境界線が確定していない土地は相続トラブルのもと

日本の相続では不動産、特に土地が大きな割合を占めています。
国税庁が発表している相続財産の金額の構成比の推移によれば、平成26年度で、相続財産額全体のうち、土地が41.5%、家屋が5.4%となっており、不動産だけで約半分を占めています。
土地のトラブルをなくすことが、相続トラブル防止につながるといっても過言ではありませんが、土地には大きな落とし穴が潜んでいます。それは「境界線」です。
土地の境界線は登記簿に書いてあるから大丈夫とか、隣の家とは塀できちんと区切っているから大丈夫と簡単に考えていらっしゃる方もおりますが、実は、境界線があいまいで確定していないケースが多いのです。登記簿に記載されている境界線が、実際の境界線と違っているというケースはざらにあります。間違った境界線で土地の評価額を出せば、当然、トラブルになりますし、境界線が確定していないと、土地を相続した後に、売れもせず分けることもできないという事態に陥ります。
目次
境界線と測量方法
2種類の境界線:「筆界」と「所有権界」
まず、境界線には、公法(不動産登記法)上の「筆界」と、私法(民法)上の「所有権界」の2種類があります。
筆界
筆界とは、土地の登記簿に記載されている土地同士の境のことであり、「公法上の境界」ともいわれます。最初に地番がつけられたときや、土地を分けたとき(分筆)、複数の土地を一緒にしたとき(合筆)に決められ、個人が勝手に変更することはできません。
法務局にある、地図や公図(地図に準ずる図面)、地積測量図に表されている境界線はすべて「筆界」を指しています。土地の登記簿に記されている「地積」は、筆界により定まる面積のことです。
所有権界
所有権界とは、隣接している土地の所有者間で合意した境のことであり、「私法上の境界」ともいわれます。それぞれの土地の所有者が合意すれば、自由に変更できます。
たとえば、下図のように登記簿上の筆界では利用しにくい2つの土地A,Bがあった場合、土地の所有者同士で合意して、利用しやすいように、土地を売買あるいは交換すれば、所有権界が変わります。
「筆界」と「所有権界」のずれ
上記のように、土地の売買・交換をすると「所有権界」が変わりますが、登記簿上の「筆界」はそのままですので、「筆界」と「所有権界」のずれが発生します。そして、登記簿上の「地積」と実際の土地の面積も異なることになります。これが土地の売買や相続の際に、トラブルのもとになります。
登記簿上の「筆界」が本当の境界線かどうかわからない、「所有権界」も書類として残っていないので不明確という場合には、土地の測量をして境界線を確定することになります。土地の測量方法にはいろいろありますが、民間では「現況測量」と「境界確定測量」が一般的に行われます。
土地の測量方法
現況測量
境界標や工作物(ブロック塀など)を図り、土地の形状・面積や高低差などを測量します。「現況測量」では現地にある「物」を図って測量し各種の図面を作成しますが、境界線を確定するものではありません。隣接する土地の所有者の立ち会いは必要ありませんので、比較的やりやすい測量です。
用語:境界標
主にコンクリート製の四角型の杭で、上部に境界点を示すための記号が書かれています。それぞれの境界標を結んだ線が境界となるように配置されています。四角型の土地であれば、たいてい土地の四隅に配置されています。雑草や庭木・庭石の陰に隠れていることもありますので、よく確認してみましょう。
境界確定測量
対象の土地と隣接するすべての民有地、公共用地との境界線を調査し境界線を確定させます。隣接する土地が民有地であれば所有者の立ち会い、道路等の公共用地であれば役所の担当者の立ち会いが必要となりますので、手間や時間はかかります。
土地家屋調査士への依頼
一般的に、測量は土地家屋調査士に依頼します。現況測量の場合、費用は10万円くらいから、期間は1~2週間程度です。境界確定測量の場合、費用は30万円くらいから、期間は1ヶ月半~2ヶ月程度です。
境界確定測量の重要性
登記簿に記載されている「筆界」は本当に正しいかどうかわからず、これを当てにして売買や相続をするともめる可能性があります。また、境界標があるから大丈夫と安心される人もいますが、境界標があっても土砂崩れや洪水などの自然災害による移動や滅失があったり、また意図的に動かされていることもありますので、必ずしも正しいとはいえません。境界線を明確にするためには、境界確定測量を行い、土地境界確認書を作成する必要があります。
土地の境界線が確定していない場合の相続トラブル
土地の境界線が確定していないと、相続時に様々なトラブルが起こりえます。
土地の売却
実家の土地を相続したけれど戻って住む予定はないので売却したいということが良くあります。また、代償分割で現金が必要なため、土地の一部を売却したいということもあります。その際、買主はまず登記簿を確認しますが、都市部では、それだけでなく、境界線確定後の実測面積での売買および土地境界確認書を要求する買主が増えています。境界線が確定していないと売買が成立しないという事態になりかねません。
