相続人が行方不明のときでも遺産分割できる!3つの方法

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相続人が行方不明のとき
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遺産相続において、相続人が行方不明というケースは案外珍しくありません。遺産分割手続を進めることができず、他の共同相続人としては非常に困ります。

ただし、解決する方法があります。この記事では、相続人が行方不明のときに、他の相続人が遺産分割手続を進める方法について説明します。

1.相続人が行方不明という状況の整理

相続人が行方不明といっても、場合を分けて考える必要があります。

1-1.そもそも相続人が誰なのか不明という段階

まず、誰が相続人なのか、知っている親族の範囲が本当に相続人全員なのか、それがまだわからないという段階があります。

どのような相続であっても、最初は、この段階です。
そして相続では例外なく戸籍の調査からスタートすることになります。被相続人の死亡時の戸籍を起点として、出生時まで遡って戸籍謄本類を調査することが必要です。

戸籍から相続関係が判明すれば、同時に戸籍附票の記載から最終的な住民票上の住所が判明します。そうすれば、その住所に手紙を出すなりして連絡をとることができます。

戸籍による相続人の調査については、次の記事を参考にしてください。

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1-2.戸籍では明らかとならない場合

ただし、冒頭の例のように、被相続人が「遺言による認知」をした場合で、認知される子や母親の氏名しか記載がなく、関係者全員が、その子やその母親を知らないというケースもあります(だからこそ「隠し子」です)。

この場合は戸籍は頼りになりませんから、被相続人の友人・知人から、過去の交友関係などを聴取して、まさに「人捜し」をするしかありません。
現在では、SNSを活用することも一考に値します(ただし、偽者が出現するリスクはあります)。

捜しても不明であれば、戸籍への認知の届出(戸籍法64条)をすることもできず、戸籍上は隠し子は存在しないことになりますから、他の共同相続人だけで遺産分割協議を行い、作成した遺産分割協議書に基づいて、不動産や預貯金の名義変更などの手続を行うことが可能です。

もっとも、後から子が名乗り出た場合は、遺産分割は無効となって、すべてやり直しとなってしまいますが、これは避けようがありません。

1-3.相続人を特定できているが、その所在が不明という段階

他方、戸籍から相続人であることが判明し、その住民票上の住所も判明しているが、実際にはそこに居住しておらず、現在の住居がわからないという段階があります。

この記事では、以後、この段階の対処法を解説することとします。以下、これを「相続人が行方不明」な場合と言います。

2.相続人が行方不明な場合は遺産分割を進められない?

2-1.遺産分割ができない理由とは

相続人が行方不明の場合、残りの共同相続人だけで遺産分割を行うことはできません。

遺産分割が終了する前の遺産は、共同相続人の共有財産であり、行方不明者は、どの遺産に対しても共有持分を有しています(民法898条、899条)。

遺産分割とは、各相続人が遺産全体に対して有している各自の共有持分を、他の共同相続人に譲渡したり、他の共同相続人の共有持分と交換したりする行為の側面があります(民法911条参照)。

この、譲渡も交換も、共有持分権の処分であり、他の共同相続人にとっては、行方不明者の共有持分権は他人の権利に過ぎませんから、勝手に処分する権限などありません(民法251条、264条)。

したがって、残りの共同相続人の合意だけで遺産分割を行うことはできないのです。

2-2.遺産分割を進めるための3つの選択肢

とはいえ、相続人が行方不明の場合、その行方が判明しない限り遺産分割が不可能ということはありません。

もしも、絶対に分割できないとすると、数次相続の発生によって、永遠に細分化され続ける遺産が生じてしまいます。
例えばそれが土地の場合、現実的に使用することが困難となりますから、社会全体として大きな損失となってしまいます。

そこで、相続人が行方不明の場合でも、遺産分割を可能とする選択肢として次の3つが考えられます。

  • ①失踪宣告
  • ②不在者財産管理人による遺産分割
  • ③公示送達による遺産分割審判

この3つについて、順次、説明しましょう。

3.選択肢① 失踪宣告

3-1.失踪宣告とは

失踪宣告とは、行方不明者が一定の期間にわたり生死不明であった場合に、利害関係人からの申立を受けた家庭裁判所の宣告により、行方不明者が死亡したものとみなす制度です(民法30条)。

失踪宣告は、次の2つのパターンで利用できます。

  1. 生死不明状態が7年間継続したとき(普通失踪)
  2. 戦争、沈没、天災などの危難に遭遇した者が、危難が去ったときから1年間にわたり生死不明であるとき(特別失踪)

行方不明者をめぐる法律関係を確定、安定させて、配偶者や相続人などの利害関係人が迷惑を被ることを阻止することに狙いがあります。

法的に死亡したことになるので、行方不明者を被相続人とした相続が開始され、その法定相続人が行方不明者の地位を承継します。
その地位を承継した者と、元々のその他の共同相続人とで遺産分割を行うことができます。

