遺留分が兄弟姉妹に認められない理由|兄弟姉妹の相続財産保障は?

遺留分はよく「兄弟姉妹以外の相続人に保障された最低限の遺産の取り分」などと説明されます。
では、なぜ兄弟姉妹には遺留分がないのでしょうか。
この記事では、兄弟姉妹に遺留分がない理由を解説します。
1.そもそもなぜ「遺留分」があるか
結論から言ってしまえば、遺留分は、基本的には相続人の生活を保障する趣旨の制度です。
本来、遺産は被相続人の所有していた物や権利だったわけですから、その分配を遺言でどのように指定しても、誰に贈与しても、それは被相続人の自由なはずです。
しかし、すべての遺産を誰か一人に相続させたり、住むべき不動産を愛人に贈与されたりすると、相続人としては「自分たちの取り分がないのはひどい」「これからの生活はどうしたらいいんだ」といった不満や悩みが出てきてしまいます。
例えば、高齢の配偶者が相続人になった場合、一定の資金や住居がなければ、今後の生活ができなくなります。
被相続人が自分の権利をどうするか、遺言を尊重することも大切ですが、それを重視するあまり相続人同士が不公平になったり、生活が立ち行かなくなってしまうことは望ましくありません。
そこで、民法は遺言によっても侵害できない(侵害された人が請求できる)遺留分という制度によって、相続人の最低限の生活を保障するとともに、極端な不公平を是正しようとしているのです。
2.兄弟姉妹に遺留分がない2つの理由
では、なぜ先程のような趣旨で、兄弟姉妹には遺留分がないのでしょうか。大きく分けて2つの理由があります。
兄弟姉妹は経済的に自立していることが多い
一般に、被相続人の兄弟姉妹は生活が自立しており、それぞれ別個の独立した生活を営んでいることが多いです。
だとすれば、あえて遺留分を認め、被相続人の遺言や生前の意思を否定してまで、生活を保障する必要はありません。
もちろん、必ずしもすべての兄弟姉妹が経済的に自立して生活できているわけではありませんが、一般的には被相続人と世代が近く、最低限の資産形成ができていると考えられます。
そのため、制度としては遺留分を定めない仕組みになっています。
兄弟姉妹は被相続人との関わりが少ない
現在の日本の家庭は、多少の差はあれど、基本的には婚姻によってそれぞれの家庭・戸籍を形成し、子・孫へとつながる構造が多いです。
したがって、被相続人と最も関係が強く、財産を遺す必要があるのは配偶者や子だと考えられます。兄弟姉妹は別の家庭を形成し、通常は戸籍上も異なり、生活上の関わりが強いとは言えません。
同一の家計で長年生活を共にしてきたかどうかというのは、被相続人との関わりを考えるうえで重要な要素です。
このことは、法定相続人として兄弟姉妹が最後の順位であることからも読み取れます。
もっとも、関わりについても一概に兄弟姉妹が全員関わりが少ないというわけではありません。
3.大原則は被相続人の意思
兄弟姉妹に遺留分がない2つの理由をご説明しました。
この理由では納得できないという方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、そもそも「遺産は被相続人のもの」でした。
自分のものは原則として自分で自由に管理処分できるため、被相続人が財産を誰かに贈与しても、遺贈しても、本来的には被相続人の自由なはずです。
つまり、遺留分という制度自体が例外的に被相続人の意思を制限するものなのです。
とは言え、現在では「被相続人の意思をさらに重視すべき」という見解や、子についても「相続時には十分な経済的基盤が形成されているはず」という意見もあります。
2019年に施行された民法改正による遺留分制度の変更も、こうした意見が背景にあると考えられます。
参考:戦前と戦後の制度の違い
なお、遺留分制度は戦前から存在しました。
戦前の相続法は「家督相続」といって長男が相続することが想定されていました。
そして、遺留分制度は、被相続人による財産処分で遺産が散逸していしまうことを防ぎ、長男及び「家」の財産基盤を確保することを目的としていました。
一方、戦後の民法では家督相続が廃止され、相続人が原則として平等に相続することになりました。
したがって、遺留分制度は戦前とは全く逆の目的で、特定の人に遺産が集中することを防止するための制度として制定されたのです。