相続手続きに必要となる遺産分割の4つの方法とメリット・デメリット

被相続人の遺言書がなければ、相続の開始と同時に、遺産は相続人全員の共有状態となります。そこで、相続人は、全員で遺産を分割しなければなりません。
遺産分割の話し合いを遺産分割協議と呼びますが、この遺産分割協議は、争いとなりやすい相続手続きです。遺産の総額は決まっているため、1人の相続人が取得する遺産が増えれば、他の相続人の取得する遺産が減ってしまうため、合意することが難しいからです。
民法上には、相続人ごとに法定相続分が定められていますが、不動産が遺産に含まれていると、分割も容易ではありません。
遺産分割には、以下4つの方法があります。
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
- 共有分割
ここでは、遺産分割の4つの方法とそのメリット・デメリットについて解説します。
目次
1.遺産分割の4つの方法
最初に、遺産分割の4つの方法についてご紹介します。
1-1.現物分割とは
現物分割とは、遺産を現物のまま相続人間で分配することです。遺産分割で最初に検討すべき原則的な方法です。
例えば、父親が亡くなり、相続人が母親と長男・長女の3人で、遺産が居住していた自宅2,000万円と現金1,000万円、預金1,000万円の合計4,000万円だったとします。
自宅は母親が、現金1,000万円は長男が、預金1,000万円は長女が現物をそのまま取得するのが現物分割です。
しかし、このように上手く現物を分割できることは現実には稀でしょう。
1-2.代償分割とは
代償分割とは、遺産を現物で取得した特定の相続人が、他の相続人に対して代償金を支払って遺産分割を行う方法です。複数の相続人が遺産を現物のまま取得して、代償金を支払うことも可能です。
例えば、換価分割と同様に、被相続人が父親で、相続人が母親と長男・長女の3人で遺産が自宅のみだとします。
この場合に母親が自宅を相続し、その代わりに1,000万円ずつの代償金を長男・長女に支払うことで清算するのです。
このケースでは、母親が代償金2,000万円を用意できるかどうかが問題になります。
1-3.換価分割とは
換価分割とは、遺産を売却して金銭に変え、その金銭を相続人全員で分配することを指します。
例えば、上記と同様に父親が亡くなり、相続人が母親と長男・長女の3人で、遺産としては自宅しか残されていなかったとします。
この場合に、遺産である自宅を4,000万円で売却し、その4,000万円を母親に2,000万円、長男・長女にそれぞれ1,000万円ずつ分配することを換価分割と言います。
しかし、母親は父親と同居していた自宅を売却してしまうと、住む場所が無くなってしまいます。
1-4.共有分割とは
共有分割とは、遺産の一部や全部を複数の相続人で共有することです。
父親が亡くなって遺産が自宅のみ、相続人が母親、長男・長女の3人の場合に、例えばこの自宅をこの3人で共有するのです。
ただし、不動産を共有にすると管理について共有者間で話し合う必要があり、売却するにも共有者全員の合意が必要になります。
では次に、各遺産分割方法のメリット・デメリットを見ていきましょう。
2.現物分割のメリット・デメリット
2-1.現物分割のメリット
分割に手間がかからない
現物を相続人がそれぞれ名義変更すれば済むので、他の分割方法に比べて手間がかかりません。
遺産の評価について相続人の意見が対立し難い
他の分割方法に比べると、相続人の意見が対立し難いのもメリットの1つです。
2-2.現物分割のデメリット
不公平な遺産分割になる可能性が高い
先述した事例では、法定相続分に沿った現物分割をすることができましたが、現物分割に適したバランスで財産を所有する方のほうが少ないでしょう。
相続人それぞれが取得する遺産額が相続分と異なり、相続人が合意できない不公平な遺産分割になる可能性が高くなります。
評価の難しい遺産が含まれていると争いになりやすい
不動産や非上場株式といった評価が難しい遺産が含まれる場合には、評価の難しい遺産を取得する相続人はできるだけ評価を抑え、他の相続人は、できるだけ高く評価したくなります。そのため、評価に折り合いが付かず、争いになりやすいと言えるでしょう。
土地を分筆する場合には価格が下がることがある
相続した土地は分筆して登記することで、相続人間で分配することも可能です。しかし、土地の立地条件や分筆のやり方によっては、細分化されることにより利用価値が下がるなどの理由から、価格が下がってしまうことがあります。
また、分筆後の土地面積があまりに少ない場合など、分筆できないこともあります。
3.代償分割のメリット・デメリット
3-1.代償分割のメリット
