特別養子縁組が利用しやすく!特別養子制度の法改正を分りやすく解説

特別養子制度は、親に遺棄された子ども、親に虐待された子どもなど、「家庭での養育に恵まれない子ども」と「子どもを望む夫婦」をつなぐ制度です。
その特別養子制度をめぐる法律が改正され、2020年4月1日から施行されます。
今回の改正は、特別養子制度を利用しやすくするための法改正です。どのような改正なのか、詳しく解説します。
目次
1.特別養子制度とは
日本の養子制度には、普通養子と特別養子の2つがあります。
普通養子
普通養子では、養子縁組によって養親と養子の間に法的な親子関係を新たに発生させても、もともとの実親と養子の親族関係がなくなるわけではありません。
例えば、実親が死亡した際の相続権は失いませんし、戸籍上も養子であることがすぐにわかります。
特別養子
これに対し特別養子とは、養親と養子の間に実の親子と同様の親族関係を生じさせる一方、実親と養子の親族関係を消滅させる制度です。
この制度で特別養子となった者は、その実親が死亡した際の相続権を失います。戸籍上も養子であることは一見してわかりません。
このような特別養子制度は「子のための養子制度」と言われます。
育児放棄や児童虐待など、血のつながった実親による養育に恵まれない子に家庭的な養育環境を与えて保護する児童福祉のための制度なのです。
2.特別養子制度を法改正する目的
特別養子制度は1987年(昭和62年)に創設され、当初は年間1,000件程度の縁組がありましたが、近年は500件程度で利用が増えませんでした。
その原因として、法律が定めている条件が厳しすぎ、また手続も決して利用しやすいものではないことが指摘されていました。
児童相談所や養子斡旋民間団体に対する厚労省の調査では、平成26年から同27年の間に、厳格な条件を満たせない等の理由から特別養子を利用できなかったケースが約300件もあったとされています。
特別養子は特殊な制度ですから、無限定に認めるわけにはいきませんが、児童養護施設に入所中の子どもなど、現に救済を必要とする児童を放置することは許されません。
そこで、①特別養子が認められる「要件を緩和」し、②「使いやすい手続」とすることで、制度の利用を促進するべく、法改正が行われたのです。
3.法改正の2つのポイント
今回の改正には、上述した①要件の緩和、②使いやすい手続の観点から、次の2点がポイントとなっています。
- 要件の緩和
→ 特別養子とできる上限年齢の拡大 - 使いやすい手続
→ 家庭裁判所の手続を合理化し、養親となることを希望する者の負担を軽減
では、この2つのポイントに沿って説明してゆきましょう。
4.ポイント①|特別養子の上限年齢の引上げ(民法改正)
4-1.民法改正前の上限年齢
改正前は、家庭裁判所に特別養子縁組の審判を申立てした時点で6歳未満であることが原則でした(改正前民法817条の5本文)。
例外として、特別養子縁組の審判を申立てした時点で8歳未満の子どもで、かつ、養子が6歳に達する前から養親となる候補者が養育を続けているときは特別養子とすることが認められました(同条ただし書)。
これは、実を伴う親子関係を形成するには、できるだけ幼い時点から養育をスタートすることが望ましいという点を重視した規制でした。
また、制度導入当時は新たな試みであったことから、当初は保護の必要性が明らかな低年齢に絞って開始することとしていたのです。
4-3.改正後の上限年齢等
しかし、新たな家庭環境のもとで保護する必要性がある子どもは6歳未満に限られませんし、諸外国では15歳未満であれば特別養子を認める扱いが主流で、我が国の年齢制限は厳しすぎるという声が多くなりました。
そこで、年齢の上限を引き上げることにしたのです。
年齢は原則15歳未満
まず上限年齢をこれまでの6歳未満から15歳未満に引き上げました。審判申立て時点で15歳未満であればいいのです(改正民法817条の5第1項前段)。
15歳を区切りとしたのは、諸外国の例を参考としたことと、15歳以上となれば自分の意志で普通養子縁組をすることが認められていること(民法797条1項)を考慮したためです。
18歳までの例外も
さらに、例外として審判申立て時点で15歳以上であっても、以下の場合は特別養子が認められます(改正民法817条の5第2項)。
- 15歳に達する前から養親候補者が引き続き養育をしてきた場合で、かつ
- 15歳までに審判の申立ができなかったことに、やむを得ない事由がある
