生活保護受給者って相続できるの?

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生活保護受給者は年々増加傾向にあり、特にその半分以上が高齢者世帯といわれています。

少子高齢化が進むことに加えて、現在、日本国民の多くが将来のための貯蓄ができていないという現状がありますから、今後ますます生活保護の需要は増していくのではないでしょうか。

本記事では、そんな生活保護受給者の方でも相続できるのか、相続した場合に生活保護はどうなるのか、また相続する際の留意点を解説していきます。

1.生活保護受給者も相続できる

結論から言えば、生活保護受給者でも相続できます。
相続人としての地位は、本人や周囲の意思に関係なく、民法にしたがって当然に認められるからです。

もし、本人が相続人としての身分を離脱しようとする場合には、相続放棄の手続きをしなくてはなりません。
ただし、相続放棄する場合には、被相続人の死亡および自分が相続人であるという事実を知ってから3ヶ月以内に、家庭裁判所に申請する必要があります。
生活保護受給者の相続放棄については「4.生活保護受給者は相続放棄できる?でご説明します。

さて、生活保護受給者でも相続できるとはいえ、相続によって遺産が舞い込んできたら、受給していた生活保護はどうなるのでしょうか。

これをご説明する前に、まずはなぜ我が国で生活保護制度が設けられているのか、制度の概要を確認しておきましょう。
時間に余裕がない、結論だけ知りたいという方は「3.生活保護受給者が遺産相続したら必ずすべきことにジャンプしてください。

2.生活保護制度のしくみや申請の流れ

2-1.生活保護の目的

そもそも、生活保護制度とは、自分で生計を立てるのが困難な人に対して、国から一定の金銭・物資などの支援をするものです。
生活保護制度は、単なる生活の保障に留まらず、本人の自立の助長も目的としています。

生活保護法 1条
この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。

2-2.生活保護で受けられる扶助

「最低限度の生活の保障」とは

先の生活保護法1条にいう「最低限度の生活」とは、憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」に基づくものです。
健康で文化的な最低限度の生活を送ることは全国民が有する「権利」ですから、生活保護制度は、慈善的な枠を超えた、国民の生存のためになくてはならない制度なのです。

8種類の扶助内容

生活保護制度によって受けられる保護内容は、人が生活していく上で必要な様々な分野に及んでいます。
生活保護法上、以下の8種類が定められています。

  • 生活扶助:衣食その他日常生活に必要な需要を満たすための金銭の支給
  • 教育扶助:義務教育に伴って必要となる教科書、学用品等の現物や金銭の支給
  • 住宅扶助:賃貸住宅の家賃や自宅の補修等に必要な金銭の支給
  • 医療扶助:医療機関での診察、薬剤等の無償での給付
  • 介護扶助:居宅介護、福祉用具、住宅改修などを無償で給付
  • 出産扶助:出産に伴い必要となる金銭の支給
  • 生業扶助:生業に必要な資金、器具等に必要な金銭の支給
  • 葬祭扶助:検案、死体の運搬、葬祭等に必要な金銭の支給

実際の支給内容は、被保護者の家族状況、環境、居住地、健康状態など、様々な状況を考慮して個々に判定されます。

また、世帯単位の保護となるため、最低限度の生活費の基準額(厚生労働大臣が定める)は世帯単位で判定されます。
生活保護を申請した本人の収入が低くても、その人の世帯全体の収入が基準額以上だと保護を受けることができない場合もあります。

2-3.生活保護を受給するための条件

生活保護を受給するための大前提

生活保護法では、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用」した上で(生活保護法4条)、「不足分を補う程度において行うものとする」と規定されています(生活保護法8条)。

要するに、国民は自力で自分や家族の生計を立てることが基本ですが、いくら努力しても不足してしまうというときは国が不足分を補いますよ、という考え方です。
努力もせずに生活保護を受けようとする人が多発しては国が成り立たないため、このような規定になっています。

具体的な生活保護の条件

具体的には、以下の対処策を講じても、最低限度の生計費に満たないと判定されることが、生活保護受給の条件です。

  • 世帯全員の収入を合算しても、最低生活費より少ない
  • 保有する資産は売却して換価した
  • 働ける人は就労して収入を得た
  • 扶養義務者からの援助を受けた
  • 社会保険や福祉制度からの扶助を受けた

