生活保護受給者って相続できるの?

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本稿では、生活保護受給者(以下「被保護者」という)が、相続人となった場合の留意点や対応方法についてご説明します。

巷間、被保護者は相続人になれるのか、などの質問がネット上で飛び交っていて、該当する方々に混乱が生じているようです。相続人というのは、民法で定められた条件に該当する人は、本人の意思に関係なく、その立場になるわけで、生活保護を受給しているかどうかとは、全く関係ありません。

なお、本人が相続人としての身分から離脱しようとする場合には、相続放棄の手続きをしなければならず、それも相続開始後、3か月を経過すると、自動的に相続人であることを承認したこととなります。従って、人は誰でも相続人になりえるわけですが、その人が生活保護を受給している場合に留意すべきことは何か、ということが今回の趣旨になります。

1.生活保護制度のしくみ

まずは、生活保護制度のしくみについてご説明します。生活保護制度では、生計の自立が困難な人に対して、国が一定の生活資金等を援助することを目的としています。遺産相続との関連を考える上で、まずは生活保護制度の考え方や原則を理解することが重要です。

1-1.生活保護の目的

生活保護の目的は憲法第25条「生存権、国の社会的使命」の理念にもとづき、国が生活に困窮するすべての国民に対して、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することです(生活保護法第1条より。以下特にことわらない限り、第〇条は、生活保護法をさします)。

この最低限度の保障とは、憲法第25条の「健康で文化的な最低限度の生活」を指しており、金銭給付や現物給付(サービス提供等)により、その目的を達成することとしています。

また憲法第25条では、この最低限度の生活について、国民はすべて「権利を有する」と定めており、慈善的なものではありません。

一方、第1条には、国民の「自立を助長」することも目的とされています。この自立については、昨今の複雑な社会状況の中で、様々な形で国に対して、被保護者の自立をサポートしていくことを求めています。

1-2.生活保護適用の前提条件

生活保護法には、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用」(第4条)した上で、「不足分を補う程度において行うものとする。」(第8条)と規定されています。要するに、国民は自力で自分や家族の生計をたてることが基本であるが、様々努力しても不足するときに、国がそこを支えようという考え方です。

具体的には、以下の対処策を講じても、最低限度の生計費に満たないと判定されることが、生活保護受給の条件です。

  • 世帯全員の収入を合算しても最低生活費より少ない
  • 保有する資産は売却して換価した
  • 働ける人は就労して収入を得た
  • 扶養義務者からの援助を受けた
  • 社会保険や福祉制度からの扶助を受けた

1-3.生活保護による扶助の種類

保護の内容は、人が生活していく上で必要な様々な分野に及んでいます。生活保護法では、以下の8種類が定められています。実際の支給内容は、被保護者の家族状況、環境、居住地、健康状態など、様々な状況を考慮して個々に判定されます。

  • 生活扶助:衣食その他日常生活に必要な需要を満たすための金銭の支給
  • 教育扶助:義務教育に伴って必要となる教科書、学用品等の現物や金銭の支給
  • 住宅扶助:賃貸住宅の家賃や自宅の補修等に必要な金銭の支給
  • 医療扶助:医療機関での診察、薬剤等の無償での給付
  • 介護扶助:居宅介護、福祉用具、住宅改修などを無償で給付
  • 出産扶助:出産に伴い必要となる金銭の支給
  • 生業扶助:生業に必要な資金、器具等に必要な金銭の支給
  • 葬祭扶助:検案、死体の運搬、葬祭等に必要な金銭の支給

1-4.生活保護の申請手続き等

生活保護は、急迫した事情でない限り、「申請に基づいて開始するものとする。」(第8条)と定められており、原則として申請主義を採用しています。どんなに困窮していても、申請をしなければ保護を受けることはできません。

また、世帯単位の保護となるため、最低限度の生活費の基準額(厚生労働大臣が定める)は世帯単位で判定されます。申請者本人の収入が低くても世帯の収入が基準額以上だと保護を受けることができない場合もあります。