ただし、審判申立時の上限年齢はクリアーしていても、その審判が確定して特別養子縁組が成立する時点までに18歳に達してしまった場合は、特別養子は認められないことになりました(改正民法817条の5第1項後段)。
また、旧法では特別養子縁組に子どもの同意は不要とされていましたが、上限年齢を引き上げたため、審判の時点で養子が15歳に達している場合には、その意思を尊重すべく、養子の同意が必要となりました(改正民法817条の5第3項)。
5.ポイント②|手続の見直し(家事事件手続法・児童福祉法改正)
5-1.改正前の手続
改正前は、養親となることを希望する者が家庭裁判所に対して特別養子縁組の審判を申立て、裁判所の審理を経て縁組を認めるか否かを決めるという一個の手続が用意されていました(改正前民法817条の2)。
この一個の審判手続において、裁判所が審理するのは次の3点でした。
- 実親が若年である・経済力がない・児童虐待・育児放棄など、実親による養育が著しく困難または不適当である事実の有無(817条の7)
- 原則として実親の同意があること(817条の6)
例外は、実親が意思表示できない場合、虐待・悪意の遺棄その他子どもの利益を著しく害する事由がある場合 - 養親に十分な養育能力があるか、養親と子どもの相性はどうか等、養親と子どものマッチングが適切か否か。これを判断するために、6か月以上の試験的な養育の実施が必要(817条の8)
5-2.改正前の手続の問題点
しかし、この手続には次のような問題点があり、養親を希望する者に大きな負担をかけ、特別養子縁組をあきらめてしまうと指摘されていました。
- 実親による養育が著しく困難・不適当だという事実を主張・立証しなくてはならず、実親と対立するケースもあるにもかかわらず、原則として実親の同意が要求される
- 裁判所が、最終的に実親の養育状況に問題があると認定するかどうか不明なまま、半年間の試験養育を義務づけられる
- 実親がいったん同意しても、審判確定までは同意を撤回できるので、撤回される危険を抱えながら、やはり不安なまま試験養育をしなければならない
5-3.改正後の手続
これらの問題点を是正し、特別養子の利用を促進するために、次の各改正がなされました。
審判手続を2段階にわける
従来はひとつの手続だった審判手続を、2つに分けることにしました。
①特別養子適格の確認の審判(改正家事事件手続法164条、164条の2)
まず最初に、新設された「特別養子適格の確認の審判」において、実親による養育が著しく困難または不適当である事実の有無と、実親の同意の有無を判断します。
つまり、適切な養親かどうかはひとまずおいて、その子どもに特別養子縁組が必要・適切なのかどうかをまず判断するのです。
また、この審判手続の中で実親がした同意は、2週間を経過した後は撤回できないものとしました(改正同法164条の2第5項)。
②特別養子縁組の成立の審判(同改正164条)
第一段階の審判が確定した後は、養親子のマッチングを判断する審判が行われます。
すでに裁判所が、その子どもには特別養子が適し必要であること、実親が同意していることを確認し、もはや同意の撤回もできない段階となっているので、養親の希望者は安心して試験養育を実施できるようになりました。
なお、①特別養子適格の確認の審判は、それだけを申し立てることはできず、②特別養子縁組の成立の審判と同時に申し立てる必要があります。養親となる気もない者に申立てを許す理由はないからです(同改正164条の2第3項)。
児童相談所長が関与できる
児童相談所は、もともと特別養子縁組に関して、相談・情報提供・助言その他援助を責務としてきました(児童福祉法11条1項2号)。
今回、さらにその役割を拡大し、児童相談所長が第一段階の特別養子適格の確認の審判手続の申立人となること(家事事件手続法164条2項、改正児童福祉法33条の6の2第1項)、参加人となること(同改正33条の6の3)ができることとなりました。
6.まとめ
子どもを望みながら、厳しい条件と手続の負担から、特別養子縁組をあきらめておられた御夫婦には、今回の改正は朗報です。
特別養子縁組をお考えの方は、是非、法律に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。
なお、養子縁組をすると、その子は実子と同じように相続人となります。
将来の相続トラブルを招かないためにも、養子縁組をしたら相続問題についても考えるようにしましょう。