2-4.生活保護の申請手続き等

生活保護は、急迫した事情がない限り申請によって認められるため(8条)、どんなに困窮していても申請をしなければ保護を受けることはできません。

申請手続きの主な流れは、以下のとおりです。

  1. 相談:住所地の福祉事務所等で自身の状況等を話して、手続きなどの説明を受ける
  2. 生活保護の申請:申請書を作成し、必要な書類を添付して窓口に提出する
  3. 調査:担当のケースワーカが自宅訪問して生活状況や預貯金などの確認をする
  4. 審査・決定:上記の調査結果を踏まえて、保護の要否判定を行う
  5. 受給:「保護決定」との判定になると、受給が開始される

なお、審査・決定の内容に不服がある場合には不服申立てもできますが、今回はその説明は割愛します。

生活保護制度の大枠がご理解いただけたところで、いよいよ、生活保護受給者の相続について解説します。

3.生活保護受給者が遺産相続で必ずすべきこと

冒頭でお伝えしたとおり、生活保護受給者も相続人として遺産を受け取ることが可能です。

しかし、遺産が借金等の債務ばかりでない限り、相続で遺産を手にすれば生活保護受給者の財政状況が多かれ少なかれ改善するはずです。
そのとき、生活保護受給者はどうするべきなのでしょうか。

生活保護法では、生活保護受給者に対して次の4つの義務を求めています。

  • 生活上の義務(生活保護法60条) 被保護者は、自分でできる範囲で収入を得たり家計の改善に努めること。
  • ★届出の義務(生活保護法61条) 家計や家族状況、居住地の変更等があった場合には、すみやかに届け出ること。
  • 指示等に従う義務(生活保護法62条) 保護施設等への入居等に関する指示に従うこと。
  • ★費用返還義務(生活保護法63条) 資力があるにも関わらず保護を受けた場合には、その保護費を返還すること。

上記のうち、遺産相続と生活保護の関係では★の2つが大切です。

生活保護受給者は、遺産相続で家計に変更があった場合には、その旨を届け出なければなりません(61条)。
そもそも生活保護の受給中は、受給者は収入の状況を毎月申告しなくてはなりませんから、必然的に届け出ることになります。

ただし、相続したからといってすぐに生活保護の支給が停止するわけではありません。
遺産相続してもなお最低限度の生活を送ることが困難だと認められる場合には、支給が継続されます。

もし、生活していくのに十分な遺産を手にしたのに、相続の事実を隠して不正に生活保護を受け続けた場合には、63条により保護費を返還しなくてはなりません。

4.生活保護受給者は相続放棄できる?

しかし、生活保護受給者の方が相続人となるときに懸念されるのは、遺産を受け取ることで、生活保護が停止されるかもしれないという点ではないでしょうか。
相続で遺産を手にしたからとはいえ、生活保護受給者本人の収入源自体は依然もろいままですから、受給が打ち切られることは長期的にみて不安でしょう。

そこで、「遺産を相続せずに保護費を継続して受給したい」と考える方もいると思います。

相続を拒否する方法としては①相続放棄、②遺産分割で事実上相続分をなくす、という2つのパターンが考えられます。
以下では、4-1.および4-2.では相続放棄について、4-3.では遺産分割について、そもそも生活保護受給者が相続しないことが可能なのか解説していきます。

4-1.生活保護受給者は原則として相続放棄できない

生活保護費の受給を継続するために相続放棄することは、原則としてできません。

2.でも述べたように、「利用し得る資産等を、生活維持のために活用した上で」どうしても不足が生じるという人にのみ、生活保護の受給が認められているためです。
相続放棄はもらえるはずの資産を自ら拒否するということですから、上記の要件から外れてしまうのです。

したがって、正確にいうと、生活保護受給者が相続放棄によって得られる資産を自ら手放してしまうと、生活保護費の要件を満たさなくなり、受給を続けられなくなってしまうのです。

ただし、被相続人が残した借金が多いときや、山林など処分が難しく所有することでコストがかかってしまうような不動産等があるときには、相続放棄したうえで生活保護受給を継続することも認められます(※)。
実際の運用は、様々な事情を考慮して検討されますから、ケースワーカーとよく相談して判断していきましょう。

(※)相続放棄する場合には、被相続人の死亡および自分が相続人であるという事実を知ってから3ヶ月以内に、家庭裁判所に申請しなくてはなりません。この期間を過ぎると相続放棄が認められなくなってしまうので、ご注意ください。

相続放棄については注意点も多いため、次でもう少し解説します。

4-2.相続放棄しても、一定の管理責任があることも

売却するのが難しく、生活の助けにもならない遺産の相続については、生活保護受給者の相続放棄が認められる(放棄しても生活保護の受給を続けられる)可能性があります。
例えば、古くなって住めないような空き家や放置されて荒れた土地、買い手の見つかりにくい美術品などです。

