寄与分とは?対象となる人の範囲や計算方法、遺留分侵害との関連など
寄与分とは、相続財産の維持形成のために特に貢献した法定相続人がいる場合、その貢献度に応じて多めの遺産取得分を認める制…[続きを読む]
被相続人の生前、被相続人が経営していた事業の手伝いをしたり、出資や介護をしたりするなど、様々な形で貢献された方もいらっしゃると思います。
そうした貢献行為に対して認められているのが「寄与分」の制度です。
しかし、今までしてきた行為をお金に換算するのは難しそうですね。
本記事では、寄与分の計算方法について紹介します。
目次
寄与分とは、法定相続人が被相続人の相続財産の維持・増加について特別の貢献をしたときに、その貢献度に応じて相続分を多めにして、共同相続人間の公平を図る制度です。
そもそも寄与分についてよくわかっていないという方は、まずは次の記事からお読みください。
前述の通り、本記事では、寄与分の計算方法について解説しますが、どのように貢献したかによって計算方法も変わってくるため、まずは寄与行為の型を分類していきましょう。
はじめに、寄与分について定めている条文を紹介します。
このように、寄与分制度において考慮されるのは、「被相続人の財産の維持又は増加」についての特別の寄与です。
条文では少し小難しい言葉で表現されていますが、「被相続人の事業に関する労務の提供」「被相続人の事業に関する財産上の給付」「被相続人の療養看護」は、単なる例に過ぎません。
より実務的には、寄与のタイプは次の5つの型に分けられています。
以下より、順番に見ていきましょう。
家事従事型は、簡単にいうと、被相続人の事業に貢献したという寄与行為です。
条文の「被相続人の事業に関する労務の提供」に相応します。
家事従事型の「家事」とは、炊事洗濯などの家事労働のことではありません。
被相続人が遂行していた個人営業としての「家業」や「個人事業」のことを言います。
例えば、夫婦や親子で経営する農業や個人商店などです。
ただし、相続人が、相応の報酬(給与)を受け取っていたなら、相続分を増加して公平を図る必要はありませんから、無報酬か、それに近い低報酬で貢献した場合でなくてはなりません。
金銭等出資型は、例えば、被相続人である夫がコンビニ店鋪を開業する際に、妻がその開業資金を負担した場合などです。
条文の「被相続人の事業に関する財産上の給付」に相応するものです。
金銭「等」とあるように、財産上の給付とは、金銭の出資に限りません。
例えば店舗の敷地として妻名義の土地を無償で提供した場合なども、含まれます。
療養看護型は、読んで字のごとく、被相続人の看護等に努める寄与行為です。
条文では、そのまま「被相続人の療養看護」と書かれています。
ただし、ただ面倒を見たというだけでは足りず、あくまで被相続人の財産の維持・増加に貢献したことが必要です。
そのため、相続人が自分で世話をしたことで、プロの介護士等に介護費用を支払うことなく、財産からの支出を免れたという関係が必要です。もちろん、プロに看護等を依頼したものの、それらにかかった費用を負担したという場合も含まれます。
なお、寄与分を主張できるのは法定相続人ですが、改正民法では、法定相続人でなくとも、親族が被相続人の療養看護などの労務提供で遺産の維持・増加に特別の寄与をした場合には、寄与の程度に応じた金銭(特別寄与料)を相続人に請求できるという特別寄与制度(民法1050条)も創設されました。
特別寄与制度について詳しくは、次の記事をご覧下さい。
扶養型は、簡単にいうと、相続人が被相続人を養ったために被相続人の財産から生活費を支出することがなかった(節約できた)という場合です。
条文でみた「その他の方法」に入ります。
相続人が実際に面倒を見たのではなく、被相続人の生活費を代わりに負担してあげたという場合も含みます。
財産管理型は、被相続人の財産を管理し、これを増加・維持した場合です。
扶養型と同じく、条文の「その他の方法」にあたります。
典型的なのは、被相続人名義の不動産を賃貸に出したり、売却処分したりすることで資産を増加させたというケースです。
2.で寄与分の5つの型について確認したところで、いよいよ計算方法の解説に入ります。
計算するときには、注意点が2つあります。
実は、寄与分の計算式は明確に統一されているわけではありません。
寄与分は、共同相続人同士の協議で決めます(904条の2第1項)。
当事者の協議で決められないときは、家庭裁判所の調停手続を利用し、調停委員と裁判官を仲介役として話し合いを行い、それでも合意に至らない場合には、裁判官の審判によって決定します(904条の2第2項)。
