遺留分侵害額請求とは?手続き・期限・必要書類を解説!
この記事では、遺留分侵害額請求について解説します。遺留分侵害額請求の意義や手続き、効果や費用、専門家に相談するメリッ…[続きを読む]
あまり一般的ではありませんが、実は相続分を他人に譲渡することができます。自分が相続可能な法定相続分を他の誰かに譲ってしまうことです。また、他の相続人は譲渡された相続分を取り戻すこともできます。
ここでは、相続分譲渡とはどういうことかを説明します。また譲渡する場合の手続き方法や、譲渡した際に遺産分割協議がどうなるか、そのほかの注意点などを解説します。
目次
相続分譲渡とは相続権を有する人が、自分の相続分を他の相続人や第三者に譲渡することを言います。相続分を譲渡した人は、相続問題に巻き込まれない等のメリットがあり、相続分を譲渡された人は、相続権を有するメリットがあります。
なお、相続分譲渡の「相続分」とは、個々の財産の共有部分を指すわけではありません。あくまで遺産分割時における権利割合を指しています。つまり、相続人の地位そのものを意味しています。
遺産を早くもらいたい、遺産相続問題に巻き込まれたくないという場合に相続分譲渡という方法がとられます。
たとえば、被相続人には3人兄弟の子供(Aさん、Bさん、Cさん)がいて、財産の中に不動産があったとします。Aさん、Bさんは自分が不動産を取得したいと意気込んでいますが、Cさんは不動産に興味がなく早くお金さえもらえれば良いので、自分の相続分をAさんに売ってしまう、その分の現金をAさんからもらうことができます。
相続分譲渡と混同されがちなものに「相続放棄」があります。これら2つは相続人が相続をしない点では共通していますが、大きな違いは、負債の扱いについてです。
「相続放棄」は「相続すること自体」を完全に放棄しますので、相続することはできなくなり一切の財産を取得できませんが、被相続人の負債を負う義務もなくなります。相続放棄を取り消すことはできません。
一方で、「相続分譲渡」は「相続分」を譲渡するだけですので、相続人としての身分は引き続き持っています。相続分譲渡をしても被相続人の借金の債権者から返還請求をされたら応じなければなりません。
譲渡は売ってもタダであげても良いですが、お金が欲しければ、譲渡先の人と交渉して相続分に相当する金銭を受け取れば良いわけです。
また、もう一つ違う点は、「相続権を有する相続人の意思が反映されるかどうか」という点です。
相続分譲渡の場合は、相続人は相続権の一切を自ら他人に譲渡しますので、誰に相続財産を継がせるか相続人の意思を反映できます。
一方、相続放棄の場合は、相続人は相続権の一切を放棄して、その相続分は他の相続人の意思によって分割されます。つまり、相続人の意思は反映できません。
相続に関して一切の権利・義務を放棄したい場合は「相続放棄」になりますし、財産分割争いに巻き込まれず早く財産が欲しい場合は「相続分譲渡」になります。ただし、相続分譲渡は譲渡先の相手があっての話となります。相続分を受け取ってもいいよという人がいて初めて相続分譲渡ができます。
相続分譲渡の契約方法は自由です。口頭でも契約をすることが可能です。ただ、後のトラブルを防ぐためにも、「相続分譲渡契約」を書面で交わすことが通常です。
相続分譲渡契約を書面で交わす場合、「相続分譲渡証書」を作成するようにしましょう。作成する際のポイントは次の通りです。
以上を押さえた証書を作成しておけば、後のトラブルを防ぐことができるでしょう。
相続分譲渡契約が効力を発揮するためには、次の5つのポイントを守る必要があります。
簡単にまとめると、遺産分割が始まる前に譲受人(譲渡先の人)を見つけ、契約をし、その旨を他の相続人に知らせると言うことです。遺産分割が始まってしまうと相続分譲渡はできません。なお、通知は不要と言う見解もありますが、トラブルを防ぐためにも、相続人全員に内容証明郵便で、その旨を伝えておくのが好ましいです。
相続分譲渡先が他の相続人であれば、比較的トラブルが少なく協議を進めることができます。しかし、第三者に譲渡された場合は、話し合いが進行しにくくなる恐れがあります。
他の相続人に相続分譲渡がされた場合は、譲渡をした相続人の相続割合が、そのまま譲渡された相続人に加わることになります。配偶者と子供2人がいると仮定して具体例を考えてみます。
まず相続分譲渡がされない場合は、下記の通りに分配されます。
・配偶者…2分の1
・子供A…4分の1
・子供B…4分の1
続いて配偶者が子供Aに相続分譲渡をした場合は、次の通りです。
・配偶者…0
・子供A…4分の3
・子供B…4分の1
相続分譲渡がされると、その譲渡人の相続割合が減ります。そして、その相続分がそのまま譲受人に加わることが分かるでしょう。そしてこの相続分に従って、子供Aと子供Bで遺産分割協議を進めます。
第三者に相続分譲渡がされた場合、その譲受人が相続人としての地位を手に入れることになります。したがって、下記のような行為ができるようになります。
・遺産分割協議に参加し、意見や発言ができる
・譲渡された相続権を、さらに譲渡できる
・相続分に従って遺産を受取ることができる
・不動産の移転登記ができる
相続分譲渡がされると、第三者でも相続人として遺産分割を受けることができるようになります。ただし、他の相続人からしたら、遺産分割の話し合いや関係が複雑になってしまうことを意味します。そのため、民法上では「相続分の取戻し」が認められています。この「取戻し」については次項の注意点にて詳しく説明をします。
相続分譲渡する場合には、次の注意点に気をつける必要があります。
相続分の取戻しとは、相続分譲渡で第三者に相続権が譲られた場合に、他の相続人が譲渡された相続分を取り戻せる制度です。相続分の取戻しがされると、その相続分は相続人全員に帰属されます。したがって、譲渡人の意思が反映されなくなる恐れがあります。
なお、相続分の取戻しは次の全てを満たす場合にのみ認められています。
相続分を取り戻せるのは譲渡されてから1ヶ月以内であり、相続分に相当する金額を支払わなければなりませんので、早めの対応が必要です。
民法第905条
1 共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
2 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。
相続放棄との違いの箇所でも説明しましたが、相続分譲渡をすると譲渡をした人は相続人としての地位を失いますが、債務についてはそうではありません。たとえ相続分譲渡をしても、債務の連帯責任を負う必要がありますので、注意が必要です。
ただし、契約次第では相続分を譲渡された人が優先して支払うことを決めることもできます。相続分譲渡の契約を結ぶ際には、債務に関する扱いも取り決めておくといいでしょう。
最近、最高裁で新しい判決が出ました。
それによれば、相続人に対して無償で相続分を譲渡した場合には、原則として贈与として扱われます。例外的に、相続分に財産的な価値が無いときには贈与にはなりません。(最高裁平成30年10月19日判決)
贈与になるとすると遺留分減殺請求の対象ということになり、トラブルに発展する可能性もありますので、ご注意ください。
相続分譲渡をすることで、他人に自分の相続分を譲ることができます。その結果、面倒な遺産分割争いに巻き込まれずに済みますが、被相続人の負債を引き続き負う義務があります。また、相続人以外の第三者に譲渡した場合は、他人が入ってきて遺産分割協議が難しくなる恐れもあります。そのため、相続分譲渡をしようと考えている場合、あるいは他の相続人が相続分譲渡を予定している場合は、弁護士などの専門家に一度相談されることがオススメです。