売却が難しいという理由で相続放棄すれば、相続人の立場ではなくなります。
しかし、相続放棄しても遺産の管理を行う責任は残ることにご注意ください。

民法940条で「相続を放棄した者による管理」という義務が定められているためです。
遺産の中に土地・建物や自動車などの現物資産が含まれている場合には、適切な管理をしないと第三者に損害が発生してしまう可能性もあります。また、一定の管理費用や必要になることも多いでしょう。

特に空き家を相続放棄した際には、絶対に放置しないようにしてください。

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なお、相続財産の内容によっては、売却しなくてもよいケースもありますから、一概には言えないのが現状です。

このように、生活保護と相続に関わる内容は複雑に入り組んでいるので、詳しいことはケースバイケースで、専門家に相談することをおすすめします。

4-3.遺産分割協議で相続分を減らせるか

被相続人の遺言書がなく、なおかつ生活保護費受給者を含め複数の相続人がいるときは、遺産分割を行うことになります。

また、遺言書に生活保護受給者の方に相続させる旨が明記されていた場合であっても、相続人全員の同意があれば、遺産分割協議で相続分を決め直すことは可能です。
【関連記事】遺言と異なる遺産分割協議を行う場合の注意点

この遺産分割のなかで、生活保護費受給者の方があえて相続する遺産を減らすことも、事実上は可能です。

しかしながら、生活保護受給を続けるためにあえて相続分を減らしたことが発覚した場合、不正受給分の保護費返還を求められたり、生活保護を受けられなくなる可能性があります。

相続の内容と役所の判断によっても異なるので一概にはいえないものの、結論としては、生活保護受給を継続する目的で相続を放棄したり、一部の受け取りを拒否したりすることは、基本的には行わないほうがいいでしょう。

5.生活保護受給者が相続するときの対応手順

最後に、生活保護受給者の方が相続するときの対応の手順や、留意点について解説します。

5-1.相続財産の内容を把握

生活保護受給者の方が相続人になったときに、まず行うべきなのは、相続財産の内容を正確に把握することです。
自分が受け取る財産の内容により、現在受給している生活保護に変動が生じる可能性があります。そしてどの程度の変動になるかは、相続財産の評価とその換価性によります。

確認する点としては、現預金が多いのか、それとも現預金はほとんどなくて家や土地が主なものなのか、遺産に借金が含まれていないかなどが挙げられます。

相続財産の評価額より負債額の方が多い場合には、相続放棄をすべきことが多いでしょう。
ただし、先述の通り、相続放棄した遺産の管理責任がどこまで求められるかを把握しておくことも重要です。

また、不動産などの現物資産が多い場合には、売却の可能性についても検討する必要があります。
このような相続財産の調査、評価、売却可否などの判断は、その後の生活保護に関わる手続きに影響するため、慎重に行う必要があります。

5-2.ケースワーカーと相談

次に、上記の相続財産の調査状況を踏まえて、ケースワーカーに相談する必要があります。
これは、生活保護受給者の義務のひとつである「届出の義務」につながるものです。

届出をしたからといって、すぐに受給額を変更されたり、停止などの処分がなされるわけではありません。
行政側としては、減額等は受給者に対する不利益処分となるため、手続きは慎重に進めてくれます。

受給額の変更等を判断するためには、相続財産を実際に換金できるか、そしてその金額が被保護者の生活費の何か月分に相当するか、などの計算をした上で、最終的に減額・停止・廃止等を決定することになります。

今後の生活の見通しについても検討

遺産の相続は、生活保護受給者自身の今後の生計や生活の見通しを考える機会でもあります。

生活保護受給者の多くは、将来的には自立していきたいと思っているでしょう。
一定の遺産を受け取ることで、その資産を自立に向けて活用できないか、ケースワーカーや弁護士などの専門家と検討してみてもよいでしょう。

6.まとめ

本記事では、生活保護受給者でも相続人になれること、また、相続する場合の留意点などを中心にご説明しました。

生活保護を受給するに至る要因には、DV被害、心の病、いじめによる意欲減退、高齢や認知、種々の障がいなど、人によって様々な事情があって、生活保護受給者は経済的な問題以外に多くの課題を抱えています。

そのような中で、さらに相続人という立場が加わると、とても大きな負担になります。
したがって、被保護者の相続については、本人だけでなく周囲の支援者も関わって、専門家にも相談しつつ、被保護者が孤立しないようサポートしていくことが重要です。

相続は、一生に何度も出会うことはないため、多くの方にとっては、未知の分野です。
生活保護とも関係してくると余計に複雑になります。適切な専門家の助力を得て、対応していくことをおすすめします。

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