遺言とは?遺言の基礎知識や遺書との違い、遺言の種類について解説
「遺言」という言葉は知っているけど、実際にどのようなものが遺言に当たるのかを理解できている人は少ないのではないでしょ…[続きを読む]
しかし、遺言書には、特殊な状況下で作成される遺言書を除き、3種類の遺言書が存在しますので、各遺言書のメリット・デメリットを踏まえて、どの遺言書を選択するかを決めなければなりません。
この記事では、3種類の遺言書のうち、「秘密証書遺言」の概要と、メリット・デメリット、作成方法などをご説明します。
作成方法を先に知りたい方は「5.秘密証書遺言の作成方法と流れ」をお読みください。
また、他の2種類についてはそれぞれ下記の記事で解説しています。
【関連記事】正しい遺言の書き方|自筆証書遺言の要件と書き方の5つのポイント
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目次
民法は、遺言の方式として、死期が迫っているとか一般社会から隔離されているといった特別な場合の「特別方式」と、それ以外の通常の場合の「普通方式」を定めています(民法967条)。
一般的に、「遺言書」としてイメージするものは、普通方式の遺言のことです。
普通方式の遺言には以下の3種類のものがあり、秘密証書遺言はこのうちに一種です。
遺言書全般について、詳しくはこちらの記事で解説しています。
秘密証書遺言とは、証人の立ち合いにより遺言書の「存在」を証明してもらいつつ、遺言の「内容」を秘密にしておくことができる遺言です。
公正証書遺言のように証人の立ち合いを必要とすることで、遺言書の存在を証明しながらも、自筆証書遺言のように遺言の内容を誰にも知られないようにすることが可能です。
このように、秘密証書遺言は、自筆証書遺言の特徴と公正証書遺言の特徴をミックスしたようなものだと理解しておくとよいでしょう。
秘密証書遺言は、自筆証書遺言や公正証書遺言と比べるとあまり聞き慣れない種類の遺言書です。
これからご説明するメリットとデメリットをよく理解し、ご自分に適した方法かどうかを考えてみましょう。
秘密証書遺言は、公正証書遺言のように公証人がその内容を作成するものではありません。
また、証人の立ち合いが必要になりますが、証人は遺言書が存在することを確認するだけで、遺言書の内容を見ることはありません。
そのため、遺言書の内容を秘密にできるというメリットがあります。
自分が亡くなるまでは誰にも遺言書の内容を知られたくない、という場合には有効な手段といえます。
秘密証書遺言を作成する際は、遺言書を作成した後、封筒に入れて封をし、封をした部分に押印をすることが必要です。
一度封をしたものを法律上の手続き(検認)を経ずに開封すると、秘密証書遺言の要件を満たさず無効となります。
そのため、秘密証書遺言は、自筆証書遺言と異なり、遺言書が偽装されたり変造されたりすることを防止することができます。
しかし、検認せずに開封するだけで無効になる点は、遺言者の死後、他の人の行為で無効になってしまう可能性がある点でデメリットとも言えます(デメリット④)。
自筆証書遺言は、全文を自筆で書くことが要件とされているため、パソコンを利用した遺言書は認められていません。
これに対して、秘密証書遺言は署名のみ自書で書かれていれば、そのほかの部分はパソコンやワープロを利用して作成することができます。
また、本人が作成する必要はなく、代筆による方法でも可能です。
パソコンで作成することで書き間違い等の修正が簡単になり、作成の負担を軽減することができます。
預貯金口座、不動産、有価証券など多くの財産を持っている方や、遺言の内容が長くなる方にとっては、特にメリットが大きいでしょう。
秘密証書遺言には、以下のデメリットがあります。
秘密証書遺言は、公証役場で公証人と証人二人の立ち合いのもと作成されますが、公証人と証人は、遺言書の内容を確認することはありません。
したがって、遺言書に署名捺印がない、遺言書の印と封筒の印が異なるなどの形式面の不備をチェックしてもらえることもないため、秘密証書遺言としては無効になってしまうというリスクがあります。
秘密証書遺言の作成には、公証役場での手続きと証人二人の立ち合いが必要になります。推定相続人など身近な人は証人にはなれないので、それ以外の方から証人を二人も探すことは実際かなり負担になります。
また、秘密証書遺言の作成には、公証役場で支払う手数料として11,000円が必要になります。
秘密証書遺言は、公正証書遺言の手数料と比べると安価ですが、秘密証書遺言作成にかかる手間は、公正証書遺言作成の手間とほぼ変わりありません。
秘密証書遺言は、公証役場で手続きをするという点では、公正証書遺言と共通します。
しかし、公正証書遺言が公証役場で保管してくれるのに対し、秘密証書遺言は公証役場で保管をしてくれませんので、自分で保管する必要があります。
2020年7月10日から、自筆証書遺言については法務局で保管をしてもらえることになりましたが、秘密証書遺言については対象外のため、やはり自分で保管する必要があります。