3-2.行方不明の相続人が失踪宣告を受けたときの相続関係の例

例えば次のようなケースです。

  • 被相続人:父A(2020年10月死亡)
  • 相続人:長男B(2010年10月から行方不明)、次男C
  • 長男Bの相続人:妻D、子E

このケースで長男Bが失踪宣告を受けると、最後に生存が確認された2010年10月の7年後である2017年10月に死亡したとみなされます。

すると、長男Bは父Aよりも前に死亡しているので、父Aの相続にあたっては、Bの子E(父Aの孫)が代襲相続人となります(妻Dには代襲相続権はありません)。

この記事では、代襲相続とは何か、代襲相続の原因は何か、誰が代襲相続人になりえるか、相続分や遺留分はどうなるか、代襲が…[続きを読む]

この場合、父Aの相続人は「次男C」と「長男Bの子E」となりますので、2人で遺産分割協議を行うことができるのです。

なお、失踪宣告制度の詳細や、同制度に類似する「認定死亡制度」の詳細については、次の記事をご覧ください。

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4.選択肢② 不在者の財産管理人による遺産分割

4-1.不在者の財産管理人とは

ある者が、自分がこれまで住んでいた住所・居所を去ってしまい、財産が残されている場合には、利害関係人の請求を受けた家庭裁判所は、その財産を管理する者を選任することができます(民法25条)。
これを「不在者の財産管理人」と言います。

行方不明者が共同相続人である場合、共同相続した遺産という財産(厳密には共有持分権)が残されていることになり、他の共同相続人は利害関係人として、財産管理人の選任を請求できるのです。

こうして選任された財産管理人は、行方不明者の法定代理人として財産管理権を有します。
ただ、本人の利益を図るための存在ですので、財産を維持管理する行為(民法103条の「保存行為」など)しかできず、遺産分割のような共有持分権を処分する行為を行うには、家庭裁判所の許可を得る必要があります(民法28条)。

このように、他の共同相続人が家庭裁判所に不在者の財産管理人を請求し、選任された財産管理人が具体的な遺産分割案を家庭裁判所に示して遺産分割の許可を得ることで、財産管理人を加えての遺産分割が可能となります。

4-2.不在者の財産管理人による遺産分割の限界と「帰来時弁済」

法定相続分を下回る遺産分割はできないのが原則

さて、前述のとおり、不在者の財産管理人は財産を維持し管理する行為しかできないことが原則ですから、遺産分割にあたって、行方不明者の法定相続分を下回る分割案に同意することはできませんし、そもそも、そのような分割案は裁判所が許可しません。

例外として帰来時弁済型遺産分割

ただし、例外として「帰来時弁済(きらいじべんさい)」を内容とした遺産分割を裁判所が許可する場合もあります。

「帰来時弁済」とは、例えば、次のような内容の遺産分割です。

  • 行方不明者の法定相続分を他の共同相続人が取得したうえで、将来、行方不明者が帰ってきた場合には、行方不明者に代償金を支払うこととするケース
  • 行方不明者の法定相続分を、不在者の財産管理人ではなく、他の共同相続人が預かり管理し、将来、行方不明者が帰ってきた場合には、行方不明者に引き渡すこととするケース

「帰来時弁済」は、何故利用されるのか

このような「帰来時弁済」が利用される理由は何でしょうか?

不在者の財産管理人が行方不明者の法定相続分を下回る分割を絶対に行えないとするならば、仮に法定相続分どおりの遺産を行方不明者に分割したとしても、行方不明者が帰って来ない限り、財産管理人が財産を管理し続けなくてはなりません。

不在者の財産管理人の報酬は、行方不明者の財産の中から支出されます(民法29条2項)。
このため行方不明者が現れない限り報酬が財産から差し引かれ、年々財産は目減りし、底をついたら財産管理人の職務が終わるということになります。

これでは何のための財産管理かわかりませんし、財産管理人も延々と職務が続くことになってしまいます。

そこで、事案によっては、裁判所が前述のような「帰来時弁済」の遺産分割を認めることによって、不在者の財産管理人による管理を終わらせるのです。

「帰来時弁済」が許可される条件とは

「帰来時弁済」を認めるか否かは、裁判所の裁量による判断ですが、安易に認めると、行方不明者の利益を害する危険があります。

そこで裁判所では、「代償金」や「預かり資産」が金100万円以下の場合には許可を与える一方、金100万円を超える場合は、諸事情を考慮してケースバイケースで判断しています。

考慮される諸事情とは例えば、次のような事情です。

  1. 「代償金」や「預かり資産」の額(多額なら許可されにくい)
  2. 本人が帰来する可能性(可能性が高ければ許可されにくい)
  3. 本人の直系卑属(子、孫)である相続人の有無(存在すれば許可されにくい)
  4. 本人と他の共同相続人の関係(疎遠であれば許可されにくい)
  5. 義務を負う共同相続人の資力(資産、経済力に乏しければ許可されにくい)

