遺産分割協議書には印鑑証明書が必要?有効期限・取得手順を解説
遺産分割協議に従って相続手続きを行う場合には、遺産分割協議書と印鑑証明書が必要になります。この記事では、遺産分割協議…[続きを読む]
遺産分割協議書は、必ず作成しなければならないものではありません。しかし、被相続人の遺言書がない場合には、通常遺産分割協議書が作成されます。
その理由は、遺産分割協議書に主に次の効果があるからです。
遺産分割協議書には法的な様式が決まっておらず、相続人がご自分で作成することも可能です。
そこで、本記事では、遺産分割協議書を自分で書く方法を解説します。
目次
遺産分割協議書を作成するにあたり、最低限押さえておきたい基本事項を最初にまとめておきましょう。
遺産分割協議書を作成する前提として、当然ですが遺産分割協議をする必要があります。遺産分割協議は、相続人全員が参加しなければなりません。
といっても、相続人全員が一堂に会する必要はなく、相続人の何人かがまとまって協議をし、最終的に相続人全員が参加していれば有効な遺産分割協議となります。
また、相続人の1人が分割方法を提案し、相続人全員の合意をするといった方法も有効です。
遺産分割協議書には、法律上求められる様式はありません。したがって、パソコンで作成しても、手書きで作成しても構いません。
また、用紙や筆記用具にも特に決まりはありません。
ただし、相続人全員が署名し、押印する必要があります。印鑑についても法律上の規定はありませんが、相続手続きで必要となる場合には、印鑑証明書と共に提出を求められることが多いため、実印を用いることが推奨されます。
要式に決まりはないため、遺産についてはどのように表記してもいいことになります。
ただし、遺産分割協議書は、相続税申告や相続登記などにも利用するため、最低「誰が」「どの遺産」を取得したかが明確に分からなければなりません。
個々の遺産についての書き方をご説明する前に、遺産分割協議書に入れるべき項目を解説しましょう。
遺産分割協議書は、次の項目により成り立ちます。
表題として、冒頭に「遺産分割協議書」と記します。
遺産分割協議書では、誰の遺産を分割したのかを明確にしなければなりません。そのため、被相続人を特定するために、被相続人の以下の事項について、記載します。
次に、柱書として相続人の誰と誰が遺産分割協議をし、合意に至ったのかを記載します。
被相続人○○の遺産について、被相続人の妻相続花子、被相続人の長男相続一郎、被相続人の長女相続花江によって遺産分割協議を行った結果、次のとおり合意が成立した。
ここからは、個々の遺産の書き方についてご説明することにしましょう。
遺産に預貯金がある場合には、次の項目を記載して遺産を特定します。
1.相続人甲は、以下の遺産を取得する。
(1)預貯金
〇〇銀行〇〇支店
口座名義人 〇〇〇〇
普通預金 口座番号******
残高〇〇円および相続開始後に生じた利息とその他の果実
不動産は、不動産全部事項証明書の表題部に倣って記載し、特定するのが最も間違いのない方法です。
記載すべき項目は次の通りです。
記載すべき項目は次の通りです。
2.相続人乙は、以下の遺産を取得する。
(1)土地
所在 東京都○○区△△町□□丁目
地番 ○○番〇
土地の種類 宅地
地積 ○○平方メートル(2)建物
所在 東京都○○区△△町□□丁目○○番地
地番 ○○番
種類 居宅
構造 木造スレート葺2階建
床面積 1階○○平方メートル、2階○○平方メートル
マンションなどの区分建物の場合も、原則として全部事項証明書の表題部に倣って記載します。
マンションの遺産分割協議書への記載については、近日別途、詳しく解説する予定です。
3.相続人丙は、以下の遺産を取得する。
(1)建物
一棟の建物の表示
所在 東京都渋谷区恵比寿3丁目31番地12
建物の名称 ○○マンション専有部分の建物の表示
家屋番号 渋谷区恵比寿3丁目31番地12の301
建物の名称 301
種 類 居宅
構 造 鉄筋コンクリート造15階建
床 面 積 10階部分 〇〇.〇〇㎡敷地権の目的たる土地の表示
符 号 1
所在及び地番 東京都渋谷区恵比寿3丁目31番地12
地 目 宅地
地 積 〇〇〇.〇〇㎡
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 〇〇〇〇〇〇分の〇〇〇〇
被相続人が証券会社で管理する上場株式を所有している場合には、証券会社からの通知書を参考に、以下の項目を記載します。
4.相続人丁は、以下の遺産を取得する。
(1)有価証券
○○証券□□支店
口座番号 △△△ー△△△△
銘柄 ○○(銘柄コード○○〇)
株式数 ○○株
被相続人の債務は、遺産分割の対象とならず、各相続人の相続分に応じて承継するとした判例があります(最高裁判所昭和34年6月19日判決)。しかし、債務について遺産分割をすると、法律上の「債務引受」が成立したものとみなされます。債務を引き受けるべき当事者同士が合意して、法律上の効果をもたらすことに何ら問題はないからです。
さらに、この遺産分割について債権者の合意がある場合には、債権者に対抗することができるため、遺産分割協議で定めた債務者のみが債務を負担することになります。
遺産分割協議書に債務を記載する場合には、次の項目を記載して債務を特定します。
