相当する金銭を返還するよう主張する権利があります。
ただし、遺留分侵害額請求しうる生前贈与にかどうかは、誰に対していつ行われた生前贈与なのかによって変わりす。
専門家であれば、個別のお悩みに応じて正確に判断してくれます。
遺留分侵害額請求権の時効は1年と短いため、早めに弁護士に相談することをおすすめします。