仮想通貨の相続とは?電子マネーやデジタル遺産の相続への備え
総務省のデータによると、2020年の個人のインターネット利用率は83.4%、年齢階層別では、13歳~59歳までの各階層で9割を超えています*。
そのため、近年ではネットバンキング、電子マネー、仮想通貨(暗号資産)など、新たな形の財産が増えています。
そこでこの記事では、仮想通貨などの所謂「デジタル遺産」の相続について簡単に概要をご説明します。
【出典】インターネットの利用状況「第2部 基本データと政策動向」|総務省
目次
1.デジタル遺産とは
現在のところ、「デジタル遺産」という言葉に公的・法的な定義はありません。
一般的にデジタル遺産には金銭的価値がある遺産と、被相続人が撮影した動画や写真データなど金銭的価値のない遺産とがあり、ここで取り上げるのは、次のような金銭的価値のある遺産です。
- 暗号資産(仮想通貨)
- ネット銀行の口座
- ネット証券の株式や債権の口座
- FX(外国為替保証金取引)口座
- 飛行機のマイレージ
- 電子マネー
など
例えば、飛行機のマイレージは金銭的価値があるうえに、JALやANAのマイルは、一定期間以内に申請を行うことで相続が可能です。
マイレージが各航空会社によって相続の可否が異なるように、デジタル遺産の相続についての扱いは会社によって異なります。
Tポイントのように被相続人が貯めたポイントは、相続の対象にならないものも多いため、規約を確認する必要があります。
2.仮想通貨の相続方法
次に、主なデジタル遺産である仮想通貨とネット銀行の相続方法についてご説明します。
2-1.仮想通貨の相続方法
仮想通貨は、以下の手順で相続手続きを行います。
- 被相続人が利用していた取引所を探す
- 被相続人の死亡を取引所に伝える
- 相続手続きの必要書類を揃えて送付
- 仮想通貨の払戻手続き
被相続人が利用していた取引所を探す
最初に、被相続人が使っていたパソコンやスマートフォンなどから利用していた取引所を探します。取引履歴や取引所のアプリケーションを探します。メールの履歴やブックマークが手掛かりになることがあります。
また、仮想通貨に関連する取引明細などの書類があれば、取引所が特定できます。
被相続人が亡くなったことを取引所に伝える
被相続人が利用していた取引所が分かったら、死亡の事実を伝えます。
取引所のホームページには、問い合わせフォームが設置されており、そこから連絡することができます。取引所へ連絡すべき情報は、取引所によって異なるため、ホームページを確認しましょう。
相続について伝えると、相続手続きに必要な書類を知らせてくれます。相続開始日の残高証明書を請求すると、遺産分割協議をする際に、被相続人が所有していた仮想通貨の最終的な金額が分かり役立ちます。
相続手続きの必要書類を送付し払い戻し
相続手続きには、一般に、次の書類が必要です。詳しくは、被相続人が取り引きをしていた取引所へ直接ご確認ください。
- 取引所所定の相続届
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人の現在の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書(一般に発効日から6カ月以内のもの)
- 代表相続人の身分証明書(マイナンバーカードや運転免許証などのコピー)
など
それら書類を取引所が確認後、口座は解約され、仮想通貨を日本円に換算して代表相続人の銀行口座に振り込まれます。
2-2.ネット銀行の相続方法
被相続人が利用していたネット銀行の相続手続きは、以下の手順で行います。
- 被相続人が口座を開いていたネット銀行を探す
- 被相続人が亡くなったことをネット銀行に伝える
- 契約内容を確認後に書類が届く
- 相続手続きの必要書類を送付する
- 2~4週間程度で相続手続きが完了
被相続人が口座を開いていたネット銀行を探す
被相続人が口座を開いていたネット銀行を探すには、パソコンやスマートフォンのメールの履歴を調べるのが有効です。ネット銀行からメールで様々な案内が送られてくるからです。
また、被相続人が口座を持っていた実店舗のある銀行で取引履歴を調べ、ネット銀行との資金のやり取りがあれば、そこに口座を持っていた可能性は高くなります。
被相続人が亡くなったことをネット銀行に伝えると必要書類が届く
ネット銀行は、カスタマーセンターや受付フォームを置いています。そこから口座名義人が亡くなったことを伝えます。
相続が開始したことをネット銀行に伝えると、相続手続きの必要書類を送付してくれます。
相続手続きの必要書類を送付する
ネット銀行所定の必要書類に必要事項を記入し、相続手続きの必要書類を揃えてネット銀行に返送します。
一般に、ネット銀行の相続手続きには、以下の書類が必要です。
- ネット銀行所定の相続手続き書類
- 遺産分割協議書または遺言書(自筆証書遺言の場合は検認調書など)
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人の戸籍謄本
- 相続人の印鑑証明書(一般に発行日から6ヶ月以内のもの)
など
ケース毎に必要書類が異なるため、被相続人が口座を開設していたネット銀行に直接お問い合わせください。
被相続人の口座の相続手続き
ネット銀行は、送付された書類を確認後、口座の解約手続きや払戻手続きを行います。
3.仮想通貨にも課される相続税
金銭的価値のあるデジタル遺産にも、当然に相続税が発生します。
そこで、仮想通貨の相続税について簡単に考えてみます。
