未成年後見人を指定する遺言書の書き方
離婚して子供の親権を持つことになったけれど、自分にもしものことがあった場合について、不安になったことはありませんか?子供が未成年であれば、なおさらです。どのようなことをしておけば、その子の生計を支えることができるのでしょうか。
目次
1.遺言による未成年後見人の指定
1-1.法律の規定
未成年者の親権者は通常は父母です。ここで、離婚すると、父母のうちどちらかがその子の親権を持つことになります。
ところで、未成年者に親権を行う者がないときは、後見が開始します(民法838条1号)。そして、未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができます(民法839条1項本文)。
(民法838条)
後見は、次に掲げる場合に開始する。
一 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
二 後見開始の審判があったとき。
(民法839条1項)
未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。
ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。
1-2.未成年後見人を指定する遺言例
第☓条 遺言者は、未成年者である●●●●(平成〇年〇月〇日生)の未成年後見人として、次の者を指定する。
住 所 未成年後見人の住所 |
2.未成年後見人
2-1.未成年後見人とは
未成年者に対して親権を行う者がないとき、または、親権を行う者が管理権(財産に関する権限)を有しないときに、法定代理人となる者のことをいいます。
2-2.遺言による未成年後見人の選任手続
遺言の効力発生後(親権者死亡後)、市役所に対し、その遺言と戸籍謄本(取得後3ヶ月以内のものに限る。)を提出する必要があります。なお、平成23年民法の改正前は、未成年後見人の氏名は1名に限られていましたが、同改正により複数氏名が可能となりました。
2-3.欠格事由
とはいえ、民法847条によると以下の事由のいずれに該当する者は未成年後見人となることはできません。
- 未成年者
- 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人,保佐人,補助人
- 破産者で復権していない者
- 未成年者に対して訴訟をし、又はした者ならびにその配偶者,その直系血族(祖父母や父母等)
- 行方の知れない者
2-4.未成年後見人の事務
2-4-1.財産の調査及び財産目録の提出義務
未成年後見人は、家庭裁判所に対し、選任後1か月以内に未成年者の財産を調査して財産目録を作成し、未成年者の毎年の収支予定を作成し、これらを提出しなければなりません。
2-4-2.報告義務
未成年後見人は、家庭裁判所に対し、定期的に、財産の現状と前回報告以降に行った後見業務の報告書を提出しなければなりません。
2-4-3.未成年後見の終了
未成年後見人は、未成年者が成年者となったときに任務が完了します。そして、未成年者が、成年者となった時に任務終了未成年後見人は、終了から10日以内に、各自治体の市役所に後見終了の届出をしなければならないとされています。
3.単独親権者にもしものことがあった場合は?
では、未成年の父母が離婚した場合に、離婚に際して親権者となった者(単独親権者)が死亡したときに、他方の離婚の際に親権者とならなかった父又は母の親権が復活するのでしょうか。
上記のとおり同項の最後に親権を行う者に死亡した親権者が含まれるか否かという点で問題となります。
確かに民法第819条第1項の規定によれば、離婚の際には父母の一方を親権者として定めなければならないとしています。そして、未成年後見の開始事由を定めた民法839条1項は「最後に親権を行う者」と規定していることから両条項の文言の違いに着目して「親権を行う者」とは親権者の資格がある者と解して、親権者とはならなかった父母であっても親権者の資格あることには変わりないとして、民法839条1項本文の「最後に親権を行う者」には、単独親権者は含まれず、離婚後親権者とならなかった父又は母は、単独親権者が死亡した後は、親権者とならなかった父又は母の親権が復活するという見解があります。
しかしながら、この見解によると、単独親権者が死亡したことにより、遺言の効果が生じているのに、それを明文の規定もなく、阻害する結果となること、また遺言者の意思に反することからすると、妥当ではないと考えられます。
3‐1.未成年後見人の指定も、親権者の指定の審判も可能
したがって、単独親権者は、民法839条の最後に親権を行使した者に該当します。そして、単独親権者の死亡は、未成年後見の発生事由にあたります。
とはいえ、他方の父又は母は生存していることからすると、この者を親権者とすることが子の福祉にかなうと認められるときは、親権者の指定又は変更の審判(民819条6号の準用)により生存親を親権者とすることもできます。
従って、最後に親権を行使する者が遺言で未成年後見人を指定しても、遺言の効力発生後に家庭裁判所の審判で、指定未成年後見人以外の者に親権者の指定又は変更がされる可能性は残ることは否定できません。
4.未成年後見監督人
未成年後見監督人とは、未成年後見人が未成年者の不利に財産管理、身上看護等の後見事務が行われることがないように、後見人の監督機関として家庭裁判所が選任する機関です。なお、未成年後見監督人は、未成年後見において必須の機関ではありません。
4-1.選任の方法
未成年後見人を指定できる者は、遺言で未成年後見監督人を指名することができます。この指定がない場合には、家庭裁判所の職権等で未成年後見監督人を選任することができます。
4-2.未成年後見監督人を指定する遺言例
第☓条 遺言者は、未成年者である●●●●(平成〇年〇月〇日生)のため、未成年後見監督人として次の者を指定する。 住 所 未成年後見監督人の住所 職 業 未成年後見監督人の職業 氏 名 未成年後見監督人の氏名 生年月日 未成年後見監督人の生年月日 |
4-3.未成年後見監督人の職務等
未成年後見監督人の指定は、多くの場合、未成年後見人の指定と同時に行われます。
ただし未成年後見人を家庭裁判所の選任に任せて、未成年後見監督人のみを指定する遺言も有効と考えられています。
未成年後見監督人の事務としては、
- 後見事務を家庭裁判所に報告すること
- 未成年後見人に対し財産目録の提出を請求すること
- 独自に事務の処理状況・財産状況を調査
- 未成年後見人が欠けた場合の家庭裁判所への選任の請求
- 利益相反行為がある場合の未成年者を代表して契約等の法律行為を代表すること
などを行います。
4-4.未成年後見監督人の欠格事由
以下の者は未成年後見監督人に就任することはできません。
- 未成年後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹
- 未成年後見人となることができない者
なお、遺言者が遺言で上記1.の者を未成年後見人として指定したにもかかわらず、家庭裁判所が、上記1.の者を未成年後見監督人として選任したとしても、未成年後見監督人の選任は効力を失います。
5.まとめ
以上のとおり、単独親権者が死亡した場合には、他方の父又は母がその子の親権者となるわけではなく、未成年後見が開始することになります。
この場合に、単独親権者が未成年後見人を遺言で指定していなかった場合には、家庭裁判所が他方の父又は母を未成年後見人として職権等で選任することが多いといえます。単独親権者は、これを回避するために遺言で未成年後見人を指定しておく必要があります。
加えて、遺言で未成年後見監督人を指定することも可能です。ただし、未成年後見監督人の指定は義務ではありません。
とはいえ、単独親権者が遺言で未成年親権者を指定し、この者が未成年後見人に選任されたとしても、他方の父又は母は、親権者の変更を申したてることができます。この変更申し立てにより親権者が変更されないようにするために、未成年後見人として指定する者について慎重に判断するべきです。
また、この一連の手続きは、遺言の作成や家庭裁判所の申し立て等の手続きが必要となりますので、できれば弁護士等の専門家の助言を受けて行為することを強くお勧めします。