※なお、寄与分は遺産分割の公平を図るための制度なので、寄与分を決める審判を申し立てるには、同時に(または先行して)遺産分割審判の申し立てもなされている必要があります(904条の2第4項)。
審判で決する際には、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮します。
「一切の事情」としては、一般的には、相続人の数、各相続人の受けた生前贈与や遺贈の額、遺言の内容、相続債務の額、分割結果の妥当性などがあげられます。
このように審判では、裁判官の広い裁量によって決まり、寄与分を計算する明確な基準があるわけでありません。
また、寄与分も無制限に認められるわけではありません。
寄与分の上限をつくるものには、「遺贈」と「遺留分」があります。
まず、遺贈との関係です。
簡単にいえば、寄与分は遺贈を除いた部分のみで考慮されます。
民法では「寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない」と定められています(904条の2第3項)。
相続人がどんなに貢献した実績があっても、被相続人が遺言で、他の者に遺贈すると決めた遺産には及ばず、優遇されるのは、遺贈を除外して残った遺産の範囲内ということです。
次に、遺留分との関係です。
他の相続人が遺留分を受け取れなくなるほどの大きな寄与分を認めることはできるでしょうか。
共同相続人間の協議では、全員が合意する以上、他の相続人は自己の遺留分を放棄したと解釈できますから問題は生じません。
では、家庭裁判所の審判ではどうでしょうか。
民法の条文上は、寄与分で遺留分を侵害してはならないという定めはありません。
しかし、遺留分は相続人の最低限の権利保護を図る制度です。
いかに共同相続人間の公平を図るといえども、無制約に寄与分が遺留分より優先すると考えることはできません。
そこで、家庭裁判所が考慮すべき「その他一切の事情」の中に遺留分を含めて判断するとした裁判例があります(東京高裁平成3年12月24日決定)。
必ず遺留分が優先するということではなく、家事事件において後見的な役割を担う裁判所の裁量でバランスを取るということです。
計算の注意点もわかったところで、寄与分があるときの各相続人の相続分の計算方法についてです。
寄与分自体の算出方法については「5.タイプ別寄与分額の計算方法」で解説します。
寄与分がある場合の具体的な相続分の算出方法は、次のとおりです(民法904条の2第1項)。
なお、この「みなし相続財産」という言葉は、相続税の計算でも出てきますが、別の意味ですので混同しないよう注意してください。
遺産総額9000万円-寄与分3000万円=みなし相続財産6000万円
長男A:(6000万円×2分の1)=3000万円
次男B:(6000万円×2分の1)+寄与分3000万円=6000万円
次に、肝心な寄与分額の算定方法ですが、前述のとおり裁判所では「一切の事情」を考慮して決めますので、明確な客観的基準はありません。
ただし、常に場当たり的に判断する訳には行きませんから、実務では寄与のタイプに応じた算定方法を用います。
先に、これからご説明する計算式で登場する「裁量的割合」について確認しておきましょう。
各計算式の中には、基本的な要素以外の事情を考慮する必要性が高いものがあります。
例えば、寄与者が被相続人に金銭を贈与していたとします。
このとき、贈与した金額をベースとして直ちに寄与分だとすると、寄与者は、かつて被相続人に贈与した金銭を全額取り戻すことができ、贈与しなかったものと同じことになります。
しかし、例えば家の新築資金を被相続人に贈与した寄与者が、その新築建物に同居していたという場合は、贈与した全額を取り戻させることは却って公平に反します。
このような場合、計算式を経て出てきた数字(金額)を前提に、他の要素を考慮して、裁判官の裁量で、その7割~8割の数字を最終的な寄与分の数字とするのが裁量的割合です。
形式的な金額の計算だけでは、当事者の公平が図れない場合の調整手段というわけです。
裁判例では、5割から8割の範囲で判断され、7割~8割程度になることが多いと言われています。
また、以下の寄与タイプ別の算定方法はあくまで目安であることに注意してください。
先述の通り、家事従事型の寄与分を認めるには、無償または無償に近い状態で労務を提供していた必要があります。
相応の対価を得て働いていたのならば、寄与分を認めなくても不公平ではないからです。
その上で、寄与分は次のように計算されます。
寄与分額 = (労働に見合う給与1年分の額)×(働いた年数)