不在者の財産管理人の選任申立手続については、次の記事をご覧ください。

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5.選択肢③ 公示送達による遺産分割審判

5-1.不在者の財産管理人なしでも、遺産分割審判を利用できる可能性

通常、共同相続人による遺産分割協議ができない場合は、裁判所に遺産分割調停を申し立て、調停でも合意できない場合は、裁判所の審判によって遺産分割を行うことができます(民法907条、家事事件手続法244条)。

共同相続人の中に行方不明者がいる場合も、遺産分割協議をすることができない状況ですので、遺産分割調停、遺産分割審判の利用が考えられます。

ただ行方不明者が裁判所での話し合いに参加することは考えられないので、遺産分割調停は現実味がありません。

これに対し、遺産分割審判は利用の可能性があります。「公示送達」の活用です。

5-2.遺産分割審判における「公示送達」の利用

公示送達について、簡単にまとめると、次の3点に集約されます。

  1. 行方不明者が相続人である場合、他の共同相続人が裁判所に遺産分割審判を申し立てると、裁判所は申立書を行方不明者に「送付」しなければならないが、「送達」の方法を選択することもできる。
  2. 「送達」の方法のひとつとして、相手の居所が不明の場合に2週間貼り紙を掲示するだけで済む「公示送達」がある。
  3. 他の共同相続人は「公示送達」の利用を申し立てることができるが、それを採用するかどうかは裁判所の裁量である。

このように、相続人が行方不明であっても裁判所が認めてくれれば、公示送達の方法を利用することで遺産分割審判を受けることが可能ですが、裁判所が認めてくれない場合は審判申立ては却下されます(家事事件手続法67条2項、49条5項)(※)。

※法務省民事局民事法制管理官・金子修編著『逐条解説・家事事件手続法』(商事法務)230頁

もう少し具体的に知りたい方は下のボタンからお読みください。

遺産分割審判の申立がなされると、家庭裁判所は、その申立書の写しを相手方に「送付」しなくてはなりません(家事事件手続法67条1項)。
この「送付」というのは単なる郵送でも構わないとされています。

家事審判では、書類のやりとりは概ね「送付」で済まされるのですが、審判を受ける相手方の利益を保護するという観点から、重要な書類に関しては「送達」という方法を選択することもできます。
「送達」とは、例えば民事訴訟の当事者に対して、訴状や判決書を送付するための特別な郵送方法です(民事訴訟法98条)。

家事事件では、どのような場合に「送達」の方法を選択するかは裁判所の裁量に委ねられており(※)、裁判所が「送達」を選択した場合は民事訴訟の方式に従うことになります(家事事件手続法36条)。

※前掲「逐条解説・家事事件手続法」113頁

さて、「送達」の方法のひとつに「公示送達」という制度があります(民事訴訟法110条)。

これは、裁判所書記官が書類を保管し、受け取るべき人が現れれば、いつでも交付できることを裁判所の掲示場に貼り紙しておくものです。
貼り紙で掲示を開始して2週間経過したときは、「送達した」ことにできるのです(民事訴訟法111条)。

また裁判所書記官は、念のために公示送達があったことを官報または新聞に掲載することもできます(民事訴訟規則46条2項)。

この公示送達は、当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合に、他方の当事者の申立てによって利用することができます(民事訴訟法110条1項)。

5-3.裁判所が公示送達を認めてくれる場合とは?

では、裁判所は、どのような場合であれば公示送達を認めてくれるのでしょうか?

この点については、次の記述が参考になります。

「遺産分割の前提問題等に争いがなく、かつ法定相続分に従って遺産分割を行う場合には遺産分割審判を利用する(不在者に対しては公示送達を行う)ことも可能です。したがって、相続人の中に不在者がいるからといって必ずしも不在者財産管理人の選任が必要となるわけではないことには注意を要します。」(※)

※弁護士高中正彦他編著『相続のチェックポイント』(弘文堂)23頁

「遺産分割の前提問題」とは、遺産の範囲、相続人の範囲、各相続人の具体的な相続分にかかわる特別受益や寄与分など、遺産をどのように分割するかを決めるために、先に解決しておかなくてはならない諸問題です。

このような部分に争いがあるようであれば、公示送達で済ませてしまうことは行方不明者の権利保護をないがしろにし過ぎるでしょう。法定相続分と異なる分割をする場合も同様です。

このようなケースでは、裁判所に公示送達を申し立てても認められる可能性はありません。
ただし、裁判所は直ちに審判申立てを却下するのではなく、申立てを維持したまま、不在者の財産管理人の選任申立をするよう促す場合が多いと思われます。

6.まとめ

相続人が行方不明である場合に、遺産分割の手続を進める3つの方法について説明しました。

どの方法を選択することが適切なのかは、事案によって異なります。
相続問題に強い弁護士に相談、依頼されることをお勧めします。

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