3-1.仮想通貨の相続税評価
仮想通貨を相続や遺贈、贈与によって取得すると、取得した人には相続税がかかります。
仮想通貨の課税評価については、活発な市場が存在するかどうかで分かれます(相続税財産評価通達4-3、5)。
- 活発な市場が存在する場合
外国通貨に準じて、仮想通貨取引所が公表する課税時期における取引価格によって評価 - 活発な市場が存在しない場合
仮想通貨ごとに個別に評価
活発な市場が存在する場合
「活発な市場が存在する」には、取引所・販売所で十分な数量が、十分な頻度で取り引きが行われており、継続的に価格情報が提供されている必要があります。
国内の複数の取引所で売買が行われていれば、「活発な市場が存在する」と考えて問題ないでしょう。
「活発な市場が存在する」場合には、「相続開始日の残高証明書の金額」または「相続開始日の売却価格」を相続税評価額とすることができます。
したがって、活発な市場が存在する場合には、複数の取引所から、相続開始日の売却価格のうち最も低い額を相続税評価として選択することが可能です。
ただし、相続人にとっては、複数の取引所の売却価格を調べるより、取り寄せた相続開始日の残高証明書を確認するほうが現実的です。
活発な市場が存在しない場合
一方、1つの取引所でのみ売買されている場合や、新規発行された仮想通貨の場合は、「活発な市場が存在しない」に該当します。
この場合の仮想通貨のは、その内容・性質・取引実態などを考慮して個別に評価なければなりません。
具体的には、実際に市場で行われた同種の資産の売買価額に基づく「売買実例価額」や、専門家の鑑定による「精通者意見価格」を評価額とする方法が考えられます。
4.デジタル遺産を相続する際の問題点
デジタル遺産は、従来の有体物である現金や不動産などとは異なり、相続については基本的に個別に調査・対応していくしかありません。
4-1.デジタル遺産相続の問題点①|把握が難しい
最大の問題点は、デジタル遺産の存在を把握するのが難しいことです。
ネットバンクの口座や仮想通貨の取引などは、書類として記録が残ることが少ないため、相続人がデジタル遺産の存在に気づかないことがあります。
パソコンやスマートフォンにロックがかかっていれば、ブックマークやアプリの手がかりすら掴むことができません。
また、仮に口座があることを相続人が知っていたとしても、IDやパスワードまでは知らないため、どの程度のデジタル遺産があるのかを把握できないことが多くなります。
4-2.デジタル遺産相続の問題点②|相続後も費用が発生する可能性
被相続人が自動更新の有料サービスを受けていれば、相続開始後、解約しない限り支払いは続きます。
ネット証券で購入した投資信託など継続して信託報酬等の費用がかかるデジタル遺産もあります。本人が積立設定をしていれば、相続発生後も、自動的に投資信託購入のための資金が銀行口座から流出してしまうこともあり得ます。
そもそもデジタル遺産を把握できなければ、こうした追加費用や積立も認識できません。
4-3.デジタル遺産相続の問題点③|認知症になると動かせない
デジタル遺産に限ったことではありませんが、本人が認知症になってしまうと、デジタル遺産の適切な管理ができなくなります。
家族でも、適切に代理できないために、お金を引き出したり口座を畳んだりといったことができず、また成年後見制度を利用したとしても、デジタル遺産を特定できず、必要な管理ができません。
5.デジタル遺産相続は早めに対策を
5-1.どこにデジタル資産があるか記録する
デジタル資産をお持ちの方に最低限行ってほしい対策は、デジタル資産の所在を記録しておくことです。
仮想通貨やネットバンクなどのデジタル資産は、二段階認証が必要だったり、複数のパスワードを要求される場合もありますが、少なくとも相続人が存在を把握できるようにする、という意味では有効な対策です。
どの金融機関や取引所などに、どのようなデジタル資産があるかを相続人が把握できれば、それぞれの会社に対して、適切に相続の手続きを行うことができます。
5-2.IDやパスワードを記録する
セキュリティの不安はあるかもしれませんが、資産ごとにID、パスワードを記録するのが最も確実と言えます。
先述した「どこに」あるかという情報とともに、それぞれのIDやパスワードなどのログインに必要な情報も記録しておくことで、相続人の負担は軽くなります。
ID、パスワードの記録方法は、アナログにノートなどにメモする方法や、パスワードマネージャーを利用する方法もあります。
アナログのメモであれば、エンディングノートなどにまとめて記載する方法もおすすめです。
5-3.家族でデジタルの資産について話し合っておく
ハードルが高いかもしれませんが、家族でどういうデジタル資産を保有しており、今後どう対処するかを話し合っておくのも有効です。
もちろん、こうした話し合いの過程で、仮想通貨などのデジタル資産だけでなく、相続一般について話し合っておけば、相続全般の対策にもなります。
まとめ
基本的に、デジタル遺産も相続の対象になります。
現状では、相続人が「どこに」デジタル遺産があるかを把握する必要があります。
被相続人の元気なうちに、家族でこうしたデジタル資産の扱いについて話し合う機会を設けるのも一つの対策です。
また、ただメモを残してもらうだけでも、相続の負担は大きく変わります。
弁護士は、弁護士会照会によって、官公庁や企業などの団体に対して必要な情報の提供を求めることができます。相続手続きすべてを依頼できる弁護士事務所もあります。
相続手続きは、相続に強い弁護士に任せてしまうのも一つの方法です。