被相続人所有の自動車に乗ると単純承認?相続放棄する時の注意点!

相続放棄と自動車について

亡くなった人に借金が多額にあり、プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い…という場合には相続放棄を行うことが考えられます。
相続放棄を行う際に注意しなくてはならないことは、遺産となる財産を売却したり、一部を使い込んだりといった行為を行なってしまうと、相続放棄を行う意思がないものとして扱われてしまう可能性があることです(つまり相続放棄ができなくなります)

このような「相続放棄を行う意思がないものとして扱われてしまう行為」のことを単純承認といいますが、亡くなった方の財産の中に自動車が含まれている場合にはより注意が必要です。
というのも、自動車は家族全員が使用しているということが多いため、所有者が亡くなった後にその自動車に乗り続けることが単純承認にあたってしまう可能性があるからです。

ここでは、自動車と相続放棄に関する注意点について解説します。

1.相続財産としての自動車の使用の注意点

大前提としては知っておくべきことは、亡くなった人の生前から家族がみんなで乗っていた自動車であったとしても、その自動車は所有者一人のものであるということです。

ですから、前の所有者が亡くなった後にもその自動車に乗り続けるためには、何らかの形で相続財産である自動車の相続手続きを行わなくてはならないのです。
相続放棄を行う場合にはその自動車についても今後は乗れなくなるということを理解しておく必要があります。

1-1.相続放棄したら被相続人名義の自動車を使用できない

亡くなった人(被相続人)の名義となっている自動車を遺族の人がそのまま乗っている…というのはよくあるケースですが、相続放棄を選択する場合には注意が必要です。
というのも、被相続人の名義となっている自動車を、その人の死後に相続人となる人が乗り続ける行為が、法律上単純承認に該当してしまう可能性があるからです。

1-2.もし使用すると単純承認とみなされる?

単純承認とみなされて相続放棄ができなくなってしまうケースとしては、以下のような場合があります。

  1. 相続財産の一部または全部を処分した場合
  2. 相続人が相続があったことを知ってから3ヶ月たっても相続放棄の手続きをしないとき
  3. 相続人が財産を隠したような場合

ここでは、亡くなった人の名義となっている自動車に乗り続ける行為が「1」に該当してしまわないかどうかが問題となります。
以下ではこの自動車の使用や売却と単純承認の関係について具体的に見ていきましょう。

2.相続放棄したら、原則、相続財産の処分はできない

法律上、相続人となる人全員が相続放棄を行なった場合には、亡くなった方が残した財産の管理や運営をどのようにするのか?(誰が管理をするのか)という問題が生じます。

この点については民法940条という法律があり、財産の管理義務については以下のように行うことになっています。

「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない(民法940条1項)」

ここで「自己の財産におけるのと同一の注意」というのが具体的にどのような状況をいうのかが問題となりますが、自動車に関していうのであれば「駐車場の料金を支払う」などはこの範囲に含まれる可能性があります。
もし車を止めておける場所が他にあるのであれば駐車場は解約してそちらに移動させておくのが良いでしょう。
一方で、裁判所に対して相続財産管理人を選任するなどの行為までは、この「自己の財産におけるのと同一の注意」に含まれないものと思われます。

相続放棄を行うと、亡くなった方の財産や借金とは無関係ということになりますが、自動車を置いている駐車場などがある場合には、何らかの形で解決をしなくてはならないのが実際のところです。
債権者が処分をしてくれない場合には、具体的な解決策として車の売却や廃車を行うことが考えられます。

相続放棄をした場合に、自動車をどのように処分するべきかについては法律上明確な規定がないというのが実情です。
そのため、状況に応じて柔軟に解決を図っていく必要があるわけですが、これらの手続き行う際にはそれが単純承認とみなされないように注意しなくてはなりません。

弁護士などの専門家に相談するとともに、以下のようなことに気をつけておきましょう。

2-1.自動車ローンなどの債権者に処分を依頼する

債権者は亡くなった人の財産については差し押さえという形で処分する権限を持つ場合がありますから、債権者の人が自動車を処分をしてくれるのであれば、それに越したことはないでしょう。
自動車ローンを組んでいるような場合にはローンの債権者である金融機関や信販会社が自動車を引き上げていくというのが普通です。

