新型コロナウイルスで相続放棄・限定承認は?熟慮期間は伸長できる?
新型コロナウイルスの感染拡大により、社会が大混乱に陥っています。 こうした状況下で、もし親族が亡くなってしまい相続が…[続きを読む]
【2020年7月17日更新】東京地裁の状況及び裁判官の感染者について更新しました。
2020年5月25日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止のために出ていた緊急事態宣言が全国で解除されました。
相続放棄や調停、審判、訴訟など、影響の大きかった裁判所の手続きの今後について解説します。
目次
裁判所では新型コロナウイルス感染拡大防止のため、全国的に期日延期等の対応を取ってきていました。
もっとも、5月14日に39県で、5月25日に全国で緊急事態宣言が解除されたことから、徐々に裁判所の業務が再開されています。
以下では、6月1日以降の業務再開について、東京家庭裁判所を例に解説します。
東京地裁・家裁では、2020年5月29日までの期日の多くを取消していました(縮小業務については後述します)。
しかし、6月1日からは調停等の家事事件については、以下のような案内を出し、徐々に業務を再開しています。
【参考PDF】東京家庭裁判所:緊急事態宣言の解除等を踏まえた期日実施について
調停などが再開され、裁判所の手続きを利用したい人もやっと一安心ですが、全ての事件が再開されるわけではありません。
当面は、事件を担当する裁判官の判断で再開していくことになります。
現実的には、東京地裁や家裁はかなり動きが鈍く、当事者が合意のうえで神奈川や千葉、埼玉など、周辺の別の裁判所に申し立てる弁護士もいます。
こうした再開される事件については担当部から連絡がありますが、ご自分の事件がどうなるか気になる・不明点があるという方は、担当部へお問い合わせください。
東京家庭裁判所では、2020年6月1日現在、調停等の各種申し立ては受付を継続しています。
しかし、手続きの詳細は不明点等に答える「家事手続案内」は、実施見合わせが続くこととなりました。
これから各種調停や相続放棄など、裁判所の手続きを利用される方は、ご自分で調べながら申し立て等を行うことになります。
当サイトでも様々な手続きについて解説していますので、ぜひご活用ください。
また多少手続きにミスがあっても、調停等は裁判所から連絡があり、必要な資料等を教えてくれますので、「間違えたら終わり」と考える必要はありません。
同じ東京で、最高裁事務総局に所属する裁判官が新型コロナウイルスに感染していることが分かりました(2020年7月16日)。
感染した裁判官は7月10日から在宅勤務をしていたため、裁判所内に濃厚接触者はおらず、業務に影響はないとされています。
最高裁事務総局は事実上全国の司法行政を管理する場所で、仮に感染者が増えれば司法行政への影響は大きいでしょう。
今回新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に関連して出された緊急事態宣言は、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいて発出されたものです。
同法は今回の新型コロナウイルスにあわせて改正されています。
したがって、裁判所の対応も「新型インフルエンザ等」の対応方針に基づくと考えられます。
具体的には、最高裁判所が平成28年6月1日に出した「新型インフルエンザ等対応業務継続計画」によります。
【参考PDF】最高裁判所:新型インフルエンザ等対応業務継続計画
なお、最高裁から各地の裁判所に2020年3月31日と4月7日に発出した新型コロナウイルスへの対応方針等の文書はありますが、いずれも機密性2の指定がされており、一般には公開されていません。
日本弁護士連合会会員の方は、日弁連会員サイトからpdfで閲覧することができます。
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、取り消された期日がどうなるかは、今後の展開次第ではありますが、最高裁判所の資料では次のような時系列イメージが使われています。
引用元:前掲「新型インフルエンザ等対応業務継続計画」
これによれば、流行の波が8週間(約2ヶ月)程度とされています。
緊急事態宣言から2ヶ月と考えると、概ね6月頃には、調停等の期日も徐々に通常どおり再開されていくと想定されます。
(6月1日より、全国で徐々に再開しています。ただし、一部業務を縮小しています。)
地域によって扱いは異なりますが取り消された期日の新たな期日指定については事件ごとに担当部から連絡があるはずですので、急ぎでなければ連絡を待ちましょう。
なお、「国内感染期」とは、「国内のいずれかの都道府県で新型インフルエンザ等の患者の接触歴が疫学調査で追えなくなった状態をいい,感染拡大からまん延,患者の減少に至るまでの時期を含む」とされています。
「新型インフルエンザ等対応業務継続計画」によれば、裁判所の業務は以下の3つに分けられます。
強化・拡充業務は、ウイルスの発生により業務量が増加したり、新たに発生する業務のことです。
例えば、自分の期日はどうなるのか、この間申し立てた調停は、といった利用者からの問い合わせに答えたり、庁舎での感染防止対策などがここに含まれます。
一般継続業務は、縮小や中断してしまうと国民生活に重大な影響がある業務のことです。
具体的には、DV事件関連の業務や、令状の発付などがここに含まれます。
縮小・中断業務は、国民や利用者に一定の影響があるものの、感染拡大防止や裁判所のリソースの適切な配分のため、やむを得ず一定期間は縮小・中断される業務のことです。
この中でも優先順位が第1順位から第3順位まであります。
例えば第2順位には、家事調停・家事審判・民事調停・民事訴訟に関する事務などがあります。
遺産分割調停・審判や遺留分の調停などや、離婚調停もここに含まれます。
その他、相続の事件で裁判所が関わるものは、ほとんどが家事調停や民事調停、民事訴訟です。
したがって、調停期日の延期等の対応がされてきました。
ただ、6月1日現在では、徐々にこれらの期日も再開していますので、担当部からの連絡を待ちましょう。
急ぎやどうしても気になるという方は、担当部にお問い合わせください。
各種申し立ての受付は継続していますので、相続放棄の申述も可能ですが、もしご自分の相続放棄等の手続き期限が近くて心配という場合は、裁判所に問い合わせて確認してみましょう。
また、新型コロナウイルス感染症に関連して、相続放棄等の熟慮期間延長を申し立てることができます(申し立てずに熟慮期間を過ぎると通常どおり単純承認となってしまいます)。
なお、離婚調停等に関しては下記で簡単に解説しています。
緊急事態宣言に関して考えられる裁判所の対応をまとめました。
相続関連の業務は、その殆どが縮小・中断業務と考えられ、調停や訴訟等の期日も延期が見込まれます。
ご自分の関係する調停や審判などがどうなるかは、担当の裁判官、書記官、調停委員等にご確認ください。
また、ご自分の感染を避けるための期日延期も相談すれば柔軟に対応してもらえます。