いくらが労働に見合う給与額かは、賃金センサスなどの統計から、同年齢層が同様の家業に従事した場合の平均賃金を利用して決めます。
労働に見合うほどではない少ない給与をもらっていたときは、不足する金額で計算します。
また、被相続人と同居していために、寄与者が生活費を節約できていた場合は、その生活費を差し引くことが公平です。これが「生活費控除」です。
生活費の実額を差し引く方法もあれば、給与額から一定の割合(生活費控除率)を割り引く方法もあります。
具体例で見てみましょう。
Cの寄与分額=年額200万円×3年間×(100%-30%)=420万円
みなし相続財産=2000万円-420万円=1580万円
具体的相続分
妻B :(1580万円×2分の1)=790万円
長女C:(1580万円×4分の1)+420万円=815万円
長男D:(1580万円×4分の1)=395万円
生活費控除は、生活費の実際の額が分からなくても、一定割合を「生活費控除率」として割り引く方法で計算できます。
生活費控除率は、交通死亡事故における被害者の逸失利益を算定する際の数値(弁護士基準)を用いることもできるとされています(『遺産分割事件の処理をめぐる諸問題』司法研修所編 法曹会 285頁)。
ただ、交通死亡事故における生活費控除率は、「事故の被害者」の立場に応じた数値ですが、寄与分における生活費控除率は「相続人が節約できた生活費」を計算するものですから、寄与した相続人の立場に置き換える必要があります。
なお、(a)と(b)は、被相続人が寄与者の被扶養者の生活費までも負担していた場合であってはじめて適用できるでしょう。
金銭等出資型による寄与分は、出資したものにどのくらい経済的価値があったかで評価します。
金銭を贈与した場合、不動産を贈与した場合、不動産購入のための出資をした場合の順番で解説します。
贈与時から相続開始時まで長期間経過している場合は、企業物価指数や消費者物価指数を参考に貨幣価値の変動を考慮します。
不動産を贈与した場合の基本的な計算式は、下記の通りです。
不動産購入の資金を出資した場合の基本的な計算式は、下記の通りです。
購入代金の100%を出資していたときは、相続時の評価額の100%が寄与分となりますが、例えば購入代金の45%を出資していたときは、相続時の評価額の45%を寄与分とするわけです。
療養看護型の寄与分は、寄与によって被相続人が支払わなくて済み、財産が維持された金額となります。
寄与者の労務提供を金銭評価することになり、プロの看護人・介護人に支払う日当額に基づいて計算します。
この場合の寄与分額は、負担した実費そのままになります。
なお、「特別の寄与」といえるためには、夫婦間や親族間の扶助義務(760条、877条)から当然に期待される程度の介護では足りませんから、例えば、プロの介護士が休みの期間中にだけ介護したなどという程度では寄与分を主張できません。
扶養型の寄与分は、扶養のために実際に負担した金額です。
たとえば、被相続人が老人ホームに入所し、寄与者がその費用を支払ったような場合は、負担した金額は明らかです。
しかし、寄与者が被相続人と現実に同居して扶養をしており、扶養の支出と寄与者自身の生活費を区分することが困難な場合があります。
その場合は、生活保護基準などの各種統計数値を参考として、被相続人の生活に必要な金額を算出します。
さらに、このタイプで問題となるのは、そもそも相続人に被相続人を扶養する義務がある場合です。
この場合、負担した金額のうち、どこまでが扶養義務の範囲内で、どこからが「特別の寄与」なのかという難問が生じます。
実務では、ひとつの解決方法として、負担額のうち寄与者の法定相続分割合の金額は、扶養義務の範囲内とみなして差し引くという扱いがあります。
厳密な理論的根拠があるとは言えませんが、共同相続人間の公平という寄与分制度の趣旨に適しますし、簡明・迅速な処理が可能だからです。
寄与者自らが被相続人の財産を管理する行為をした場合は、それを財産管理のプロ(例:不動産業者、弁護士等)に依頼したときの費用が基準となります。
他方、建物の修繕費用や火災保険料などの経費を負担したときは、その実費が寄与分です。
本記事では、寄与分について、主にその計算方法を説明しました。
寄与の仕方は、人や場合によっても異なるため、画一的な計算ができないのが難点です。
金額決めについても、素人の方同士の話し合いでは、なかなからちが明かないかもしれません。
被相続人のために尽くしたことを相続に反映してもらいたいとお考えの方は、相続問題に強い弁護士に相談されることをお勧めします。