2-2.相続財産管理人を選任する

相続人となる人全員が相続放棄を行なったような場合で、相続財産について相続を行う人がいないときには「相続財産管理人」という役割の人を裁判所に選任してもらうという方法もあります。

相続財産管理人は弁護士などの専門家が選任されるのが普通で、亡くなった人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して申し立てを行うことで選任してもらうことができます。
ただし、この方法を選択した場合には裁判所に対して手続きを進めてもらうために「予納金」という形でお金を納めなくてはならないというのがネックになります。

予納金の金額は20万円〜100万円が相場ですから、場合によっては大きな負担となってしまう可能性があります(余った部分については返還されますが、基本的には戻ってこないものとして考えておく必要があります)

2-3.財産的価値がなければ「財産の処分」も可能

財産的な価値がないものについて売却などの手続きを行ったとしても、単純承認には当たらないとするのが大原則です。

そのため、中古車業社に対して売却しても代金0円となるような自動車であれば、売却や廃車の手続きを行っても特に問題はないものと思われます。
ただし、念のために複数の中古車業社に見積もりを出してもらい、価値は0円であるという見積書を取っておくのが安全と言えるでしょう。

2-3-1.自動車税が未納で処分できないなら、自動車税を払ってもOK

自動車を売却などの形で処分をしたくても、前の所有者(亡くなった人)が自動車税を払っていないために中古車業者などに処分を受け入れていないというケースがあります。

そのような場合には、財産を処分するためという理由があるのであれば自動車税をいったん支払った上で、自動車の処分手続きを進めても問題は生じないと思われます。
ただし、その後に自動車に価値があるものとして売却代金が発生した場合に備えて、こちらも価値なしの見積もりを準備しておくようにしましょう。

なお、これらは現実の状況を見ながら判断すべき部分が大きいことがらですから、実際に自動車の売却を行う前に必ず弁護士などの専門家にアドバイスを求めるようにしてください(もしこれら一連の自動車の売却行為が単純承認とみなされてしまうと相続放棄ができなくなり、亡くなった人が残した借金など全て引き継がなくてはならなくなる可能性があります)

2-4.財産的価値があれば、売却して現金で保管

上でも説明させていただいた通り、相続放棄を行う場合には、法律上単純承認とみなされてしまう行為は避ける必要があります。
自動車を保管しておく駐車料金等の問題でやむを得ず自動車の売却を行う場合には、売却前に法律の専門家に相談するとともに、その対価として受け取ったお金(売却代金)には手をつけないようにしましょう。

この現金を使い込んでしまうと、単純承認とみなされてしまう可能性が高くなりますから注意が必要です(単純承認とみなされると相続放棄ができなくなったり、あとから債権者側から相続放棄の無効を主張されてしまったりということが起きかねません)

2-4-1.名義変更が必要であれば、それも認められる?

中古車業者などに対して車を売却する上で、いったん相続放棄を行う予定の相続人に名義変更を行うことを求められる可能性があります。
すでに以前の所有者が亡くなっているので、法律上は相続人となる人が代理して契約をするということができません。

そうなると売却の手続きが済んだ後から契約の不備をめぐってトラブルになる可能性がありますから、中古車業者としてはこれを避けるために正式な所有者に売却をしてほしいと考えるのです。
上でも説明させていただいたように売却代金について手をつけずに置いておけば単純承認とはみなされない可能性はありますが、慎重な判断が必要です。

3.ローン支払中の自動車の処分

亡くなった人が自動車をローンで購入していた場合には、どのような形でローンを組んだのかによって相続人がとるべき手続きは異なります。
以下では①ディーラー経由でローン申込みをした場合と、②金融機関からマイカーローンに申込みをした場合、の2つに分けて考えてみましょう。

