生前贈与にご注意!特別受益と相続税を巡る遺産相続トラブル

生前贈与はとても有効な相続対策ですが、実は生前贈与をしたがためにトラブルやリスクを誘発してしまうケースもあります。

そこで、事例をご紹介しながら、生前贈与をする際の注意点・対策を解説します。

1.生前贈与が原因で発生するトラブル・リスク

生前贈与をすることで懸念されるトラブル・リスクには、大きく分けて2つのパターンがあります。

1.遺産分割上のトラブル・リスク

生前贈与をしたことによって、遺産分割協議において特別受益や遺留分などの問題が発生するパターン

2.相続税申告上のトラブル・リスク

生前贈与をして相続税を節税するつもりが、想定外の相続税が発生するパターン

どちらも、生前贈与が原因で発生するトラブル・リスクです。

2.贈与で発生する遺産分割上のトラブル・リスク

最初に、被相続人が生前贈をしたことで起こる遺産分割上のトラブル・リスクとその対策を事例を挙げてご説明しましょう。

2-1.特別受益によるトラブル

2人の兄弟を持つ夫婦がいました。

父は長男に大きな期待を寄せていたため、東京の有名私立大学に進学させるために高額な学費を出し、大学近くのマンションを買い与え、卒業すると事業を起こすための資金を提供するなど、自分の資産を惜しみなく長男につぎ込みました。一方、次男は大学には行きませんでしたが、高校卒業後必至に働き、それなりの収入を得られるまでに成長しました。

そんな折、父が突然、心筋梗塞でこの世を去りました。

遺言書は特に残っていなかったため、父の残した預金や不動産を法定相続分通り分配しようという話になりましたが、ここで問題が発生しました。

次男が「兄ちゃんばっかり大学の学費を出してもらってずるい!」と言い始めたのです。確かに、長男は私立大学に4年間通うための学費や一人暮らしのためのマンション、車をもらっており、合計すると数百万円にもなります。一方で、次男は高校卒業後すぐに働いたため、父親からほとんど一銭ももらっていませんでした。

2-2.特別受益の持戻し

このように、特定の者に偏った生前贈与を行なうと、その偏った贈与分を遺産相続において公平に戻す必要性が出る場合があります。この事例の場合、長男が受け取った生前贈与については「特別受益」として評価することができ、相続財産に持戻して計算することが可能になります。

つまり、長男の法定相続分うち、受け取った生前贈与は、すでに法定相続分に含まれているという認識のもと遺産分割協議を行なう事ができるのです。

また、生前贈与が遺留分を侵害していた場合は、長男は、遺留分侵害額請求を受けることになります。

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2-3.遺留分侵害額請求の対象になる可能性

父親が生前贈与した額が、母親や次男の遺留分を侵害していれば、父親の相続開始前10年間に行われた贈与は、遺留分侵害額請求の対象となります。

また、父親と長男が、遺留分を侵害することを知りながら贈与をした・受けた場合は、贈与の時期を問わず、遺留分侵害額請求の対象となります。

父親がよかれと思ってした生前贈与が原因で、兄弟間で相続トラブルになるばかりか、特別受益が認められれば、相続財産における長男の相続財産が結果的に減ってしまうということになるのです。

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2-4.生前贈与による遺産分割トラブル対策

生前贈与による遺産分割のトラブルやリスクを防ぐためには、何より「不公平な生前贈与をしない事」です。遺言書を残すという方法もありますが、その内容が法定相続人の遺留分を侵害していれば、それが原因で遺留分侵害額請求を招き、トラブルへと発展するのは目に見えています。

そのため、遺産分割でのトラブル自体の発生を防止するためには、すべての推定相続人に不公平感が出ないような生前贈与を心がけることが一番効果的です。

なお、生前贈与が本当にあったかどうかについて、相続人間でトラブルになる事もしばしばありますので、高額な生前贈与をした場合は、贈与契約書を残すなどして、あとから家族が争わなくて済むように配慮しておきましょう。

3.贈与が原因となる相続税申告上のトラブル・リスク

次に、被相続人が生前贈与をしたことによる相続税申告上のトラブル・リスクとその対策についてです。

3-1.税務署から贈与を否認される

さて、生前贈与で起るトラブルは、何も遺産分割時だけに起きるわけではありません。例えば先ほどの事例で、父親が長男に対して生前贈与をしたケースで考えてみましょう。

贈与税の基礎控除額は年間110万円まであり、1年間の贈与額が110万円以下であれば贈与税がかかりません。これを知った父親は、長男には黙って「長男名義の口座を作って、そこに毎年110万円ずつ貯金をしておいてやろう」と考えたのです。
こうして父親は死亡するまで10年間にわたり、延べ1,100万円を長男名義の口座に預金しました。