そのため、きちんと保管をしていないと遺言書を紛失したり、自分が亡くなった後、遺言書を見つけてもらえないというリスクがあります。
とはいえ、証人が相続人らに遺言書を作成していたことを伝えてくれることもありますので、遺言書がありそうな場所は探してもらえるでしょう。
相続開始後に秘密証書遺言の中身を確認するためには、家庭裁判所の検認の手続きをする必要があります。
検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、検認時点における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止する手続きをいいます。
検認をせずに遺言書を開封した場合、秘密証書遺言としては無効になるとともに、50,000円以下の過料に処されるおそれもあります。
例えば遺言者の死後、相続人が検認せずに開封すると、それだけで法的に秘密証書遺言としては無効になってしまいます(自筆証書遺言の要件を満たしていれば、自筆証書遺言としては有効です)。
同じように公証役場で手続きをする公正証書遺言は検認が不要ですので、死後の手続き等まで考えるとデメリットと言えるでしょう。
秘密証書遺言は、内容を誰にも知られずに作成でき、パソコンや代筆でも作成できるという点が大きなメリットです。
そのため、遺言書の内容が知られた場合には家族関係が悪化するおそれがあるなど遺言書の内容を絶対に秘密にしておきたい方や、全文を手書きで書くことが困難な方などには秘密証書遺言はおすすめといえます。
もっとも、秘密証書遺言は、自筆証書遺言や公正証書遺言に比べて利用頻度が非常に低い遺言です。
相続法が改正されたことにより、自筆証書遺言の利便性も向上し、財産目録でパソコンを利用することも認められるようになりました。また、手書きが困難という理由だけであれば公正証書遺言の方がメリットが大きいです。
したがって、どうしても秘密証書遺言でなければならないという方以外は、目的に合わせて自筆証書遺言か公正証書遺言を選択するのがよいでしょう。
秘密証書遺言の作成方法は、以下のとおりです。
遺言書は、自書したもののほか、他人に書いてもらったものでもパソコンで作成したものでも大丈夫です。そのため、署名押印さえできれば文字を書けない方でも利用することができます。
なお、一度作成した内容の変更や訂正は、自筆証書遺言と同様の厳格な方式が要求されていますので、注意が必要です(民法970条2項、968条2項)。
訂正したことを付記して、変更場所に署名押印をする必要があります。
遺言書が完成したら、遺言書を封筒に入れて、封をします。
そして、封をした部分に遺言書で使用した印鑑と同じもので押印します。ここで重要となるのが、「遺言書と同じ印鑑を使用する」ということです。
民法では、「遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること」(民法970条1項2号)と規定されていますので、遺言書と異なる印鑑を使用した場合、秘密証書遺言としては無効となります。
なお、秘密証書遺言として無効となったとしても、自筆証書遺言の要件を満たしていれば、自筆証書遺言としては有効です。
遺言書の入った封筒を持参し、証人二人を連れて公証役場に行きます。
公証役場では、公証人と証人の前で遺言書を入れた封筒を提出し、自分の遺言であることと自分の住所と氏名を申述します。
遺言書を封筒から出すことはありませんので、遺言書の内容を公証人や証人に知られることはありません。
なお、以下の者は証人になることができませんので、証人を連れていく際は注意してください。
公証人が、遺言書の入った封筒に、遺言書を提出した日付と遺言を書いた人の住所・氏名を記入します。
そして、その封筒に遺言を書いた人と証人二人が署名捺印をすれば、秘密証書遺言の完成となります。
秘密証書遺言は、公正証書遺言とは異なり、遺言書を作成した事実のみ公証役場に記録され、内容までは記録保管されることはありません。
そのため、遺言書については、自分で保管をするか、信頼できる第三者に委ねる方法で保管することになります。
作成した遺言書を安全に保管し、自分が亡くなった後確実に相続人に伝える方法として、弁護士など専門家に保管を委託することも考えてみるとよいでしょう。
秘密証書遺言は、自筆証書遺言の特徴と公正証書遺言の特徴をミックスしたようなものであるため、それぞれのメリット・デメリットを併せ持っています。
相続法改正により自筆証書遺言の利便性が向上したこともあり、秘密証書遺言の利用頻度は少なくなってきています。
しかし、場合によっては自筆証書遺言や公正証書遺言よりも秘密証書遺言を選択するほうがよいケースもあります。
どの種類の遺言書を選択したほうがよいかについては、遺言書作成の目的、遺言書の内容、手続きの煩雑さなどを総合的に判断する必要があります。
そのため、自分がどの種類の遺言書を選択したほうがよいか迷われている場合は、専門家である弁護士に相談するのがよいでしょう。