3-1.ディーラー経由でローン申込みをした場合

亡くなった人が販売会社(ディーラー)経由で自動車ローンに申込みをしているという場合、自動車の名義はディーラーとなっているのが普通です。これは所有権留保と言われる契約の形で、自動車ローンの支払いが完了するまでは自動車の名義はディーラーになっているのです。
つまり亡くなった人はもともと所有権者ではなかったということですから、所有権を相続人が相続するということもないということになります。

自動車ローンが残っている状態で前の所有者が亡くなった場合には、ディーラーがこの自動車については引き上げていくことになるのが基本です。

3-2.金融機関からマイカーローンに申込みをした場合

一方で、マイカーローンなどの形で金融機関からお金を借りて自動車の購入資金に当てたという場合には、その自動車の名義人はあくまでも亡くなった人で、その自動車に対しては金融機関の担保権が設定されている状態になっています。
ですから、この場合には自動車は相続財産にあたるのが原則です。

自動車に乗り続けたり、安易に売却の手続きをとったりしてしまうと単純承認とみなされて相続放棄ができなくなってしまう可能性があるので注意しなくてはなりません。

4.被相続人名義の自動車保険

自動車保険

亡くなった人が自動車保険に加入していた場合、亡くなった後に放置しているとそのまま保険料が口座から引き落としされているという状態になってしまう可能性があります。
これを防ぐためには自動車保険の解約や名義変更を行う必要がありますが、これらの手続きを行うことによって相続放棄を行うのに支障が出ないようにしなくてはなりません。

亡くなった人の名義となっている自動車保険について解約が名義変更を行う際には以下のようなことに注意しておきましょう。

4-1.解約にあたっての契約者変更にも注意が必要

自動車保険というのは、基本的に人では自動車にひもづいている契約ですから、契約名義人となっている人の解約の意思確認さえできればすぐに解約できるのが原則です。
ですが、契約者の方がなくなっている場合にはこの「意思確認」ができませんから、保険会社としては相続人となる人に契約者変更を行った上で、その変更後の契約者から解約の意思表示を受けようとするのが一般的です。

前の契約者が亡くなった場合、法定相続人の人であれば保険会社に連絡をして、契約者変更をすぐに行うことが可能です。
しかし、今後相続放棄を行う予定である場合には、相続人となる人がこのような手続きを行うこと自体が単純承認に当たる可能性があるために注意が必要です。

同様の理由で、保険料支払いを亡くなった人に代わって行うことが法定単純承認に当たってしまうこともありますから注意しなくてはなりません。

4-2.名義変更も保険料支払いはどうするべきか?

名義変更や解約、保険料支払いが単純承認に当たる可能性があるのであれば、むしろ放置しておくのが安全…という考え方もあるかもしれません。
しかし、保険会社としては亡くなった人に対して保険料をいつまでたっても請求し続けるというような状態は避けたいと考えるのが普通ですから、何らかの形で契約の解約を行うことが考えられます。

いずれにしても具体的な手続きを行うときには慎重な判断が必要となりますから、実際に手続きに手をつける前に弁護士等の専門家にアドバイスを求めるようにしましょう。

5.不安な場合は弁護士に相談を

ここまで説明させていただいように、相続放棄を行うにあたって自動車の処分をどのように行うべきかについては法律の規定があいまいになっていることもあって難しい判断が必要になるケースが多いです。
安易に売却や廃車の手続きを取ってしまうと法律上単純承認を行なったものとして相続放棄ができなくなってしまう可能性がありますから、判断に迷うケースでは専門家から事前にアドバイスを受けておかなくてはなりません。

もし、単純承認とみなされてしまうと相続放棄とみなされてしまい、亡くなった人に借金がある場合にはその借金を相続人が引き継がなくてはならなくなってしまうためです。
相続に関するアドバイスは弁護士に相談することで受けることができます。

初回の相談料は無料としてもらえたり、着手金は無料である弁護士事務所も多くありますから、相続に関してどうしたら良いかわからないことがある場合には相談してみると良いでしょう。

相続放棄を専門とする弁護士がいます

相続放棄手続は自分でも出来ます。しかし、手続きを確実かつスムーズに進め、更に後のトラブルを防止する上では、弁護士に相談して手続するのがオススメです。

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