生前に相続放棄できる?相続放棄できる期間と生前にできる対処方法

生前の相続放棄

親が借金を抱えている、家族の仲が悪い、相続したい財産がないなど、相続したとしてもメリットがまったくないことがあります。

そんなとき、被相続人の生前に相続放棄することはできるのでしょうか?できないとすれば、いつどのように行えばよいのでしょうか?

この記事では、相続放棄に関する民法のルールを解説するとともに、被相続人の生前にできる相続トラブル回避のための対応についても解説します。

1.生前に相続放棄はできない

1-1.相続放棄についての民法の規定

結論から言うと、被相続人の生前に相続放棄をすることはできません

相続放棄については、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に行うべきものとされています(民法915条1項)。

民法はあくまで被相続人の死後に相続放棄をすべきであると規定しており、生前の相続放棄については何らの条文を設けていません。相続開始前の相続放棄を認めてしまうと、被相続人が生前に相続人に対して強制的に相続放棄を迫るなど、相続人の意思に反した相続放棄がなされてしまう可能性があるからです。

したがって、仮に相続開始前に相続放棄の念書を書いていたとしても、その念書は無効です。

1-2.手続き上も生前の相続放棄はできない

相続放棄は、家庭裁判所に対して申述することによってその効力を生じるものとされています(民法938条)。

しかし、民法には生前の相続放棄に関する規定がないことから、生前に家庭裁判所に相続放棄の申述を行っても、これを受理してはくれません。

裁判例においても、被相続人の生前の相続放棄はできないという解釈が定着しています(東京高決昭和54年1月24日)。

したがって、民法の規定上も、実際の運用上も、被相続人の生前に相続放棄をすることはできないということになります。

2.相続放棄ができる時期・期間

法律上、相続放棄は被相続人の死後にしかできません。では、具体的にいつから相続放棄を行うことができるのでしょうか。

2-1.相続放棄は原則として熟慮期間内に行う

相続放棄は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」の期間内に行わなければなければなりません(民法915条1項)。この3か月の期間を「熟慮期間」と言います。

相続放棄は、熟慮期間である3ヶ月以内に、家庭裁判所に対して申述書と必要書類を提出し、申述手続きを行必要があります。

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3-2.熟慮期間を伸長できるケースについて

遺産の調査に手間取っている、相続人が海外など遠隔地にばらばらに居住していて協議が難しいといった事情から、3か月の熟慮期間内では、時間が足りず相続放棄をすべきかどうか判断できないこともあるでしょう。その場合には、家庭裁判所に請求することにより、熟慮期間を延長することができる可能性があります(民法915条1項但書)。

熟慮期間の延長が認められるかどうか、認められた場合にどのくらいの期間が延長されるのかは、家庭裁判所の判断によります。一般的には、実際に熟慮期間の延長が認められるのは、1か月から3か月程度となることが多いでしょう。

ただし、熟慮期間の延長が認められるかどうかは不確実であり、原則通り3か月の熟慮期間の間に、相続放棄をするかどうかを判断できるように準備しておくべきです。

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3.被相続人が生前にできること

相続開始前には相続放棄ができないとしても、一刻も早く相続から解放されたいと考えた場合、何かできることはないのでしょうか。

以下では、生前に被相続人してもらう相続トラブル回避の方法について解説します。

3-1.被相続人に遺言書を作成してもらう

次に、親に遺言書を作成してもらう方法があります。

被相続人の遺言があれば、相続時に原則としてその遺言に従った遺産分割をすることになります。そのため、適切な遺言書があれば、相続トラブルを回避しやすくなります。

もし、推定相続人が一切相続をしたくないということであれば、遺言書に、遺産を全く承継させない旨を記載してもらうようお願いすることもできます。

遺言で債務の相続方法を指定しても債権者には対抗できない

ただし被相続人に借金があった場合には、債務の相続方法を遺言で指定しても、相続人は弁済を免れることはできません

例えば、ある特定の相続人は債務を相続しないと遺言書に記してしても、その遺言書をもって債権者に対抗することはできないのです。遺言書に記載してある債務の承継方法は、原則として相続人間では有効ですが、債権者に対しては、被相続人の死亡と同時に、債務が自動的に相続人間で法定相続分に従って分割されると解されています。

したがって、遺言にどのような記載があっても、お金を貸している債権者はどの相続人にも返済を請求することができ、相続人は遺言を理由に断ることはできません(最判平成21年3月24日)。

ただし、債務を弁済した相続人は、他の相続人に対して遺言を理由に、他の相続人に求償することは可能です。債務の承継を一切したくない場合には、被相続人の死後に改めて相続放棄の手続きを取るほかありません。

3-2.借金が気になる場合は債務整理をしてもらう

親の借金が気になる方は、生前に債務整理によって被相続人に借金を減らしておいてもらう方法が考えられます。

個人が債務整理をする場合、以下3つの方法があります。

  • 任意整理
    債権者と交渉し、債務を減額してもらう方法
  • 個人再生
    裁判所に再生計画を提出して、3年~5年で返済することを条件に、借金を最大1/10まで減額してもらう方法
  • 自己破産
    家庭裁判所に自己破産を申し立て、債務の支払い義務を全額免除してもらう方法

債務整理によって被相続人の借金を減らすことができれば、実際に親を相続する際に、資産が債務を上回って、相続放棄をする必要がなくなります。

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4.相続人は被相続人の生前に遺留分を放棄できる

相続放棄をしたい相続人は、遺言書に「遺産を一切承継させない」と記載してもらったとしても、相続から完全に開放されてはいません。兄弟姉妹以外の相続人には、最低限の遺産の取得割合である遺留分が法律上保障されているからです。

遺留分を侵害している者は、遺留分の権利を有する相続人が請求しない限り、遺留分相当の金銭を支払う必要はありません。しかし、相続人が遺留分という権利を有している限り、遺言書の内容が一部覆されてしまう可能性が残り、他の相続人の心配の種になってしまう可能性があります。

そこで、遺留分の権利を有する相続人は、相続放棄をする前に、遺留分を放棄することで他の相続人を安心させることができます。

相続放棄とは異なり、遺留分の放棄は相続開始前であっても、家庭裁判所の許可を受けて行うことができます(民法1049条1項)。

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まとめ

被相続人の生前に相続放棄をすることはできません。しかも、相続開始後に相続放棄をするための熟慮期間は3か月と短いため、実際に相続が始まったら早め早めに行動するということが大切です。

機会があれば、被相続人と相続人が一堂に会して、相続についての話し合いを持ってみるのもいいでしょう。

もし親に多額の借金がある、親や他の親族と疎遠・仲が悪いといったお悩みがあれば、一度弁護士にご相談されることをおすすめします。

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