正しい遺言の書き方|自筆証書遺言の要件と書き方の5つのポイント
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本や絵画、音楽などの著作物には、著作者がいて、著作権があります。
この著作権も、一般的な遺産のように相続することができるのでしょうか。
本記事では、著作権の相続について解説します。
目次
まず、著作権は、「著作者人格権」と「著作財産権」の二つに分けられます。
そのうち、相続できるのは「著作財産権」のみです。
なお、歌手や演奏家などの実演家の権利である「著作隣接権」も相続の対象です。
著作者人格権とは、著作者の思想や人格を保護するための権利です。
具体的には、①未公表の作品について発表する公表権、②作品を発表する際に作者名の表示について決定する氏名表示権、③著作物を無断で改変されないための同一性保持権の3つがあります。
これらの権利は、本人にしか帰属しない特別な権利であり、相続できません(著作権法59条)。
一方、著作財産権とは、他人に勝手に著作物を利用されないようにすることで、著作者の経済的利益を保護する権利です。
詳しくいうと、以下のような権利が著作財産権にあたります。
なお、便宜上、本記事では「著作財産権」のことを単に「著作権」と表記します。
権利(条文) | 権利の内容 |
---|---|
複製権(著作権法21条) | 作品の模写、撮影、録画・録音などをしたり、それを保管したりする権利 |
上演権及び演奏権(22条) | 演劇や漫才などを上演したり、音楽の演奏・歌唱をしたりする権利 |
公衆送信権(23条) | 公衆に向けて著作物を放送したり、インターネットで送信したりする権利 |
口述権(24条) | 講演や朗読など、著作物を口頭で公に伝達する権利 |
展示権(25条) | 絵画や写真などを公に展示する権利 |
頒布権(26条) 譲渡権(26条の2) 貸与権(26条の3) |
映画の著作物等を多くの人に向けて譲ったり、貸したりする権利 |
翻訳権・翻案権等(27条) | 著作物を海外で発表する際に、その翻訳等をする権利 |
二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(28条) | ある著作物を映像化するなど、表現方式を変え、二次的な著作物を作る権利 |
これらの権利は相続の対象になります。
したがって、たとえば楽曲の著作権を相続した場合、相続した人は、それ以降第三者がその楽曲を公の場で演奏する際に、使用料を徴収できます。
反対に、相続した人の許可がなければ、上記の行為を他の人が行うことはできなくなります。
著作権を獲得するための登録手続きなどは不要で、創作した時点で自然的に発生します(著作権法17条2項)。
しかし、そんな著作権も永遠の権利ではなく、保護期間というものが定められています。
著作権の保護期間は、以前は50年とされていましたが、現在では70年とされています(※)。
※環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律によるもの
現在、具体的には、以下の期間で作品の著作権が保護されます。
ところで、「著作物」に含まれるのはどんなものでしょうか。
著作権法によると、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とされています(2条1号)。
一般的に思い浮かぶような、小説、楽曲、写真、絵画などはもちろん著作物です。
逆に、一般的には著作物に含まれないものは、歴史的事実、データ、アイデアなどです。
また、誰が表現しても同じになるようなキャッチフレーズや流行語などは、創作性がないため、通常は著作物には含まれません。
【参考PDF】文化庁:著作権テキスト(令和2年度)
続いて、実際に著作物の著作権を相続する方法についてみていきましょう。
相続人がいないときに著作権がどうなるかについては、「3.相続人がいないとき」で解説します。
相続人が単独で著作権を相続する場合、実は特に手続きは必要ありません。
もし相続人が複数いる場合は、後々トラブルが発生するのを防ぐため、遺産分割協議書に「誰が著作権を相続するか」は明記しておきましょう。
また、著作権を複数の相続人で共有名義にして相続する場合は、著作権・著作隣接権の移転等の登録手続きを行います。
2019年(令和元年)7月1日から、著作権の移転について登録することができるようになりました。
必須ではありませんが(※)、特に重要な著作権などの場合は利用するのがおすすめです。
必要性や費用などを勘案しながら、ご自身で判断してください。
※法定相続の場合、登録をしなくても第三者に権利を主張することができますが、法定相続分を超えた相続については登録をしていないと主張できません。
著作権移転の登録の手続き方法は、以下のような流れです。
登録しても、登録を完了したという通知書がくるのみで、証明書のようなものが発行されるわけではありません。
なお、登録による効果は、下記の時から発生します。
文化庁に提出する必要書類は、以下の通りです。
その他、代理で手続きを行う場合は委任状、共同著作者がいる場合は第三者の許可を証明する書類など、追加で書類が必要となることがあります。
※民間業者で著作権登録を謳うこともありますが、著作権法上の効果はないため、注意が必要です。
相続人がいない(特別縁故者もいない)ときは、著作者が亡くなると著作権は消滅します(62条1項1号、103条)。
著作権が消滅するということは、著作物を誰でも自由に使えるようになるということです。
不動産など一般的な相続財産は、相続人がいない場合、最終的に国庫に帰属するので、ここが違いですね。
ただし、JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)の信託契約のように、著作権の管理を委託するケースでは少し異なります。
こうしたケースでは、著作権自体は管理団体に譲渡し、著作権者が持つ権利は「信託受益権」という利益を受け取る権利であることが通常です。
信託受益権は著作権ではありませんので、先ほどのように消滅することはなく、相続人が不存在の場合、一般的な相続財産のように国庫に帰属することになります。
予め著作者が遺言書をのこし、誰かに遺贈することで、著作権が消滅するのを防ぐことができます。
遺言書の中で最も典型的なのが自筆証書遺言ですが、書き方については、以下の記事で解説しています。
を明記しましょう。
さて、著作権を相続するときにも、相続税がかかります。
相続税評価の計算式は、以下の通りです。
著作者ごとに一括して計算します。
年平均印税収入の額は、課税時期年の前年以前3年間の印税収入の額の年平均額です。
評価倍率は、「推算される印税収入期間」に応じた基準年利率による複利年金現価率です(毎年の複利現価率を合計します)。
「印税収入期間」は著作者の死後、どのくらいにわたって印税が発生すると考えられるか、その著作物に精通している人などの意見をもとに推算されます。
基準年利率や複利表は時期によって変動しますが、参考までに令和2年のものを掲載しておきます。
【国税庁HP①】令和2年の基準年利率
【国税庁HP②】令和2年4月~6月の複利表(PDF)
本記事では、著作権の相続について解説しました。
ポイントをまとめます。
著作権の相続に手続きが不要とはいえ、後々もめることがないよう、誰が相続するのか明確にしておきましょう。
また、相続人が不存在の場合は、著作権が消滅してしまうことに注意しなくてはなりません。
相続人ではないが著作権を受け継ぎたい、という場合には、そのままにするのではなく、著作者に遺言書をのこしてもらい、遺贈してもらいましょう。