5.相続人甲、同乙、及び同丙は、被相続人の株式会社○○銀行対する平成〇年〇月〇日付借入金〇〇〇万円を各3分の1の割合で負担する。
どの遺産を誰が取得するのかを特定できたら、最後に、合意に至った日付けと相続人を記載します。
令和〇年〇月〇日
住所 東京都○○区○○丁○○番○○号
相続人 甲 ㊞住所 東京都○○区○○丁○○番○○号
相続人 乙 ㊞住所 東京都○○区○○丁○○番○○号
相続人 丙 ㊞
共同相続人に未成年者がいる場合には、法定代理人となり遺産分割協議を行います。ただし、未成年者の親の相続では、その配偶者は子と共同相続人の関係にあり利益相反となってしまいます。
そうしたケースでは、特別代理人を選任します。遺産分割協議書には、特別代理人が相続人の欄に次のように署名し、実印を押印します。
令和〇年〇月〇日
住所 東京都○○区○○丁○○番○○号
相続人 甲 ㊞住所 東京都○○区○○丁○○番○○号
相続人 乙 ㊞住所 東京都○○区○○丁○○番○○号
相続人丙の特別代理人 丁 ㊞
以上を取りまとめると、次のような遺産分割協議書が出来上がります。
被相続人 相続太郎
本籍地 鹿児島県○○市○○
死亡時の住所 東京都○○区○○
生年月日 昭和○○年〇月〇日
死亡年月日 令和〇年〇月〇日被相続人相続太郎の遺産について、被相続人の妻相続花子、被相続人の長男相続一郎、被相続人の長女相続花江によって遺産分割協議を行った結果、次のとおり合意が成立した。
1.相続人相続花子は、以下の遺産を取得する。
(1)土地
所在 東京都○○区△△町□□丁目
地番 ○○番〇
土地の種類 宅地
地積 ○○平方メートル(2)建物
所在 東京都○○区△△町□□丁目○○番地
地番 ○○番
種類 居宅
構造 木造スレート葺2階建
床面積 1階○○平方メートル、2階○○平方メートル2.相続人相続一郎は、以下の遺産を取得する。
(1)預貯金
〇〇銀行〇〇支店
口座名義人 〇〇〇〇
普通預金 口座番号******
残高〇〇円および相続開始後に生じた利息とその他の果実3.相続人相続花江は、以下の遺産を取得する。
(1)有価証券
○○証券□□支店
口座番号 △△△ー△△△△
銘柄 ○○(銘柄コード○○〇)
株式数 ○○株(2)建物
一棟の建物の表示
所在 東京都渋谷区恵比寿3丁目31番地12
建物の名称 ○○マンション専有部分の建物の表示
家屋番号 渋谷区恵比寿3丁目31番地12の301
建物の名称 301
種 類 居宅
構 造 鉄筋コンクリート造15階建
床 面 積 10階部分 〇〇.〇〇㎡敷地権の目的たる土地の表示
符 号 1
所在及び地番 東京都渋谷区恵比寿3丁目31番地12
地 目 宅地
地 積 〇〇〇.〇〇㎡
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 〇〇〇〇〇〇分の〇〇〇〇4.相続人相続花子、同相続一郎及び同相続花江は、被相続人の株式会社○○銀行対する平成〇年〇月〇日付借入金〇〇〇万円を各3分の1の割合で負担する。
上記協議の成立を証するために本書面3通を作成し、各署名捺印して各自1通を保管する。
令和〇年〇月〇日
住所 東京都○○区○○丁○○番○○号
相続人 相続花子 ㊞住所 東京都○○区○○丁○○番○○号
相続人 相続一郎 ㊞住所 東京都○○区○○丁○○番○○号
相続人相続花江の特別代理人 甲野太郎 ㊞
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原則として、遺産分割協議書は相続人の数を用意してそれぞれが所有するのが基本です。
次に、遺産分割協議書が必要となる提出先は以下の通りです。
このうち、銀行の相続手続きでは、提出先がコピー後1週間程度で返却してくれるので、被相続人の口座が複数の銀行にまたがっていたとしても対応できるでしょう。
また、税務署や主な証券会社に提出する遺産分割協議書はコピーでも受け付けてもらえます。
さらに、運輸支局に提出する遺産分割協議書は、別途簡単な書式があるため、遺産分割協議書を作成する際に同時に作成してしまう方法もあります。
こうした情報からご自分たちの状況に則した通数の遺産分割協議書を作成してください。
遺産分割協議後に新たな遺産が発見された場合には、その遺産について遺産分割協議を行わなければなりません。
また、相続税申告が必要な場合には、新たに見つかった財産も含めて「相続税申告書」を作り直さなければなりません。
もし、相続税申告を既にしてしまっていれば、修正申告を行いますが、原則として延滞税や過少申告加算税が発生します。
遺産分割協議書には、そういったケースに対応するために、次のような文言を入れておくことがあります。
上記の通り分割された遺産および債務以外に、新たな遺産および債務が見つかった場合には、各相続人の法定相続分の割合で取得するものとする。
こうした文章を入れておけば、相続人間の公平性が保たれるうえに、改めて遺産分割協議を行う必要がありません。
遺産分割協議は相続人自身が作成することができます。しかし、遺産分割協議に不備が見つかると、提出先で受け付けてもらえない可能性もあります。
一方で、遺産分割自体を弁護士に依頼すると、相続人や遺産の調査から遺産分割協議への代理人としての参加、遺産分割協議書の作成までまとめて代理してもらうことができます。
こうしたメリットを享受したい場合には、専門家に任せてみてはいかがでしょうか。