相続放棄とは~手続と費用・デメリットなどを解説!
この記事では相続放棄について詳しく解説していきます。メリット・デメリットは勿論、手続きの方法や期限、費用、必要書類に…[続きを読む]
故人の遺産の中に借地上の建物があるけれど、誰も住んでおらず、住む予定もないので、建物と借地権の相続を放棄したいという相談を受けることがあります。
この記事では、次の諸点を説明します。
目次
借地権は、土地上の建物を所有する目的で土地を使用する権利です(借地借家法1条)。
これには「債権」である土地賃借権と「物権」である地上権の2種類があり(実際の例は、ほとんどが土地賃借権ですが)、いずれも対価(賃料、地代)を支払って土地を借りる契約上の権利である点では変わりありません。
相続は、「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」制度です(民法896条)。
債権も物権も、権利と義務(土地を使用する権利と賃料・地代を支払う義務)で構成される財産権ですので、被相続人名義の借地権も、当然に相続の対象となります。
他方、相続放棄は、相続人が、最初から相続人ではなかったとみなす制度です(民法939条)。
最初から相続人ではなかったことになるのですから、一切の相続対象財産を相続することができなくなります。それゆえ相続の対象となる物はすべて相続放棄が可能ですから、借地権も相続放棄が可能です。
借地権は、それ自体に経済的な価値があります。借地権があれば、対価を支払っている限り、土地を建物の敷地として使用収益できるという利益があることはもちろん、地主の承諾や裁判所の許可(借地借家法19条)があれば第三者に売却することも可能だからです。
一般に、借地権の経済的価値は、その土地(底地)価格の6割から7割と評価されます。
遺産を相続放棄してしまえば、この財産を受け取ることもできなくなってしまいます。
前述のとおり、相続放棄は放棄対象を個別に選ぶことはできませんから、借地権だけを放棄することも、借地権だけを残してそれ以外を放棄することも不可能です。
したがって、借地権以外の遺産も含めた遺産全体の価値を勘案して、相続放棄をするか否かを決断する必要があります。
遺産中に被相続人が残した負債があり、相続の収支がマイナスとなる危険があるケースでは、借地権を相続することで、収支を改善できないか検討してみる余地があります。
具体的には、例えば次のような方策です。
相続人が借地上の建物を使用する予定もなく、空き家として荒れ放題に放置されている場合、相続放棄をしないまま、借地権と建物を安易に相続してしまうと大変なリスクを被る危険があります。
リスクのひとつは土地工作物責任です(民法717条)。例えば、放置された建物の壁面が崩れて、通行人が怪我をした場合、建物という土地に付着した工作物の所有者は、たとえ無過失であっても、損害賠償責任を負担しなくてはなりません。被害者が死亡したり、怪我の後遺症が残ってしまうと、賠償額は億単位になることも珍しくありません。
リスクのもうひとつは、通称「空き家法」、正式名称「空家等対策の推進に関する特別措置法」による責任です。
放置された建物が、そのままでは倒壊するなど著しく保安上危険となるおそれのある状態や、著しく衛生上有害となるおそれのある状態(同法2条2項)と認められると、市町村から、修繕や撤去を命じられ(同法14条3項)、これに従わないときには、50万円以下の過料に処せられる場合があります(同法16条1項)。
しかも、所有者に代わって市町村が建物の撤去工事などを行い、その費用を請求されてしまう危険があります(同法16条9項、行政代執行法2条)。現実にこの制度によって、数百万円単位の費用請求を受けてしまった例も報告されています(※)。
※【出典】国土交通省「地方公共団体の空き家対策の取組事例2」(平成30年3月末)
相続放棄は、自己のために相続が開始されたことを知ってから3カ月以内に、家庭裁判所に対して「相続放棄の申述」を行うことが必要です(民法915条、938条)。
この3ヶ月の期間は熟慮期間と呼ばれ、相続放棄をするか否かを判断するための調査と検討の期間であり、どの程度の期間が必要かは遺産の内容や相続人の人数など、その事案に応じて異なります。
そこで、裁判所に期間伸長の申立を行うことで延長してもらうことが可能です(民法917条)。ただし、通常、伸長される期間は3か月であり、それでは足りない場合には、3ヶ月毎に延長の申立を行う必要があります。
前述のとおり、相続放棄の対象を借地権だけに限定することはできません。全遺産を失うことになることに注意しましょう。
相続人が相続財産の一部でも処分してしまったときは、相続することを承認したものとみなされ、もはや相続放棄はできなくなります(民法921条1号)。これを法定単純承認と呼びます。
遺産の処分は、その権利を承継した者であって初めて可能となることですから、処分によって相続する意思を表明したと扱うのです。
ここでの「処分」には遺産を破壊、廃棄してしまうような事実上の行為や、遺産を第三者に売却してしまうような法的な処分行為も含まれます。
したがって、借地上の建物を撤去したり、売却したりすると、もはや相続放棄はできなくなってしまいます。
また例えば、生前の被相続人が借地権を第三者に譲渡していたケースで、相続人が、その譲渡は無効だと主張し、借地権は自分が相続したことを確認する訴訟を提起する行為は、処分に該当し、もはや相続放棄はできないとされています(東京高裁平成元年3月27日判決・高等裁判所民事判例集42巻1号74頁)。
相続人は、自分の財産に対するのと同程度の注意を払って遺産を管理する義務があります(民法918条1項本文)。
相続放棄をしても、相続放棄時に占有していた財産については、次順位の相続人に引き渡すまでの間、この義務を免れることはできません(民法940条1項、918条1項但書)。
次順位の相続人が存在しない場合は、借地権を含む遺産は、最終的に国庫に帰属することになります(民法959条)が、その前段階として、家庭裁判所によって「相続財産清算人」(民法952条)が選任されるまでの間は、やはり遺産を管理することになります。
早めに家庭裁判所に対して、相続財産清算人の選任を請求し、責任を回避することが無難です。相続財産清算人の選任請求ができるのは利害関係人(民法952条1項)であり、典型的には、被相続人に対する債権者や特別縁故者ですが、相続放棄をした者も、そのままでは上記の管理責任が残ってしまう以上、利害関係人に含まれると考えられます。
借地権に限らず、遺産中に不動産がある場合は、「相続放棄をしたから以後は無関係」というわけにはゆかない場合があります。
相続放棄をするか否かも含めて、法律の専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。