申請手続きの主な流れは、以下のとおりです。

  1. 相談:住所地の福祉事務所等で自身の状況等を話して、手続きなどの説明を受ける
  2. 生活保護の申請:申請書を作成し、必要な書類を添付して窓口に提出する
  3. 調査:担当のケースワーカが自宅訪問して生活状況や預貯金などの確認をする
  4. 審査・決定:上記の調査結果を踏まえて、保護の要否判定を行う
  5. 受給:「保護決定」との判定になると、受給が開始される

なお、審査・決定内容に不服がある場合には、不服申立てもできますが、本稿ではその説明は省きます。

2.被保護者の遺産相続に関わる留意点

先にご説明したとおり、被保護者が相続人として、遺産を受け取ることは、全く問題ありません

ただし、相続というのは、財産の移転行為であり、それにより被保護者にとっては、受給決定時に届け出ていた生計内容から変動が生じる可能性があります。そのときに、被保護者としてすべきことは何かなど、理解しておくことが重要です。

2-1.被保護者の権利と義務

生活保護の受給開始の決定は、行政法上は、行政処分であり、被保護者と国や自治体との間に一定の権利義務の変動が生じます。

生活保護法では、その内容を「被保護者の権利及び義務」(第10章、第56条以降)として定めています。 被保護者の権利として、国からの一方的な不利益変更(減額など)や、受給した金銭に対する課税や差押えの禁止などが定められています。

一方、今回テーマの、遺産相続との関係でいうと、「義務」の部分での影響が大きいので、こちらを中心にご説明します。

生活保護法では、被保護者に対する義務として次の4つを定めています。

  • 生活上の義務(第60条) 被保護者は、自分でできる範囲で収入を得たり、家計の改善に努めること。
  • 届出の義務(第61条) 家計や家族状況、居住地の変更等があった場合には、すみやかに届け出ること。
  • 指示等に従う義務(第62条) 保護施設等への入居等に関する指示に従うこと。
  • 費用返還義務(第63条) 資力があるにも関わらず、保護を受けた場合には、その費用を返還すること。

遺産相続との関係でいうと、「届出の義務」、「費用返還義務」で影響がありそうです。 被保護者が、相続により現金や不動産などを受け取ると、収入等に変動が生じることになるため、届出の義務が生じます。その結果として、現在受給している生活保護の受給内容にどの程度影響が出るかということが問題になりそうです。

2-2.遺言と遺産分割協議

被保護者が遺言により遺産を受け取ることになったときに、それにより生活保護の受給が停止されることなどを懸念して、遺産の受け取りを拒否できるでしょうか。

遺産の受け取りを拒否する手段としては相続放棄があります。相続放棄をすれば、相続人としての一切の権利義務から逃れられることになります。

もう一つの方法は、相続人間で、遺言とは異なる内容の遺産分割協議を行うことです。生活保護を受給している相続人が、遺産分割協議にて、みずからの相続分を減額するなどの方法もありえます。

このような遺産分割の場面において、生活保護を受給している相続人が、あえて遺産を減額したり受け取りを辞退することが許されるのか、という問題があります。

2-3.相続財産の評価

被保護者である相続人が遺産を受けとるとしたときに、その財産の評価が問題になる場合があります。

現預金や有価証券であれば、換金価値について、問題になることはないでしょう。しかし、土地・建物等の不動産、自動車などの動産、美術品などの工芸品などはどうでしょうか。生活保護を受給するには、資産があればそれを売却して生活費にあてることが求められます。

しかし相続税法上の財産評価額がどんなに高くても、結局のところ売却して換金できないと、生活費にあてることができません。

では、売却が難しいからという理由で、相続放棄したらどうなるでしょうか。そのときは、相続人の立場ではなくなりますが、当分のあいだ遺産の管理を行う責任が生じます。

これは民法940条に「相続を放棄した者による管理」で定められています。遺産の中に土地・建物や自動車などの現物資産が含まれている場合には、適切な管理をしないと第三者に危害を加えかねません。また、一定の管理費用や稼働が発生する可能性もあります。

なお、相続財産の内容によっては、売却しなくてもよいケースもあります。このように、生活保護と相続に関わる内容は、複雑に入り組んでいるので、詳しいことは専門家に相談することをおすすめします。

