生前贈与にご注意!特別受益と贈与税を巡る遺産相続トラブル

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平成27年(2015年)に相続税に関する法律が改正されましたが、それにともなって、遺産相続の事前対策として土地や不動産、学費、生活費、家賃など様々なお金を「生前贈与」して節税する方が増えたようです。生前贈与とは文字通り生きているうちに自分の財産を他人に譲ることです。土地・不動産をはじめさまざまな財産を贈与することです。

生前贈与はとても有効な相続対策ですが、実は生前贈与をしたがためにトラブルを誘発してしまうケースもあります。
生前贈与をすることで懸念されるトラブルには、大きく分けて2つのパターンがあります。

1:遺産分割上のトラブル
生前贈与をしたことによって、遺産分割協議において特別受益や遺留分などの問題が発生しトラブルとなるパターン

2:相続税申告上のトラブル
生前贈与をして相続税を節税するつもりが、相続発生時に税務署から思わぬ指摘を受けて想定外の相続税が発生するパターン

どちらも一般の人が付け焼刃の相続知識で行った生前贈与が原因でトラブルが発生します。
そこで、これらの2つのケースの事例を紹介するとともに、生前贈与をする際の注意点を解説します。

1.遺産分割上のトラブル:特別受益

1-1.特別受益のトラブル事例

父、母、長男、次男の4人家族がいました。父は長男に大きな期待を寄せていたため、私立の大学に進学させたりなど、かなりのお金を惜しみなく長男につぎ込みました。その後、長男は就職し立派に成長しました。次男は大学には行きませんでしたが、高校卒業後必至に働き、それなりの収入を得られるまでに成長しました。

そんな折、父が突然の心筋梗塞でこの世を去りました。親族みんなが 悲しみにくれましたが、四十九日が過ぎたあたりから遺産分割の話し合いを始めました。
遺言書などは特に残っていなかったため、父の残した預金や不動産を法定相続分通り、母1/2、長男1/4、次男1/4で分けようという話になりましたが、ここで問題が発生しました。

次男が「兄ちゃんばっかり大学の学費を出してもらってずるい!」と言い始めたのです。確かに、長男は私立大学に4年間通うための学費や一人暮らしのための仕送りをしてもらっており、合計すると数百万円にもなります。一方で、次男は高校卒業後すぐに働いたため、父親からほとんど一銭ももらわなかったわけです。

1-2.特別受益の持戻し

さて、このように長男ばかりを溺愛するような親がいた場合、遺産相続において揉めるケースがあります。事例のように、大学の入学資金・教育資金を援助したり、多額の現金を贈与したような場合は、相続が発生したときに他の法定相続人から「あなたばかりずるい」という声が上がる事があります。

特定の相続人にだけ偏った生前贈与を行なうと、その偏った分を遺産相続において公平に戻す必要性が出る場合があります。この場合、長男が生前贈与を受けた分については「特別受益」として評価することができ、相続財産に持戻して計算する事が可能になります。

つまり、長男の法定相続分の1/4のうち、生前贈与によって受け取った現金などの分はすでにこの1/4に含まれているという認識のもと遺産分割協議を行なう事ができるのです。また遺留分を侵害していた場合は遺留分減殺請求を受けるというわけなのです。

【参考】特別受益とは?受益が認められるケースと計算方法を解説!

父親がよかれと思ってした生前贈与のせいで、兄弟間で相続トラブルになるばかりか、特別受益が認められれば、相続財産における長男の取り分が結果的に減ってしまうということになるのです。参考までに、相続税申告においても、相続前3年以内の贈与についてだけは相続財産として扱われますが、特別受益については年数に制限はありませんので、いくらでも遡る事が可能です。

【参考】相続税理士相談カフェ:相続開始前3年以内の贈与財産

特別受益によって得た財産は、「相続開始時点での評価額」によって計算します。
つまり、20年前に不動産の生前贈与を受けていた場合、当時1,000万円の価値だった不動産が、相続開始時点で5,000万円に高騰していれば、5,000万円の生前贈与があったとして特別受益の金額を評価します。
ちなみに、相続税申告では「贈与時点の評価額」によって計算します。遺産分割と相続税申告では計算の基準が異なりますので、ご注意ください。

1-3.生前贈与による遺産分割トラブル対策

生前贈与による遺産分割トラブルを防ぐためには、何より「不公平な生前贈与をしない事」です。遺言書を残すという方法もありますが、結局のところ法定相続人の遺留分を侵害していれば、それが原因で遺留分減殺請求を招き、トラブルへと発展するのは目に見えています。

そのため、遺産分割のトラブル自体の発生を防止するためには、すべての法定相続人予定者に不公平感が出ないような生前贈与を心がけることが一番効果的です。

なお、生前贈与が本当にあったかどうかについて、法定相続人の間で言い争いになる事もしばしばありますので、高額な生前贈与をした場合は、贈与契約書を残すなどして、あとから家族が争わなくて済むように配慮しておきましょう。

