行方不明者が失踪宣告を受けたら、相続はどうなる?

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失踪宣告を受けたときの相続

警察庁の統計によれば、令和元年の行方不明者の届出受理数は、全国で86,933人にのぼります。

身近な人が行方不明になってから長期間が経過してくると、相続関連でも多くの不都合が生じますよね。
本人の財産を勝手に処分することもできないですし、あるいはその人が相続人にあたる場合、全員揃わないので遺産分割協議を始められず、他の相続人が困ってしまいます。

本人が帰ってくる望みが著しく薄いときには、失踪宣告を受けるのも一つの手です。

本記事では、どんなときに失踪宣告を受けられるか、受けたらどうなるか、また、万が一本人が生きていた場合にはどうなるのかなどをご説明します。

1.失踪宣告とは

失踪宣告とは、長い間本人が生死不明な場合に、法律上は死亡したものとみなす制度です。
司法統計によれば、平成30年度の全国の失踪宣告の件数は2,315件でした。

失踪宣告には、普通失踪特別失踪の二つがあります。

普通失踪

不在者の生死が7年間不明のときは、普通失踪として失踪宣告が受けられます(民法30条1項)。

7年間の起算日は、最後に本人の生死が確認された日の翌日です。
それから数えて満7年が経過した日が死亡日として扱われます(民法31条)。

特別失踪

一方、戦争・船舶沈没・震災などの危難に遭遇した者が、危難の後1年間生死不明の場合には、請求により特別失踪として失踪宣告を受けられます(民法30条2項)。

1年間の起算日は、危難により生死が分からなくなった日です。
遭遇した危難が去った時点が死亡日とみなされます(民法31条)。

普通失踪 特別失踪
対象 不在者が7年以上行方不明 戦争・震災・事故などに遭遇した不在者が1年以上行方不明
起算日 最後に本人の生死が確認された日の翌日 危難により生死が分からなくなった日
死亡日 起算日から数えて満7年が経過した日 遭遇した危難が去った日

2.失踪宣告が相続にもたらす影響

行方不明者に失踪宣告が下されると、行方不明者を取り巻く相続関係はどのように変化するのでしょうか。

2-1.失踪者本人の遺産相続の発生

行方不明者が失踪宣告を受けると、その人は法律上、死亡したものとみなされます。
したがって、当然、本人の遺産について相続が発生します。

相続発生日は、通常の相続と同様、「死亡日」として取り扱われている日です。

2-2.相続人からの除外

さらに、失踪者がもともと誰かの相続人にあたる人物であった場合、失踪宣告に伴って相続人ではなくなります。
前述の通り、失踪宣告によって死んだとみなされるので、当然といえば当然ですね。

通常、遺産分割協議は相続人全員が出席する必要があるため、相続人の中に行方不明者がいると話し合いが始められません。
しかし、失踪宣告によって行方不明者を相続人から除外することで、他の人たちで遺産分割協議を開始できます。

【遺産相続発生→相続人の失踪宣告】の順は要注意

相続人からの除外についてですが、2-1.でみたように、失踪宣告を受けると失踪者本人の遺産相続も発生しますから、その兼ね合いにも注意が必要です。

たとえばある家庭内で、父親A(被相続人)が亡くなって遺産相続が発生し、共同相続人の中に7年以上音信不通の長男Bがいたとしましょう。
このとき、そのままでは遺産分割できないので失踪宣告を受けると(=長男Bが死亡したとみなされると)、長男Bに子供がいれば、その子供がBの遺産に加え、Bに代わって祖父にあたるAの遺産まで相続することになります。

長男Bが死亡したとみなされる日によって、代襲相続か、数次相続・再転相続かは変わりますが(※)、結論は同じです。
つまり、失踪宣告によって相続人が変わることがあるのです。

※代襲相続とは、被相続人より相続人が先に亡くなっているなど場合に、相続人の子供等が代わって相続人になることです。
数次相続や再転相続とは、被相続人の遺産分割がまだ終わっていないうちに、その相続人まで亡くなってしまい、相続が重なる状態を指します。

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7年または1年が経過していないが、遺産分割協議を始めたいとき

なお、少し話が変わりますが、「不在者が行方不明になってから経過した期間が不十分で、普通失踪と特別失踪のいずれにも当てはまらなさそうだが、遺産分割協議は開始したい」というときには、不在者財産管理人を選任すれば協議を開始することができます。

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3.死亡保険金や死亡一時金の給付は受けられる?

3-1.保険契約が継続していれば死亡保険金の給付対象になる

失踪宣告を受けた人が死亡した取り扱いになるということは、死亡保険金の支払い対象になるということでもあります。

ただし、死亡保険金の給付を受けるには、失踪宣告がなされるまでの間、保険契約が有効に続いていた必要があります。
普通失踪の場合は7年間、特別失踪の場合は1年間、行方不明者に代わって誰かが保険料を支払い続けていなければなりません。

3-2.死亡一時金も給付されるが、請求は2年以内に

死亡保険金と名前は似ていますが全く異なるのが、死亡一時金です。

死亡一時金とは、国民年金の第1号被保険者として国民年金保険料を36ヶ月以上納めた人が、老齢基礎年金、障害基礎年金のどちらも受け取らずに死亡したときに、その人と生計を同じくしていた遺族に支給されるものです。
遺族基礎年金を受け取るときは給付されません。