2-4.相続放棄の選択可否

生活保護を受給している人が相続人となったときの懸念は、遺産を受け取ることにより生活保護が停止などされるのではないかということです。

なぜそのような懸念があるかといえば、遺産は相続人自身の能力とは関係なく承継されるため、被保護者がまだ自力で稼げないにも関わらず、生活保護の受給が打ち切られると、生活の基盤が揺らぐことになります。そのことへの不安や心配から、相続放棄できないか、という考え方につながっていると思われます。

しかし、相続により遺産を受け取ることが確定している場合には、相続放棄は、第4条の「保護の補足性」(被保護者が遺産を活用することを条件として、国が不足分を補う)に反する行為として、認められないと考えられます。 実際の運用は、様々な事情を考慮して検討されるので、ケースワーカとよく相談して判断していく必要があるでしょう。

3.遺産相続における対応方法

相続人となったときにまず行うことは、相続財産の内容を正確に把握することです。自分が受け取ることになる財産の内容により、現在受給している生活保護に変動が生じる可能性があります。どの程度の変動になるかは、相続財産の評価とその換金性の可能性によります。今後の対応をケースワーカと相談したり、生計の見通しを再検討したりと様々な対応が必要になります。

3-1.相続財産の内容を把握

生活保護を受給している人が相続人になったときに、まず行うことは、相続財産の内容を正確に把握することです。現預金が多いのか、現預金はほとんどなくて家や土地が主なものなのか。また、借金など負債はないか確認することも重要です。

相続財産の評価額より負債額の方が多い場合には、相続放棄がまず選択されるでしょう。但し、先にご説明したとおり、相続放棄した遺産の管理責任がどこまで求められるかを把握しておくことも重要です。

また、不動産などの現物資産が多い場合には、売却の可能性についても、検討する必要があります。このような相続財産の調査、評価、売却可否などの判断は、その後の生活保護に関わる手続きに影響するため、慎重に行う必要があります。ご自身の判断に不安がある場合には、専門家に相談することをおすすめします。

3-2.ケースワーカと相談

相続人になることが確定した際には、上記の相続財産の調査状況を踏まえて、まずはケースワーカに相談する必要があります。

これは、被保護者の義務として定められている「届出の義務」に該当すると考えられます。届出をしたからといって、すぐに受給額を変更されたり、停止などの処分がなされるわけではありません

行政側としては、減額等は受給者に対する不利益処分となるため、慎重に手続きをすすめます。受給額の変更等を判断するためには、相続財産を実際に換金できるか、そしてその金額が被保護者の生活費の何か月分に相当するか、などの計算をした上で、最終的に減額、停止、廃止等を決定することになります。

このような慎重な手続内容を考慮すると、相続により財産を取得することがはっきりしているにも関わらず、あえて相続放棄することは許されないでしょう。

3-3.生活の見通しを検討

相続人になることが確定したら、相続財産の評価と換金の可能性の検討、そしてケースワーカとの相談が必要なことをご説明しました。

遺産の相続は、被保護者自身の今後の生計や生活の見通しを考える機会でもあります。被保護者の多くは、将来的には自立していきたいと思っています。一定の遺産を受け取ることで、その資産を自立に向けて活用できないか、検討してみてもよいでしょう。

実際には、多種多様なケースが想定されるので、ケースワーカやその他の専門家に相談することをおすすめします。

4.まとめ

今回は、被保護者が相続人の立場になった場合の留意点などを中心にご説明しました。

生活保護を受給するに至る要因には、DV被害、心の病、いじめによる意欲減退、高齢や認知、種々の障がいなど、様々な状況がからみあい、被保護者は経済的な問題以外に多くの課題を抱えています。そのような中で、さらに相続人という立場が加わると、とても大きな負担になります。従って、被保護者の相続については、本人だけでなく、周囲の支援者が関わって、専門家にも相談しつつ、被保護者が孤立しないようサポートしていくことが重要です。

相続は、一生に何度も出会うことはないため、多くの方にとっては、未知の分野です。生活保護とも関係してくると余計に複雑になります。適切な専門家の助力を得て、対応していくことをおすすめします。

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