2.相続税申告上のトラブル:税務署から贈与を否認される

2-1.税務署から贈与を否認された事例

さて、生前贈与で起るトラブルは、何も遺産分割に限った事ではありません。例えば先ほどの事例で、父親が長男に対して生前贈与をしたケースで考えてみましょう。父親は相続税対策に関する本を読みあさり、贈与税の基礎控除額が年間110万円まである事を知りました。つまり、1年間にある人が贈与された金額が110万円以下であれば贈与税がかかりません。
(贈与税はもらった側にかかります。複数の人から贈与された場合、合計して110万円を超えていると贈与税が発生します。)

「ならば、長男名義の口座を作って、そこに毎年110万円ずつ貯金をしておいてやろう」と考えたのです。
こうして父親は死亡するまでの10年間にわたって、延べ1,100万円を長男名義の口座に預金しました。

遺産分割については、次男がすべて長男に譲ったため特段のトラブルも発生しませんでした。そして相続税申告も無事終わり、1年あまりが経過しました。そんなある日、突然自宅に税務署の人が訪ねてきました。
そうです、恐怖の税務調査です。

なんと、生前に父親がよかれと思ってやっていた生前贈与による相続税対策でしたが、税務署の人から贈与ではないとの指摘を受けてしまったのです(なお、相続税の税務調査の時期としては、秋口、9月、10月が多いと一般的に言われています)。

さて、これは一体どう言う事なのでしょうか。

2-2.形だけ贈与しても、贈与とは認められない場合がある

今回の事例のように、単に長男名義の口座に入金しているだけでは贈与と認められません。そもそも贈与とはあげる人と受け取る人の意思の合致(贈与契約)によって成立します

父が勝手に長男名義の口座に預金していたとしても、それは厳密に言うと贈与ではなく、父自身の貯金でしかないのです。つまり、父が10年にわたって生前贈与したつもりになっていた1,100万円については、1,100万円全体に対して贈与税が課税されるだけではなく、最初の贈与があった時点からの延滞税まで加算されることになるのです。

では、このような事態を防止するためには、一体どうすれば良いのでしょうか。

2-3.相続税申告のトラブル対策

生前贈与において贈与税の基礎控除を活用して相続税の節税対策を講じる場合は、必ず次の事に気をつけましょう。

2-3-1.贈与契約書を作成する

たとえ家族間だとしても、税務署はあまく見てはくれません。
先ほども述べたように贈与があったことを税務署に認めてもらうためには「双方の意思の合致」を証明する必要があります。その一つの対策として贈与契約書を作成するという事があります。

ただ、自分自身で作成したような簡易的な贈与契約書では、税務署から「あと付けで急いで作ったのでは」との疑念をもたれる可能性があります。そのため、贈与契約書を作成する際には、弁護士などの専門家に相談の上、公正証書化するなどの対策も必要となります。
これは先ほどの遺産分割トラブルの防止にも繋がりますので、是非実施しておきましょう。

2-3-2.受贈者の管理下におく

長男名義の口座を作ったとしても、その通帳やキャッシュカードを長男にきちんと渡して、受贈者(贈与された人)が自由に管理できる状態にしておくことも重要です。
「そんなとこまで税務署が見るの?」と思うかもしれませんが、実は一番見られるポイントであり、過去多くの人が同じ理由で指摘されています。

皆さんが考えている程、税務署の追求は甘くありません。形式的に贈与の外形を整えただけでは必ず見破られます。そのため、贈与というからには、本当に贈与した状態を作っておくことを心がけましょう。

2-3-3.ときどき贈与税を納める

一番のポイントはこれです。つまり、毎年贈与税の基礎控除以下の贈与ばかりを繰り返しているとそれだけで税務署から定期贈与を疑われてしまいます。
定期贈与とは毎年同じ金額を贈与することをいいますが、この場合、毎年贈与したのではなく、一番最初にまとめて贈与する契約をしたと判断されるのです。たとえば、毎年110万円ずつ贈与した場合は、最初に1,100万円を贈与する契約を行い、それを分割して毎年同額を振り込んだにすぎないと判断されます。父親から子に1,100万円を贈与すると、贈与税額はなんと207万円にもなりますので、大変なことです。

これを防ぐには、できるだけ110万円少しだけオーバーするような贈与を行ない、きちんと贈与税の申告を行う事で定期贈与の指摘を回避するとともに、その時点で贈与があった事を客観的に証明する証拠作りになるのです。

【参考】相続税理士相談カフェ:贈与税申告と契約書作成で、暦年贈与の落とし穴を回避せよ

まとめ

初心者がちょっとだけ相続に関する本を読んで付け焼き刃の知識で相続対策をすることで、かえって複雑なトラブルが増えてしまうということが多々あります。
一つは遺産分割上の特別受益に関わるトラブルであり、もう一つは相続税申告上の贈与を否認される問題です。

相続に関心を持って事前に知識をつけることはとても大切な事ですが、自己流で相続対策を講じると、上記のような結果を招く可能性がありますので、必ず相続に強い弁護士などに相談して対策を行うようにしましょう。

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