なお、死亡一時金の支給を希望するときは、通常、死亡日の翌日から数えて2年以内に請求を行わなくてはなりません。

しかし、失踪宣告は死亡日とされる日から2年が既に過ぎている場合もあるため、失踪宣告の審判の確定日の翌日から2年以内であっても死亡一時金の請求が認められるとされています。

4.失踪宣告を受けていた人が生きていたら/違うときに死亡していたら

失踪宣告を受けた人が、本当は生きていてある日ふらっと戻ってきたり、実は全く違うときに死亡していたりする可能性もあります。

その際には、失踪者本人やその配偶者などの利害関係人が、失踪宣告の取り消しを家庭裁判所に請求することで、覆すことができます(民法32条1項)。

「死んだと思っていた人が生きていたから取り消すのは分かるけれど、死亡日時が違うだけなら、死んでいるのには変わりないし、わざわざ失踪宣告を取り消す必要はないのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、遺産相続では、死亡時期が変わることで相続人や相続分が変わってくる可能性があります。
そのため、死亡日時が異なる場合でも失踪宣告の取り消しが認められているのです。

失踪宣告の取り消しで、それまでに行った遺産分割はどうなる?

では、失踪宣告の後、もう遺産分割は完了しているのに、失踪宣告が取り消されてしまった場合はどうなるのでしょうか。

失踪宣告によって財産を得た人は、失踪宣告が取り消された時点でその権利を失いますが、得た財産のうち現在も残っている利益(現存利益)のみ失踪者本人に返還すればよいこととされています(民法32条2項)。

なお、現存利益は、例えばお金を生活に使って残ってないから返還しなくていいというわけではありません。
元々自分の財産から支出するはずだったものを、失踪宣告と相続によって得た財産で賄った場合、まだ現存利益があるとされる場合があります(出費の節約、といいます)。

認定死亡と失踪宣告

なお、失踪宣告と似たものに「認定死亡」があります。

認定死亡とは、水難事故や火災事故に遭った人が、遺体等は確認されないものの確実に死んでいると考えられる場合に、その事故の取り調べをした公務員が行政機関(死亡地の市町村長)に対して死亡報告をし、戸籍の処理等を行うことです。

認定死亡はいわば行政のための簡易的な処理であり、後になって行方不明者が生存している証拠が出てくれば、直ちに覆されます。

一方、一度下された失踪宣告は、上記でみたように、本人かその利害関係者が家庭裁判所に取り消しの請求をする手続きを踏むことによってしか、覆すことはできません。
失踪者が実は生存していたという事実だけでは足りないのが特徴です。

5.失踪宣告の手続きの流れや費用

最後に、失踪宣告の手続き(家庭裁判所への申し立て)は実際にどのような流れで進めていくかについて解説します。

申立人

申立人は、行方不明者の利害関係人でなくてはなりません。
利害関係人とは、行方不明者の配偶者・相続人にあたる者・財産管理人・受遺者などが挙げられます。

流れ

失踪宣告の手続きの流れは以下の通りです。

  1. 申立人が必要書類(後述)を集める
  2. 行方不明者の本来の住所地や居住地を管轄する裁判所(※)に提出し、失踪宣告を申し立てる
  3. 申立人や不在者の親族に、家庭裁判所による調査が入る
  4. 不在者本人あるいはその生存を知っている人は届け出るよう官報や裁判所の掲示板で催告される
  5. 一定期間(普通失踪:3ヶ月以上、特別失踪:1ヶ月以上)届出がなければ、失踪宣告の審判が下される

※行方不明者の住所地や居住地が不明の場合には、東京家庭裁判所に申し出ます。

必要書類

申立人が家庭裁判所に提出するのは、下記の書類です。

必要書類 備考
家事審判申立書 こちらから取得する
行方不明者の戸籍謄本(全部事項証明書) 行方不明者の本籍地の市町村役場で取得する
行方不明者の戸籍の附票
失踪を証明する資料
・捜索願受理証明書
・安否確認のため不在者に送ったが「あて所に尋ねあたりません」で還付されてきた手紙など
申立人の利害関係を証明する資料 戸籍謄本(全部事項証明書)など
自分の本籍地の市町村役場で取得可能

費用

失踪宣告の手続きでかかる費用は、おおよそ以下の通りです。

  • 収入印紙代…800円
  • 郵便切手代…申立て先の家庭裁判所にご確認ください。
  • 官報公告料4,816円(内訳:失踪者の生存報告の催告3,053円、失踪宣告の手数料1,763円)

6.まとめ

本記事では、失踪宣告について解説してきました。

7年以上、もしくは災害などの危難に遭遇してから1年以上行方不明の場合は、失踪宣告を受けられる可能性があります。
失踪宣告を受けると、死亡したものとみなされ、本人の相続が発生するほか、失踪者が相続人にあたる場合は相続人ではなくなります。

万が一、失踪宣告を受けた人が実は生きていることが後から判明したり、死亡日時が違ったりするときには、失踪者本人かその利害関係人が家庭裁判所に請求することによってしか失踪宣告は取り消すことができません。

このように失踪宣告は一度下されると覆すことができない重い審判ではありますが、いつまでも行方不明の方の帰りを待っているだけでは、遺産分割が停滞し、その間に相続が複数発生して、どんどん関係が複雑になっていくおそれがあります。

もしも失踪宣告の手続きや、難航している遺産分割協議など、少しでも不安な点がある場合には、弁護士などにご相談だけでもされてみるのがおすすめです。

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