遺産分割協議書がないと、主な相続手続きはできないままとなります。この記事では「遺産分割協議書とは何か、何のために必要…[続きを読む]
他の相続人が遺産分割協議書への押印を拒否したら|自分が拒否したら

遺産分割協議の後は、その結果を「遺産分割協議書」にまとめます。
しかし、一度はうまくまとまったように思えた協議も、後になって一部の相続人から不満が出てきて、協議書への押印を拒否される可能性があります。
みんなで話し合って決めた結果じゃないか、と説得しても、ことごとく無視されて困っている方もいるかもしれません。
本記事では、遺産分割協議書への押印に応じないということは可能なのか、また、拒否されたらどうすればよいのか、解説します。
目次
1.遺産分割協議書の押印は拒否できるか
遺産分割協議書の押印は、拒否できます。
まず、遺産分割協議書が何たるかというところから確認しましょう。
遺産分割協議書は相続人全員の押印が必須
遺産分割協議書とは、遺産分割協議の結果合意した内容をまとめた書類のことです。
作成が法律で義務付けられているわけではないものの、遺産の名義変更をするときなど、あらゆる場面で必要になるため、実質、必須の書類といっても過言ではありません。
遺産分割協議書の書き方は基本的に自由ですが、相続人全員の署名押印だけは必須です。
もし、内容に不満がある場合、各相続人は署名押印を拒否しても構いません。
署名押印を拒否することが、「私はこの遺産分割に納得していませんよ」という意思表示になります。
以下より、2.は協議書に判子を押したくない方向けに補足します。
逆に印を押してもらえなくて困っているという方は、3.【押印を拒否された人向け】相続人が同意してくれないときの対処法からお読みください(クリックでジャンプします)。
2.【押印したくない人向け】一度押印すると覆すのは困難
協議の内容に不満が残っている方は、むしろ、署名押印してはいけません。
協議書への署名押印に応じてしまった方の中には、「言われるがまま遺産分割協議書に捺印してしまったが、やはり取り消したい」という方もいます。
しかし、一度署名押印してしまうと、後から遺産分割のやり直しを求めることは残念ながらほぼ不可能なのです。
※ただし、遺産分割協議書の内容で一部の相続人が抜けていたり、押印の際に詐欺に遭っていたりする場合は、例外としてやり直しが認められることがあります。
もし、「とりあえず押すだけ押して」などと言って求められたら、「一旦考えさせてほしい」と言って、その場は持ち帰るようにしましょう。
なお、遺産分割協議書ではなく、「遺産分割協議証明書」が送られてくるケースもありますが、形は違えど取り扱いは同じです。
内容に同意できない場合は、署名押印は拒否してください。
ただし、相続の手続きには期限があるものもあり、いつまでも押印の拒否だけしていればいいわけではありません。詳しくは、4.期限のある相続手続きに注意をお読みください。
3.【押印を拒否された人向け】相続人が同意してくれないときの対処法
一方、一部の相続人が協議書に印鑑を押してくれず、遺産分割が完了しない時はどうすればよいでしょうか。
たとえ他の相続人は全員協議に納得がいっていても、同意してくれない相続人がいる場合、相続手続きに移行できません。
当然ですが、だからといって半ばむりやり捺印させたり、他の人が代筆したりすることはいけません。以下のような対応策をとりましょう。
専門家に依頼する
最もよいのが、弁護士などの専門家に依頼することです。
押印を拒否された側の相続人たちはもちろん、拒否している側の人も含め、双方が弁護士を立てるのが望ましいでしょう。
遺産分割の当事者同士だと、どうしても、お互いの希望のぶつけ合いになってしまい、なかなか埒があきません。
しかし、弁護士に仲介してもらうことで、「どの点が不服で、判子を押してくれないのか」「双方の希望は、法律上、現実的かどうか」「妥協点はどこに見出せるか」などについて、法的知識から冷静に主張し合うことができます。
遺産分割協議の最後の最後になって押印を拒否されてしまい、話が振り出しに戻ることに辟易としている方もいるのではないでしょうか。
最終手段だと思って、弁護士にご相談だけでもされてみることをおすすめします。
調停や審判に移行する
どうしても協議で解決しないときは、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることになります。
いきなり審判を申し立てることも不可能でありませんが、通常、まずは調停から行われます。
調停とは、裁判官1人+弁護士や会計士など民間から選ばれた2人以上の調停委員で構成される、調停委員会の仲介による話し合いのことです。
なお、遺産分割協議の段階から弁護士に依頼している場合、調停に移行しても追加料金がかからない法律事務所も多いですが、それも事務所によって異なります。
4.期限のある相続手続きに注意
ただし、遺産相続の手続きの中には期限があるものも多く、あまりのんびりはしていられません。
特に気をつけたいのが、10ヶ月の相続税申告です。
相続税の申告期限および納付期限は、相続開始を知った日(通常は、被相続人の死亡日)の翌日から数えて、10ヶ月以内とされています。
最終日が税務署の閉庁日だったときには、その翌開庁日が期限です。
申告期限を過ぎると無申告加算税、納付期限を過ぎると延滞税が課されます。
遅れれば遅れるほど税額も上がってしまうため、「どうせ間に合わなそうだからもういいか」と諦めることのないようにしてください。
その他、申告期限を過ぎると、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の相続税評価額減など、民法に設けられている特例が受けられなくなってしまいます。
協議がまとまらなくても、ひとまず申告と納税を済ませましょう
ペナルティが課される上に特例まで受けられなくなるなんて、相続人全員にとってかなり大きなデメリットとなってしまいますね。
このような事態を防ぐため、遺産分割協議がなかなかまとまらないときは、押印を拒否している相続人に対しても納税遅滞の危険性について説明し、一旦、仮の状態で申告・納付を済ませてしまいましょう。
「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、法定相続分で計算した相続税を納税します。
その後3年以内に遺産分割を終えることで、後からでも特例を適用できるようになります。
5.まとめ
遺産分割協議書は、押印するか、押印を拒否するか、各相続人に委ねられています。
どの相続人も、協議内容に同意できないときは、無理に押印に応じる必要はありません。
しかし、せっかく協議を重ねてきたのに、一部の相続人が断固として押印を拒否していると、他の人たちも困ってしまいます。
本記事でも少し触れたように、たとえ一部のためであっても、相続手続きが遅滞してしまうと、税金が発生したり民法の特例が受けられなくなったり、全体に不都合が生じます。
遺産分割協議が難航しているときは、必要に応じて専門家の力を借り、納得できていない相続人が十分納得できるよう、建設的な話し合いを進めていきましょう。