遺産の使い込みにはどう対処する?調査方法と取り戻し方を解説!
「相続後、親の通帳を調べてみたら、多額の預貯金が引き出されていた。」典型的な遺産の使い込みの事例です。 遺産の使い込…[続きを読む]
遺産相続が起こると、共同相続人の1人に相続財産の使いこみが疑われることがあります。
このような場合には、預貯金などの相続財産の内容を調べる必要がありますが、泣き寝入りしてしまっている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
では、遺産の使い込みが疑われる場合に、相続人個人ができる手続きや、弁護士に依頼すべき手続き、裁判所を利用するとできる手続きにはどのようなものがあるのでしょうか。
そこで、相続人が泣き寝入りしなくてもいいように、相続財産の使い込みの調査方法について解説します。
遺産の使い込みの解決方法については以下の記事をご一読ください。
目次
相続人による相続財産の使いこみが疑われるとき、どのような方法で預貯金などの相続財産の調査をすることができるのでしょうか?
まずは相続人個人ができる範囲がどこまでなのか、ご説明します。
最高裁平成21年1月22日の判決依頼、金融機関は他の共同相続人の同意なく相続人1人からの開示請求に対応しており、戸籍謄本などによって相続人であることを証明して手続きさえすれば、金融機関から取引履歴の開示を受けることができます。
一般的に金融機関では取引から10年間記録を保存しており、保有する期間の開示請求をすることができます。振込依頼書が保管されていれば、手書きの文字を見て筆跡から誰が手続きしたか推測することができます。
ただし、取引日から約1ヶ月経過すると取引記録は倉庫に移動し保管されるため、その場では開示してもらえず、電話もしくは郵送で後日取引履歴を教えてもらうことになります。
また、金融機関に取引履歴の開示請求をするには、対象の金融機関を店舗まで特定する必要があります。
ゆうちょ銀行では他の金融機関とは異なる取り扱いがなされており、「現存照会」することで存在する被相続人名義のすべての口座を確認することができます。
【参考外部サイト】「現存調査(貯金の有無の調査)」|ゆうちょ銀行
相続人であることを証明できれば、銀行だけでなく、証券会社や生命保険会社の場合も同様に資料を発行してもらうことができます。
被相続人が生前に解約した口座については、金融機関は取引履歴を開示する義務はないとした裁判例があります(平成23年8月3日東京高裁)。
そこで、次項でご紹介する弁護士照会や裁判所での嘱託調査の検討が必要になります。
預貯金などの相続財産の調査をする場合には、弁護士会照会を利用することもできます。
弁護士会照会とは、弁護士が依頼を受けた事件について、公的機関や民間団体等に対して必要な事項を照会し、報告を求めることができる制度です。(弁護士法23条の2)。相続関連以外も含めて2021年には、全国で年間約20万件に達する勢いです*。
弁護士が依頼を受けて紛争の解決をしようとするとき、事実を立証するための資料を集める必要があります。しかし、依頼者がその資料を持っているとは限らないため、公共機関や企業などに対して照会をかけ、情報を収集するための手段ととして設けられた制度です。
各種機関は原則として開示請求に応じる義務があり、個人で開示請求するよりも信頼性および公益性も高くなります。
弁護士会照会では、被相続人名義の預貯金や株の口座等の取引履歴を調べることもできます。
*【出典】「弁護士会照会制度(弁護士会照会制度委員会)」|日本弁護士連合会
弁護士照会をする際には、相続関係を確認する必要性があり、一般的に以下の書類が必要になります。
ただし、相続関係図は、通常弁護士が作成してくれます。
過去に渡って取引履歴の開示請求をすることができますが、その場合にも開示を受けられる期間は過去10年間になることが一般的です。
弁護士照会をするには、1件について5,500円の負担金(弁護士会に支払う実費)と郵便の費用などが必要で、1件につき1万円程度を見ておけばいいでしょう。
遺産の使い込みについては、被相続人の病院カルテや介護記録など、預貯金口座以外の情報が必要になることがあります。弁護士に依頼すれば、これらの情報の収集もスムーズで、相手方との交渉や裁判になった場合にも、任せることができます。
相続人個人の調査や弁護士照会では、被相続人名義の口座しか調べることができません。
しかし、以下の通り、裁判所に調査をしてもらえれば、使い込んだ相続人名義の口座について取引履歴が開示される可能性があります。
裁判所から金融機関に嘱託調査をしてもらうには、訴訟を提起する方法があります。
預貯金など遺産の使い込みが疑われる場合には、不当利得の返還請求訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟がそれに該当します。
いずれかの訴訟を提起し、「職権調査嘱託」の手続きを申し立てれば、裁判所を通じて疑義のある相続人名義の口座の開示を実現できる可能性があります。
ただし、不当利得の返還請求訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起する場合には、次の通り、時効になる時期が異なるため、訴訟の提起には注意が必要です。
2020年3月31日以前 | 2020年4月1日以降 | |
---|---|---|
不当利得の返還請求 | 使い込みを知ったときから10年 | 使い込みを知ったときから5年 |
使い込みのときから10年 | ||
不法行為に基づく損害賠償請求 | 使い込みを知ったときから3年 | |
使い込みのときから20年* |
*不法行為に基づく損害賠償請求の「行為のときから20年」は、改正前には除斥期間と解されていましたが、改正後には時効期間であることが明確になり、時効の中断などが可能になりました。
詳しくは、以下の関連記事をご一読ください。
共同相続人の1人が相続財産を使い込んでいることが疑われる場合の相続財産調査方法を解説しました。
相続人であることを証明すれば、被相続人名義の預貯金の取引履歴や証券会社の取引履歴などを調べることができます。
弁護士に依頼すれば、弁護士照会制度が利用できる以外にも、交渉や万一訴訟になった場合にも安心です。
相続財産の調査は手間暇がかかる大変な作業です。共同相続人による相続財産の使いこみが疑われる場合には、まずは弁護士に相続財産調査を依頼すると良いでしょう。