遺産分割協議書の効力は?遺産分割協議の効力が発生するのはいつ?

遺産分割協議が終了すると、通常、遺産分割協議書を作成します。

この遺産分割協議や遺産分割協議書にはどのような効力があるのでしょうか?

ここでは、遺産分割協議の効力や第三者との関係、遺産分割協議書を作成する理由などについてご説明します。

1.遺産分割協議の効力は?

遺産分割協議書の効力を解説する前に、遺産分割協議の効力について触れておかなければなりません。遺産分割協議書は、遺産分割協議の内容をまとめたものに過ぎないからです。

1-1.遺産分割協議はなぜ必要?

相続の開始とともに、被相続人の権利・義務は、一身専属権を除きすべて相続人に包括的に承継されることになります。相続人が複数いる場合には、原則として相続人全員の共有状態となります(※)。

この共有状態を解消するためには、遺産分割が必要となります。

※金銭債権といった可分債権や債務については、相続開始により法定相続分により各相続人が承継すると解されています。

1-2.遺産分割協議の効力

遺産分割をすると、その効力は相続開始時に遡って発生します(民法909条)。

例えば、相続人全員が遺産分割について話し合う遺産分割協議を経て、最終的に遺産の不動産を単独で所有することになった相続人は、遺産分割協議から遡って、相続開始時からその不動産を所有していたことになります。この効力を遡及効といいます。遺産分割協議を経ることで、相続財産は、共有状態ではなかったことになるわけです(ただし、遺産分割協議で敢えて共有状態を選択した場合を除く)。

2.第三者と遺産分割協議の関係

この民法909条には、「ただし、第三者の権利を害することはできない。」という但書があります。

そこで、第三者と遺産分割協議の関係についてご説明しましょう。

2-1.遺産分割前の第三者と遺産分割協議

相続開始時から、遺産分割協議が終了するまでに、相続財産について利害を持つことになった第三者が現れる可能性があります。

例えば、父親が亡くなり、共同相続人A・Bがその遺産を相続し、遺産分割協議の結果相続人Bが土地を単独で相続したとします。一方で、遺産分割協議が終了する前に、相続人Aの債権者Cが、その土地のA持分について抵当権を設定しました。しかし、遺産分割協議の結果、遡って相続時から相続人Bがその土地をすべて所有していたということになれば、債権者Cが不利益を被るため遡及効を制限し、保護する必要があるのです。

ただし、この第三者が保護されるためには、対抗要件を具備している必要があると解されています。債権者Cが、遺産である土地に抵当権を登記していれば、Bは抵当権付きの土地を単独で相続することになります。

2-2.遺産分割後の第三者と遺産分割協議

この909条の但書により保護される第三者は、相続開始から遺産分割協議の終了までに利害関係を有する至った者に限られ、遺産分割協議後の第三者は保護の対象とはなりません。

ただし、遺産分割協議に限らず相続で自己の相続分を超える遺産を取得することになったとしても、相続分を超える部分について遺産分割協議後の第三者に対抗するには、登記・登録などの対抗要件が必要になります(民法899条の2第1項)。

これに対して、法定相続分については、登記や登録といった対抗要件なくして第三者に対抗することが可能です。

3.遺産分割協議の効力についてのよくある質問(FAQ)

約束を実行しない相続人がいる場合は遺産分割協議を解除できる?

遺産分割協議がまとまったとしても、代償分割で代償金を払ってもらえないなどのトラブルが発生することがあります。

しかし、最高裁判所は、次のように判示して相続人の債務不履行(契約で約束した義務を実行しないこと)により、遺産分割協議を解除することはできないとしています(最高裁判所平成元年2月9日判決)。

共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであつても、他の相続人は民法五四一条によつて右遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である。

いったん合意した遺産分割協議をやり直すことはできる?

では、いったんまとまった遺産分割協議をやり直すことはできないのでしょうか?

最高裁判所は、判決で次のように述べ、相続人全員が合意すれば、遺産分割協議のやり直しは可能だとしています(最高裁判所平成2年9月27日)。

共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではなく、上告人が主張する遺産分割協議の修正も、右のような共同相続人全員による遺産分割協議の合意解除と再分割協議を指すものと解されるから、原判決がこれを許されないものとして右主張自体を失当とした点は、法令の解釈を誤ったものといわざるを得ない。

ただし税法上は、一度目の遺産分割協議で各相続人が遺産を取得したことになり、再度の遺産分割協議は、財産の贈与・譲渡とみなされてしまい、贈与税や所得税が発生します。

また、遺産分割協議をやり直すために相続人全員の合意を得ることは、想像以上に難しいでしょう。

関連記事
遺産分割協議のやり直しはできる?やり直しに時効はあるの?
遺産分割協議は、原則としてやり直すことはできません。ただし、やり直すことができるケースも存在します。遺産分割をやり直…[続きを読む]

4.遺産分割協議書を作成する理由

遺産分割協議書に、法律上の効果や効力はありません。法律上、遺産分割協議書の作成について定めがないからです。

しかし、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名・押印することで、遺産分割協議の内容を対外的に証明することができ、相続手続きに利用することができます。そのため、遺産分割協議にいったん自署して実印を押印し、印鑑証明書まで添付すると、裁判所に持ち込んでも遺産分割協議を覆すのが難しくなります。

いずれにしても、納得がいかない遺産分割協議については、協議書に署名押印を安易にしないことです。

関連記事
遺産分割協議書とは?何に使うのか?活用方法を解説
遺産分割協議書がないと、主な相続手続きはできないままとなります。この記事では「遺産分割協議書とは何か、何のために必要…[続きを読む]

まとめ

遺産分割協議書は、遺産分割協議の内容を証明することができるため、相続手続きには必須の書類となります。

しかし、遺産分割協議書に署名・押印してしまい、後悔する相続人がいらっしゃることも確かです。

もし、遺産分割協議に少しでも納得がいかない箇所があれば、署名する前に、相続に強い弁護士に相談することをお勧めします。

相続に強い弁護士が問題を解決します

相続に関し、下記のようなお悩みを抱えている方は、相続に強い弁護士にご相談ください。

  1. 遺産の分割方法で揉めている
  2. 遺言の内容や、遺産分割協議の結果に納得がいかない
  3. 不動産をどう分けるか、折り合いがつかない
  4. 遺留分を侵害されている
  5. 相続関連の色々な手続きが上手くいかず、困っている

相続発生前後を問わず、相続に関連する問題に対して、弁護士があなたの味方になります。 まずは気軽に相談されることをオススメいたします。

この記事が役に立ったらシェアしてください!
監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
プロフィール この監修者の記事一覧