土地の分筆
共同で土地を相続したが共有状態だと何かと不便なため、土地を分けて(分筆)それぞれ単独の土地として持ちたいということがあります。分筆登記に必要な書類の1つとして土地境界確認書がありますので、用意できないと分筆登記ができません。
土地の物納
相続税を現金では払えないので土地の一部を物納したいということもあります。土地境界確認書がないなど、境界が明らかでない土地は物納不的確財産として、物納に充てることができません。
【関連サイト】相続税理士相談カフェ:なるべく避けたい相続税の延納と物納について
隣接する土地の所有者確認が一苦労
境界確定測量では、隣接するすべての土地の所有者の立ち会い確認、土地境界確認書への署名、実印での押印、印鑑証明書添付が必要になります。ただ、法的には境界確定測量は実施しなければならないものではなく強制することはできませんので、あくまでもお願いする立場になります。隣接する土地の所有者が快く引き受けてくれれば良いのですが、何か問題がある場合は、各種の申し立てが必要で時間がかかることになります。
所有者が死亡している場合
隣接する土地の登記簿で所有者を調べてお願いしに行ったら、実はすでに亡くなっていたということがあり得ます。その場合は、その土地を相続した相続人に立ち会い確認をお願いします。まだ遺産分割が終わっていない場合は、原則的には法定相続人全員の立ち会い確認が必要となりますが、全員の現地確認が難しい場合には、相続人の代表者が確認して、他の相続人にも説明してもらうことになります。ただ、確認書には法定相続人全員の署名と押印が必要です。
相続人の有無が不明な場合は、家庭裁判所に相続財産管理人の選任の申し立てを行い、選任された相続財産管理人に立ち会っていただきます。
【参考】相続人がいない!相続財産管理人が必要なケースと選任方法のまとめ
所有者が行方不明の場合
隣接する土地の所有者が行方不明の場合には、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任の申し立てを行い、選任された不在者財産管理人に立ち会っていただきます。
【参考】相続人が行方不明!不在者財産管理人が必要なケースと選任方法のまとめ
所有者が認知症、知的障がい、選任障がい
家庭裁判所に法定後見人の選任の申し立てを行い、選任された法定後見人に立ち会っていただきます。
【参考】成年後見人の権限&申立手続き&費用はいくら? 申請までのパーフェクトマニュアル!
所有者が協力してくれない場合
これが一番困る場合です。昔から土地の境界のことでもめている、仲が悪い、家族同士のトラブルがある、顔を見たくないなど、理由はいろいろありますが、とにかくまずは協力いただけるように誠意をもってお願いするしかありません。それでも境界線の確認を拒否される場合には、救済制度のようなものがあります。
登記簿上の筆界を特定するには、「筆界特定制度」「筆界確定訴訟」を利用します。
「筆界特定制度」とは、実地調査や測量を含む様々な調査を行った上で、もともとあった筆界を筆界特定登記官が明らかにする制度です。公的な判断で行うため裁判をすることなくスムーズに進められますが、申請から確定までに10ヶ月程度かかります。
「筆界特定制度」を利用して明らかになった筆界にも不満がある場合には、「筆界確定訴訟」といい裁判を起こしますが、判決までに2年程度かかります。
私法上の所有権界を特定するには、「所有権確認訴訟」や「裁判外紛争解決手続き(ADR)」があります。
「所有権確認訴訟」では土地の所有権を争って裁判を起こしますが、判決までに数年程度かかります。
「裁判外紛争解決手続き(ADR)」では、土地家屋調査士会が弁護士会の協力を得ながら、境界についての相談を受けたりトラブル解決のための調停または仲裁を行います。話し合いによる解決ですので、両者が納得すれば、比較的早く解決します。
いずれにしても、時間とお金がかかることの覚悟が必要です。相続発生後で、早く解決したい場合には、弁護士にご相談ください。期間、費用、難易度などを考慮して最も良い解決法を選択し、速やかな解決を図ります。
境界線確定はできれば生前に
境界線を確定するための測量では、隣接するすべての土地の所有者の立ち会い確認が必要ですので、そのスケジュール調整や交渉にそれなりの時間をとられます。できれば生前に境界線を確定しておくことが望ましいです。
また、生前に行うことで相続税上のメリットもあります。境界確定測量は土地家屋調査士に依頼しますので最低でも30万円くらいの費用がかかります。生前に被相続人が行えばその分、課税の対象となる相続財産額を減らすことができます。一方、相続発生後に相続人が費用を支払っても、その分を相続財産から控除することはできません。
【関連サイト】相続税理士相談カフェ:相続税の債務控除