より公平な遺産の分割が図れる
代償分割では、遺産の現物を取得した相続人が代償金を支払います。この代償金により、相続人間の調整を図ることができるため、より公平な遺産分割が可能になります。
遺産を売却する必要がない
代償分割と比べると、遺産を売却する必要がありません。
遺産を共有する必要がない
共有分割と比べると、遺産を共有する必要がありません。
3-2.代償分割のデメリット
代償金を支払う相続人には資力が必要
代償金の額が過大になることが多く、代償金を支払う相続人には、資力が求められます。
評価の難しい遺産が含まれていると争いになりやすい
代償金を支払う側はできるだけ安く不動産を評価し、代償金をもらう側は、できるだけ不動産を高く評価したいのが人情です。そのため、遺産の評価について争いになりやすいと言えます。
4.換価分割のメリット・デメリット
4-1.換価分割のメリット
より公平な遺産の分割が図れる
換価分割では、遺産を金銭に換えてその金銭を相続人間で分配するため、1円単位まで分割することができ、より公平な遺産の分割をすることが可能になります。
遺産の評価で争いになることがない
換価分割では遺産を売却してしまうため、遺産の評価について争いになることがありません。
4-2.換価分割のデメリット
遺産を現物のまま利用することができない
遺産を売却してしまうため、現物のまま利用することができません。思い出の詰まった実家であっても、売却せざるを得ません。
遺産分割の終了までに時間・手間がかかる
換価分割では、遺産を相続人間の共有状態のまま売却しなければなりません。売却するには、相続人全員の合意が必要であり、売却する際の登記も相続人全員の協力が必要となり、手間がかかるうえに、売却の際に不動産仲介業者や登記に要する費用も発生します。
また、売却後にその売却金を分配するために、遺産分割が終了するまでに時間がかかってしまいます。
5.共有分割のメリット・デメリット
5-1.共有分割のメリット
公平を図ることができる
どうしても分割できない遺産を複数の相続人で共有状態にすれば、相続時とあまり変わらない状況が続くため、少なくとも相続人間で不公平であることが理由で争いになることはないでしょう。
5-2.共有分割のデメリット
管理・売却に手間がかかる
共有物の管理行為を行うためには、持分の価格の過半数の賛成が必要になります(民法252条)。また、売却や担保権を設定する際には、共有者全員の合意が必要になります(民法251条)。
何をするにしても共有者に連絡し、合意を得なければなりません。
相続が重なると共有者の関係が複雑化する
相続が重なることで共有者も世代が進み、複雑化します。共有者を把握していたとしても、行方不明者などが現れると、売却もままならなくなってしまいます(不在者財産管理人の選任を請求することは可能です)。
遺産相続では、共有状態を極力解消するのが賢明です。
6.4つの遺産分割方法についてのよくある質問(FAQ)
遺産分割の4つの方法ってどんなもの?
遺産を分割するには、以下の方法があります。
- 現物分割
相続人それぞれが、遺産を現物のまま取得する方法 - 代償分割
特定の相続人(複数も可)が遺産を現物のまま相続し、その相続人が他の相続人に代償金を支払う方法 - 換価分割
遺産を金銭に換えて、その金銭を相続人間で分配する方法 - 共有分割
遺産の一部や全部を複数の相続人で共有する方法
遺産分割方法のそれぞれのメリット・デメリットは?
それぞれの遺産分割方法のメリット・デメリットは、次の通りです。
- 現物分割のメリット
分割に手間がかからない
遺産の評価について相続人の意見が対立し難い - 現物分割のデメリット
不公平な遺産分割になる可能性が高い
評価の難しい遺産が含まれていると争いになりやすい
- 代償分割のメリット
より公平な遺産の分割が図れる
遺産を売却する必要がない
遺産を共有する必要がない - 代償分割のデメリット
代償金を支払う相続人には資力が必要
評価の難しい遺産が含まれていると争いになりやすい
- 換価分割のメリット
より公平な遺産の分割が図れる
遺産の評価で争いになることがない - 換価分割のデメリット
遺産を現物のまま利用することができない
遺産分割の終了までに時間・手間がかかる
- 共有分割のメリット
公平を図ることができる - 共有分割のデメリット
管理・売却に手間がかかる
相続が重なると共有者の関係が複雑化する
まとめ
ここまで遺産分割の4つの方法についてご説明しました。遺産分割の4つの方法には、それぞれメリット・デメリットがあるため、残された遺産や相続人の状況により、慎重に検討必要があります。
もし、遺産分割の方法に迷われたら、相続に強い弁護士に相談してみるのも一つの方法です。