数次相続の仕組みと法定相続分|遺産分割協議中に相続人が死亡したら
被相続人の死亡による相続に関して遺産分割協議を行っている最中に、相続人の1人が死亡してしまった場合、その相続人につい…[続きを読む]
被相続人の遺産分割協議が滞っている間に、相続人まで亡くなってしまい、相続が重なってしまう「数次相続」は、意外とよく発生します。
今回は、数次相続の遺産分割協議書の書き方について、ひな形つきで紹介します。
また、不動産の相続登記の際に、中間省略登記ができるのかも解説します。
数次相続とは、被相続人の遺産分割協議が完了する前に相続人が亡くなることで、新たな相続が発生し、相続が2回以上重なってしまっている状態を指します。
遺産分割協議には実は期限がありません。
だからといって放っておくと、数次相続が意外と発生しやすいのです。
数次相続と混同しやすいのが代襲相続ですが、代襲相続はそもそも被相続人の相続が発生する前に相続人が亡くなっているため、相続人の子供などが代わりに相続することです。
つまり代襲相続では、死亡の順番は相続人→被相続人なので、数次相続と代襲相続は全く異なるものです。
遺産分割協議で成立した内容について書面として残したものを、遺産分割協議書といいます。
以下、数次相続での遺産分割協議書の書き方と、提出先について解説します。
数次相続では、相続が複数回生じていることになりますが、遺産分割協議書は1通だけでよいのでしょうか。
数次相続の遺産分割協議書作成は、以下のどちらでも構いません。
今回は、1通にまとめて作成した場合をご紹介しますが、別個に作成する場合でも注意点は同じです。
フォーマットはこちらからダウンロードできます。
下のサンプル画像はクリックで拡大します。
数次相続の遺産分割協議書で気をつけたいポイントは、赤の点線で囲っているところです。
以下でそれぞれご説明します。
①もともとの被相続人の情報
②二次相続で亡くなった方の情報(「相続人兼被相続人」)
③遺産分割の内容
④相続人全員で遺産分割協議を行った上での内容であることを明記
⑤相続人全員の署名押印(実印)
遺産分割協議書に押された実印が相続人本人のものであることを証明するために、「印鑑証明書」の添付が必要です。
印鑑証明書は、相続が発生した日以降に取得したものにしてください。
当然、被相続人や、数次相続で亡くなった方の印鑑証明書は不要で、必要なのは生きている相続人全員分のみです。
まず、一次相続の被相続人の情報の下に、二次相続の被相続人の情報を記載しなくてはなりません(三次相続以降もあればそれも記載します)。
二次相続の被相続人の肩書きは「相続人兼被相続人」にします。
必要な情報は、名前、生年月日、死亡年月日、本籍地、最後の住所地などです。
また、署名押印欄の相続人の肩書きも、相続人の立場が重複する場合・しない場合で異なります。
「一次相続の相続人としての地位」と「二次相続の相続人としての地位」が重複する場合は、「相続人兼△△△△の相続人 〇〇〇〇(続柄)」(※△△△△は二次相続の被相続人の名前、〇〇〇〇はその人自身の名前)と書きます。
重複しない場合の肩書きは、そのまま「相続人 〇〇〇〇(続柄)」で問題ありません。
大事なのは、誰の、どういう立場の相続人なのかを明確にするということです。
遺産分割協議書は、上記のように自分で行うほか、弁護士に依頼して作成する方法もあります。
弁護士に依頼する場合は基本的に遺産分割協議の段階からお願いするため、遺産分割協議書の作成代行のみの依頼は受け付けていない場合も多いですが、相続の内容もあわせて不安があればまとめて弁護士に相談してみましょう。
また、遺産分割協議書作成にかかる一般的な費用相場についてはこちらをお読みください。
主な遺産分割協議書の提出先は以下のとおりです。
この提出先については、数次相続だからといって特別なことはなく、一般的な相続の遺産分割協議書と何ら変わりはありません。
遺産相続において、被相続人の不動産を相続した人は、相続登記を行います。
以下では、数次相続の相続登記について解説します。
数次相続では、一次相続→二次相続…と、相続が複数回発生しています。
登記は非常に厳密なものですから、本来はそれぞれの相続について登記するのが大原則です。
そうすると、最初の被相続人→次の被相続人→相続人といったように順次登記をしなければいけないことになります。
しかし、一定の要件を満たせば、途中を飛ばして、最初の被相続人→最後の相続人に直接所有権移転登記することができます(これを中間省略登記といいます)。
中間省略登記をすることで、手間も省けますし、相続登記でかかる登録免許税の節約にもなります。
中間省略登記できる場合の1つは、中間の相続人(経由してきた相続人)が単独相続だった場合です(昭和30年12月16日付民事甲第2670号民事局長通達)。
ここでいう単独相続とは、最初から相続人がひとりだった場合だけではなく、遺産分割協議の結果ひとりで相続することになった場合や、他の相続人の相続放棄によってひとりで相続した場合等も含まれます。
ただ、この「単独相続である」という要件については、これまで、中間の相続人が単独相続だったか明らかでない場合にはどうなるのか議論がなされていました。
そこで平成29年に、新しい先例が出てきました。
近年、法務省が実務面を考慮し、相続登記の簡素化のため手続きを見直しつつあります。
その影響もあって平成29年に出た先例では、中間が単独相続であったかについて遺産分割協議書に記載がなく明らかでない場合であっても、最終的な遺産分割協議書で相続人全員の署名押印があり、そこから合理的に推認できれば、中間省略登記が認められたケースもあります(平成29年3月30日法務省民二第237号)。
とはいえ、原則としては、遺産分割を放置せず、相続によって所有権が移転する度に登記をきちんと行っていくことが大切です。
丁寧に手続きを行うことで、後々混乱を招くのを防ぐことにも繋がります。
なお、不動産の相続登記申請は不動産の所在地を管轄する法務局にて行います。
遺産分割協議書以外にも提出を求められる書類があります。
不動産の相続登記の必要書類の種類はこちら、相続登記の費用についてはこちらをお読みください。
本記事では、数次相続の遺産分割協議書作成についてみてきました。
相続が複数回重なると、遺産分割でどこから手をつけてよいのか混乱してしまうのではないでしょうか。
もし、遺産分割協議の段階で話し合いが難航しているようであれば、早いうちから弁護士に相談することをおすすめします。第三者として客観的に話し合いをまとめながら、遺産分割協議書の作成まで代行してくれます。
数次相続を放置しておくと、どんどん権利関係も複雑になってしまいますから、そうなる前に専門家の指示を仰ぎましょう。