遺産分割については、次男がすべて長男に譲ったため特段のトラブルも発生しませんでした。そして相続税申告も無事終わり、1年あまりが経過しました。そんなある日、突然自宅に税務署の人が税務調査のために訪ねてきました。

なんと、生前に父親がよかれと思ってやっていた生前贈与による相続税対策でしたが、税務署の人から贈与ではないとの指摘を受けてしまったのです。

3-2.「名義預金」は贈与として認められない

今回の事例のように、単に長男名義の口座に入金しているだけでは贈与と認められません。このように預金の名義人自身が知らない・関与していない口座は、「名義預金」と呼ばれます。

そもそも贈与とはあげる側(贈与者)と受け取る側(受贈者)の意思の合致(贈与契約)によって成立します

父が勝手に長男名義の口座に預金していたとしても、それは厳密に言うと贈与ではなく、父自身の貯金でしかないのです。つまり、父が10年にわたって生前贈与したつもりになっていた1,100万円については、1,100万円全体に対して相続税が課税されるだけではなく、過少申告加算税か重加算税と延滞税まで加算されることになるのです。

では、このような事態を防止するためには、一体どうすれば良いのでしょうか。

3-3.相続税申告のトラブル対策

贈与税の基礎控除を活用して、生前贈与により相続税対策を講じる場合は、必ず次のことに気をつけましょう。

贈与契約書を作成する

先述した通り、贈与があったことを税務署に認めてもらうためには「双方の意思の合致を証明する必要があります。その一つの方法として贈与契約書を作成するという事があります。

ただし、ご自分で作成したような簡易的な贈与契約書では、税務署から「あと付けで急いで作ったのでは」との疑念をもたれる可能性があります。そのため、贈与契約書を作成する際には、弁護士などの専門家に相談の上、公正証書化するなどの対策も必要となります。

先ほどの遺産分割トラブルの防止にも繋がりますので、是非実施しておきましょう。

受贈者の管理下におく

長男名義の口座を作ったとしても、その通帳やキャッシュカードを長男に渡して、受贈者が自由に管理できる状態にしておくことも重要です。

「そんなとこまで税務署が見るの?」と思うかもしれませんが、実は一番見られるポイントであり、過去多くの人が同じ理由で名義預金の指摘をされています。

皆さんが考えている程、税務署の追求は甘くありません。形式的に贈与の外形を整えただけでは必ず見破られます。そのため、贈与というからには、本当に贈与した状態を作っておくことを心がけましょう。

ときどき贈与税を納める

基礎控除以下の一定額の贈与を繰り返していると、税務署から定期贈与を疑われてしまいます。

定期贈与とは毎年同じ金額を贈与することをいいますが、この場合、毎年贈与したのではなく、最初にまとめて贈与する契約をしたと判断されるのです。

たとえば、毎年110万円ずつと決まった金額を贈与した場合は、最初に1,100万円を贈与する契約を行い、それを分割して毎年同額を振り込んだ定期贈与にすぎないと判断されます。父親から子に1,100万円を贈与すると、贈与税額は、なんと207万円にもなります。

これを防ぐには、できるだけ110万円少しだけオーバーするような贈与を行ない、きちんと贈与税の申告を行う事で定期贈与の指摘を回避するとともに、その時点で贈与があった事を客観的に証明する証拠作りになるのです。

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3-4.相続開始前3年間の贈与は相続税の課税対象

また、先ほどの事例の父親が、亡くなる直前まで、贈与を継続していたとすると、亡くなる3年前までの贈与は、贈与税ではなく、相続税の課税対象となり、この期間の贈与額を相続財産に加算することで、相続税を計算します。贈与が110万円以下の非課税枠内であっても、相続財産に加算されます(※)。このことを、「生前贈与加算」といいます。

これを避けるためには、できるだけ早めに贈与を開始するしかありません。

※ 贈与を受けた相続人が、被相続人から相続・遺贈により財産を取得していなければ、課税対象とはなりません。

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まとめ

お子さんやお孫さんに生前贈与をすることで、かえって複雑なトラブル・リスクが増えてしまうということが多々あります。

一つは遺産分割上の特別受益に関わるトラブル・リスクであり、もう一つは相続税申告上のトラブル・リスク問題です。

良かれと思ってした生前贈与が、却って相続人のトラブル・リスクになってしまわないように、事前に、相続に強い弁護士などに相談してしっかりと対策をたててから行いましょう。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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